2017/04/17

「特定秘密」文書の廃棄が進行中。ほか関連記事(毎日新聞から)

毎日新聞は行政文書の隠蔽や廃棄の問題を重視している印象がある。

特定秘密文書:廃棄手続きが進行中 対象や省庁名は不明 - 毎日新聞(2017年4月17日 07時00分(最終更新 4月17日 10時02分))

14年末の特定秘密保護法施行後、初

 国の行政機関が指定した特定秘密を記録した文書について、廃棄に向けた手続きが進められていることが内閣府などへの取材で分かった。特定秘密文書の廃棄は2014年末の特定秘密保護法施行後、初とみられる。順次廃棄が進められるとみられるが、秘密文書は通常の文書と違って第三者のチェックに制約がある。専門家からは「本来残すべきものまで廃棄される恐れもある」との指摘がある。

 特定秘密文書は、公文書管理法に基づいて一般の文書と同様に、それぞれの保存期間を過ぎれば内閣府のチェックを受けた後に廃棄することができることになっている。ただし、特定秘密保護法の運用基準で、指定から30年を超えた文書は重要性が高いと判断されて一律に公文書館などに移管されて保存されることが定められている。

 廃棄をチェックする内閣府は毎日新聞の取材に対し、特定秘密文書を保有する省庁と廃棄に向けた協議を行っていることを認めた。対象文書の内容や省庁名は明らかにしていないが、保存期間2年以下の文書とみられる。

 内閣府は各省庁から文書目録の提供を受け、「行政文書管理ガイドライン」に沿って廃棄が妥当か点検する。しかし、特定秘密文書の目録は秘密の内容が想起されないようにタイトルを付けることになっており、内閣府は文書の重要度を判断しにくい。省庁側に特定秘密文書の閲覧を求めてチェックすることも制度上は可能だが、文書を作った省庁は「わが国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれ」があるとの理由で閲覧を拒否することができる。

 内閣府のチェックとともに、第三者機関の役割を担う政府内の独立公文書管理監の検証・監察を受けることになっているが、方法は明らかになっていないが、保存期間2年以下の文書とみられる。

 秘密文書の廃棄を巡っては、今月11日の衆院総務委員会で内閣官房の田中勝也審議官が「恣意(しい)的な廃棄はできないと理解している」と答弁した。【青島顕】

特定秘密を記録した文書

 外交、防衛、テロ・スパイ防止に関する重要情報を政府が特定秘密に指定し、漏えいした人などに罰則を科すと定めた特定秘密保護法が2014年に施行され、16年末までに11行政機関が487件を指定した。5年ごとに秘密指定期間が更新され、通算30年(一部は60年)まで可能。特定秘密を記録した文書は15年末段階で27万2020点ある。文書の保存期間は秘密指定期間と別に定められ、特定秘密に指定されたまま文書が保存期間満了を迎え廃棄対象になる場合もある。

掲載図:特定秘密文書廃棄審査の流れ(イメージ)(魚拓)

こちらは2016年12月の記事。よくまとまっている。
特定秘密保護法:施行から2年 行政の情報隠し、発見・指摘に高い壁 - 毎日新聞(2016年12月5日 東京朝刊)

 国の安全保障に関わる重要な情報を厳重に管理し、情報を漏らしたり不正に取得したりした人に重罰を科す「特定秘密保護法」が施行されて10日で2年を迎える。今のところ懸念された国民の「知る権利」をおびやかす事態は発覚していない。しかし行政による情報隠しが起きたとき、行政と並び立つ司法や立法が誤りを指摘し、正すことのできる準備は十分とは言えない。【青島顕】

役所はほぼ不開示

 「情報公開請求で特定秘密をチェックすることができる」。秘密保護法が成立したころ、そう説明をする人たちがいた。自民党のホームページにある「特定秘密の保護に関する法律Q&A」にも「特定秘密の記録された行政文書についても、情報公開法に基づいて、開示・不開示が判断されます」とある。

 本当だろうか。「特定秘密に指定された情報に違法なものがある」と市民が聞きつけたと仮定して、役所に情報公開請求をするケースを考えてみる。役所は特定秘密指定の有無にかかわらず「公開対象外だ」として不開示にするだろう。

 市民が不服審査を求めると、第三者でつくる審査機関は非開示になった文書を実際に見られることになっているので、特定秘密のチェックも一見できそうにも思える。しかし役所が本当に見せるかどうかは分からない。

 仮に審査機関が開示すべきだと判断しても、審査機関は役所に開示を命じるのではなく、開示した方がよいと「答申」できるだけだ。役所は特定秘密に関わる文書の開示を拒否できる。

 そうなった場合、市民は裁判所に情報公開訴訟を起こすしかない。しかし現行の情報公開法では、裁判官が不開示文書を取り寄せることはできない。そのまま市民が敗訴する公算大だ。

 鈴木秀美・慶応大教授(憲法)は、情報公開法を改正して裁判官が文書を実際に見て、開示か不開示かを判断する「インカメラ審理」と呼ばれる仕組みを取り入れるよう訴えている。「裁判所が文書をきちんと見たうえで実質的な判断をできるようにすることが重要だ」と話す。

 インカメラ審理を使って不備のある秘密情報の公開を実現するには、もう一つ高いハードルがある。現行の情報公開法には「公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある」などと行政側が判断すれば不開示にできるという条文がある。併せて改正が必要になる。

国会に通報窓口を

 国会は衆参両院に「情報監視審査会」をつくった。所属する議員や職員に守秘義務を課し、携帯電話の電波も届かない特別な部屋を非公開にすることで、政府から特定秘密の提供を受けてチェックする仕組みを整え、2015年春にスタートした。

 厳格な仕組みにもかかわらず、秘密保護法は、政府に提供を拒否する権限を与えている。とくに外国から得た情報について、政府は相手国の了解を得なければ国会には出せないとしている。

 森雅子担当相(当時)は14年、衆院議院運営委員会で「国会から求められた場合は政府としては尊重して適切に対応する。提供できない場合は限定的に解釈していくべきだ」と答弁していた。ところが参院の審査会(会長=中曽根弘文・元外相)に対する担当官僚の説明は森元担当相の答弁より後退したものになっているという。

 参院の審査会は審査の前提を欠いたまま、本題に入ることができなくなり、さらに環太平洋パートナーシップ協定(TPP)承認案・関連法案をめぐる与野党の対立もあって11月2日以来、丸1カ月開催できていない。15年に指定された特定秘密61件の妥当性がおもな審査課題だが、指定した省庁の説明聴取が始まっていない。来年3月までに年次報告書を作成するのは難しい状況になっている。

 一方、衆院の審査会(会長=額賀福志郎・元財務相)は昨年の特定秘密の指定状況などについて11省庁からの説明を聴取し、来年3月に報告書を公表する方向だ。

 11月30日には、警察庁と経済産業省から特定秘密を記録した文書や画像を提供させてチェックした。審査会に所属する議員たちが実際に秘密の記録を見るのは、今年1月以来だ。

 委員らの説明によると、警察庁の特定有害活動(スパイ活動)にかかわる特定秘密の文書の中に30年以上前の古いものがあり、特定秘密としてふさわしいかを調べたという。

 ただ審査する特定秘密を選ぶ手掛かりは、秘密の概要を記した「指定書」と、担当官僚による説明に限られている。何らかの問題が起きてもそれを発見するのは極めて難しい。

 秘密保護法に詳しい江藤洋一弁護士は「指定書の記載はあいまいで、検証が難しい。国会が監視できなければ特定秘密の問題を見つけることはできないのに、現状は衆参の審査会が機能しているとは言えない」と手厳しい。

 また、審査会や事務局には省庁の職員から通報を受ける窓口が作られていない。通報者を保護する仕組みも作られていない。

 省庁から独立した国会にこそ通報窓口が必要だとする声も識者の間には根強い。

政府内にも監視機関

 政府内にもチェック機関はある。内閣府の佐藤隆文・独立公文書管理監(検事出身)と佐藤氏を室長とする情報保全監察室(20人)がそうだ。守秘義務を課せられた官僚でつくる組織だけに、特定秘密の文書を直接見て妥当性を判断できるようになっている。今年4月、外務省と警察庁の計3件の特定秘密に相当する文書がないとして指定の解除を求めた。監視活動が初めて具体的に機能した。

 独立公文書管理監には官僚からの内部通報を受け付ける窓口があるが、政府内の機関に対して官僚が通報するには相当な決心が求められそうだ。独立公文書管理監の業務についての報告書は来年春に作られる予定だ。佐藤独立公文書管理監は14年12月の就任以来、記者会見を一度も開かず、業務の方針などを国民に説明していない。

 ■ことば

特定秘密保護法

 (1)外交(2)防衛(3)テロの防止(4)スパイなどの防止--の4分野について、政府が重要な情報を特定秘密に指定し、漏らした人や不正に取得しようとした人に最長懲役10年の重罰を科す内容。政府は米国などと安全保障に関する情報を交換、共有しやすくするために必要だとして1980年代以来、制定を目指してきたが、安倍晋三政権が2013年に成立させた。いったん特定秘密になると外部からうかがい知れないため、情報隠しに悪用される余地があるとの懸念が根強い。


掲載図1:衆院の情報監視審査会の開催について説明する額賀福志郎会長(左から2人目)ら=東京都千代田区の衆院第2議員会館で2016年11月30日(魚拓)
掲載図2:各国議会の情報監視機関の開催比較(魚拓)
掲載図3:特定秘密監視の仕組み(魚拓)

特定秘密:「ルーズな運用」に批判…文書なし166件 - 毎日新聞(2017年3月29日 22時10分(最終更新 3月29日 23時03分))

 特定秘密保護法に基づく秘密指定の状況を調査する衆院の情報監視審査会(会長・額賀福志郎元財務相)が29日、年次報告書を衆院議長に提出した。昨年に続いて2回目。調査で文書が存在しない秘密の存在が次々に判明し、指摘を受けた政府は新たに9件の秘密指定を解除した。専門家は「ルーズな運用だ」と批判している。

 防衛省は2014年の特定秘密保護法施行まで「防衛秘密」だった「自衛隊防衛・警備計画」や「情勢等に関する見積もり」など5件を特定秘密に移行させていたが、文書は存在していなかった。「行政文書として保存期間を過ぎており廃棄をした。関係する職員が知識として保有しているため、特定秘密の指定としての維持をしている」。防衛省幹部は昨年11月21日の審査会でこう答弁した。

 こうした対応について、政府の情報保全諮問会議委員の清水勉弁護士は「特定秘密は文書や電子情報といった表示できるものを組織として管理するのが法の趣旨だ。頭の中の知識は原則として秘密指定の対象にならない。防衛省の説明は誤りだ。ルーズな運用で、氷山の一角かもしれない」と批判する。

 15年末時点の特定秘密は443件。政府は27万2020の文書に秘密が記録されていると説明したが、それぞれの秘密に何件の文書があるかは分かっていなかった。審査会が各省庁に提示を求めると、4割弱の166件に対応する文書がなかった。

 暗号を含む「物」の形で存在するものが91件あったが、15件は情報が将来出現する見込みで指定されており、10件は「職員の知識の中に存在する」状態だった。政府は昨年5件の秘密指定を解除したが、さらに今月までに9件を解除した。

 審査会は非公開で開かれ、所属議員には守秘義務が課されているが、行政機関が説明を渋るケースは後を絶たない。国家安全保障会議(NSC)は4大臣会合の結論を秘密指定しており、昨年10月14日の審査会で政府参考人は「安全保障政策の核心が記載されており、極めて機微」と答弁した。

 出席議員の一人は「答弁は初めから(特定秘密を)出さないと言っているに等しい」と指摘した。

 「安全保障に支障がある恐れがある」と政府が判断した場合、特定秘密の提供を拒否できるため、審査会の調査には限界がある。過去1年の調査で特定秘密の提供を受けたのは6件にとどまった。

 昨年は衆院と同じ3月30日に年次報告書を提出した参院の審査会は、2回目の年次報告書提出のめどが立っていない。【青島顕、遠藤拓】

掲載図:衆院情報監視審査会の終了後、2016年の年次報告書を額賀福志郎会長(左)から手渡される同院の大島理森議長(中央)=国会内で2017年3月29日午前10時21分、川田雅浩撮影(略)

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2017/04/05

東芝問題は過去の経緯の綿密な調査告発をこそ注視すべきではないか

東芝 イギリスの原発会社の全株式の買い取りを発表 | NHKニュース(4月4日 21時24分)

経営再建中の東芝は、イギリスで計画中の原子力発電所の受注を目指して、3年前に買収したイギリスの企業をめぐり、共同で出資しているフランスの企業が保有する、すべての株式を事前の取り決めに基づいて買い取ると発表し、現在、目指している海外の原子力事業からの撤退に影響を与えそうです。
東芝は、3年前にイギリスの原発事業会社「ニュージェネレーション」の株式の60%を買収して子会社化し、当時のアメリカの原子力子会社、ウェスチングハウスを通じて、イギリス北西部で計画中の原発の建設事業の受注を目指してきました。

ニュージェネレーションは、フランスのエネルギー大手「エンジー」が残りの40%の株式を保有していますが、発表によりますと、ウェスチングハウスが先月、連邦破産法11条の適用を申請し経営破綻したことから、重大な事案が発生した場合には東芝が株式を買い取るという3年前の取り決めに基づいて、エンジー側が保有する株式のすべてを買い取るよう求めてきたということです。

東芝による買い取り額は、およそ153億円になる見通しです。東芝は、海外の原子力事業からの撤退を目指していますが、イギリスのニュージェネレーションについては、東芝の保有比率が100%に高まることで、今後の撤退計画に影響を与えそうです。

「重大な事案が発生した場合には東芝が株式を買い取るという3年前の取り決め」
2014年だから、震災以降だし、第2次安倍政権下。アベノミクスで海外原発輸出とか旗を振っていた頃。

こんな債務保証みたいな条項を付けて契約したのはなぜか?
自分たちが自力で市場進出しコンペに勝って案件を獲得するのではなく、外国の地場資本を買収してまでして日の丸を立てたかったのはなぜか?

原発が斜陽だという指摘は震災前からあり、震災以降は明らかに潮目が変わったと各方面から言われていたのに、なぜここまで暴走したのか?なぜ暴走できてしまったのか?
この巨大な失敗に至る過程については、東芝の枠を超えて調査と告発を徹底することが必要だ。

東芝問題については、東芝が今後どうなるのかという関心から語られることが多いように思うが、むしろ我々にとって重要なのは、なぜこんなにひどい判断・行動をしてしまったのかを検証して、他山の石として教訓を得たり、制度的な再発防止策を整備したりすることではないか。

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2017/03/27

毎日新聞を「国家公務員制度改革基本法」というキーワードで記事検索した結果(2017年3月27日時点)

政治家の口利きが横行している様子が分かる。官僚側でも記録がないとか、やりたい放題。森友学園の問題では、この体質が噴出しているなあ。
記録を「個人文書」として公開対象外としていたり、「ない」と言って後から「あった」と出してきたり、ごまかしの手口も似ている。

以下、毎日新聞のここ1年ほどの記事のピックアップ。ほとんど同じだが微妙に細部が異なる記事も含めて。これは「国家公務員制度改革基本法」というキーワードでの記事検索結果。甘利氏とURの問題、遠藤利明氏とALT派遣会社との癒着の問題で2016年2月頃の記事が多い。次に問題になったのが集団的自衛権の問題。ここ1年だけだが、これらに絞っても献金問題とか関連記事が多すぎて到底追い切れない。

以下の記事には、政官癒着、あるいは官僚の政治家べったり姿勢を批判する指摘が繰り返し見られるが、2014年5月末の内閣人事局設置はその姿勢を更に強化しているだろう。この方向はいわゆる「決められる政治」とか「変わらなきゃ」とかに見られる「政治主導」や「リーダーシップ」を強調する潮流を反映しているが、それは内閣府の肥大化、官邸主導という官の集権化だけでなく、自民党内部での執行部への集権化、小選挙区比例代表制という選挙制度に伴う政権安定化とも関係しているだろう。

甘利・前経済再生担当相:現金授受問題 国交・環境省、秘書と接触の記録残さず 改革法では規定 - 毎日新聞(2016年2月3日 東京朝刊)

 甘利明前経済再生担当相の現金授受問題で、国土交通省や環境省が甘利氏の秘書らとのやり取りについて、法律が定める記録を残していないことが分かった。第2次安倍内閣は法に基づき、政治家と官僚の不透明な関係を防ぐため各省庁に記録を作らせることも申し合わせているが、事実上、機能していなかった。(2面参照)

 国家公務員制度改革基本法は、官僚が国会議員やその秘書と接触した場合、「記録の作成、保存」と「その情報を適切に公開するために必要な措置」をとるよう規定している。

 また、2012年末に発足した第2次安倍内閣は初閣議の後の閣僚懇談会で、同基本法と公文書管理法に基づき、「政官接触」の記録・公開について「大臣等の指揮監督の下に適切に対処する」ことを申し合わせた。

 それ以降、内閣改造のたびに最初の閣議で「指導力を発揮」するよう菅義偉官房長官が各閣僚に要請している。

 甘利氏の秘書らは昨年7月、都市再生機構(UR)と紛争中の千葉県の建設会社に問題解決を頼まれ、URを所管する国交省の住宅局長(当時)を訪問。電話や面談で計3回やり取りした。秘書らは14年9月25日には環境省の課長らとも面談した。

 だが、両省は毎日新聞の取材に、これらの接触について記録を残していないことを明らかにした。

 その理由について、国交省住宅局は「閣僚懇の申し合わせは『対応が極めて困難なものについては大臣に報告する』などと定められている。今回はUR担当者の連絡先などの問い合わせだったので、該当しないと判断した」と説明した。ただ、閣僚懇の申し合わせは大臣への報告とは別に接触記録の「作成・保存」も定める。同局は「規定は『大臣などの指揮監督の下に適切に対処』とあり、必ずしも全てを記録するということではない」としている。

 一方、議員会館で秘書らと面会した環境省廃棄物・リサイクル対策部の山本昌宏企画課長(当時は産業廃棄物課長を兼務)は取材に「大事な話なら面談記録を作るが、今回の内容はそれに当たらず、1回限りだったこともあり、記録は残していない」と述べた。

 政官接触記録について、基本法を所管する稲田朋美・行政改革担当相(当時)は14年4月の参院内閣委員会で「大臣らの指揮監督の下、適切に実施されていると認識している」と答弁。各省庁に任せていることを明らかにしている。

 だが、第1次安倍・福田両内閣で行革担当相補佐官として公務員制度改革を担当した原英史(えいじ)氏(現・政策工房社長、元経産官僚)は「まさに今回のような事態を防ぐために、すべての政官接触を公平・正確に記録・開示しようというのが基本法の趣旨だ。基本法にも閣僚懇の申し合わせにも違反していると言わざるを得ない」と指摘。「本来は政府として制度を整備する義務があるはずだ。『表に出したくない』と官僚は思うのかもしれないが、そもそも官僚も政治家も税金で活動している。国民にチェックされて困ることがあってはならない」と話す。

 一方、独立行政法人のURは甘利氏側との面談内容を記録し、生々しいやり取りが明らかになった。URは「担当者が個人的に作っていたメモ」(広報室)とし、政治家との接触を常に記録しているわけではないという。【日下部聡、樋岡徹也】

甘利・前経済再生担当相:秘書問題 面会記録なし、首相が「適切」 - 毎日新聞(2016年2月5日 東京朝刊)

 甘利明前経済再生担当相の現金授受問題に絡み、甘利氏の秘書らと面会した国土交通・環境両省の職員が国家公務員制度改革基本法の定める記録を残していなかった問題で、安倍晋三首相は4日の衆院予算委員会で「適切に実施されていると認識している」と、政府見解を繰り返した。村岡敏英・改革結集の会代表の「基本法は守られていると思うか」との質問に答えた。

 同基本法は政治家による圧力を防ぐため、官僚が国会議員やその秘書と接触した際の記録の作成・保存や公開を規定。しかし両省は毎日新聞の取材に「全てを記録するということではない」(国交省)などと回答、法に解釈の余地があると判断している。【日下部聡】

遠藤担当相仲介問題:予算委で厚労省部長「何度か接触」 - 毎日新聞(2016年2月5日 20時25分(最終更新 2月5日 21時54分))

 遠藤利明五輪担当相が、外国語指導助手(ALT)に関する通知を文部科学省が出す直前に、通知に関与した厚生労働省の担当者とALT派遣会社社員の面会を仲介した問題で、文科省と厚労省は5日の衆院予算委員会で、それぞれの担当者が遠藤事務所と派遣会社の3者で面談したことを明らかにした。

 厚労省の派遣・有期労働対策部長は「遠藤事務所で13年末ごろから(派遣会社社員と同省の担当者が)何度か接触した」と説明。「ALTについて派遣と請負の留意点や法令解釈を聞きたいということで、具体的なやりとりは厚労省で行った」と述べた。さらに「事務所の(衆議院議員)会館の秘書の方が同席ということのようです」と明かした。

 しかし、面談記録を出すよう求められると「残していないので提出できない」と答弁。国家公務員制度改革基本法に基づく申し合わせでは、官僚が議員や秘書と接触した場合に記録を保存する取り決めになっている。

 また、文科省の初等中等教育局長も昨年10月、遠藤事務所で同省の担当者が派遣会社社員と面談したことを認め、「中身は一般的な英語教育の改革、全般についてお話しした」と述べた。こちらも面談記録については「全部を取っているわけではない」としている。

遠藤・五輪担当相:文科・厚労職員、事務所で面談 秘書ら同席記録せず - 毎日新聞(2016年2月6日 中部朝刊)

 遠藤利明五輪担当相が、外国語指導助手(ALT)に関する通知を文部科学省が出す直前に、通知に関与した厚生労働省の担当者とALT派遣会社社員の面会を仲介した問題で、文科省と厚労省は5日の衆院予算委員会で、それぞれの担当者が遠藤事務所と派遣会社の3者で面談したことを明らかにした。

 厚労省の派遣・有期労働対策部長は「遠藤事務所で13年末ごろから(派遣会社社員と同省の担当者が)何度か接触した」と説明。「ALTについて派遣と請負の留意点や法令解釈を聞きたいということで、具体的なやりとりは厚労省で行った」と述べた。さらに「事務所の(衆議院議員)会館の秘書の方が同席ということのようです」と明かした。

 しかし、面談記録を出すよう求められると「残していないので提出できない」と答弁。国家公務員制度改革基本法に基づく申し合わせでは、官僚が議員や秘書と接触した場合に記録を保存する取り決めになっている。

 また、文科省の初等中等教育局長も昨年10月、遠藤事務所で同省の担当者が派遣会社社員と面談したことを認め、「中身は一般的な英語教育の改革、全般についてお話しした」と述べた。一方、遠藤氏の事務所名でマスコミ各社に送付されている毎日新聞記事への反論書が内閣府から送付されていたとして、維新の党の今井雅人幹事長は「事務所名の文書を行政が出すのは問題ではないか」と指摘。遠藤氏は「事務所で対応していたと思っていたが、調べてお答えします」とした。【杉本修作、藤田剛】

政治とカネ:安倍政権下、「口利き」巡り問題続出 - 毎日新聞(2016年2月11日 東京朝刊)

 「政治とカネ」を巡る問題が、安倍政権で再燃している。10日の衆院予算委員会では現金授受問題でつまずいた甘利明前経済再生担当相や、業者と官庁を仲介した遠藤利明五輪担当相の問題が取り上げられた。「口利き」を防ぐ法制度の機能不全も浮かんだ。

全11省、政官接触記録なく 今年度「不適切な場合だけ」
 政治家の不当な介入の排除を目的に、官僚が国会議員や秘書と接触した時に記録を作成・公開するよう国家公務員制度改革基本法などで定められているにもかかわらず、全11省で今年度、記録が作られていないことが分かった。甘利明前経済再生担当相の現金授受問題で「口利き」の有無が焦点となる中、それを防ぐための制度が空洞化している。

 毎日新聞は昨年11月、総務▽法務▽外務▽財務▽文部科学▽厚生労働▽農林水産▽経済産業▽国土交通▽環境▽防衛−−各省に、同基本法に沿って昨年4月以降に作られた政官接触の記録を情報公開請求したところ、全省から「作成していない」「保有していない」との通知があった。

 また、10日の衆院予算委員会で井坂信彦議員(維新)は、第2次安倍内閣になって以降の3年間、全省庁で作られていなかったと指摘した。だが、甘利氏の当時の秘書らは昨年、都市再生機構(UR)と紛争中の建設会社に問題解決を頼まれ、URを所管する国交省の局長を訪問。法務省にも、甘利事務所から外国人の滞在ビザ審査を巡る問い合わせが昨年2件あった。こうした接触は記録されなかったことになる。

 同基本法に沿って第2次安倍内閣は政官接触の記録・公開を申し合わせている。各省が記録を作らない理由は、要約すれば「不当な働きかけがあれば記録するが、そういうことがなかった」ためだ。

 同基本法を所管する内閣人事局は「いたずらに事務を膨大化させない範囲で措置を講じるというのが基本法の趣旨」(平池栄一参事官)とし、記録するか否かの裁量は各省庁にあるとする。

 だが、第1次安倍、福田両内閣で行革担当相補佐官を務め、基本法案の準備に携わった原英史(えいじ)氏(現・政策工房社長、元経産官僚)は、「すべての政官接触を公平・正確に記録・開示するのが基本法の趣旨。政府の責任で制度化すべきだったのに各省でいいかげんに運用されている。完全に空洞化している」と指摘する。【日下部聡、樋岡徹也】

秘書に補償額漏らす 甘利氏疑惑、UR記録非公開部分
 甘利明前経済再生担当相の金銭授受問題を巡り、千葉県白井市の建設会社との補償交渉を進めていた都市再生機構(UR)が昨年10月9日、甘利氏の当時の秘書(先月辞職)との面談で、建設会社への追加補償の額を漏らしていたことが分かった。10日の衆院予算委員会で参考人の上西郁夫UR理事長は「つい口を滑らせた。極めて不適切だった」と陳謝した。

 交渉に影響を与えかねない情報を当事者以外に漏らすのは、独立行政法人の情報公開法の趣旨に反する行為とされる。上西氏は「補償内容に影響をうけたことは一切ない」と述べたが、秘書はこの場で「結局カネの話か」「少しイロを付けて」などと発言。政治家秘書と献金業者が一体で補償交渉に臨んだ実態が浮かんだ。

 URが一部黒塗りですでに公表している面談内容によると、秘書は「いくら提示したのか。教えられる範囲で構わない」と追加補償額を質問。これに続く黒塗り部分で、UR側が秘書に金額を漏らしていた。10日の衆院予算委では、井坂信彦議員(維新)が、黒塗り部分について上下の行との半角分のずれに着目して「数字が入っている。金額を伝えたのでは」と追及。上西氏が漏えいを認めた。

 昨年10月9日の面談では、秘書が「事務所の顔を立てる意味でも」とも発言し、URの千葉県内の出先事務所ではなく本社の担当者が建設会社と面談するよう働きかけた。実際、同月27日に本社の担当者を交えた会合が千葉県内で開かれた。

 会合でのやり取りについて、予算委で大西健介議員(民主)は、建設会社の総務担当者だった一色武氏(62)の録音に基づくとするメモを公表。会合に出席した一色氏はまず、この場が甘利事務所の要請で設けられたことをUR側に確認し、「新しい提案があるんだよね」などと補償額を増やすよう要請。「国務大臣の中でも相当の方だと思うよ」などと甘利氏の名前を何度も出した。

 一方、2013年8月に合意されたURによる約2億2000万円の補償を巡り、甘利事務所に協力を頼むと交渉が急進展したとする一色氏の証言についても、野党側は追及した。URの上西氏は「先方がそう言っているだけ。基準に従い計算した妥当なものだ」と口利き疑惑を否定した。【本多健、樋岡徹也】

「偽装請負」行政指導歴 ALT、遠藤氏仲介の会社受託
 遠藤利明五輪担当相の事務所が、外国語指導助手(ALT)に関する通知を文部科学省が出す前に、通知に関与した厚生労働省とALT派遣会社の面会を仲介するなどした問題で、同社に委託した自治体が偽装請負だとして行政指導されていたことが分かった。10日の衆院予算委員会で維新の党の今井雅人幹事長が取り上げ、仲介との関連をただしたが、遠藤氏は「偽装請負があったかは全く承知していない」と述べた。

 質疑などによると、同社と愛知県東海市による業務委託(請負契約)について、愛知労働局は2010年3月、ALTと担任の「チームティーチング」は請負契約で認められず、労働者派遣法違反に当たるとして是正指導した。この問題は中央労働委員会でも審査され、中労委は13年1月、「業務委託の範囲を超えた業務が部分的に行われた」と判断した。

 これに先立つ09年8月、文科省は「担任の指導の下で行うチームティーチングは請負契約でできない」と自治体側に通知したが、遠藤氏の仲介後の14年8月、ALTと担任の「会話実演」は「直ちに違法とはならない」と新たに通知した。今井氏はこうした経緯を取り上げ「派遣会社は13年後半に(厚労省に)要望し始め、通知が変わっている」と指摘。遠藤氏は「詳細は分からない。指導や偽装請負は全く承知していない」と答えた。

 仲介については13年12月上旬と14年4月上旬、厚労省の担当課長らが遠藤氏の事務所で秘書と面会したことも判明。

 これで仲介に絡む面会は13年12月〜14年5月に計6回、うち4回は秘書が居たが、遠藤氏は「(派遣会社と厚労省の話の)内容には一切関わってない」と述べた。

 一方、文科省が16年度予算案に載せたALTなどの「指導員等派遣事業」について「自治体の直接雇用が対象で、派遣や請負は対象外」と説明していることに対し、今井氏は「直接雇用でも業務委託がある」と指摘。ALTを直接雇用する大阪市は、この派遣会社に13年度に約6000万円、15年度には約4200万円で採用業務などを委託している。【杉本修作、藤田剛】

ALTを巡る通知と遠藤氏の事務所による仲介などの経緯
2009年

 8月28日 文部科学省がALTに関し「日本人担任とのチームティーチングは請負契約でできない」と通知

  10年

 3月 3日 ALT請負契約を派遣会社と結んだ愛知県東海市に愛知労働局が「偽装請負」だとして是正指導

  13年

 1月25日 中央労働委員会が派遣会社と東海市によるALT請負契約を偽装請負と認定

12月上旬  厚生労働省需給調整事業課長と遠藤利明議員の秘書が面会

12月下旬  同省課長と秘書、派遣会社が面会

  14年

 1月上旬  同省課長補佐と秘書、派遣会社が面会

 4月上旬  同補佐と秘書が面会

  〃    同補佐と派遣会社が面会

 5月上旬  同補佐と派遣会社が面会

 8月27日 文科省がALTの請負契約に関し、担任との「会話実演」は「直ちに違法とはならない」と通知

政治とカネ:安倍政権、足元の火ダネ UR、補償額漏らす 甘利氏秘書、業者と一体交渉 - 毎日新聞(2016年2月11日 大阪朝刊)

「黒塗り面談」判明
 「政治とカネ」を巡る問題が、安倍政権で再燃している。10日の衆院予算委員会では現金授受問題でつまずいた甘利明前経済再生担当相や、業者と官庁を仲介した遠藤利明五輪担当相の問題が取り上げられた。「口利き」を防ぐ法制度の機能不全も浮かんだ。

 甘利明前経済再生担当相の金銭授受問題を巡り、千葉県白井市の建設会社との補償交渉を進めていた都市再生機構(UR)が昨年10月9日、甘利氏の当時の秘書(先月辞職)との面談で、建設会社への追加補償の額を漏らしていたことが分かった。10日の衆院予算委員会で、参考人の上西郁夫UR理事長は「つい口を滑らせた。不適切だった」と陳謝した。

 交渉に影響を与えかねない情報を当事者以外に漏らすのは、独立行政法人の情報公開法の趣旨に反する行為とされる。上西氏は「補償内容に影響をうけたことは一切ない」と述べたが、秘書はこの場で「少しイロを付けて」などと発言。政治家秘書と献金業者が一体で補償交渉に臨んでいた実態が浮かんだ。

 URが一部黒塗りで公表している面談内容によると、秘書は「いくら提示したのか。教えられる範囲で構わない」と追加補償額を質問。これに続く黒塗り部分でUR側が金額を漏らしていた。10日の衆院予算委では、井坂信彦議員(維新)が、黒塗り部分に上下の行との半角分のずれに着目して「数字が入っている。金額を伝えたのでは」と追及。上西氏が漏えいを認めた。

 昨年10月9日の面談では、秘書が「事務所の顔を立てる意味でも」とも発言し、URの千葉県内の出先事務所ではなく本社の担当者が建設会社と面談するよう働きかけた。実際、同月27日に本社の担当者を交えた会合が千葉県内で開かれた。

 会合でのやり取りについて、予算委で大西健介議員(民主)は建設会社の総務担当者だった一色武氏(62)の録音に基づくとするメモを公表した。会合に出席した一色氏はまず、この場が甘利事務所の要請で設けられたことをUR側に確認し、「新しい提案があるんだよね」などと補償額を増やすよう要請。「国務大臣の中でも相当の方だと思うよ」などと甘利氏の名前を何度も出したという。【本多健、樋岡徹也】

政官接触記録、全11省なし 過去3年間 口利き排除空洞化
 政治家の不当な介入の排除を目的に、官僚が国会議員や秘書と接触した時に記録を作成・公開するよう国家公務員制度改革基本法などで定められているにもかかわらず、全11省で今年度、記録が作られていないことが分かった。甘利明前経済再生担当相の現金授受問題で「口利き」の有無が焦点となる中、それを防ぐための制度が空洞化している。

 毎日新聞は昨年11月、総務▽法務▽外務▽財務▽文部科学▽厚生労働▽農林水産▽経済産業▽国土交通▽環境▽防衛−−の各省に、同基本法に沿って昨年4月以降に作られた政官接触の記録を情報公開請求したところ、全省から「作成していない」「保有していない」との通知があった。

 また、10日の衆院予算委員会で井坂信彦議員(維新)は、第2次安倍内閣になって以降の3年間、全省庁で作られていなかったと指摘した。

 だが、甘利氏の当時の秘書らは昨年、都市再生機構(UR)と紛争中の建設会社に問題解決を頼まれ、URを所管する国交省の局長を訪問。法務省にも、甘利事務所から外国人の滞在ビザ審査を巡る問い合わせが昨年2件あった。こうした接触は記録されなかったことになる。同基本法に沿って第2次安倍内閣は政官接触の記録・公開を申し合わせている。

 第1次安倍、福田両内閣で行革担当相補佐官を務め、基本法案の準備に携わった原英史(えいじ)氏(現・政策工房社長、元経産官僚)は、「すべての政官接触を公平・正確に記録・開示するのが基本法の趣旨。政府の責任で制度化すべきだったのに各省でいいかげんに運用されている。完全に空洞化している」と指摘する。【日下部聡、樋岡徹也】

ALT請負 「偽装」と行政指導歴 遠藤氏の仲介会社受託
 遠藤利明五輪担当相の事務所が、外国語指導助手(ALT)に関する通知を文部科学省が出す前に、通知に関与した厚生労働省とALT派遣会社の面会を仲介するなどした問題で、同社に委託した自治体が偽装請負だとして行政指導されていたことが分かった。10日の衆院予算委員会で維新の党の今井雅人幹事長が取り上げ、仲介との関連をただしたが、遠藤氏は「偽装請負があったかは全く承知していない」と述べた。

 質疑などによると、同社と愛知県東海市による業務委託(請負契約)について、愛知労働局は2010年3月、ALTと担任の「チームティーチング」は請負契約で認められず、労働者派遣法違反に当たるとして是正指導した。【杉本修作、藤田剛】

集団的自衛権:9条解釈巡る政官協議 法制局、記録残さず - 毎日新聞(2016年2月14日 西部朝刊)

 集団的自衛権の行使容認に伴う憲法9条の解釈変更を巡り、内閣法制局の横畠裕介長官が国会議員との協議について、法律などで定める政官接触の記録を残していないことが分かった。法制局は、意思決定過程の記録を行政機関に義務付ける公文書管理法の趣旨にも反し、内部での検討経緯を公文書に残していない。解釈変更を容認する同局のプロセスの不透明さが改めて浮き彫りとなった。【日下部聡、樋岡徹也】

 政官接触記録は、国家公務員制度改革基本法により「政」による「官」への不当な介入を防ぐ目的で、国の官僚が国会議員と会った際に作成するよう定める。さらに現内閣は、同基本法や公文書管理法にのっとって政官接触の記録や公開を申し合わせている。

 政府は2014年7月1日、同盟国への攻撃を自国への攻撃とみなして反撃できる集団的自衛権の行使容認を閣議決定した。だが、横畠氏は閣議決定の前に自民党の高村正彦副総裁や公明党の北側一雄副代表らと非公式に協議し、容認に伴う解釈変更に合意していたことを複数の与党関係者が取材に証言している。

 これを踏まえ、毎日新聞は内閣法制局に対し昨年11月、安全保障関連法制の本格的な検討が始まった13年以降の政官接触記録を情報公開請求したところ、「保有していない」との通知があった。横畠氏は与党幹部との接触を記録していなかったことになる。

 基本法を所管する内閣人事局は、政官接触記録について、いわゆる「口利き」を想定し「不当な要求があった時にのみ残す」と解釈している。これに対し、福田政権から鳩山政権初期にかけて国家公務員制度改革推進本部(当時)の企画官だった元衆院議員の大熊利昭氏は「基本法にも内閣の申し合わせにも違反している。政官接触記録は口利きだけでなく、政策的なことにも適用される」と指摘する。

 第1次安倍・福田両内閣で行革担当相補佐官として公務員制度改革を担当した元経産官僚の原英史(えいじ)氏(現・政策工房社長)も「すべての政官接触を公平・正確に記録・開示することが求められている」と指摘する。実際、基本法は政官接触記録の目的として「政策の立案、決定及び実施の各段階における国家公務員としての責任の所在」の明確化をうたっている。

 そもそも、内閣法制局長官が閣外の国会議員と個人的に接触すること自体、異例だ。元長官の一人は「憲法解釈についての検討依頼は官房副長官を通じてだった」と証言する。
 政官接触記録を残さなかった理由を聞こうと横畠氏に取材を申し込んだが、法制局総務課を通じて「忙しいのでお断りする」との返答があった。また、富岡秀男総務課長は「『文書がありません』と申し上げるしかない」と話した。

 一方、安保法制を議論する与党協議会の事務局を務めていた内閣官房国家安全保障局にも同様の情報公開請求をしたが、政官接触記録は作成していなかった。

 ■ことば

政官接触の記録
 国家公務員制度改革基本法に基づき、国の官僚が国会議員と接触した際、保存や公開を前提に記録を作ることが定められている。内閣官房が2013年、国会に示した書式によると、接触した日時、場所、議員の氏名とともに質疑応答が具体的に箇条書きで列挙されている。

Listening:<社説>政官の接触記録 法の要請を無視するな - 毎日新聞(2016年2月16日)

 国の官僚が国会議員と接触した場合、相手や会見の内容について記録を作ることが国家公務員制度改革基本法で定められている。「政」から「官」への不当な介入を防ぐために2008年に施行された法律だ。

 ところが、毎日新聞の情報公開請求で、国の全11省が今年度、政官接触記録を「作成していない」か「保有していない」ことが判明した。

 官僚側のずさんな運用によって、制度が骨抜きになっている。立法や行政の意思決定にかかわる記録の保存は、民主主義が適切に機能しているのかを検証するために欠かせないものだ。制度の原点に立ち返り、透明性のある運用をすべきだ。

 とりわけ、内閣法制局の横畠裕介長官が政官接触記録を残していなかった問題の根は深い。横畠長官は一昨年、集団的自衛権の行使容認に伴う憲法9条の解釈変更をめぐり、与党である自民党や公明党幹部と非公式に協議していた。戦後の安全保障法制の大転換に関わる政治課題だ。

 与党の有力政治家がその意思決定にどう関わったのか、検証が必要だ。だが、記録がなければ、責任の所在はうやむやになってしまう。

 法制局は、公文書管理法の趣旨に反し、憲法解釈変更についての内部議論の記録も残していなかったことが分かっている。記録は歴史的文書であり、国民共有の知的資源だ。二重の意味で、法の精神に反する。

 政官接触記録の制度化は、小泉内閣時代、当時の鈴木宗男衆院議員が外務省へ介入したのがきっかけだった。内閣の一員でないのに省庁に影響力を及ぼす「族議員」の力をそぎ、政策を決める内閣と実行する官僚の役割を明確化する狙いもあった。

 だが、情報公開の結果を見れば、複数の省が法施行後、一通も記録を作っていない。「不当な要求があった場合だけ記録を残す」と、法を狭く解釈している。内閣と与党の有力者が一体となって政策を決めていく日本の政治風土を背景に、官僚側の政治家への配慮が垣間見える。

 第2次安倍内閣は発足時に、「基本法と公文書管理法に基づく政官接触記録の作成、保存、公開に適切に対処する」と申し合わせている。公文書管理法を入れた点について「政策決定過程をきちんと残しておくべきだとの精神を踏まえている」との担当閣僚答弁もある。

 記録がないことは、この申し合わせにも反していることになる。

 記録の公開の時期などについて定めがないため、記録を残さない方向に意識が働いている可能性がある。仮に現行法に不備があるのならば、改正の議論をすればいい。官僚の判断でなし崩し的に法を有名無実化している現状は許されない。

内閣法制局長官:政官接触記録「定めに従って適切に対処」 - 毎日新聞(2016年2月16日 22時36分(最終更新 2月16日 22時36分))

 集団的自衛権行使容認に伴う憲法9条の解釈変更を巡り、内閣法制局の横畠裕介長官が法律などの定める与党幹部との協議の政官接触記録を残さなかった問題で、横畠氏は16日の衆院予算委員会で「一般的にではあるが、定めに従って適切に対処している」と述べ、残さない理由を具体的に説明しなかった。落合貴之議員(維新)の質問への答弁。

 国家公務員制度改革基本法は「政」による「官」への不当な介入を防ぐ目的で、官僚が閣外の国会議員と会った際に記録を作成するよう定め、現内閣も記録や公開を申し合わせている。制度を所管する内閣人事局は「口利き」を想定し「不当な要求があった時にのみ残す」と解釈しているが、制度設計に携わった政府関係者は「すべての政官接触を公平・正確に記録・開示することが法の趣旨」と指摘している。【日下部聡】

政官接触:11省「記録なし」 作成ルール、有名無実化 - 毎日新聞(2016年2月24日 東京朝刊)

 「口利き」など国会議員による官僚への不当な介入を防ぐための政官接触の記録について、作成を定める国家公務員制度改革基本法の施行(2008年6月)後に作られたものを国の全11省に情報公開請求したところ、一通も存在していないことが分かった。基本法に加えて現内閣は接触記録の作成や保存、公開を申し合わせてもいるが、ルールは有名無実化している。

 国の11省(総務▽法務▽外務▽財務▽文部科学▽厚生労働▽農林水産▽経済産業▽国土交通▽環境▽防衛)を対象に毎日新聞は昨年11月、基本法に基づく今年度分(昨年4月1日以降)の政官接触記録を、情報公開請求した。これに対し全省が「作成していない」または「保有していない」と回答した。そこで11省に今年1月、昨年度(昨年3月31日)までに作成した記録をすべて開示するよう改めて請求した。これにも、全省が「ない」と回答した。

 基本法や現内閣の申し合わせは、官僚が閣外の国会議員と接触した際に記録を作り、保存、公開するよう定める。しかし、基本法を所管する内閣人事局は「不当な要求があった時のみ記録する」と解釈。各省もこれにならい「不当な要求はなかった」として記録を作っていない。

 一方、基本法作りに携わった政府関係者は「すべての政官接触を公平・正確に記録・開示することが法の趣旨だ」と指摘している。

 甘利明前経済再生担当相の現金授受問題を巡っては、国交省や環境省の幹部職員が甘利氏の当時の秘書と接触していたことが明らかになったが、政官接触の記録は作られていなかった。【日下部聡】

政官接触:一件も記録なし 介入防止の法、骨抜き - 毎日新聞(2016年2月24日 大阪朝刊)

 「口利き」など国会議員による官僚への不当な介入を防ぐための政官接触の記録について、作成を定める国家公務員制度改革基本法の施行(2008年6月)後に作られたものを国の全11省に情報公開請求したところ、一通も存在していないことが分かった。基本法に加えて現内閣は接触記録の作成や保存、公開を申し合わせてもいるが、ルールは有名無実化している。

 国の11省(総務▽法務▽外務▽財務▽文部科学▽厚生労働▽農林水産▽経済産業▽国土交通▽環境▽防衛)を対象に毎日新聞は昨年11月、基本法に基づく今年度分(昨年4月1日以降)の政官接触記録を、情報公開請求した。これに対し全省が「作成していない」または「保有していない」と回答した。

 そこで11省に今年1月、昨年度(昨年3月31日)までに作成した記録をすべて開示するよう改めて請求した。これにも、全省が「ない」と回答した。

 基本法や現内閣の申し合わせは、官僚が閣外の国会議員と接触した際に記録を作り、保存、公開するよう定める。しかし、基本法を所管する内閣人事局は「不当な要求があった時のみ記録する」と解釈。各省もこれにならい「不当な要求はなかった」として記録を作っていない。

 一方、基本法作りに携わった政府関係者は「すべての政官接触を公平・正確に記録・開示することが法の趣旨だ」と指摘している。

 甘利明前経済再生担当相の現金授受問題を巡っては、国交省や環境省の幹部職員が甘利氏の当時の秘書と接触していたことが明らかになったが、政官接触の記録は作られていなかった。

 これについて18日の参院決算委員会で、又市征治議員(社民)が「今後、すべての接触を記録する考えはないのか」と質問した。石井啓一国交相は「今後もこれまでと同様、適切に対処していく」、白石徹環境政務官は「すべて記録するのは職員の業務が多くなり、現実的でない。これからもケース・バイ・ケースで残していく」と答弁し、両省とも新たな対応はしない構えだ。【日下部聡】

政官接触:11省「記録なし」 「政官が付き合い過ぎ」 飯尾潤・政策研究大学院大学教授 - 毎日新聞(2016年2月24日 東京朝刊)

 国家公務員制度改革基本法が国会議員と官僚のやり取りを記録するよう定めているのに、同法施行後、国の全11省が作成した記録は一通もなかった。「政」と「官」の関係を透明にする制度はなぜ機能しないのか。「日本の統治構造−−官僚内閣制から議院内閣制へ」などの著書で知られる飯尾潤・政策研究大学院大学教授に聞いた。

      ◇

 問題の根は深く、一朝一夕に解決するのは難しいだろう。

 政官接触の記録・公表は政治家の圧力から官僚を守る制度だ。不当かどうかは政府や国民が判断する。だから、すべて記録するのが国家公務員制度改革基本法の建前だが、現状では不当かどうかを官僚自身が判断できるので機能していない。関係者が不利になりそうなことを、わざわざ記録するはずがない。

 日本の官僚は政治家と付き合い過ぎだ。官僚が議員会館を回ったり、党本部まで出向いて説明したりということは外国ではあまり見られない。政策決定は政党政治家による内閣が担い、官僚はその実行に徹するのが本来の議院内閣制だが、日本は両者が融合してしまっている。

 例えば英国の官僚は証拠を残すために、政治家の問い合わせには文書でしか応じないのが原則だ。組織文化が大きく違う。

 そもそも日本の行政機関は、公文書をきちんと残さない傾向がある。大きな原因は人手不足だ。日本の公務員は諸外国に比べ非常に少ない。作った文書を重要度で分類し、それぞれ保存期間や公開範囲を決めていく膨大な作業が必要だが、日々の業務に忙殺される官僚には酷だろう。国会議員への対応が多忙さに拍車をかけている皮肉な現実がある。

 交渉ごとなど機微に触れる内容は、一定期間秘密にした後に開示するような法整備も検討すべきだ。そうしないと官僚は重要なものほど残さないという判断をするようになる。要員増が望めないなら技術で補うしかない。文書を作ると自動的に組織内で共有され、整理や蓄積もされるような電子システムを構築する必要がある。【聞き手・日下部聡】

 ■人物略歴

いいお・じゅん
 1962年生まれ。東京大大学院博士課程修了。専門は政治学・現代日本政治論。埼玉大助教授などを経て現職。著書に「現代日本の政策体系」「政局から政策へ」など。

政官接触:内閣人事局に「記録」存在 - 毎日新聞(2016年2月25日 06時00分(最終更新 2月25日 09時30分))

「作っていない」と回答、実は「任意の備忘録」
 国会議員による国の官僚への不当な介入を防ぐ目的で法律などが定める政官接触の記録を国の11省が作っていない問題で、法律を所管する内閣官房内閣人事局も、毎日新聞の情報公開請求に「作っていない」と回答した。ところが、同局が職員の作成した国会議員との接触記録を保存していたことが分かった。同局は取材に「任意で作った」と説明。法律に基づく政官接触記録ではないとして開示しなかったとみられる。

 政官接触の記録は国家公務員制度改革基本法(2008年6月施行)が定め、現内閣は同法や公文書管理法に基づいて記録の作成や保存、公開を申し合わせている。政官の関係を示す記録が「官」の裁量で国民の目から遠ざけられている実態が浮かんだ。

 国の全11省は毎日新聞の情報公開請求に対し、基本法施行以降、同法に基づく記録はないと回答した。11省とは別に、基本法を所管する内閣人事局にも今年1月、同様の情報公開請求をしたところ、同局から今月8日に「作成していない」との通知があった。

 同局は幹部官僚人事の一元管理などで政治主導を強めることを目的に、国家公務員制度改革の一環で14年5月に発足。内部文書は前の担当部署から引き継いでおり、基本法施行時にさかのぼって調べても政官接触記録は「なかった」(文書審査係)という。

 ところが、前身の内閣官房行政改革推進本部は13年11月の衆院内閣委員会で、接触記録の「フォーマット(書式)」を出すよう野党議員や委員長らから求められ、渋った末に翌12月、国会議員と職員のやり取りの記録を提出していた。

 この事実について内閣人事局に取材したところ、同局は記録を保存しており、毎日新聞に提供した。それによると記録は2件あり、1件はA4判3枚で、国会議員から説明(レクチャー)を求められ、質疑応答を列挙している。日付は13年11月25日で、職員と議員の名前は黒塗りされている。

 もう1件は、A4判1枚で「議事概要(未定稿)」「議事・国家公務員制度改革の検討状況について」とある。13年10月に開かれた会議録とみられるが、会議の名称や日付、国会議員の名前、発言内容が黒塗りされ、内容はわからない。

 この2件について人事局の平池栄一参事官は、取材に「職員が任意で備忘録的に作ったものだと思う」と説明。「これまで不当な働きかけは特段なかったので(政官接触)記録もない」と述べ、基本法に基づく記録ではないと強調した。

 政官接触記録について、人事局は「議員から不当な要求があった場合にのみ記録を残す」と基本法や現内閣の申し合わせを解釈し、11省もこれにならう。だが、基本法は記録の保存・公開の目的として「国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進」を掲げる。第1次安倍・福田両内閣で行革担当補佐官として公務員制度改革を担当した元経産官僚、原英史(えいじ)氏は「不当な働きかけがあった場合だけに限る趣旨ではない」と指摘している。【日下部聡】

内閣人事局保存の接触記録 質疑応答、箇条書きで詳細に
 内閣人事局が保存していた13年11月25日の接触記録3枚は「国家公務員法改正案の幹部職員一元化と人事管理」を巡る質疑応答だった。

 1枚は「レク要求」で、「午後3時41分」と議員側の要求時刻を明記。内閣官房職員が同4時半に議員会館へ出向いて「議員本人」に説明し、資料要求は2部、職員は「役職問わず」などと記され、説明前に作られたとみられる。

 残る2枚は「メモ」と題し、「先方の主な質問事項」「主なやりとり」など5項目の小見出しのもと、「外部の民間人も大臣は(幹部職員の審査に)推薦できるのか」「そのとおり」などと箇条書きで詳細に列挙している。

クローズアップ2016:政官接触、ルール骨抜き 記録作成は官僚判断 - 毎日新聞(2016-02-25):掲載図魚拓:基本法などで定める政官接触記録が、なぜ作成されないのか

 甘利明前経済再生担当相の「口利き」疑惑で、改めて明るみに出た「政」から「官」への不当な介入。それを防ぐために法で定められた政官接触の記録を調べると、ルールは骨抜きになっていた。【日下部聡、樋岡徹也】

 毎日新聞は昨年11月、国家公務員制度改革基本法が定める政官接触の記録について、国の全11省(総務、法務、外務、財務、文部科学、厚生労働、農林水産、経済産業、国土交通、環境、防衛)に情報公開請求を行った。開示を求める対象は「今年度(昨年4月1日から現在)」とした。本来なら「2008年6月に同基本法が施行されて以降」とすべきだが、文書量が多く、開示が遅れる可能性を考えてのことだった。

 しかし、それは「取り越し苦労」だったようだ。全省が「作成していない」か「保有していない」のゼロ回答。しかも、総務、法務、農水3省は取材に、法施行後一通も作っていないことを明らかにした。

 基本法だけでなく、現内閣は政官接触の記録や公開を申し合わせている。なぜ作成されないのか。

 基本法の政官接触記録に関する規定は「政の官への圧力排除」(安倍晋三首相の10日の国会答弁)を目的としている。だが、条文は「必要な措置を講ずる」とし、その先のルール作りは政府に委ねている。かつて国家公務員制度改革推進本部(当時)の企画官を務めた大熊利昭・元衆院議員は「駅で偶然会ったら接触と見なすのか。電話はどうか。具体的な詰めがないまま放置されてきた」と指摘する。

 こうした基本法を補完するのが、第2次安倍内閣発足時(12年12月26日)の閣僚懇談会での7項目からなる申し合わせだ。そこでは(1)国会議員や秘書からの働きかけや要請で「対応が極めて困難なもの」は大臣に報告する(2)基本法と公文書管理法に基づき、記録の作成、保存、公開に適切に対処する−−と定める。

 (2)は「接触はあまねく記録せよ」と促しているように読める。ところが、基本法を所管している内閣人事局は「不当な要求」などを記録した場合に従うルールを確認しているに過ぎない−−と説明する。各省もこれにならって、「不当な要求があった場合にのみ記録を残す」と、同法を狭く解釈している。

 しかし、14年4月3日の参院内閣委員会で当時の稲田朋美行政改革担当相は、(2)の規定に「公文書管理法」が入っていることについて「公文書管理法には、政策決定過程をきちんと残しておくべきだと定められている。その精神を踏まえてということ」と述べ、政官接触の記録が単なる「口利き防止」ではなく、意思決定のプロセスを検証可能な形で残すものだとした。

 第1次安倍・福田両内閣で行革担当相補佐官として公務員制度改革を担当した元経産官僚の原英史(えいじ)氏(現・政策工房社長)も「(1)と(2)は分けて考えるのが自然だ。(2)に照らせば、すべての政官接触を公平・正確に記録・開示することが求められている」と指摘する。

 結局のところ、現行の基本法解釈で記録するかどうかは接触を受けた官僚の判断に任されている。人事局の武藤真郷参事官は「官僚に説明や資料を求める議員は多い。全部を記録するのは難しい」と話す。これに対し、原氏は「そんなに難しいことではない。録音すればいい」と指摘する。

「禁止」与野党反対で頓挫
 政官接触記録の制度化は小泉内閣時代の2002年にさかのぼる。鈴木宗男衆院議員(当時)の外務省への介入が問題となり、政府の方針と著しく異なる働きかけを政治家から受けた官僚は接触の日時や内容を記録し、大臣に報告する−−と申し合わせた。

 ただ、法律に基づいた制度ではなく、事実上立ち消えとなっていた。

 しかし、内閣の一員でもないのに省庁に強い影響力を及ぼす「族議員」への批判は消えない。第1次安倍内閣は、07年に「国家公務員制度の総合的な改革に関する懇談会」を設けた。ここで、メンバーだった作家の堺屋太一氏(元経済企画庁長官)が、大臣以外の国会議員と官僚の接触そのものを禁止することを提案した。英国の制度を手本とし、政策を決める内閣と、それを実行する官僚の役割を明確に区別しようという狙いがあった。

 これを受けて福田内閣は08年、政官接触の原則禁止をうたう国家公務員制度改革基本法案を提出した。ところが、官僚から情報が得られなくなることを心配した与野党議員から反対が続出。与野党協議で、接触を認める代わりに、内容を記録・公開し不正を防ぐ現行規定に修正され、成立した経緯がある。

 記録に法的根拠が与えられ、公開を定めた点で、小泉内閣時の申し合わせからは前進している。基本法の修正案を提案した一人、自民党の宮沢洋一衆院議員は当時、同法の狙いについて「記録をきっちり残す、そして公開するということで、透明性を高める」と衆院内閣委員会で説明した。

 しかし今回、基本法が施行直後から機能していない実態が取材で浮かんだ。政府関係者の一人は「相手(政治家や秘書)に迷惑がかかるような記録を、役人がわざわざ残すはずがない」と指摘している。

政官接触:内閣人事局、記録非公開 任意作成理由に - 毎日新聞(2016年2月25日 大阪朝刊)

 国会議員による国の官僚への不当な介入を防ぐ目的で法律などが定める政官接触の記録を国の11省が作っていない問題で、法律を所管する内閣官房内閣人事局も、毎日新聞の情報公開請求に「作っていない」と回答した。ところが、同局が職員の作成した国会議員との接触記録を保存していたことが分かった。同局は取材に「任意で作った」と説明。法律に基づく政官接触記録ではないとして開示しなかったとみられる。【日下部聡】

 政官接触の記録は国家公務員制度改革基本法(2008年6月施行)が定め、現内閣は同法や公文書管理法に基づいて記録の作成や保存、公開を申し合わせている。政官の関係を示す記録が「官」の裁量で国民の目から遠ざけられている実態が浮かんだ。

 国の全11省は毎日新聞の情報公開請求に対し、基本法施行以降、同法に基づく記録はないと回答した。11省とは別に、基本法を所管する内閣人事局にも今年1月、同様の情報公開請求をしたところ、同局から今月8日に「作成していない」との通知があった。

 同局は幹部官僚人事の一元管理などで政治主導を強めることを目的に、国家公務員制度改革の一環で14年5月に発足。内部文書は前の担当部署から引き継いでおり、基本法施行時にさかのぼって調べても政官接触記録は「なかった」(文書審査係)という。

 ところが、前身の内閣官房行政改革推進本部は13年11月の衆院内閣委員会で、接触記録の「フォーマット(書式)」を出すよう野党議員や委員長らから求められ、渋った末に翌12月、国会議員と職員のやり取りの記録を提出していた。

 この事実について内閣人事局に取材したところ、同局は記録を保存しており、毎日新聞に提供した。それによると記録は2件あり、1件はA4判3枚で、国会議員から説明(レクチャー)を求められ、質疑応答を列挙している。日付は13年11月25日で、職員と議員の名前は黒塗りされている。

 もう1件は、A4判1枚で「議事概要(未定稿)」「議事・国家公務員制度改革の検討状況について」とある。13年10月に開かれた会議録とみられるが、会議の名称や日付、国会議員の名前、発言内容が黒塗りされ、内容はわからない。

 この2件について人事局の平池栄一参事官は、取材に「職員が任意で備忘録的に作ったものだと思う」と説明。「これまで不当な働きかけは特段なかったので(政官接触)記録もない」と述べ、基本法に基づく記録ではないと強調した。

 政官接触記録について、人事局は「議員から不当な要求があった場合にのみ残す」と基本法を解釈し、11省もこれにならう。だが、基本法は記録の保存・公開の目的として「国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進」を掲げる。第1次安倍・福田両内閣で行革担当補佐官として公務員制度改革を担当した元経産官僚、原英史(えいじ)氏は「不当な働きかけがあった場合だけに限る趣旨ではない」と指摘している。

質疑応答を箇条書き
 内閣人事局が保存していた13年11月25日の接触記録3枚は「国家公務員法改正案の幹部職員一元化と人事管理」を巡る質疑応答だった。1枚は「レク要求」で、「午後3時41分」と議員側の要求時刻を明記。内閣官房職員が同4時半に議員会館へ出向いて「議員本人」に説明し、資料要求は2部、職員は「役職問わず」などと記され、説明前に作られたとみられる。

 残る2枚は「メモ」と題し、「先方の主な質問事項」「主なやりとり」など5項目の小見出しのもと、「外部の民間人も大臣は(幹部職員の審査に)推薦できるのか」「そのとおり」などと箇条書きで詳細に列挙している。

政官接触記録:他にも? 行革相、「行政文書」と認める - 毎日新聞(2016年2月26日 東京朝刊)

 内閣官房内閣人事局が保存し、毎日新聞が25日朝刊で詳報した職員による国会議員との接触記録について、河野太郎行政改革担当相は25日の衆院予算委員会第1分科会で「行政文書だと思っている」と述べ、職員の個人的なメモではなく、組織的に管理する文書だと認めた。井坂信彦議員(維新)の質問に答えた。

 内閣人事局は毎日新聞の取材に「職員が任意で備忘録的に作った」と答えていた。

 井坂氏は「同じような記録は他にも多数あるのか」と質問。三輪和夫・内閣人事局人事政策統括官は「どれくらいあるかは把握していない」と述べ、他にも職員が作成した接触記録が存在する可能性を否定しなかった。

 内閣人事局は、国家公務員制度改革基本法などが定める政官接触記録の開示を求めた毎日新聞の情報公開請求に、この記録を出さなかった。

 河野氏は「基本法に基づく記録ではない」と述べ、対応に問題はないとした。

 政官接触の記録は閣外の国会議員による介入を防ぐ目的で定められているが、内閣人事局は「不当な働きかけがあった時だけ記録する」と解釈し、河野氏もこれを踏襲した。【日下部聡】

政官接触:未記録問題で政府が答弁書 - 毎日新聞(2016年3月5日 東京朝刊)

 集団的自衛権行使容認に伴う憲法9条の解釈変更を巡り、内閣法制局の横畠裕介長官が与党幹部との協議記録を残さなかった問題で、政府は4日、「適切に対処している」との答弁書を閣議決定した。政官接触記録の作成・公開を定めた国家公務員制度改革基本法に違反するとして見解を求めた逢坂誠二衆院議員(民主)の質問主意書に答えた。

 同基本法は政官接触記録の目的について「政策の立案、決定及び実施の各段階における国家公務員としての責任の所在をより明確」にするためとしているが、政府は答弁書で「『口利き』と言われるような、『政』の『官』に対する圧力を排除する趣旨」と、従来の限定的な解釈を踏襲した。

UR:甘利氏側との面談記録、一転ご都合公開 - 毎日新聞(2016年4月5日 07時30分(最終更新 4月5日 10時45分))

 外に出さない「職員の備忘録」が一転、開示すべき「組織文書」に−−。甘利明前経済再生担当相の現金授受問題で、都市再生機構(UR)が公開した当時の秘書らとの面談記録は当初、職員の個人的文書とされ、情報公開制度の対象外だった。説明義務を果たすため例外的に公開したとUR側は説明しているが、組織防衛の意図ものぞく。【日下部聡】

 この問題では国土交通省と環境省の職員が甘利氏の秘書らと面談していたが、国家公務員制度改革基本法の定める政官接触記録を作っていなかった。URは公的資金を受ける独立行政法人で、職員は公務員に準じた扱いを受ける。2月に記者会見で公開した面談記録は、いわばUR版「政官接触記録」だ。

 記録について、URコンプライアンス・法務室の丹圭一チームリーダーは取材に、「国会担当の職員が個人的に備忘録としてつけていたものだ」と説明。週刊文春の報道後、秘書らとのやり取りを確認するため職員から事情を聴いたところ、記録の存在が分かったという。この職員は同僚や上司に記録を見せたことはないという。だが、記録はA4判の用紙に印字され、面談を依頼してきた議員や秘書の名前、依頼を受けた職員名、日時、内容などを書く欄があり、一定の書式で作成されている。

 URには、独立行政法人情報公開法に基づき情報を開示する義務があり、開示の対象は「職員が組織的に用いる」文書とされる。URによると、面談記録は職員個人の文書で開示対象外だったが、公開した時点で「組織的に用いる」文書となったため、現在は情報公開請求で誰でも入手できる。

 面談記録によると、甘利氏の秘書らは千葉県の建設会社とURの補償交渉を巡り「結局カネの話か」「少しイロを付けて」など補償増額を働きかけるような発言をした。一方で記録には、UR側が秘書らに「これ以上(交渉に)関与されない方がよろしいように思う」と示唆するなど、URの「正当性」を示す内容も含まれていた。

 公開した理由について、丹氏は「URとして説明義務を果たすため」と述べた。だが、国会に参考人として呼ばれた上西郁夫UR理事長は、公開の狙いを「社会的な疑念が持たれることを考慮し、当機構への疑念を払拭(ふっしょく)する上で重要だ」と説明し、組織防衛の意図をにじませた。

 重要な記録であるにもかかわらず、公的機関の裁量で開示、非開示が決まっている。政治家との面談記録作成を内部で義務づけ、最初から「組織的に用いる」文書として管理するよう内規を変えられないのか。URは「国や他の組織の動向も見なければならない」(林田桂・広報室主査)と述べ、UR単独で変えることは今のところないとした。

 身の安全考えたか
 元外務官僚で作家の佐藤優氏の話 URは「個人的な備忘録」と言うが、自分だけのためなら汚い字で他人に読めないように残せばいいわけで、あの記録は組織内で共有する文書だろう。省庁と比べ権限がないため身の安全を守ることを考えたのだろうが、よくこれだけ細かく取っていたと感心した。国の官僚は国会議員とのやり取りで、内容が外に出るとまずい場合には口頭で上司に報告し記録に残さない。後日、経緯を知りたくとも分からなくなるのは問題だ。

解説 政官接触、常に開示を
 「備忘録」という言葉は政府の内閣人事局の幹部からも聞いた。国家公務員制度改革基本法は、国会議員の省庁への不当な介入を防ぐ目的で、国家公務員が政官接触の記録を作るよう定める。ところが、同法を所管する人事局は、情報公開請求に「記録はない」と回答しながら、国会議員との面談記録を保存していた。「職員が備忘録的に作った」との説明だった。

 実際には記録があるのに、なるべく公開せずに済ます方便として「備忘録」と言う−−そんな疑念がぬぐえない。ある元官僚はこう明かした。「機微に触れるやり取りは(情報公開の対象にならないよう)『個人メモ』にしていた。上司に見せたこともあった」。上司に見せたのなら「組織的に用いた」ことになり、本来は公開の対象だ。こんな恣意(しい)的な運用が許されるなら、情報公開制度は空洞化するだけだろう。

 官庁が政官接触記録の作成や公開に及び腰なのは、「後で面倒なことになる」という心理的な要因が大きいためとみられる。だが、URの例でも分かるように、それは自身を守る手段ともなる。

 業者から口利きを頼まれた政治家や秘書が、公務員らに圧力をかける。汚職の温床となるこうした事例は枚挙にいとまがないが、今回ほど詳細な実態が明らかになるのは珍しい。URは「政官接触記録」の価値を世に知らしめたとも言える。

 一方、政策決定過程を後で検証できるよう記録することを定めた公文書管理法は、個人のメモでも重要性に応じて公文書として扱うべきだとガイドラインでうたう。官庁は「情報を国民と共有する」という感覚を持ってほしい。同時に、国民の主権者意識も問われている。【日下部聡】

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2017/03/22

文科省:領土問題に対する近隣国の見解は教えるな。だが教育勅語は教えて良い。

正確には、「近隣国の見解を教えてもいいけどそれは誤りだと断言すべきだし、領土問題って難しいから、他国の見解を授業で解説する余裕はないでしょう」という趣旨なのだけれど。

領土問題については先日メモした以下の報道。

(新!学習指導要領)「国の立場、言い切る指導を」 竹島・尖閣どう教えるか、文科省に聞く:朝日新聞デジタル
文科省:政府見解を「正しい」と断言することが国民教育だと叫ぶ: 思いついたことをなんでも書いていくブログ

教育勅語については、以下の文科相会見。

松野博一文部科学大臣記者会見録(平成29年3月14日):文部科学省魚拓

この会見には加計学園の件で「働きかけはなかった」という話もあるが、とりあえず教育勅語関連の応答を抜き出しておく。

記者)
 最近国会でも議論になっております教育勅語に関して、文科省の審議官なども国会答弁の中で、今日でも通用するような普遍的な価値のあるというような、部分的に肯定するような答弁というものが閣僚も含めてなされています。これについて、松野大臣としてはどのようにお考えか、同じようなお考えなのか、お聞かせ願えますでしょうか。

大臣)
 教育勅語は、日本国憲法及び教育基本法の制定等をもって、法制上の効力を喪失しております。文部科学省としては、学校現場において教育勅語を活用することとした場合には、憲法や教育基本法等に反しないような適切な配慮が必要であると考えております。

記者)
 関連しまして、適切な配慮、反しないようなという御指摘ですけれども、具体的にはどのようなケースを想定されていますでしょうか。

大臣)
 これは政治事項に関する中立等の話もありますし、まず何よりも憲法で規定されている精神でありますから、教育基本法の内容等に反する部分に関しての指導方法ということであろうかと思います。しかし、具体的には、私も繰り返しお話させていただいておりますけれども、個々の事案がそれに該当するかどうかは、所轄庁によって判断、指導されるものだと考えております。

記者)
 国会答弁での大臣官房審議官の、今日でも通用するような価値があるというような答弁については、部分的に認めるような答弁については、適切であるというお考えでしょうか。

大臣)
 具体的にどの部分を指して、その審議官が話をされているのか、ちょっと今、私が承知をしていないのですが。

記者)
 藤江大臣官房審議官が「教育勅語の中には、今日でも通用するような普遍的な内容も含まれ、適切な配慮の下に活用していくことは差し支えないと考えている」という趣旨の答弁をされておられます。稲田防衛相も「全く誤っているというのは、違っていると思っている」というような答弁をされていますが、こういった答弁については、どのようにお考えでしょうか。

大臣)
 まず教育勅語を、先ほど申し上げたとおり、憲法や教育基本法に反しないように配慮をもって授業に活用するということは、これは一義的にはその学校の教育方針、教育内容に関するものでありますし、また、教師の皆さんに一定の裁量が認められるのは当然であろうかと思います。
 その前後の関係で、審議官の発言がどの部分を指しているかというのは、ちょっと明らかでないので、私の方でお話がしづらいのですけれども、具体的にはどういった部分を指しての話をしているのですか。

記者)
 教育勅語の使われ方、教育現場での使われ方について、具体的には森友学園の幼稚園でのケースに関連する議論であったかと思うのですが、その中で、教育勅語が教育現場で使われる、教育方針の中に活かされるということに関連して、見解を求められた際の答弁であったと。

大臣)
 まず森友学園とお名前が出ましたけれども、特定の事案を個別にあてはめるというのはやっておりませんので、その判断は、所轄庁である大阪府によってなされるものと思いますが、一般論として、例えばおそらく今までの答弁の経緯からいうと、家庭とか親子関係とかそういったものに関してのことかと思いますが、そういった内容は、幼稚園の教育要領、また学習指導要領の中においても書かれていることでありますから、そういったところを指して話をしているのではないかと思います。

記者)
 教育勅語の中の徳目の部分だけを部分的に取り出して、そこには価値があって、教育に適切に活かしていくことには問題はないというお考えなのでしょうか。

大臣)
 先ほど申し上げましたとおり、教育勅語を授業に活用することは、適切な配慮の下であれば問題ないと思います。それは一般論から言って、その活用の仕方、これはもう教師の教え方の問題であると思いますし、それは積極的に評価する、消極的に評価する、その項目によってそれぞれ違うものであろうかと思いますので、個々どれをもっていい、どれをもって悪いということは言及しませんが、いずれにせよ、その教えている内容が憲法や教育基本法に反するということであれば、それは所轄庁の中で適切な指導がなされるものと考えております。

記者)
 部分的に取り出しても、基本的には天皇中心の国家、いざという時にはそのために命を捧げるというような趣旨が教育勅語の趣旨かと思うのですが、そういう趣旨の中で書かれている徳目を、徳目自体の価値を認めても、それだけ取り出して価値を認めても、それは教育勅語全体の精神を肯定するようなことに繋がって不適切だというような指摘もあるのですが、それでも部分的に取り出して、適切に教育現場で活かせば、それは問題ないというようなお考えなのでしょうか。

大臣)
 全体としての評価は、これはそれぞれおありだと思いますが、文部科学省としては、これも繰り返しになって恐縮でありますが、憲法や教育基本法に反しないような配慮があって、教材として教育勅語を用いることは、そのことをもって問題とはしないという見解です。

教育勅語は、
1.それが「法制上失効した」、その経緯を踏まえつつ、
2.不適切な内容を含むという指摘には反論せず、
3.しかし「適切な配慮」があれば使っても良いとし、
4.その使われ方の是非は、それぞれの所轄庁が適切に判断するものと期待する。

それなら、領土問題に関する他国の主張の扱いだってそのように言えばいいのに、なぜか
「中国や韓国の主張は教えないで頂きたい」
「小中では発達の段階を踏まえると難しい」
と明言する。この嫌悪感、警戒感は何なのだろう。

もう少し全体の言い分を読むと、教育勅語も領土問題に関する他国の見解も、それを取り扱う場合は憲法や指導要領に沿うようにせよというのが文科省の考え方で、そこは共通している。要するに、どちらも教育上問題を含んだ素材だという認識だと解釈できる。でも、

・教育勅語:評価はいろいろある、積極的評価でも直ちに非とは言えない
・領土問題:他国の主張に理があると思わせてはならない

と、その制約にかなりの差がある。簡単に言えば、教育勅語は基本的に教えて良い。領土問題に関する他国の主張は基本的に教えてはいけない。そういうことになっている。

率直に言えば、どちらも小中学校で教える必要性は高くないと思う。けれども、学問的に言っても、社会を学ぶためにも、小中学校において教育勅語と領土問題に関する他国の見解のどちらが有意義かと言えば、領土問題に関する他国の見解だろうと私は思う。

教育勅語に甘く他国を学ぶことを警戒する文科省の態度には、もちろん現今の政治の影響と「国民」育成への欲望が透けて見えるわけだが、それにしても、こんなふうに子供に教え込む姿勢ばかりでは、長い目で見れば彼らが目指す富国強兵路線にもさわりが出るだろうにと思う。誰かがツイートしていたが、確かに、彼らはとって公教育とは自分の子供たちが学ぶものではないのかもしれない。

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追記(2017年3月31日)

「教育勅語は教えても良い」
こんなことを閣議決定してしまった。今の政権は本当にもう発狂している。

教育勅語、教材で用いること否定せず 政府が答弁書:朝日新聞デジタル(2017年3月31日13時12分)

 政府は31日、戦前・戦中の教育勅語を学校教育で使うことについて、「勅語を我が国の教育の唯一の根本とするような指導を行うことは不適切である」としたうえで、「憲法や教育基本法等に反しないような形で教材として用いることまでは否定されることではない」との答弁書を閣議決定した。民進党の初鹿明博衆院議員の質問主意書に答えた。

 勅語については、太平洋戦争後の1948年、衆参両院が排除・失効の確認を決議している。

 また、稲田朋美防衛相が国会答弁で「親孝行や友達を大切にするとか、そういう(勅語の)核の部分は今も大切なもの」と述べたことの是非について、答弁書は「政治家個人としての見解」とし、政府としての見解を示さなかった。


具体的には、第193回国会常会の144番目の質問主意書。「教育勅語の根本理念に関する質問主意書」を参照。
第193回国会 質問の一覧

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古い記事:原発事故は「天罰」。元原子力安全院長が笑いながら。

2016年3月の記事。知らなかったのでメモ。

原発事故は「運命」…元原子力安全委トップが笑顔で大放言 | 日刊ゲンダイDIGITAL(2016年3月9日)

 震災発生時の原子力安全委員会トップが大放言だ。8日放送の「みんなのニュース」(フジテレビ系)で、班目春樹・元原子力安全委員長が原発事故を笑いながら「天罰」「運命」と表現するシーンが放送された。

 班目氏が出演したのは、シリーズ特集「震災から5年 あの日から今へ」。3回目となる8日は、VTRに登場した班目氏が番組司会の伊藤利尋アナウンサー(43)に対し、福島第1原発事故の対応と問題点を振り返る内容だった。

 インタビューで班目氏は、当時の菅直人首相(69)から「水素爆発はあるのか?」と尋ねられたことを明かし、格納容器の中に酸素はないため爆発はしない、と回答したと説明。しかし、その数時間後に1号機建屋で水素爆発が発生した。

 このことについて班目氏は、格納容器から水素が漏れ出して建屋内で爆発する可能性までは菅首相に説明していなかったことを「大失敗だったとは思う」と後悔しつつ、間違った説明ではなかったとの認識を示した。また、爆発後、菅首相から信頼されなくなったことを「ひしひしと感じました」とも語った。

 その後の事故対応について、「あんな人(菅首相)を総理にしたから天罰が当たったんじゃないかって、このごろ運命論を考えるようになっちゃってますよ」と笑いながら回答。伊藤アナから「唯一の専門家として、もうちょっと(何とか)できなかったか」と尋ねられても、「あの時、(専門家は)ずっと私1人だけだった」「原子力保安院が図面を持ってこなかった」などと、終始のらりくらりと答えていた。

 他人ごとのように5年前を振り返った班目氏。当時の責任者がこれでは、最悪の事故を招いたのも当然だ。

斑目氏が当時の菅首相を恨んでいるらしいことは割と広く知られていると思う。
しかしこの惨状を招いた事故とその事故につながる体制を主導的に支えた人として「天罰」や「運命論」を公言するのはかなりひどい。案の定、「斑目 運命」で検索すると、憤慨した人を沢山見つけることができる。

「フクシマ」への警戒を解かない人たちを「非科学的」と批判する声はいろいろあって、確かに「心配しすぎ」とか「不安を煽る」とかいう場合もあるだろうけれども、しかし私としては、そうした不安の根本には、この斑目氏が象徴するような体制への強い不信感があるのだと思う。「じゃあ自分で勉強しろよ」「その選択の結果は自己責任だから今後一切の補償は不要だろう」などなどという声が出てきそうだが、しかし生活に忙殺されている庶民ができることには限りがある以上、とりあえず安全側に振っておく、すなわち権力側の情報は懐疑的に受け取るという態度は合理的たりうる。そして斑目氏のような人々の存在は、この態度への信頼を補強することになる。これはスパムメールの広告や訪問販売などのうまい話への警戒心と同じ、いわば庶民の知恵である。だから、どんなに科学者の人たちが「原発は安全だ」とか「福島は安全だ」と言い続けても、いや、言い続けるからこそ、不安が払拭されることはないだろう。原発への信頼を回復するには、PAを熱心にすることよりも、原発を支える制度と関係者が十分信頼でき、万一の時には権力の頂点にある人たちがまさに身命をなげうって誠実にその被害に寄り添い続けるのだという確信を国民に与えるしかない。正すべきは反原発の人々の不信感ではなく、原発運用と被害救済のの体制である。

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2017/03/18

小池都知事が首都大に君が代を歌えと要求。

これが国旗国歌法の効果。これを狙っていたのが本質。

首都大の式典「国歌斉唱を」 小池知事、議会で答弁:朝日新聞デジタル
2017年3月17日05時00分

 小池百合子・東京都知事は16日の都議会で、都が法人の設置者にあたる首都大学東京(東京都)の入学式や卒業式について「国旗国歌法の趣旨を踏まえると、国歌斉唱を行うよう望んでいきたい」と述べた。同大学の式典では例年、国歌斉唱をしていない。

 小池氏は自民都議の質問に答えた。国旗や国歌について「国民の自覚と誇りを呼び起こすものとして、いずれの国でも尊重されている。グローバル人材育成の観点からも、国旗や国歌を大切にする心を育むことこそ重要」とも述べた。同大学は都立大学など4校を統合し、2005年に開学した。

森友学園の人たちとどこが違うのか全く分からない。

念のため、法制定時の政府見解を改めて思い出しておく。

<政府の見解は、政府としては、今回の法制化に当たり、国旗の掲揚等に関し義務づけを行うことは考えておらず、したがって、国民の生活に何らの影響や変化が生ずることとはならないと考えている旨を明らかにしたものであります。なお、学校における国旗と国歌の指導は、児童生徒が国旗と国歌の意義を理解し、それを尊重する態度を育てるとともに、すべての国の国旗と国歌に対して、ひとしく敬意を表する態度を育てるために行っているものであり、今回の法制化に伴い、その方針に変更が生ずるものではないと考えております。>

< 法制化に伴う義務づけや国民生活等における変化に関するお尋ねでありましたが、既に御答弁申し上げましたとおり、政府といたしましては、法制化に当たり、国旗の掲揚等に関し義務づけを行うことは考えておらず、したがって、現行の運用に変更が生ずることにはならないと考えております。>

「(掲揚や斉唱の指導に)単に従わなかった、あるいは単に起立しなかった、あるいは歌わなかったといったようなことのみをもって、何らかの不利益をこうむるようなことが学校内で行われたり、あるいは児童生徒に心理的な強制力が働くような方法でその後の指導等が行われるというようなことはあってはならない」
と答えている。ここでも、要するに「強制はしない」である。また、当時の文部大臣はこう答弁している。
「本当に内心の自由で嫌だと言っていることを無理矢理する、口をこじ開けてでもやるとかよく話がありますが、それは、子どもたちに対しても教えていませんし、例えば教員に対しても無理矢理に口をこじあける、これは許されないと思います。しかし、制約と申し上げているのは、内心の自由であることをしたくない教員が、他の人にも自分はこうだということを押しつけて、他の人にまでいろいろなことを干渉するということは許されないという意味で、合理的な範囲でということを申し上げているのです」

参考
高田昌幸「「強制しない」と首相が約束した国旗国歌法。それがつくった今の社会」, BLOGOS, 2013年11月07日 05:12

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2017/03/09

釜ヶ崎を異物化して物笑いのタネにする人々

大阪の新今宮駅前に星野リゾート、関西人からも無茶しやがっての声 : 市況かぶ全力2階建

はてなブックマーク - 大阪の新今宮駅前に星野リゾート、関西人からも無茶しやがっての声 : 市況かぶ全力2階建

地域にケガレのイメージを付与し、そのイメージを前提して地域の事物に意味づけをしていく人々。
他の地域で見れば特に興趣も感じず素通りするようなことであっても、この街で見れば全てがケガレを表すものに見えてくる。
そして、そのケガレの証拠を「発見」して喜び、ケガレた地域というイメージを再強化して悦に入る。

スラム街、被差別部落、ゲットーに向ける眼と同じ。
お気楽な異国、異世界の冒険者気分。
安全で上品な「こちら側」から危険でおぞましい「あちら側」を垣間見て楽しむ。

あんたらな、ここを犯罪者の街だと思って来たかもしれん。でもな、俺みたいに頑張って働いて食べている人間もいるって分かってくれ。 (#4. 釜ヶ崎との出会い② - 釜ヶ崎と女子大生。
この言葉はブログ著者のかまきょう氏が釜ヶ崎を訪れたときに出会った人から聞いた言葉だそうだ。これを書き留めたのはかまきょう氏だから、正確にはどんな言葉だったかは分からない。しかし、たった2文の短い言葉ではあるが、そこからは重層的な意味を読み取れる。

上記の「市況かぶ全力2階建」とそのはてなブックマークで楽しんでいる人たちは、この人の言葉もまた異界の珍獣の面白い鳴き声のように消費するのだろうか。

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追記(2017年3月10日)

上の「2階建て」とかなり重なるツイート群をまとめたTogetter。

星野リゾートが新今宮(西成区)に建設予定と聞いて宿泊客の生死に不安を覚える人々 - Togetterまとめ
はてなブックマーク - 星野リゾートが新今宮(西成区)に建設予定と聞いて宿泊客の生死に不安を覚える人々 - Togetterまとめ

コメントは「それほどひどくない」とか「偏見」とか指摘する声が入り交じってきている。
しかし、偏見を偏見で強化するようなコメントもかなり多い。

なお、新今宮駅周辺再開発については、維新と橋下氏がかなりぶち上げていた件でもある。

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2017/03/04

文科省:政府見解を「正しい」と断言することが国民教育だと叫ぶ

衝撃的。

とんでもない暴言、およそ教育の意義をはき違えているとしか思えない台詞の数々。
文科省が戦前の軍国主義教育、皇民化教育とほぼ同じ認識でいることが分かる。
国会喚問して歯止めをかけてもらいたい案件だ。
朝日新聞のスクープと言えるんじゃないか。

こんな「教育」が社会認識としても倫理的にもきわめて問題なのは言うまでもない。
だが、実際的にもこの種の偏狭さの刷り込みを「教育」とされると、価値や概念の切り分けや相対化が苦手な人間が増えて実務で困る。

文科省の合田課長が言っていることは、理科で進化論を教えず創造説を教えろと言うのと何も変わらない。文科省はこの愚かしさが分からないのだろうか。

あと、どうでもいいが、ニセ科学批判系の人たちや「絶対的正義はあり得ない」相対主義な人たちには是非抗議の声を上げてもらいたい(私がまだ見つけてないだけかもしれないが)。「日本政府の主張が歴史的にも国際法的にも妥当だ」と断言せよ!なんていう態度(しかも強制力を持つ権力者が!)、科学や真理、正義のどの観点から見てもトンデモ以外の何物でもないでしょう。

(新!学習指導要領)「国の立場、言い切る指導を」 竹島・尖閣どう教えるか、文科省に聞く:朝日新聞デジタル
2017年3月4日05時00分

 学習指導要領の改訂案で、竹島、北方領土、尖閣諸島は「我が国の固有の領土」で、尖閣については「領土問題は存在しない」と明記された。文部科学省は、学校でどう教えることを想定しているのか。改訂を担った合田哲雄・教育課程課長に聞いた。

 ――指導要領の改訂案では、例えば、尖閣諸島については「領土問題は存在しない」としています。中国の「尖閣諸島は自国の領土だ」という主張に授業で触れる場合、文科省はどういう形を想定していますか。

 「中国は領有権を主張しているが、我が国が実効的に支配している固有の領土である」という教え方だと思います。「主張している『が』」ですよ。

 竹島と北方領土については、先方が領有権を主張している。けれど「不法占拠であって、歴史的にも国際法上も我が国固有の領土である」と説明していただく。そのような指導の中で、先方が領有権を主張していることに批判的に言及することはありうるでしょうが、他国の主張を並列で扱い、「みんな違って、みんないい」という指導は不適切です。我が国の領土について正しい理解の妨げになるなら、中国や韓国の主張は教えないで頂きたい。

 ――例えば、クラスに中国人の子がいて「自分の国ではこう言っている」と言われたら、先生はどう答えるべきだと。

 教育基本法は、教育の目的として「国民の育成」と規定しています。我が国の立場をきちんと伝えるのが先生の役割なので、「君はそう思っているかもしれないが、我が国の立場はこうで、国際法的にも、歴史的にも妥当です」と言い切ってもらう必要があります。

 ――グローバル化の中で生きることをめざす指導要領との矛盾は出ませんか。

 グローバルな時代だからこそ、我が国の立場を正しく理解する必要がある。韓国では、竹島は韓国の領土と教えているわけで、日本の主張を子どもたちが理解していないかぎり、平和的解決にならないんです。

 ――自分たちが正しいと主張するためには、相手の言い分も教えた方がいいのでは?

 やれたら、やった方がいいかもしれない。ただ、例えば竹島なら、古地図を持ち出した綿密な実証作業をしなければ、我が国の立場を実証することは難しい。小中では発達の段階を踏まえると難しいと思います。

 ――では、教え方のストライクゾーンはどこだと考えますか。指導のあり方は白黒の判断がつきにくく、そこに文科省が線を引き始めると、教える最低基準という指導要領の性格から逸脱するのではないですか。

 白黒の判断がつきにくいというのが、この問題では理解できかねます。例えば、韓国や中国のテレビニュースをみせて「向こうはこう言ってますよね」で終わったら、我が国の領土に関する正しい理解にいたらないのは当然です。

 日本の公教育とは要するに、教育基本法の言葉を使えば「国家及び社会の形成者」を育てることをめざしている。領土の問題について、他国の主張があり、それには理があるという風に思っていただくのは困る。

 ――指導要領に基づき、具体的な教え方にまで踏み込む必要はありますか。

 教え方に踏み込んでいるのではなく、子どもたちが我が国の領土について正しく理解するために、定められた内容を指導してくださいと規定しています。その目的に沿わない指導は不適切だということです。(聞き手 編集委員・氏岡真弓、木村司、水沢健一)

 ■<視点>対立する考え、どう扱うのか

 学習指導要領の改訂案に盛り込まれた領土問題の内容をどのように教えるか。

 文科省の合田課長は報道各社への説明の際、「他国の立場を並列で扱うのは妥当ではない」と述べた。では、どんな指導を想定するのか。インタビューでは、このことを問うた。

 論点は二つある。

 一つは政府の見解と対立する考えをどう扱うかだ。今回の指導要領は多面的、多角的に考える力を育てることをめざしている。政府見解を教えることは大切だが、領土問題をめぐるさまざまな見方も十分に学び、自分の頭で考えることで、理解はより深まるのではないか。

 二つ目は、国がどこまで現場の指導に踏み込んでよいかだ。指導要領は法的な性格を持つ「大綱的な基準」とされ、文科省は教え方にふれるのを抑制してきた。その原則を超え、文科省が指導のありかたに言及することは、子どもの多様な実態に合わせて教える教員の裁量を縛りかねない。さらに慎重な議論が必要だ。(氏岡真弓)

 

 ■「領土」に関する記述

 <社会> 次期・学習指導要領改訂案

     *

 <小学5年> 世界における我が国の国土の位置、国土の構成、領土の範囲などをおおまかに理解すること/「領土の範囲」については、竹島や北方領土、尖閣諸島が我が国の固有の領土であることに触れること

 <中学(地理)> 竹島や北方領土が我が国の固有の領土であることなど、我が国の領域をめぐる問題も取り上げるようにすること。その際、尖閣諸島については我が国の固有の領土であり、領土問題は存在しないことも扱うこと

 <中学(歴史)> 領土の画定などを取り扱うようにすること。その際、北方領土に触れるとともに、竹島、尖閣諸島の編入についても触れること

 <中学(公民)> 「領土(領海、領空を含む。)、国家主権」については関連させて取り扱い、我が国が、固有の領土である竹島や北方領土に関し残されている問題の平和的な手段による解決に向けて努力していることや、尖閣諸島をめぐり解決すべき領有権の問題は存在していないことなどを取り上げること

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2017/02/22

これでは「不可逆的な解決」など到底望めない。本当に分からないんだなあ。

日韓合意からまもなく書かれたコラム。
著者は布施広氏。毎日新聞の専門編集委員。

布施広の地球議:日本人は残忍か - 毎日新聞(2016年1月13日 東京朝刊)

 日本人は「とても残忍な人種」(very cruel race)。現代のコメディー映画「ブリジット・ジョーンズの日記」の中で、主人公の母親はそう話す。前回紹介したフィナンシャル・タイムズの記者、デビッド・ピリングさん(51)。だから困る。

 他方、ピリングさんの本「日本-喪失と再起の物語」(早川書房)の中で、実業家の稲盛和夫さんは「欧米人にとって戦うことは本能なのです。日本人にはそういうところがありません」と語っている。侵略の過去はあるにせよ、日本は「平和国家として世界をリードしてきた」というのが稲盛さんの見方だ。

 どちらが妥当か。当然稲盛さんの方だと私は思うが、中露首脳は日本の「歴史の歪曲(わいきょく)」を警戒し、米議会は慰安婦問題で日本の謝罪要求決議を挙げた。韓国民は日本大使館前の慰安婦像の移動・撤去に反対する。日本への視線が冷たい。

 ピリングさんは私にこう語った。

 「日本人のイメージは内外で対照的です。戦後70年、日本は平和的な憲法を持ち、自衛隊が敵に1発の銃弾も撃っていないのは確かだが、多くの外国人は旧日本軍の行為を覚えている。平和的か残忍かは一概には言えない。他国民同様、環境によって日本人も変わりうると思います」

 「日本には戦国時代があったし、開国を余儀なくされると欧州の植民地勢力を見習って攻撃的に帝国建設を試みた。欧州諸国も昔は争い、今や欧州連合の“平和的な″加盟国になったけれど、フランスや英国は『イスラム国』(IS)を空爆している。状況によって変わるのです」

 と同時にピリングさんは「プロパガンダ戦争」という言葉を使い、近隣国の見方が世界の日本観に影響するとも語った。中国や韓国が戦略的に「ゴールポスト」を動かせば日本はいつまでもゴールできず、欧米にある「残忍な」印象も消えないということでは困ってしまうが。

 私はステレオタイプで極端な日本観は欧米が率先して正してほしいと考える。昨年、米国の識者らが日本の歴史認識をたしなめるべく発表した声明は、肝心の慰安婦問題で「償い事業」や首相の「おわびの手紙」に言及せず、目配りに疑問を残した。中心になった大学教授は日本の領土的主張を「拡張主義」「瀬戸際外交」と表現するが、日本人は納得しないだろう。南シナ海に人工島を造り、「水爆」実験をする国にこそふさわしい批判ではないか、と。

 年明け、慰安婦問題で多くの学生と話をする機会があった。日韓合意は成ったが、問題再燃を警戒し「なぜ日本ばかり非難されるのか」と悩む若者の姿が痛ましい。不可逆的に問題を解決して、若者の目を未来に向けてやりたい。(専門編集委員)

これは連載の後編で、前編は以下。

布施広の地球議:「喪失と再起の物語」 - 毎日新聞(2016年1月6日 東京朝刊)

この前編では、前半の日本文化とか大和魂とかの、何が言いたいかよく分からない枕がある。それはどうでもいい。

布施氏は「ステレオタイプで極端な日本観は欧米が率先して正してほしい」と言いながら、稲盛氏の「欧米人にとって戦うことは本能」「日本人にはそういうところがありません」というステレオタイプは「当然妥当」だと思うのだそうだ。
こういうの、最近の流行では「日本スゴイ」というのではないかな。

そして、

日韓合意は成ったが、問題再燃を警戒し「なぜ日本ばかり非難されるのか」と悩む若者の姿が痛ましい。不可逆的に問題を解決して、若者の目を未来に向けてやりたい。
と言いながら
中国や韓国が戦略的に「ゴールポスト」を動かせば日本はいつまでもゴールできず、欧米にある「残忍な」印象も消えないということでは困ってしまうが。
と言う。若者が悩む原因を作っている側の主張をしている人が「若者を救いたい」と言う皮肉。日本の夜明けは遠いなあ……。

まあ要するに、布施氏は因果関係の逆転に全く気づいていないわけだ。これこそ正すべき「ステレオタイプ」だと思うのだが、布施氏からすれば、諸外国の「日本憎し」が先に立った強硬姿勢こそが「不可逆的な解決」とか「真の和解」とかを阻害していると映るのだろう。
布施氏は、ピリング氏の、国民が「平和的か残忍かは環境や状況によって変わる」という言葉を引きながらも、「残忍か平和的か」という問に拘泥している。これこそが彼がステレオタイプにとらわれていることの証だろう。
私などは、「日本」などがどのように見られようが別にかまわないのだが(まあ実害があると困る。外国で差別を受けたこともあるし。だがこれは「日本良い国」像の流布を肯定しない)、布施氏は「日本」が批判されるとなぜか自分が攻撃されたように感じてしまうのだろう。毎日新聞が批判されても彼は同じように自己への攻撃だと見なすのだろうか。ちょっとだけ興味がある。

◆ ◆ ◆

全然関係ないが、上記コラム前編には、アブデュルレシト・イブラヒム著「ジャポンヤ」の話がちょっと出てくる。
ジャポンヤ――イブラヒムの明治日本探訪記 (イスラーム原典叢書) | アブデュルレシト・イブラヒム, 小松 香織, 小松 久男 |本 | 通販 | Amazon

この書評:山崎典子(2013)史學雜誌 122(11), 2013-11-20, CiNii

イブラヒムは、日露戦争で強国ロシアに打ち勝ったアジアの新興国である日本と、ヨーロッパ列強の支配に喘ぐイスラーム世界の連携を構想していたとされ、伊藤博文や大隈重信をはじめとする要人と交流をもち、頭山満や犬養毅率いるアジア主義団体「亜細亜義会」の設立発起人にも名を連ねたという。(中略)
本書は、イブラヒムとその時代に関する基礎研究、とりわけ第二次世界大戦時における日本の対イスラーム工作に彼が関与した背景を探るための重要な研究成果として、今後大いに参照されていくだろう。

また、朝日新聞の聞蔵IIで当時の記事を検索すると、こんな記事がある。

1909年3月22日付「回教管長の演説 韃靼人イブラヒム氏」
その一節。

……氏は露国人と云ふものヽ実は韃靼人にして此度日本に来たりたる目的も全く露国の横暴に堪え切れず親好を我国に求めんが爲めなりと云ふ……
……余等は最早表面の偽善をのみ看板として裏面の汚穢極まりなき欧州より教育を受くるを欲せず、行く行くは日本に留学生を送る考へなり若し日本政府にして余等が此乞を許されなば余の幸福は実に之に過ず……
……日本が最近五十年間に世界を驚かす長足の進歩を遂げたるも余の考へにては是皆其歴史の古来明瞭となり居れる賜のなりと思ふ……
日本人相手の演説でかなりリップサービスが入っていると思うが、まあロシア包囲網(ちょっと「保守」的表現をまねてみた)を作るという政治的動機が下地にあるんだなあというのが分かる。なんとなく世界ウイグル会議の人を思い出してしまった。

参考:隅田金属日誌(墨田金属日誌) 「ウイグル会議代表は桜井誠のお仲間ですよ」(産経)

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2017/02/03

「人権派」であるなら日本の慰安婦問題も盛んに追及すればいいだけでは……

追記:下のtogetter記事、現在はタイトルが変更され、追記もあるようだ。

私が慰安婦問題で転向した理由~「強制連行は論点ではない」「他国の例を批判しても日本の罪は消えない」の一点突破で、問題は解決するのだろうか? - Togetterまとめ

人権派は「国際社会で強制連行の有無は論点になっていない」といいます。
返す刀で「そんなことに拘る人間は人権意識の低い馬鹿な右翼だ」と罵ります。

人権派は他国の人権侵害や問題点について話題を避ける傾向にあります。
そのことを指摘すると「日本の罪が消えるわけではない」と正論で返されます。

こういった態度や正論に納得できる人は、相当良く訓練された人権派だけではないだろうか?
違和感を持ってしまった自称人権派の私は、どうすればいいのだろうか?

基本的な論理は抑えつつ、
・「こういった態度や正論に納得できる人」は少数だ
・これらの主張は理解できるが違和感がある
というので、途中でメモを取りながら読んでみた。でも率直に言ってがっかりした。

「なぜ日本ばかり悪者にされるのか」
「なぜ日本の罪ばかり強調し、他国の同様な罪には目をふさぐのか」
「慰安婦問題追及者の真の動機は日本の責任を膨らませたいという欲望だ」

結局まとめるとこういう趣旨になるのではないか。
だとすれば「いつものアレ」を超えるものではない。時間を無駄にしたついでに自分用の記録を書いておく。

この方はドイツの慰安婦問題を例にして、日本でも外国でも日本の事例ばかり問題になる一方で、ドイツなどの類似問題は問題視されていないことを指摘している。また、日本の慰安婦問題追及者たちが「本質は人権問題だ」と言いつつ、他国の類似事例への言及を避けたり免責したりしていると批判している。
その批判にはまっとうな点もあるだろうし、日本の責任追及論者の中には嗜虐的な加害者バッシングに傾く人もいるかもしれない。
でもまあ、それなら「日本のことばかり言うな」ではなくて、「もっと言おう、誰も言わないなら私が言おう」になればいいのではないか。「ドイツの慰安婦問題追及者たちと連帯しよう」でいいのではないか。

……あと、「どうして日本だけこんなにクローズアップされるの」と不満をお持ちのようだけど、それは「人権派」が努力したというよりは、どちらかと言えば日本の責任を否定する人たちの長年の努力の成果じゃないかと思いますよ……。

**************
追記

そういえば、タイトル部分で「……問題は解決するのだろうか?」とあるのだけれど、この人にとっての「解決」とはどういう意味・状態なのだろう。読んでいてそれが気になっていた。

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