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2009/02/13

〈ネットはいま〉第2部―7 「58%の支持」

asahi.com(朝日新聞社):〈ネットはいま〉第2部―7 「58%の支持」 - ネット・ウイルス - デジタル

田母神氏が「ヤフーで58%が私を支持している」と言った話。

なかなかいい切り口で興味深い記事。へぇ~と思ったのが、
「ヤフーはこの仕組みを、あくまで利用者を引きつけるためのコンテンツ機能と位置づける。二重投票の制限などはしているが、そもそも統計学的な精度は担保されていない。」
というところ。無邪気に「世論調査」的な位置づけをしているものだとばかり思っていたけれど、単なる客寄せツールという割り切りをしていたわけだ。

統計的な精度が担保されていないことは、ちょっと社会調査法をかじったり、アンケート調査の「精度」について考えてみたりすればすぐわかることではあるけれど、その一方で、事もあろうに国会の、しかも国中の耳目集めているその大舞台で「ヤフーで58%が私を支持している」と言っちゃうような人もいるわけで、そうしたある種の誤解というか、投票結果の「独り歩き」を放置もしていたわけで。この種の投票がお遊びだよってコメントも注意も何もなかったと思うし。今更「利用者を引きつけるためのコンテンツ」とか言われても責任逃れと言われても仕方ないと思うなあ。

それより、面白いなあと思ったのがこれ。

 たとえば先月中旬。政権の枠組みについて尋ねた時事通信の世論調査のニュースには、約7500件の意見投稿があった。だが、投稿者の1%にあたる上位10人による投稿が全体の20%、投稿者上位20%では投稿の約80%を占めた。

7500×0.2 = 1500 だから、上位の人は150回以上の投稿を行ってることになる。この数字だけだと、粘着質の変人かと思うんだけど、実際そうかもしれないんだけど、それだけでもないかなあとも思う。
時事通信のしくみを知らないでいうのだけれど、Yahoo! のニュースのコメント欄だと、言い争いのようになってることもよくあるから、気に入らない or 反論のコメントを見て、ヒートアップして論争してしまうということもあるんじゃないかと。

いずれにせよ、少数の声の大きい人の(またはグループの)声ばかりが目立ってしまうというのは、こういうシステムの弱点ではあると思う。

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ところで、この記事では、こうした弊害(?)もあるけれど、「一方で、ネットでつながる意見が、現実の世論を呼び起こすこともある」というポジティブな機能もあるよ、という話をしている。でも、ここで「現実の世論」と言っているときの「世論」と上で言う「世論調査」とかの「世論」とは、指している内容が違うと思う。記事の最後で、
「ネット世論がすべてではない。でも、力は持ち始めている」
と言っているように、ここでいう「現実の世論」は「力」に等しくて、それは何らかの集団的な行動であったり意思表示であったりという意味だろう。ここで挙げられている「銚子電鉄を救おう」キャンペーンは、社会全体の意見として実行されたんじゃなくて、それに共感したごく一部の人たちの行動だったわけだし。だから、本質的には、一部の人たちの行動・意思表示という点では、「投稿者の1%にあたる上位10人による投稿が全体の20%」というのと「銚子電鉄を救おう」キャンペーンとは同じことになるんじゃないかな。その向いた方向が評価されるべきかどうかという点で正反対だったというだけのことで。

というふうに考えると、この記事は上記の投票システムで出た意見の結果には不満で、銚子電鉄の話は「いいこと」だと思ってるんじゃないかなという気がしてくる。なんとなく、そういう特定の価値観が裏にあるような気がする。だから、
「でも、力は持ち始めている」
という結びはちょっと怖いなあと思う。ナチスとかルワンダとか思い出してしまうから。実際、吉野家とかの大規模オフもあったし、国籍法の騒動とかフリーチベットとかもあったわけで、「力は持ち始めている」んだよね。

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今回の記事で取り上げられている話には二つの要素が関係しているように思う。

1.ネットで呼びかけることで、そうでなければ散在して結びつかなかった人たちが結びつき、そして集団的な行動に繋がるという側面

特定の事柄に興味を示し、また先鋭的な人たちがそこに集まってきて意見表明したりすることで、それが実態よりも大きな割合を占めるものと見えてしまうという現象。

2.個人がたくさん意見することでその場の議論の流れが左右されたり、また逆にその場の話から個人の意見や行動が先鋭化したりするという側面

頻繁に、また長大な内容の投稿を繰り返すことで、その人の意見の存在割合が実際よりも大きく見えてしまうという現象や、過激な意見や行動指向的な議論が現れる現象。

ネット投票にせよ銚子電鉄の話にせよ、無数の興味関心が混在している社会の中で、ネットがその興味関心の先鋭化装置として機能しているという話なんだろうと思う。まあ、こういう特性も織り込みながらネットとは付き合わないとね、というリテラシの話になるのかもしれないけれど。

 ネット検索大手ヤフーは、その数字が独り歩きし始めたことに、困惑していた。

 「ヤフーで58%が私を支持している」

 昨年11月11日の参院外交防衛委員会の参考人招致。日本の侵略戦争や植民地支配を正当化する論文を公表、更迭された田母神俊雄・前航空幕僚長はそう言い放った。

 「ヤフー・ニュース」には、ニュースの話題に関するネット投票と意見投稿ができる仕組みがある。ネット投票は同月4日から参考人招致当日まで行われ、投票総数約9万7千、「ほとんど問題はない」「まったく問題はない」を合わせると58%だった。

 ヤフーはこの仕組みを、あくまで利用者を引きつけるためのコンテンツ機能と位置づける。二重投票の制限などはしているが、そもそも統計学的な精度は担保されていない。

 NHKが同月の世論調査で、田母神氏を空幕長にした政府判断の是非を尋ねたところ「大いに問題」が30%、「ある程度問題」が35%にのぼった。日本テレビの世論調査でも、田母神氏の更迭について「適切と思う」が59%。いずれも電話番号を無作為に選んで行う方法だった。

 ネット上で「世論」のように見える意見。だが一部の利用者による大量の書き込みや、同じ文言で投稿欄を埋め尽くすことも少なくない。そんな「ネット世論」の違いを、利用者にどう示すか。ヤフーでは、以前からの検討課題だった。

 たとえば先月中旬。政権の枠組みについて尋ねた時事通信の世論調査のニュースには、約7500件の意見投稿があった。だが、投稿者の1%にあたる上位10人による投稿が全体の20%、投稿者上位20%では投稿の約80%を占めた。

 「ヤフー・ニュース」は今月5日、その仕組みを一新。投稿者がヤフーに登録しているIDの一部とともに、過去にどんな投稿を何件しているのか公開するようにした。

 「どんな人が書いているか一目でわかり、意見を判断する基準になるはず」と同社の川邊健太郎・ニュースサービス部長(34)は話す。

 一方で、ネットでつながる意見が、現実の世論を呼び起こすこともある。

 「ネット世論を無視はできない」と中島竜馬さん(33)は言う。巨大ネット掲示板「2ちゃんねる」を自動解析し、話題を順位付けするサイト「2NN」の運営者だ。

 「銚子電鉄を救おう」。06年、千葉県のローカル鉄道が経営難に陥っていた時、支援を呼びかけ、世論を盛り上げた舞台の一つが「2ちゃんねる」だった。「ネット世論がすべてではない。でも、力は持ち始めている」(小堀龍之)


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