[メモ]安田浩一 『外国人研修生殺人事件』七つ森書館に関するメモ
2007年2月15日が初版。まだ読んでる途中だけど。
●日中技能者交流センター
90年に「団体管理型」の制度が認められると同時に法務省より「研修生受け入れ団体」の指定を受けた。それ以来、中国から実に9000名もの研修生を受け入れてきた”大手”の一つである。…中略…
中国取材に同行してくれた甄凱(ケンカイ)が研修生の支援活動に関わるきっかけが、近所で働く中国人研修生の悲惨な実態を目にしたからだということは前に触れた。実はその「悲惨な実態」を強いていた鉄工所は、交流センターから研修生を受け入れていたのである。
…中略…
甄凱(ケンカイ)は知り合いの税理士を通して、せめて労災保険を適用するように経営者に求めたが、「もしも労災などを申請するならば、(当該の)研修生を交流センターに送り返す」と、強制帰国を仄めかしたのである。
…中略…
研修生の支援団体である「外国人研修生問題ネットワーク」は2005年9月、交流センターの理事長の槙枝に対し、同センター受け入れの研修生・実習生から様々な人権侵害、労働権侵害の相談が寄せられているとして、労働法遵守を求める要請書を提出した。
同センターの創立20周年記念祝賀会で著者が槙枝理事長に質問したときの返答
一通りセレモニーを終えて歓談の時間に入ったとき、私は槙枝のもとへ駆け寄り、取材者であることを明かしたうえで、いわゆる「研修生問題」についての見解を質した。
槙枝はとりたてて嫌がるふうでもなく、しかし返ってきた言葉はそれほど実のあるものではなかった。
「そういう話、よく知らないんですよ。人権侵害? それはいかんねえ。人権も労働法もしっかり守らないといかん。まあ、中国では研修生を希望する若者が多いから、それを安上がりの労働力にしたがる経営者もいるかもしれませんね。まあ、問題が何もないとは言わないが、我々の組織も日中友好に寄与してきた歴史があるし、制度そのものは今後も続けていくべきでしょう。」
完全に他人事のような物言いだった。
●千葉県農業協会が関与した派遣先での殺人事件に関して
本書の記述ではないが、JITCOの理事がこれに関して語っている記録を見つけたのでメモ。
(社)日本経済調査協議会「外国人労働者受入れ政策の課題と方向~新しい受入れシステムを提案する~」2008年9月 ISSN 1342-4173
(2007 年4 月27 日ご講演)
7.外国人研修制度の理想と現実-団体監理型での問題案件とモデルケース-
国際研修協力機構常務理事 安城要氏…中略…
さらに、この制度が15 年間うまくいっているとしてあげられる例に、来日した研修生・実習生は犯罪率が低く、殺人事件が起きていないことがあげられるが、その歴史に終止符を打ったのが某県の殺人事件である。これは殺人事件ということだけでなく諸々の点で象徴的であるので、内容を詳しく説明する。某県農業協会は県の農業政策上無視できるような小さな団体ではなく、設立時から理事の多くは県選出の国会議員で、事務局の責任者は県庁OB という立派な団体である。国費留学生として日本で勉強し、その後国に帰ってビジネスの世界に入り、再び日本に来てこの事業を手がけた人が事務局の職員として入って、この研修事業を一手に処理していた。従ってこの団体にいる日本人はほとんど中味を知らない。研修先は農家であり、農場なので人手が足りず、また難しい法的手続きはJA に任せるのに慣れているように県の組織に任せきりで、要は丸投げを受けて安心であるということがすべての面で行われていた。団体の設立当初はJITCO を経由して手続きをしていたが、途中からは事務能力が増し、入管へ直接申請し、手続きを行うようになったため、実質的にはJITCO のチェックを受けていない。殺人事件で現在係争中であるが、丸投げである点と立派な組織にブローカー的な人に入り込まれて全部任せていたため、外からは殺人事件が起こるまで問題のあることもほとんどわからなかった。犯人の研修生は日本に来て1 週間目くらいからノイローゼになり、自分は送出し機関と受入機関の両方に騙されていてこんな不当な扱いを受けるのはおかしく、他に変えて欲しい等訴えていた。それをなだめに行ったと記録されている団体の人たちを事件の前日に刃物で追い返している。そして翌日、帰国させることを決め、本人を騙して成田空港に連れて行く車に乗せるために常務理事が初めてその場に行って刺された。ブローカー的にいっしょにいた人も負傷した。本人はその後自殺を図った。こうした状況では我が国の刑事訴訟法体系及び判例からすると死刑にならないことが確実である。1 人しか殺しておらず、事前にノイローゼ状態で追い詰められており、100 万円以上借金をして来ていて帰国させられたら本人及び家族もたいへんという中で逆上して刺したとなれば死刑にはならない。犯人の送り出し国であれば通常死刑が相場だと聞いている。日本の場合であれば何年かの量刑を受けても2、3 年で出てきてしまう。結果として、裁判の判決が下りて刑が確定したら直ちに強制送還することになるであろうか。日本で罪を犯して、刑を受け、強制送還されて収監されるかは定かではなく、恐らく収監されないであろう。これが今後来る人に与える影響がどうか今のところ全くわからない。リポーター的に問題点を書き立てて儲けている人はいるが、これを考えている人はまだ見当たらない。この点を各方面で真剣に考えてもらいたいと思う。
「こうした状況では我が国の刑事訴訟法体系及び判例からすると死刑にならないことが確実である。…中略…犯人の送り出し国であれば通常死刑が相場だと聞いている。日本の場合であれば何年かの量刑を受けても2、3 年で出てきてしまう。」
「日本で罪を犯して、刑を受け、強制送還されて収監されるかは定かではなく、恐らく収監されないであろう。これが今後来る人に与える影響がどうか今のところ全くわからない。」
「リポーター的に問題点を書き立てて儲けている人はいるが、これを考えている人はまだ見当たらない。」
この方は「企業部が問題が起きた時の駆け込み先」であり「現場として日々相談を受けている立場」なのだそうである。
制度が人権侵害に直結したり、事件を誘発するような根本的・本質的な欠陥を抱えているのではないかという視点を全く見せず、追いつめられた研修生が「ノイローゼ状態」で起こした殺人について、「死刑にならない」と量刑に不満を漏らし、送還後に「収監されない」と刑期満了後の処遇について疑問を呈する。このJITCOって、法務省の所管団体なんだよね?で、その理事が研修制度自体については全く問題があるとは認識せず、管理下にあるはずの研修生の事件について、管轄外の刑事裁判の基本をぶっ壊すようなことを言う。面白いね。
●鉾田市で起きた女性研修生暴行事件:JITCOが実習生から訴えられたケース
本書では省かれている事件の経緯について推測できる範囲でメモ。
・女性は2004年11月、日本で農業技術を学ぶため来日。[1]
・出国の際、送り出し機関に約70万円(当時のレート)を支払った(親類知人等から借金)。[2]
・受け入れ機関は「北浦有機事業協同組合」
・女性は上記受け入れ機関を通じて会社役員の建設会社の実習生となった[3]
・会社役員とは受け入れ機関の理事長。[2]
・会社役員とは大槻武德氏(当時鉾田市市議)。建設会社とは(有)大槻製材所。
・8日間、日本語会話の講習を受けた以外に研修はなく、会社役員宅の家事や会社の清掃、廃材の焼却といった雑用ばかりさせられた。パスポートや預金通帳を取り上げられ、規定通りの賃金も受け取れず、休みは1カ月間に0-2日程度しかなかった。[1]
・毎週日曜日に近所の農家に手伝いに行かされた。時給は300円。[2]
・2005年3月から翌年6月にかけて上記会社役員(協同組合理事長)から暴行を受けた。[1][2]
・2006年7月に東京入国管理局に駆け込み、保護された。[1][*]
・東京入管はシェルター施設を紹介、その後女性は全統一労働組合へ相談[2]
・労組が理事長に団体交渉を申し入れ。その後、団交拒否として労働委員会へ申し立てたが解決せず、女性の意思で訴訟に踏み切った[2]
・2006年12月25日、女性は上記役員(加害男性)、受け入れ機関(協同組合)、JITCOに対して3700万円損害賠償と未払い賃金を求め、東京地裁に提訴した。
・2007年2月19日、第1回口頭弁論で役員と会社側は女性側と和解。事実関係を争わなかった。[1]
・JITCOは争う姿勢だったが、2008年までに和解した[4]
[1]47News「外国女性暴行訴訟が和解 技能実習先、事実認める」(2007/02/19 02:57 共同通信配信)
[2]本書の記述による
[3]47News「「受け入れ先役員が暴行」 外国人実習生の女性提訴」(2006/12/25 04:36 共同通信配信)
[4]○○弁護士○小野寺信勝の徒然日記○○ : 外国人研修生全国フォーラム2008
[*]上述の安城要氏によれば、「最初JITCOに駆け込んできた」とのことで、記述に食い違いがある。
おまけメモ
・2007年1月、テレビで大槻武德氏のセクハラ問題が取り上げられる。旧鉾田町議時代の05年7月にあった政務調査旅行の宴会で同行した女性添乗員に抱きつくなどしたもの。合併前の町議会与党会派「つくしクラブ」の町議7人が観光バスで05年7月21日から2泊3日で、青森県八戸市の終末処理場を視察。その際、宴会を開き、添乗員に抱きついた写真がその後、怪文書として旧町内にばらまかれた。同年1月15日、大槻氏は「一身上の都合」として市議を辞職。[5]
・上記テレビとはテレビ朝日の「スーパーモーニング」[6]
・FRYDAY 2007年3月23日号に「【テレ朝と大モメ】セクハラ元市議「62回強姦裁判が和解」の深層」という記事が掲載される
[5]鉾田市議が辞職 セクハラ報道で?(朝日新聞茨城版) 天空橋救国戦線
[6]「鉾田市議が辞職 セクハラ報道で?」(マッド・アマノの「THE PARODY TIMES」)
*********************************
以下、参考資料として添付。
●女性暴行事件に関する上述の安城要氏の発言
業共同組合理事長が研修生から技能実習生まで3 年間いた中国人女性に対して数十回強姦したというものである。この女性は最初JITCO に駆け込んできた。強姦の件については警察に相談するように、また賃金が支払われていない件については指導して払うようにさせた。しばらくして、刑事告訴せずに民事告訴として強姦の損害賠償請求訴訟が出て、監督責任不履行によりJITCO も損害賠償請求をされた。監督責任を問われることは論理的にはあり得るが、JITCO の監督責任はなかったという認識で争っていくつもりである。しかし問題は、農業や建設業など多数の業種について小さな事業協同組合で行っており、その中で色々な不適正行為とともにセクハラが行われたことである。強姦までいくものはそうあるものではないが、これは典型的事態で、防ぐ手立ては現行法では刑事訴訟法体系しかない。これについて訴訟が起こった時に非常に困る状況になっている。
業種別の問題について典型的なことを述べたが、農業については業種特有の非常に大きな問題がある。当初この制度を作った際農業は対象ではなかった。制度全体は工場労働を対象に構築されている。従って、時間単価等で最低賃金法を適用等労働基準法体系によって規制することでできている。農業を対象とする時に、農業の研修事業だけは労働基準法の考え方で行う。よってその延長である農業の技能実習も労働基準法で適正化する。始めた時は農協が中心で、農協ではこのような問題はあまり顕在化しなかった。事業協同組合において労働基準法に抵触するようなことが多く出てきた。一番多いのは時間単価、特に残業において下回ることである。農業については、季節変動、天候変動もあり、しかも導入されているのは都市近郊の蔬菜農業なのでしかるべき時間に東京に出荷するためには夜中から作業することが常態であるにもかかわらず、時間単価で測ると夜中から18 時間継続労働で違法となり問題となる。北浦有機農業事業協同組合もこの点でまず問題になる中で強姦事件が出てきた。その後農林水産省と共に調査したところ、農業については時間の問題が隠れていることがわかった。先ごろ長野県で東京入管が集中的に摘発した事件がある。東京に夜に出荷している高原野菜の農業で、これは時間が守られていない。そこが連続して摘発されたために地域の産業ができないのではないかといわれた。漁船漁業も途中から対象になった。この制度上漁船漁業については市町村が研修を行い、漁協はその監督の下に実態を手伝う形になっている。これは特殊であるが、問題が次から次に起きているわけではない。
本書が示している研修・実習生が置かれている基本的状況を考慮すると、強姦、セクハラ等は水面下に隠れて現れにくいことが容易に推察され、さらにJITCOの巡回等が満足に行われ得ない実情を考慮すれば、「強姦までいくものはそうあるものではない」とか「問題が次から次に起きているわけではない」などと断言できるとは思えない。
いずれにせよ、この報告書はなかなか本音が赤裸々なので、消される前に保存して置いた方がいいと思う。
●有機野菜のことなら!北浦有機事業協同組合
事件に関するコメント等は一切ない。外国人研修生等の受け入れ事業についての記述、過去の経緯等についても全く記述はない。
所在地が茨城県行方市成田688-3となっており、鉾田市の大槻氏が理事長になっていたその経緯がよくわからないが、同組合の鬼沢寛氏は「つくしクラブ」で大槻武德氏と同会派だったようだ。
●鉾田市議が辞職 セクハラ報道で?(朝日新聞茨城版)
2007年01月16日鉾田市の大槻武徳市議(64)が15日付で辞職した。「一身上の都合」としているが、大槻氏は旧鉾田町議時代の05年7月にあった政務調査旅行の宴会で同行した女性添乗員に抱きつくなどし、民放テレビ番組が先週、セクハラ問題として取り上げたばかりだった。
この日は、同番組を巡る議会全員協議会が開かれ、小沼洋一議長が冒頭、大槻氏から辞職願が出され、15日付で許可したことを報告した。大槻氏は町議を含め5期目。町議会議長経験もある。
問題の政務調査は、合併前の町議会与党会派「つくしクラブ」の町議7人が観光バスで05年7月21日から2泊3日で、青森県八戸市の終末処理場を視察。その際、宴会を開き、添乗員に抱きついた写真がその後、怪文書として旧町内にばらまかれた。
同年10月、町議らが政務調査活動費計約57万円の返還を求めて住民監査請求を起こしたが、合併後の市監査委員は「女性の同行に問題はあるが、政務調査費の使い方に違法性はない」と報告していた。
全員協議会には、旧つくしクラブの議員5人も出席。それぞれ「テレビ報道で迷惑をかけた。(宴会などは私費で)政務調査自体に問題はない」などと説明したという。
●平成19年第1回鉾田市議会定例会会議録 第2号〔53番 石津武吉君登壇〕
大槻氏の会社である(有)大槻製材所への業務委託に関連して、女性暴行事件とセクハラ視察旅行問題とが取り上げられている。このほかの事業関係でもずさんさが暴露され、市側と市長の対応が面白い。
財団法人国際研修協力機構(JITCO)の外国人研修制度で来日した技能実習生の外国人女性が受け入れ先の建設会社役員から性的暴行を受けたなどとして、役員や建設会社、JITCOなどに計約3700万円の損害賠償などを求めた訴訟の第1回口頭弁論が東京地裁(土田昭彦裁判官)であり、役員と会社側は19日、女性側と和解した。 女性の代理人弁護士によると、役員側は暴行を認め、一定額を支払うが金額は非公表。役員側は「和解条件は答えられない」と話している。 JITCOは賠償責任を争う姿勢を示した。 訴状によると、女性は2004年11月、日本で農業技術を学ぶため来日。東日本にある建設会社の実習生になったが、研修はほとんどなく、同社役員宅の家事や会社の清掃、廃材の焼却ばかりさせられた。 さらに役員所有の民家に1人で住まわされ、05年3月から昨年6月にかけて役員から暴行を受けたという。同年7月に東京入国管理局に駆け込み、保護された。
2007/02/19 02:57 【共同通信】
財団法人国際研修協力機構(JITCO、東京)の外国人研修制度で来日した技能実習生の女性(35)が25日、受け入れ先の会社役員に60回以上も暴行された上、研修はなく、雑用ばかりさせられたとして、役員やJITCOなどに計約3700万円の損害賠償と未払い賃金を求め、東京地裁に提訴した。 訴状によると、女性は2004年11月、日本で農業技術を学ぶため来日。1次受け入れ機関となった農産物共同販売の協同組合を通じ、東日本にある建設会社の実習生になった。 しかし8日間、日本語会話の講習を受けた以外に研修はなく、会社役員宅の家事や会社の清掃、廃材の焼却といった雑用ばかりさせられた。パスポートや預金通帳を取り上げられ、規定通りの賃金も受け取れず、休みは1カ月間に0-2日程度しかなかった。 JITCO総務部は「訴訟案件になるため、一切コメントできない」としている。
2006/12/25 04:36 【共同通信】
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【鉾田市】大槻武徳・市議【政務調査費でセクハラ】(2ちゃんねる)
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