どさくさ紛れにまた一歩…
参議院の憲法審議会の規程が参議院で可決されました。
改憲に向けた手続きがまた一歩進みました。
今回のことが大きいのは、これで改憲のための制度はすべて整ったということです。
つまり、あとはやるかやらないかだけ。
報道では、審議会の委員選定などは白紙状態で当面は動き出さないだろう、という見方が多いようです。
でも、いずれは動き出すことになるでしょう。
これまでも、
「憲法に改正規定があるのに、その実際を規程する法律・制度がないのはおかしい」
という論理を改憲派は主張してきたし、その延長として、
「審議会があるのにその規程がないのはおかしい」
という主張があったわけです。
では次には、
「審議会があるのに委員もおらず、活動もないのはおかしい」
という主張が出てくるのは明らかでしょう。そして、憲法の審議とは改憲のための審議に他ならないわけです。
改憲派からすれば、いつでもやれる準備は整った、あとはいつやるかだけの問題です。
そして、改憲したい最大の理由は、9条のこと。さらには国民主権の制限です。
自民党はもちろん改憲派ですが、民主党は混在しています。そしてどちらかといえば、改憲派のほうが優勢でしょう。もっとたちが悪いと思うのは、民主党には、権力が壟断され、制度が恣意的に運用されることへの警戒感がはなはだ薄いと思われることです。民主主義を有効に機能させるためには、為政者からすれば非常に面倒かつ非効率に思われることでしょうが、権力抑制的な規則や運用こそが最も重要なものであるにも関わらず、です。
今回の参議院の規定も、報道によれば、ねじれ国会で民主党が自民党に歩み寄る材料に使われたと言われています。国家の背骨にあたる憲法の取り扱いを決める議論を政争の具に用いるというルーズさには、民主主義というものが本来不安定で、その維持には不断の努力が必要だということがわかっていないという印象を受けます。「平和ボケ」とはまさにこのことでしょう。
残念ながら、あちこちの首長にプチ独裁者が高支持率で選出され、他人の芝生を土足で荒らす所業が喝さいを受ける世の中です。改憲派の狙う改憲案が通ってしまう恐れは十分にあると思います。
最後にいくつか目にとまった報道類を残しておきます。
憲法審査会 規程の制定に道理ない(5月19日)-北海道新聞[社説]
参院はきのうの本会議で改憲案を審議する憲法審査会の規程を制定した。民主、自民、公明各党などが賛成し、共産、社民両党は反対した。
憲法審査会は2007年に成立した国民投票法に基づいて衆参両院に設置された。その運営手続きを定めた規程は衆院では09年に制定されている。衆参両院で審査会規程が設けられたことにより、形の上では国会での改憲審議の土俵が整った。
しかし改憲を政治日程に乗せる環境はなく、今回の制定にはなんらの道理もない。衆院ではいまだに委員が選任されておらず、参院でも審査会を動かすめどは立っていない。
ではなぜ、この時期に規程を設ける必要があったのか。
首をかしげるのは民主党の路線である。民主党は2年前の衆院での規程制定の時には野党として反対し、当時政権にあった自公両党の強引な採決を批判した。
ところが今回は一転して自公と足並みをそろえた。わかりにくい方針転換の背景には、規程制定を求める自民党などに配慮することで、野党が多数を握る参院での法案審議に協力を得たいとの思惑もあるようだ。
あまりに便宜的な対応である。憲法論議は数の論理によらずできる限り各党の合意を得て進めるべきだ。急ぐ必要のない規程制定について民主党から説得力のある説明はない。
民主党は規程制定に符節を合わせたように、党の憲法調査会を復活させ、前原誠司前外相を会長に充てる人事を決めた。憲法をめぐる党内論議を活性化させるためだという。
前原氏はこれまで集団的自衛権の行使に積極的な立場をとり、最近も改憲のハードルを下げる必要があるとし、厳格な改正手続きを定めた96条を改めるよう主張している。
もとより議員としての憲法論議は自由だが、こうした姿勢で党内の意見集約を図るつもりなら問題だ。
いま政治に必要なのは大震災の救援・復興に向けて、憲法25条が保障する「生存権」を確保するために全力を挙げることだ。
被災地ではなお11万人以上が避難生活を余儀なくされ、原発事故は収束の見通しが立たない。そうした状況下での改憲論議は的外れであるばかりか国民の支持も得られまい。
与野党は、欠陥だらけと評される国民投票法を放置してきた。同法は「任期中の改憲」を掲げた安倍晋三首相の下で強行されたが、参院特別委が付帯決議で求めた最低投票率など民主主義のルールにかかわる検討事項は全く論議されていない。
とりわけ民主、自民二大政党の責任は重い。成立の経緯と内容に問題が多い同法は廃止するのが筋だ。
民主、憲法審査会規程採決棄権の4氏を注意 : 政治 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
参院民主党執行部は18日、参院本会議での参院憲法審査会規程の採決を棄権した相原久美子、有田芳生、今野東、田城郁の4氏をそれぞれ口頭で注意した。
大河原雅子氏は19日に注意する。◆参院憲法審査会規程の採決を棄権した民主党議員と棄権理由◆
相原久美子氏「国民投票法に反対したので、賛成することには忸怩
じくじ
たる思いがあった」有田芳生氏「内面の理由から判断した」
大河原雅子氏「いま採決しなければならない理由がない」
今野東氏「理由は何も言わない」
田城郁氏「ノーコメントだ」
(2011年5月19日00時20分 読売新聞)
「予算(案)を参議院に送る直前に突如として修正案として出そう。もう時間がないから、あーあーといっているうちに通してしまおう」▼1954年、日本に原子炉をつくるための予算がついたいきさつです。語っている人は中曽根元首相。当時、衆院議員でした。政権党に“修正案に反対するなら予算を通さない”と迫り、認めさせました▼中曽根氏によれば、「それで日本の原子力は動き出した」。いまや、原発は54基におよびます。しかし、わが国の原子力事始めは、国会でのまともな議論を素通りした政治の取引から出発したのでした▼「憲法は日本の一番大事な国の決まりだ。なぜいま急いでやらなければいけないのか」。こちらは、2年前の民主党の参院議員会長の発言です。参院では憲法審査会規程の採決に応じない、という話です。規程は、憲法「改正」の原案を審査し提出する憲法審査会の運営手続きを定めます▼ところが、政権をとった民主は、自民や公明とともに規程を可決させました。「ねじれ国会」乗り切りへ自民に歩み寄った、といいます。「一番大事な国の決まり」を、取引の材料におとしめるつもりか▼原子力といい、憲法「改正」の準備といい、重大事をわけの分からないうちに通す政党・政治家。震災や原発事故への対応の遅れは「非常事態」を想定しない憲法の欠陥のせい、という説にいたっては責任逃れもはなはだしい。欠陥憲法だという「新憲法制定議員同盟」の会長は、いまも原発推進の中曽根氏です。
日本共産党の紙智子議員が18日、参院本会議で行った憲法審査会規程に対する反対討論は次の通りです。私は、日本共産党を代表して、憲法審査会規程案に反対の討論を行います。
なぜ、いま憲法審査会規程なのでしょうか。
そもそも憲法審査会は、4年前(2007年)、改憲手続き法の制定にともなう国会法改定で、改憲を目的とした憲法の調査を行い、「憲法改正原案」を審査し提出する機関として規定されたものです。当時、安倍政権のもとで自民党などが目指す9条改憲のスケジュールにそって、慎重審議を求める圧倒的多数の国民の声を無視し、強行成立させました。この横暴な自民党政治に国民はノーの審判を下しました。そうした経過から、今日まで参議院は審査会規程をつくらず、審査会を始動させてこなかったのであります。
ところが今回、菅政権は「ねじれ国会」をのりきる思惑で自民党の要求を受け入れたといわれています。憲法改正にかかわる問題を政権維持の手段にするなど、言語道断であり、断じて許されません。
提案者は、「改憲手続き法が成立して4年もたつのに、憲法審査会規程をつくらないのは立法不作為だ」としきりに言いますが、この議論は「憲法に改正規定がありながら、手続き法がないのは立法不作為だ」と言って手続き法を強行した4年前の理屈と同じです。
しかし、審査会規程がないことで、国民の権利が侵害された事実はどこにもなく、「立法不作為」論はそもそも成り立ちません。
だいたい国民は憲法改正を求めてはいません。
この十数年間、改憲勢力は執拗(しつよう)に改憲の機運を盛り上げようとしてきましたが、国民はそれをきっぱりと拒否してきました。今日にいたるまで、改憲勢力が主眼とする9条改憲を求める声は、どの世論調査でも一貫して少数であり、多数になったことは一度もありません。
したがって改憲手続きを整備する必要は、まったくないのです。審査会規程が未整備であることを問題にするのなら、むしろ、改憲手続き法そのものを廃止すべきです。
しかも改憲手続き法の内容は、国民主権の原理に反し、どんなに投票率が低くても国民投票が成立し、有権者の2割台、1割台の賛成でも改憲案が通る仕組みとなっており、公務員や教育者の国民投票運動を不当に制限していることなど、きわめて不公正で反民主的なものです。
だから、民主党も手続き法に反対し、衆議院の審査会規程に反対したのではありませんか。
参議院では、手続き法の採決に際して、民主党が提案し、最低投票率の問題など手続き法の根幹にかかわる18項目の付帯決議を議決しています(2007年5月11日憲法特別委員会)。この付帯決議で指摘された問題は、今日までまったく議論されていません。
にもかかわらず、民主党は、衆議院で反対したものと同じ内容の規程案を自ら提案し、何らの議論もなく決定しようとしています。いったい国民にどう説明するのでしょうか。その姿勢がきびしく問われています。
いま、未曽有の大震災と原発事故のもとで、政治がやらなければならないことは、生存権を保障した憲法25条を生かし、憲法の立場に立って、何よりも人命と生活を最優先にして、被災者を救援し、原子力災害の危険を除去し、そして生活再建と復興にむけてあらゆる手をつくし、全力をあげることです。こうした重要課題が山積しているときに憲法審査会規程を制定することは、断じて認められません。
すべての人々が安心して平和に暮らす権利を定めた日本国憲法の精神と原理を全面的に生かしていくことが求められていることを強調し、私の反対討論を終わります。
憲法審査会規定、与党の本会議採決に抗議する - 保坂展人のどこどこ日記
こちらは2009年6月の衆議院での議決の時のものです。
保坂氏はこの記事を残されると思うので、そこで引用されている辻元清美氏の反対討論だけこちらにもとどめておきます。
保坂氏が
2年前の採決以上に、与党のなかから緊迫感が感じられない。この採決がどのような意味をもつのか、ピンときていない様子だった。自分が歴史のなかで果たす役割を自覚しない国会議員が多すぎる。私たちはいま時代の転換点にいることを、あらためてかみしめるべきだ。と述べたことは、私も同感です。
社民党の辻元清美です。私は、社会民主党・市民連合を代表して、衆議院憲法審査会規程の制定に反対の討論をいたします。
本日、この本会議で採決を強行することは(ヤジ:強行してねえだろ!)、立法府として、2年前と「同じ過ち」を繰り返すことであり、これは、前回以上に愚かな行為であると、まず、申し上げなければなりません。
みなさん、もうお忘れでしょうか。
2年前、国民投票法案の与党案が、この本会議場が騒然となる中で、強行採決されたときのことを、もう一度思い出していただきたいと思います。
当時、与党推薦の参考人で改憲推進の立場の方からも、「力任せに進めれば、この国が割れてしまう」と、非難の声が上がる中での採決でした。新聞でも「廃案にして出直せ」「時期も運びもむちゃくちゃだ」と批判されました。(ヤジ:朝日新聞だろ!)
当時の総理大臣は安倍晋三さんで、「私の内閣で憲法改正を成し遂げる」という発言を繰り返していました。それに対して、「憲法は国会案件であるのに、行政府の総理大臣が音頭を取るのは、三権分立の意味を理解しているのだろうか」という懸念の声が、与党側からも出る中での、強行採決ではなかったではないですか。
この経過は、賛成・反対の立場に関わりなく、憲政史上、「恥ずべき行為」であったということを、皆さんに、思い返していただきたい。
このような政府・与党の強引なやり方に対して、国民は参議院選挙で、ノーを突きつけたのではないですか。(ヤジ:年金だ!)
憲法という最高法規を論ずるにあたって、もっとも大切なことは、「主権者たる国民の民意」と「議会内のコンセンサス」です。これが、立憲主義の国の、国際的な常識です。
憲法は今の与党の「私物」ではありません。衆参両院での調整もなく、さらに、衆議院の任期が残り3ヶ月という時期に、憲法審査会規程の制定を強行する必要性は、どこにあるのでしょうか。
まさか、「政権交代の前に既成事実を作ってしまえ」という意図ではないと信じたいところですが。そのような「浅はかな行為」ととられても仕方がないと申し上げなければならないのは、情けない限りです。みなさんいかがでしょうか。
何をそんなに急いでいるのでしょうか?先ほど自民党の登壇者から、憲法を論ずるにあたって大切なのは、与党の度量と野党の良識だという発言が紹介されました。
本日、与党だけで採決する、それに突っ走ろうとすることが、与党の度量ですか。与党のあせりではないですか、みなさん。(ヤジ:野党の良識はどこいった!)
堂々とやりましょうよ。
最後に「立法府の良識をとりもどそう」と呼びかけて、私の反対討論を終わります。
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