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2014/01/08

自己強化する偏見というシステム

メディアに流れる北朝鮮情報の信頼性の程度が垣間見える報道 - 誰かの妄想・はてな版

世界の雑記帳:張成沢氏「犬に襲われ処刑」説、ミニブログの風刺投稿が発端か - 毎日新聞

2014年01月07日 15時58分
 中国のミニブログサイト「テンセント・ウェイボー(騰訊微博)」では昨年12月11日、張氏と側近5人が犬に襲われて処刑されたとの投稿が掲載された。その後、香港紙文匯報が犬による処刑の可能性を報じ、騰訊微博の投稿のスクリーンショットを掲載。シンガポール紙ストレーツ・タイムズや欧米の一部メディアでも報じられた。
毎日新聞ですが、ロイター配信記事です。

毎日新聞には何人か中韓、北朝鮮に反感を持っている人がいるようで、これらの国・国民が異常な人々であるかのような偏見を無意識に煽る記事がときどき見られます。
本件についてもこんなコラムが以前に見られました。

木語:本当に恐ろしい話=金子秀敏 - 毎日新聞(2013年12月19日)

 最近、香港の「文匯報(ぶんわいほう)」という新聞が「張成沢処刑は犬決だった」と報道した。「犬決」とはイヌに囚人をかみ殺させる残酷な刑。張氏と側近数人をおりに入れ、百数十匹の飢えた満州犬に襲わせた。それを正恩氏、李雪主(リソルジュ)夫人ら数百人の幹部が見たという。
 まさか、そんなことが。だが、「文匯報」は中国共産党の影響が非常に強い新聞なので、中国が裏をとっていると受け取られて反響を呼んだ。
木語:犬より怖い核兵器=金子秀敏 - 毎日新聞(2013年12月26日)
北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)第1書記が叔父の張成沢(チャンソンテク)氏を処刑した。その方法が犬に食わせる「犬決(けんけつ)」だという中国系香港紙の報道にいろいろ論評が出たが、どうやら中国人は半分疑い半分信じている。
 北朝鮮軍事法廷が張氏を「犬にも劣る人間のくず」と断罪した。人間の刑吏が処刑するに値しないなら、犬が登場しても不思議はない。
 韓国情報では機関銃で掃射したという説もある。機関銃弾を浴びると体は吹き飛び、遺体が残らない。
 儒教世界では遺体を傷つけず墓に埋葬するのが理想とされている。機関銃による処刑は、食われて遺体が残らない犬決と同じ、張氏に墓を作らせない刑罰だ。日本と墓の文化が異なる中国や朝鮮半島の人々は、文化的恐怖を感じるだろう。
これらのコラムでは、本文では「犬に襲わせた」という報道の真偽の判断を慎重に保留していますが、文面では金正恩政権の残忍性を強調する文脈でこのうわさ話程度の情報を使っています。
「真偽のほどはわからないが…」というほのめかしでその扇情的な情報を風説として流布すれば、噂が一人歩きするのは明らかなことです。「あの北朝鮮のことだから…」という人々の蔑視に良くマッチする異常性は、人々の「ほーら、北朝鮮って怖いねえ」という満足をもたらすと同時に、さらに差別意識を強化するでしょう。もちろん、こうした差別意識を…すなわち「自分たちは正常だ」という優越感を…くすぐる記事は、受けがいいわけです。

で、まとめとして、北朝鮮の危険性を煽ります。
一つ目のコラムではこんな感じ。

犬決の真偽はさておき、中国が金正恩政権の残虐さを強くアピールする真意はなにか。香港紙「信報」は、中国の軍部に、北朝鮮との過去の友好関係を清算して韓国を支援すべきだという意見があると指摘する。中国と韓国が盟友関係を結び、日米同盟と対峙(たいじ)する戦略だ。中国が北朝鮮との対決モードを強めると、北朝鮮が南進の賭けに出る可能性が強まる。これは本当に恐ろしい。
北朝鮮が韓国に侵攻するという「可能性」を「本当に恐ろしい」と、いかにも現実性があるシナリオのように書いていますが、その根拠が床屋政談レベル。直接関係ないけど、韓国が対米関係を捨てて中国側に付き、日米と仮想敵国関係になると本気で思っているのですかね…?

そして二つ目のコラムの方はこんな感じ。

権力の座についた党官僚の張氏は、資源密輸など軍人の利権を奪った。怒った軍部の突き上げを受けた正恩氏は、張氏の側近を呼び、軍に利権を返すよう命じた。
 側近は「張氏に相談する」と答えた。これが正恩氏の逆鱗(げきりん)に触れた。「おれの言うことが聞けないのか、死刑だ」。正恩氏は泥酔状態だったという。軍の突き上げが怖いが、後見人の叔父に面と向かってものが言えない。精神状態が不安定だったら、犬決だと叫んだかもしれない。若い正恩氏は、スターリンとは格が違う。
 古代中国に、夏(か)という王朝があった。桀王という王はトラを飼っていた。人々の集まるマーケットにトラを放って逃げまどう姿を眺めて楽しんだ。残虐な王が出現すると王朝は終わる、これが儒教世界の常識だ。桀王は殷の湯王に滅ぼされた。
 犬決が半ば信じられているもう一つの理由がここにある。金王朝の崩壊が近ければ残虐な王の出現は当然のことだからだ。
…中略…
 桀王の秘密兵器はトラだった。金王朝には核爆弾とミサイルがある。王朝崩壊の混乱でこれを使わないだろうか。正恩氏に感じる古代的残虐さの実体は実は核戦争の予感だろう。
こっちでは、正恩氏の矮小さをあざ笑いながら北朝鮮が核戦争を起こすかも…という不安感を煽ります。

繰り返して言いますが、この二つのコラムは「犬を使って処刑した」という真偽不明の報道をネタにしているわけです。つまり、うわさ話レベルのネタを大新聞の編集委員がホイホイ使ってコラムを2本書いてしまう。
「北朝鮮だったらやるかもしれない…」という予断が、こうした軽はずみな行為(と言っていいでしょう、大新聞なんだし)を許してしまうわけです。そして、この記事を皆が違和感なく受け止めてしまう。
こうして空気のように自然な形で、北朝鮮とその人々に対する差別意識や猜疑心が静かに深く降り積もっていくわけです。

*********************
余談ですが、中国での出来事というだけで、認知が大きく偏ってしまう例を一つ紹介します。

【中国】非常口から脱出したはずなのに、いつの間にか非常口から舞い戻っていた……

中国のずさんなビル設計を嘲笑するという趣旨のエントリですが、ここのコメント欄が面白いです。
最初のコメントで「実は日本よりもきちんとした設計だ」という解説が付いた後、コメント欄が混乱しています。なんとか中国を蔑視したい、中国を日本と対等あるいは優越した存在と認めたくない、という感情が先走って、変なことになっているコメントが並んでいます。

人は、自分の感情的な枠組みの中で処理できない事実を突きつけられると、その事実を受け入れること自体を拒否しようとするということがよくわかります。

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