南西諸島の防衛と離島経済の狭間
南西防衛:15年度本格化 4000人増強や戦闘機倍増も - 毎日新聞2015年01月04日 08時00分(最終更新 01月04日 08時43分)
馬毛島もちょっと出てきますが…。
政府が中国の軍備増強などをにらんで計画している南西地域の防衛力強化(南西シフト)が2015年度から本格化する。島しょ防衛のため陸上自衛隊に新設される水陸機動団の核となる水陸両用車両部隊を長崎県佐世保市に配備する方向で調整。航空自衛隊那覇基地(那覇市)は戦闘機倍増などで最大450人増えることが見込まれる。南西シフトに伴う自衛官の増員は少なくとも4000人規模となり、九州・沖縄が国土防衛の最前線となる。米軍も岩国基地(山口県岩国市)の機能が極東最大級となる見通しで、九州・沖縄・山口は日米の最重要防衛拠点と位置づけられる。中国の反発が予想される他、基地負担増や危険性の増加に対する地域住民の懸念も高まる可能性がある。
南西シフトは政府の中期防衛力整備計画(2014年度から5年間)に位置付けられている。目玉の一つ、18年度までに新設する水陸機動団は米海兵隊がモデルとされ、敵国に占拠された離島を奪還するのが主任務となる。陸自相浦(あいのうら)駐屯地(佐世保市)の西部方面普通科連隊(700人)を母体に3000人規模を想定する。
このうち、移動手段となる水陸両用車両部隊は佐世保市・崎辺(さきべ)地区に配備する方向で調整している。機動団司令部の設置も同市が有力候補地となっている。佐賀空港(佐賀市)への配備を計画している飛行部隊(700〜800人)の新型輸送機オスプレイ(17機)と一体運用する狙い。
南西諸島も強化される。中国軍機への緊急発進(スクランブル)などに対応している空自那覇基地は15年度中、F15戦闘機の飛行隊が1個から2個に増強され、機数も倍の約40機になる。14年春には早期警戒機「E2C」数機による新部隊も発足しており、併せて隊員は250〜450人程度の増となりそうだ。
沖縄本島以外の「防衛の空白」とされるエリアは、4離島に陸自部隊を新設する。うち与那国島(沖縄県)は150人規模の沿岸監視部隊を15年度に配備することで手続きが進む。同県の宮古島、石垣島、鹿児島・奄美大島には各350人規模の警備部隊を設ける計画だ。
一方、在日米軍は、岩国基地が米軍厚木基地(神奈川県)の空母艦載機部隊の移転先となっている。17年度までに実施予定で、岩国の所属機数は約120機となり、米軍嘉手納基地(沖縄県)を超え極東最大規模になる。日米両政府は空母艦載機部隊の陸上離着陸訓練(FCLP)を鹿児島・馬毛(まげ)島で実施することも模索している。【井本義親、梅田啓祐】
◇軍事評論家の神浦元彰氏の話
南西シフトは、外洋進出を強める中国海軍を東シナ海に閉じ込め、太平洋に出さないのが目的だ。中国が反発し、緊張が高まるかもしれないが、現時点の総合的な兵力は日米が勝っており、中国が日米の防衛ラインを突破するのは難しい。ただ、偶発的な軍事衝突が起こる可能性があり、危機回避のホットライン整備が重要だ。
政府が計画する南西シフトなどの概要 米軍岩国基地 空母艦載機部隊 佐賀空港 オスプレイ部隊 佐世保市 水陸両用車両部隊 馬毛島 米空母艦載機の訓練 奄美大島 警備部隊 空自那覇基地 ・F15が40機へ・早期警戒機 宮古島 警備部隊 石垣島 警備部隊 与那国島 沿岸監視部隊
南西防衛:基地の経済波及効果か戦争の影か…割れる意見 - 毎日新聞2015年01月04日 08時30分(最終更新 01月04日 12時16分)
奄美に出張したときには、あちこちで自衛隊の駐留=国のお金による経済活性化に期待する声を聞きました。そういうところでは、「中国の脅威」とか「反日感情」とか「無法、無遠慮な中国漁船」とかの排外主義的な感覚、あるいは「愛国」とか「日本人」とかの国家主義的な感覚が入りやすいみたいで、そうした膨張主義的な中国に対抗して日本を守るために最前線にある我々が防衛強化の先鋒を担わなければならないというトーンで、軍を誘致しようという話になるのでした。しかし良く聞いてみると、それは実は建前に近く、若干の使命感と「日本人の誇り」的な愛国思想も見えるのですが、本当のところは、軍が来ることになればたくさんの仕事とカネが降ってくるという期待の方が大きいと言うこともまた見えてくるのでした。
奄美ではそうした話をたくさん聞いていたので、軍に反対する声もまた決して小さくはなく、与那国島ではむしろ反対する声が政治を半ばするほど強いということを知ったことは、しっかり覚えておくべきことだと思いました。
政府が計画する南西地域の防衛力強化(南西シフト)に伴い、九州・沖縄は自衛隊の部隊が次々と新設・拡充されていく。対象となる地域は地理的に不便な離島が多く、経済の衰退に悩まされ、基地誘致をきっかけとした活性化に期待を寄せる。半面、中国などとの緊張の高まりを招くことへの不安もあり、「国防の最前線」に置かれる住民の思いは揺れている。沖縄本島の南西約500キロに浮かぶ与那国島(沖縄県与那国町)。政府は2015年度に陸上自衛隊の沿岸監視部隊を新設する計画だ。しかし、反対派住民でつくる「イソバの会」の共同代表、山口京子さん(57)は「軍事施設があれば中国などを刺激し、攻撃目標にされかねない。観光にも影響が出る」と語る。島は日本最西端にあり、中国に最も近く、日中が対立する尖閣諸島も約150キロしか離れていない。
部隊配備を巡り、島民は揺れ続けてきた。糸数健一・町議会議長は「安全保障の観点から基地は必要。中国の脅威が増す中、日本全体のために与那国に部隊は置くべきだ」と主張する。だが、島の基幹産業である農漁業は衰退の一途をたどり、1940年代に1万2000人だったとされる人口は約1500人まで減り、流出に歯止めがかからない。部隊誘致派には、配備に伴う町税増収、消費拡大、インフラ整備などの経済効果への期待が強い。
町長選もこれまで誘致派と反対派が激しく激突してきた。2013年、誘致派の町長が3選を果たすと「過疎化に歯止めをかける」と語り、これを受けて政府は計画を進める。だが、反対派は14年11月の町議会で配備の是非を問う住民投票条例を可決させるなど、島は今も真っ二つだ。
一方、350人規模の陸自警備部隊を置くことが計画されている鹿児島・奄美大島。14年5月には、陸自の新たな先鋭部隊となる水陸機動団の母体「西部方面普通科連隊」(長崎県佐世保市)などによる離島奪還訓練も実施された。
「自民党は憲法改正で『国防軍』の創設を目指している。将来的に自衛隊でなく、他国並みの軍が置かれることにつながりかねない」。奄美市の市民団体「戦争のための自衛隊誘致に反対する奄美郡民会議」の高(たか)幸広代表は憂う。戦禍を被った歴史があり、島民に陸自配備への反対は根強い。
だが、人口減少や産業低迷への効果的な打開策は見いだせないのは他の自治体と同様だ。14年6月、「地域経済の活性化を考えると誘致に動くのは当然」などとして、奄美市議有志が自衛隊誘致の会を発足。8月、朝山毅(つよし)市長が部隊受け入れを表明し、かじを切った。
一方、水陸機動団の水陸両用車両部隊が配備される計画の長崎県佐世保市、米軍岩国基地に空母艦載機部隊が移転予定の山口県岩国市といった、地域経済を既に基地に依存させている自治体では、一定の理解を示す声が少なくない。竹本慶三・佐世保市商店街連合会会長は「定住人口が増えて地域活性化につながる。佐世保は自衛隊や米軍の基地と長年共存し、悪印象を持っている市民は少ない」と語る。
しかし、一度基地に経済を依存すれば、そこから抜け出すのは難しく、岩国基地近くの「瀬戸内海の静かな環境を守る住民ネットワーク」共同代表の桑原清さん(75)は警鐘を鳴らす。「住民に実態が知らされないまま基地機能が増強されていく。そして騒音増加など負担を一方的に押し付けてくる」【福永方人、大山典男、井本義親】
日本の実力:自衛隊の戦力は適正か 軍事費は高額だが、有事の際の戦闘能力は未知数 - 毎日新聞毎日新聞×日本の論点(2014年03月31日)
自衛隊は高コストだから縮小すべきと言っているのか、もっとカネを掛けろと言っているのか、効率化すべきと言っているのか。また、中国の軍事力が怖いと言っているのか、それほどでもないと言っているのか。よく分からない解説。
◇自衛隊は、じつは高コストの集団スウェーデンのシンクタンク、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が2013年4月に公表した12年の世界の軍事費ランキングによると、日本は600億ドル(5.9兆円=13年4月現在のレート)で第5位、4位の英国とほぼ同額だった。1位はもちろん米国で、6820億ドル(約67兆円)と世界全体の軍事費の4割を占める。2位は25年にわたり2ケタの伸び率で軍事費を増大させている中国の1660億ドル(約16兆円)、3位はロシアで907億ドル(約8.9兆円)である。
日米離島訓練の一環として米西部カリフォルニア州沖のサンクレメンテ島で行われた実動射撃訓練。手前は数キロ離れた小高い山の観測所で、着弾地点などを確認する自衛隊員ら=2013年6月20日、西田進一郎撮影 (毎日新聞社)
日米離島訓練の一環として米西部カリフォルニア州沖のサンクレメンテ島で行われた実動射撃訓練。手前は数キロ離れた小高い山の観測所で、着弾地点などを確認する自衛隊員ら=2013年6月20日、西田進一郎撮影 (毎日新聞社)
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軍事費の総額だけ見れば、日本はたしかに軍事大国だが、対GDP比で見ると、米国の4.4%、中国の2.0%、ロシアの4.4%に対して日本は1.0%と、ランキングに掲載された15カ国中、最下位である。さらにその内実といえば、軍事費のうち人件費・糧食費が42%を占めるうえ、装備も高額なものばかり。ほぼすべてが国産で、武器輸出三原則があるために輸出によって単価を下げることができないからである。また、米軍に準じた高価な装備を揃えたがる傾向があるのも否めない。13年12月に閣議決定された「中期防衛力整備計画」(中期防)では、14年度から5年間の防衛費を総額約24兆7000億円とすることを決めた。前回、民主党政権下で10年に策定された中期防の総額23兆5000億円からすると1兆円以上の大幅増となるが、前述のような事情を考えると、それがただちに戦力の向上につながるかについては疑問符がつく。しかも同時に策定された「防衛計画の大綱」(新防衛大綱)では、陸上自衛隊の定員を今後5000人増やすことになっている。英国軍がこの3年間で2万1000人(12%)もの定員を削減し、人件費の浮いた分を兵器の研究開発に回しているのとは好対照である。
水陸機動団で尖閣は守れるか
新防衛大綱は、中国の軍事的台頭と海洋進出に「強い懸念」を表明し、中期防も尖閣諸島を含む南西諸島防衛の強化を鮮明に打ち出した。
警戒監視能力を強化するため、新型の早期警戒機に加え、無人偵察機グローバルホークを導入。さらに空自那覇基地に配備するF-15戦闘機部隊を倍増させ、次期戦闘機F-35と新空中給油・輸送機も導入する。また、ヘリに比べて速度・航続距離の面で優れ、離島防衛に活用できる新型輸送機オスプレイの導入も決まった。
特筆すべきは、陸自に「島嶼(とうしょ)へ侵攻があった場合、速やかに上陸・奪回・確保するための本格的な水陸両用作戦能力」をもつ、「水陸機動団」の新設である。そのための装備として、米海兵隊と同じ水陸両用車を導入、さらに空輸性・路上での機動性に優れ、戦闘地域への迅速な展開が可能な機動戦闘車を99両調達し、代わりに従来の戦車は削減する。
だが、陸自がこうした“海兵隊”を持ったとしても、制空権を確保できなければ、離島の防衛も奪還も不可能なのは、太平洋戦争下のガダルカナル島攻防戦を例に出すまでもなく明らかだ。2013年、中国が東シナ海に防空識別圏を設定したのも、有事における制空権確保に備え、日頃からこの空域での航空優勢を維持しようとする意図の現れといってよい。中国空軍が保有する戦闘機の数は、空自をはるかに上回るうえ、近年では旧型機を退役させ、性能面でF-15を凌駕するともいわれるSu-30をロシアから購入、ライセンス生産も始めた。空自の次期戦闘機F-35は、17年以降に配備が始まる予定で、開発が遅れ気味なのが気になるところだ。
水陸機動団の新設は、冷戦時代にソ連の着上陸侵攻に備えて北海道に戦車を集中配備してきた陸自が、南西諸島防衛で「海空重視」の傾向が強まったために、自らのあらたな存在意義を離島防衛・奪還作戦に見出したともいえる。だがそれとて、輸送や艦砲射撃、射爆撃といった海自・空自の支援なくしては不可能だ。新防衛大綱・中期防とともに策定された「国家安全保障戦略」(NSS)に明記されている「統合運用を基本とする柔軟かつ即応性の高い運用」をどう実現するかが、自衛隊の実力をはかるうえでの試金石となろう。
◇ミサイル戦にどこまで対応できるのか
中国の海洋進出ともうひとつ、新防衛大綱が「我が国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威」と規定したのが、北朝鮮の核・弾道ミサイル開発だ。これに対応するため、中期防では、SM-3ミサイルを搭載し弾道ミサイルの迎撃能力をもつイージス艦を、現状の6隻から8隻に増強することにした。
しかし、SM-3が弾道ミサイルを迎撃できるのは、弾道ミサイルがエンジンで加速・上昇する「ブースト段階」、大気圏外で慣性飛行する「ミッドコース段階」、切り離された弾頭が落下する「ターミナル段階」のうちの、ミッドコース段階である。米国本土へ向かうテポドン2(およびその派生型)のような大陸間弾道ミサイル(ICBM)であれば、ミッドコース段階も6000km以上になるので、時間的にも正確な弾道計算が可能となるが、日本のほぼ全域を射程に収める準中距離弾道ミサイル(MRBM)・ノドンは10分程度で着弾するため、確実に破壊できるとは限らない。
テポドン2はまだ実験段階だが、ノドンはすでに300発程度を保有しているとされる。ターミナル段階での迎撃を担うPAC-3ミサイルは射程が20kmと短く、日本全土をカバーするには相当な数が必要になるが、新防衛大綱・中期防では増強の予定がない。
一方、核弾頭保有数の多さや技術力・生産力などの面から見て、潜在的には北朝鮮以上に脅威なのが、中国の弾道ミサイルである。北朝鮮の核兵器は、まだ「小型化・弾頭化の実現に至っている可能性も排除できず」(防衛白書)という、はっきりしない段階だが、中国はすでに約240発の核弾頭を保有し、うち約180発が配備中だ。また米ロが持たない中距離弾道ミサイル(IRBM)や準中距離弾道ミサイル(MRBM)を多数配備しているのも特徴で、米海兵隊が沖縄からグアムに移転する理由の一つは、沖縄が中国のIRBMの射程内にあるからだという専門家もいる。
現在、米ロにとって、敵の核攻撃をまぬがれる確率の高い核戦力の主力、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)についても、中国は最近「初期的な運用能力」を持つに至ったと、米議会の諮問機関が発表した。ただ中期防では哨戒機P-3Cの後継機で、速度・航続距離ともに優れたジェット哨戒機P-1の調達も本格的に始まる。対潜哨戒・戦闘能力が世界最高レベルにある海自は、静音性に優れた攻撃型潜水艦も保有しており、当面、日中間で衝突が起きたとしても、中国海軍のミサイル潜水艦を追い詰めることは難しくないといわれる。
◇敵基地攻撃能力の保有
中国のミサイル戦力に関して、日米にとり将来の不安材料といえるのは、14年1月に実験をおこなったと伝えられる「超音速飛翔体」である。このミサイルは、ICBMに搭載されて打ち上げられ、大気圏内をマッハ5以上の超音速で滑空できるため、放物線を描く通常の弾頭とは異なり、着弾地点の予想が非常に困難となる。もし実戦配備されれば、自衛隊が運用するMDシステムのうち、少なくともPAC-3は無効化されてしまう。
そこで14年夏には、空自に「航空戦術教導団」(仮称)を新たに編成、総隊司令部飛行隊に属している電子戦支援隊を教導団の下に移して「電子作戦群」とし、敵のレーダーや地対空ミサイルを無力化する電子戦の技術向上をはかるという。さらに第3航空団に属する航空支援隊も戦術教導団に移し、敵地に潜入して戦闘機の侵入ルートや爆弾投下のタイミングを指示する「爆撃誘導員」の養成もおこなうとみられる。
安全保障環境が激変するなか、日本が、世界の軍事費の4割を占める米国との同盟を強化するのは、合理的な選択であるとはいえ、結局のところ、専守防衛という国是に則った防衛力整備を続けている以上、どれほど最新鋭の装備を揃えようと、北朝鮮や中国のミサイル攻撃を完全に防ぐこと、また米軍の支援なしに尖閣を防衛することは不可能なのである。政府もそれを意識してか、中期防では「弾道ミサイル発射手段への対応能力のあり方を検討し、必要な措置を講じる」と、間接的な表現ながら敵基地攻撃能力の保有を検討すると明記した。(日本の論点編集部)
世界の軍事費ランキング 順位 国名 軍事費(億ドル) GDP比 世界シェア(%) 1 アメリカ 6820 4.4 39.0 2 中国 1660 2.0 9.5 3 ロシア 907 4.4 5.2 4 イギリス 608 2.5 3.5 5 日本 593 1.0 3.4 6 フランス 589 2.3 3.4 7 サウジアラビア 567 8.9 3.2 8 インド 461 2.5 2.6 9 ドイツ 458 1.4 2.6 10 イタリア 340 1.7 1.9 11 ブラジル 331 1.5 1.9 12 韓国 317 2.7 1.8 13 オーストラリア 262 1.7 1.5 14 カナダ 225 1.3 1.3 15 トルコ 182 2.3 1.0
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