省として問題ないと思っているが自民党から苦情が出たから削除するよ、という防衛省
防衛省の記者会見の一問一答を見ると、記者さんがだいぶん頑張って聞いてくれている。
そのおかげで本件対応のあらすじが分かった。
日本政府(というか安倍内閣)はクマラスワミ氏個人へ、「報告書」における吉田証言部分を修正するように要求し、氏はそれを断っている。
で、その氏との面会を「光栄だ」という表現をしたのが「政府がクマラスワミ氏の拒否を受け入れた」と誤解される恐れがあるということで、削除した。
感想
その1
中谷大臣は「会食自体は問題ない」と言っているが、それも所詮は自民党からの文句の出方次第なのだろう。今回たまたま「光栄だ」という表現がやり玉に挙がっただけで。
その2
クマラスワミ氏と会えて光栄だという表現が「日本政府が氏の言い分を認めた」と見られるというのは過剰反応だ。こんな下っ端自衛官の外交辞令がそれほど重大な意味を持つのであれば、大使や政府高官はおろか、首相は中国や韓国の首脳と会談するときに「お会いできて光栄だ」とか「会えてうれしい」などと断じて言ってはいけないことになる。それに類する表現を行った瞬間、領土問題も歴史問題も全て相手国の認識を是としたということになってしまうからだ。
その3
今回の反応はいかにもせこい。本音ではクマラスワミ氏の報告書や彼女の修正要求拒否について全面的に否定したいのだが、それができないことが分かっているのでチマチマと細かい愚痴や嫌がらせを繰り返しているという感じだ。
もともと、クマラスワミ報告書には日本政府も賛成している。2014年に氏に修正要求をしたときも、報告書そのものへの賛意を取り消してはいない。というか、国際世論と理非曲直を考慮すればそんなことができるわけがないのである。そして吉田証言部分は同報告書においてほとんど意味を持たない些末な要素に過ぎない。その些末な部分にこだわって嫌がらせを続けるしかできないわけである。(というか、自民党の諸君はそこが慰安婦問題の核心だと本気で信じているらしいのだが、同報告書を読んでもそう信じているなら相当に認知のゆがみがひどくなっている。……たぶんほとんど誰も読んだことがないのだろうけれども。)
次に、国連人権委員会が採択した報告書について、クマラスワミ氏個人に修正を要求するという方法が姑息である。氏は同委員会の依頼を受けて特別報告者として報告書をとりまとめた人であり、この報告書の出発点はあくまで国連人権委員会である。そしてこのクマラスワミ氏へ特別報告を依頼したメンバーには日本政府も含まれている。この報告書は全会一致で採択されており、日本政府ももちろん賛成して、同委員会の公文書となっている。氏の私文書ではないにも関わらず氏個人に面談して修正を要求するという方法を取っているのは、もちろん人権委員会に提起すれば一笑に付されて馬鹿にされることが分かっているからだろう。
経緯
・1996年、国連人権委員会がクマラスワミ報告書を日本政府も含めて全会一致で採択。
参考:4-1 国連クマラスワミ報告 | Fight for Justice 日本軍「慰安婦」―忘却への抵抗・未来の責任
・2014年10月16日、安倍政権がクマラスワミ氏個人へ同報告の「修正」を要請。
外務省の説明では、修正要求は吉田清治氏の著作の引用部分。
外務省の人権人道担当大使がクマラスワミ氏に面会して要求。
典拠:慰安婦巡るクマラスワミ報告、政府が一部修正を要請:朝日新聞デジタル(2014年10月16日13時54分)慰安婦巡るクマラスワミ報告、政府が一部修正を要請:朝日新聞デジタル(2014年10月16日13時54分)
旧日本軍の慰安婦問題に関し、国連人権委員会(現・理事会)の特別報告官が1996年にまとめた「クマラスワミ報告」について、菅義偉官房長官は16日午前の記者会見で、日本政府がこの報告を作成したスリランカの法律家ラディカ・クマラスワミ氏に対し、「見解を修正するよう求めた」と述べ、一部修正を要請したことを明らかにした。外務省によると、修正を申し入れたのは、報告のうち、慰安婦を強制連行したとする吉田清治氏(故人)の著作を引用した部分。外務省の佐藤地(くに)・人権人道担当大使が14日、ニューヨークでクマラスワミ氏と面会し、修正を求めたという。菅氏や同省によると、クマラスワミ氏は「証拠の一つに過ぎない」として、修正を拒んだという。菅氏は「国連をはじめ国際社会に粘り強く説明し、理解を求めたい」と述べた。
朝日新聞は8月5、6日の朝刊に掲載した慰安婦の特集記事で吉田氏の証言を虚偽と判断し、証言を報じた過去の記事を取り消した。菅氏は会見で、修正を求めた理由として、朝日新聞が記事を取り消したことを挙げた。報告は、吉田氏の証言を含めて、朝日新聞の報道を引用していない。
報告のうち、吉田氏に関する記述は英文字で約300字。同氏の著書からの引用だと明記したうえで「国家総動員法の一部として労務報国会のもとで自ら奴隷狩りに加わり、その他の朝鮮人とともに千人もの女性たちを『慰安婦』任務のために獲得したと告白している」と記述。現代史家・秦郁彦氏が吉田氏の著作に異議を唱えたこともあわせて掲載している。
◇
〈クマラスワミ報告〉 国連人権委員会の「女性に対する暴力」の特別報告官だったスリランカの法律家、ラディカ・クマラスワミ氏が1996年に戦時中の旧日本軍の慰安婦問題についてまとめた報告。慰安婦を「軍事的性奴隷」と位置づけ、日本政府に法的責任を認めることや、被害者への補償など6項目を勧告した。報告作成にあたって日本や韓国を訪問し、元慰安婦や研究者らに聞き取りをした。
慰安婦問題巡る女性自衛官の記述を削除 NHKニュース(7月17日 13時15分)
中谷防衛大臣は閣議のあとの記者会見で、女性自衛官がいわゆる従軍慰安婦の問題を巡り、日本に賠償などを勧告した国連の報告書をまとめた人物と面会し、「光栄だ」などとホームページ上に掲載したのは誤解を招くおそれがあるとして、記述を削除したことを明らかにしました。
いわゆる従軍慰安婦の問題を巡り、1996年に日本に謝罪や賠償を勧告した国連の「クマラスワミ報告」がまとめられ、政府は「受け入れられない」として反論文書を国連に提出しています。
これに関連して、先に開かれた自民党の国防部会で「女性自衛官がベルギーの日本大使館のホームページに、報告書をまとめたクマラスワミ氏と面会した際のことを『お目にかかれたことは光栄である』と掲載しているが、問題ではないか」などといった指摘が出ていました。
これについて、中谷防衛大臣は閣議のあとの記者会見で、「執筆した女性自衛官はクマラスワミ氏に会ったことしか記述していない」としながらも、「自民党側の指摘を受けて検討した結果、日本政府の立場との関係で誤解を招くおそれがあることから掲載を中止した」と述べ、記述を削除したことを明らかにしました。
防衛省・自衛隊:防衛大臣記者会見概要 平成27年7月17日(10時13分~10時31分)
Q:昨日の、自民党国防部会で、現在NATOに派遣されている女性自衛官について、従軍慰安婦問題などに関する報告書を国連人権委員会に提出したクマラスワミさんと面会したときのブログの内容に関して、誤解を招く表現が数箇所あるとして、削除するとの報告が防衛省側からあったと。そうした対応を今回行う経緯や、理由について説明をお願いします。
A:経緯についてご説明を致します。NATO本部に栗田2佐が派遣をされておりまして、自らの勤務風景等を紹介するコラムを在ベルギー日本大使館のホームページに掲載をしております。これは、NATOという重要な国際機関を国民に身近に感じてもらい、NATOと日本との協力の関係を、一層推進したいということでございます。本年の3月12日に、このコラムにおきまして、クマラスワミ氏のNATO本部への訪問がございまして、これに関する記述がありましたが、この記述について、いわゆる「クマラスワミ報告書」に関する日本政府の立場との関係で問題ではないかなど、様々な指摘を受けたところでございます。こうした様々な指摘を受けまして、当該コラムの執筆者である栗田2佐の意見も踏まえながら、政府として再度検討をした結果、いわゆる「クマラスワミ報告書」に関するわが国政府の立場との関係で誤解を招くおそれがあることから、当該コラムの掲載を中止をしたということでございます。栗田2佐は、「女性・平和・安全保障分野のNATO事務総長特別代表」のアドバイザーとして勤務をしておりまして、政府として、その活動を高く評価をしているところであります。今回の事案を踏まえまして、栗田2佐に対して、同2佐のNATOにおける活動内容については、国内外から高い関心を集めているところから、引き続き適切に対応するように伝達をしたところでございますが、もとより、政府として、当人の活動に何ら制約をかける考えもなく、今後の活動に支障があるとは考えておりません。また、栗田2佐のコラムにつきましても、在ベルギー日本大使館ホームページにおいて、今後も継続をして掲載していくという予定でございます。
Q:栗田2佐のブログを見ると、クマラスワミさんとの面会について、「光栄だ」と言うような記述があるのですが、内容としては、報告書の中身に深く触れているわけでもなく、少し過剰な対応ではないかなと思ったのですけれども、その程度の意見でも、ダメと言った部分というのがちょっと理解できないのですけれども。
A:私もコラムを読みまして、「NATO本部でお目にかかれたことは、光栄である」というような内容でございました。しかし、これに対して、防衛白書で紹介をしたところ、このホームページの件について、様々なご指摘を受けまして、先程お話しを致しましたとおり、指摘を受けたということで、執筆者のご意見も踏まえながら、政府として再検討をした結果、当該の記述はいわゆる「クマラスワミ報告書」に関する日本の立場との関係で、誤解を招くおそれがあるというようなことで、在ベルギー日本大使館のホームページのこの部分の掲載というのを中止したということでございます。
Q:確認ですが、本人も納得されているということで。
A:ご本人の同意も得ているということでございます。
Q:これは「光栄」という表現が誤解を招くということですか。それとも、お目に掛かった「会った」ということ自体も問題視している、そういうことでしょうか。
A:いろいろな世界的に活躍をされている方々の訪問がありますので、彼女自身は、その方にお会いをしたということは非常に光栄であるという認識で書かれたということです。
Q:誤解を招きかねないので削除したということですけれども、「お目に掛かって光栄だ」という表現が誤解を招くということなのか、それとも、面会したことそのものも誤解を招くのか。どの辺りなのでしょうか。
A:これまでの経緯と致しまして、この報告書に対して政府としては、この記述の仕方において削除を求めているわけでございますが、彼女のホームページにつきましては、「NATOの特別代表とともにクマラスワミ氏と昼食に同席をする機会を頂きました」ということでございますので、このことの行為については、私は、問題はないというふうに思っています。
Q:とすると、「光栄である」という表現が誤解を招くと、そういう見解でよろしいでしょうか。
A:これは、部会でご指摘がありまして、私はそう思ってませんけれども、これを読まれた方が、そういう誤解をされる、そういうこともあるということでご指摘を受けましたので、その点について、全体として誤解をされる部分があるということで、今回、対応をお願いしたということでございます。
Q:誤解というのは、どういうことを言うのでしょうか。
A:いわゆる「クマラスワミ報告書」に関する日本政府の立場で問題ではないかということで、現実にご指摘がございましたので、そういう点で誤解を受けることがないようにということでございます。
Q:報告書の内容を、政府として認めたことになるのではないかという誤解ですか。どういう誤解ですか。
A:事実、「クマラスワミ報告書」の従軍慰安婦の部分でございますが、政府としては、事実でないという部分を削除してもらいたいという要請をしておりまして、こういう事実があるということについて、彼女は純粋にお会いしたことについての記述しかしておりませんが、そういう件にとって、全体として誤解を受けるおそれがあるということで、この部分を削除されるということでございます。
Q:先程、「部会での指摘について、私はそうは思っていない」というご発言でしたけれども、そういう意味で党の指摘というのは過剰ではないかという、行き過ぎじゃないかというような受け止めでしょうか。
A:現実にそのようなご指摘があったわけでございますので、そういった誤解が持たれないという意味でお願いしたわけでございます。
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