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2015/07/07

ぬるく本質から目をそらす朝日新聞の報道

件の産業遺産の件。
世界遺産認定に過度の政治介入が目立つという論調で、「世界は教訓にするべきだろう」とのこと。
中村俊介編集委員の文章らしいが、本質から目を背けた話。

本記事で紹介されている経緯からすれば、日本政府(というか官邸、安部政権)のごり押しが生んだ摩擦と解するのが妥当。
日韓協定と切り分けるという確認さえ取れればよかったのに、「強制労働」という語句に過剰に反応して話をこじらせたというべき。
それを「日韓の歴史認識の対立」と称して、あたかも日本政府にも理があるかのように描くのは、「日本側の歴史認識」の問題や陥穽から目をそらして、自民党など「保守」や「右派」におもねるものに他ならない。

「華やかな世界遺産で「影」の歴史的な事実を強調するのは難しい。今回のPR活動でも触れられることは少なかった。」
とか
「構成資産を戦前の1910年までとした理由も十分に周知されていたとは言い難い。」
などと書くのも、歴史遺産への認識の甘さを露呈している。
「遺産」は後世の多面的・多角的な調査研究に資するための資源である以上、「影」をこそしっかりと保存・保護すべきであるのだし、今を生きる我々にまで連綿と深くつながっているからこそ、「遺産」の現代までのつながり方を含めるべきなのに、そのことを理解していない。
また、「遺産」の構成要素としてどの年代までで区切るかという問題と、採用した構成要素の通時的な展開過程を包括評価すべきかという問題とを混同している。

そもそも世界遺産の認定が政治経済上の思惑がらみになるのは当然であり、それを高踏的に「文化的側面に限定すべき」という主張自体が視野狭窄的なお子様の論理に過ぎない。とりわけ歴史的価値を見るという場合にはそれが政治問題化するのは避けようがない。歴史は正統性の根拠でもあるのだから。つまりこの編集委員の視点に合わせて言うならば、このような政治化は世界遺産の認定というシステムが不可避的に持つ性格に過ぎない。
したがって、この編集委員氏は、むしろ今回のような騒動が浮き彫りにした「対立」の根源が何だったのかに突っ込むとか、世界遺産制度が持つ政治性とか弊害とかに切り込むほうがまだよかったのではないか。祝賀ムードを演出しようとする政府や関係者に乗って、奉祝記事を連発するよりもよほど「ジャーナリズム」の精神にそぐうように思う。

日韓、「その意思に反して」で折り合い 産業遺産の登録:朝日新聞デジタル(2015年7月6日05時08分)

 ドイツ・ボンで開催中のユネスコ世界遺産委員会で、「明治日本の産業革命遺産」の世界文化遺産への登録が決まった。日韓両国はボンと東京、ソウルを結んで審議の直前まで調整を重ねた結果、審議の来年以降への延期や投票による採決といった大きな禍根を残す事態は回避した。

明治の産業遺産の登録決定 「徴用工」表現、日韓が合意
■「強制労働」文言使われず

 日韓の協議が難航したため1日先送りになった審議は、5日午後3時(日本時間同10時)から始まった。

 世界遺産委員会のマリア・べーマー議長が全会一致の意向を確認し、登録決定を意味する木づちをたたいた時、日本政府団に笑顔はなく、拍手もしなかった。審議では、日韓の合意の上で議長国ドイツの提案として、決議文に「世界遺産委員会は各資産で包括的な歴史が理解されるための措置について日本の発言に注目する」との補足事項を追加した。

 日本の発言に続き、韓国代表団トップの趙兌烈(チョテヨル)・第2外務次官が発言。「委員会が、日本政府の措置と助言の2018年までの完全履行を継続的に追跡調査すると信じる」などと述べた上で、「今日の決断は、犠牲者の過去の痛みと苦しみを記憶し、不幸な過去の歴史的真実を確認する重要な一歩でもある」と発言すると、大きな拍手が沸いた。当初検討していたとされる「強制労働(forced labour)」の文言は使われなかった。

 登録が決まり、日本、韓国両国の発言が終わると、次の議題に移る前にベーマー議長が改めて日韓に「謝意を表したい」と発言。「今日、そしてここ数日、我々は信頼がいかに大切かを目の当たりにした。信頼とは最も重要な『通貨』だ」と合意に至った経緯に賛辞を送った。

 審議が終わると、日韓の代表団にそれぞれ握手を求める他国の代表団の姿があった。日韓の代表団同士は握手をしなかった。

 趙次官は審議終了後、日本側に祝意を示す一方で、日本との協議について「(韓国人らが)とても過酷な環境の下で働いたという強制性について韓国と日本が少し見解を異にした部分があり、最後まで厳しい交渉をした」と振り返った。(ボン=渡辺志帆、東岡徹)

■徴用工めぐる英語表現「折り合える唯一の方法」

 日韓が最後までもめたのは、世界遺産登録の審議での発言だ。戦時中、朝鮮半島出身者が資産で働いた「徴用工」の歴史をお互いどう表現するかだった。

 日本が5日の審議で、英語で行った発言では、徴用工について、多くの朝鮮半島出身者らが「brought against their will and forced to work」と表現した。外務省は審議の直後、「その意思に反して連れて来られ、働かされた」とする日本語訳を発表した。岸田文雄外相は5日夜、記者団に「強制労働を意味するものではない」と説明した。

 韓国は審議の説明では徴用工について、日本の英語表現を引用。一方、尹炳世(ユンビョンセ)外相は審議後「自分の意思に反して動員され、強制労役をした事実があったと(日本が)発表した」と韓国語で説明した。

 6月21日の日韓外相会談では、日韓が登録に向けて協力することで一致した。日本が審議で徴用工の歴史に触れることも約束した。

 ただ、日本の求めで6月下旬、韓国が審議での発言概要を示すと、日本政府は態度を硬化させた。資産で働いた徴用工の実態を「強制労働(forced labour)」と表現していたからだ。これには安倍首相周辺も「誤算だ。まさに首相が、ここは大丈夫なのか、と懸念していた点だ。外相会談で合意までしたのは何だったのかと首相も思っている」と怒りをあらわにした。

 日本は徴用工の未払い賃金などは1965年の国交正常化の際に結んだ請求権協定で「完全かつ最終的に解決済み」という立場だ。しかし、「強制労働」という言葉の使用を日本が認めれば、韓国が将来新たな要求をする可能性があると懸念した。首相周辺には「強制労働という言葉を使うと、ナチスドイツの強制労働と同一視される」という声もあった。

 日本政府は「強制労働」という表現の削除を要求。応じなければ、日本も徴用工に触れる発言を撤回すると迫った。さらに韓国の説明で65年の請求権協定に言及するようにも要求した。これには韓国も「どのように発言するのかは我々の自由だ」と猛反発した。

 審議を1日遅らせるほどの激しい交渉の末、韓国は審議での発言で、徴用工の説明について、「強制労働」を使わず、日本の説明を引用する形で落ち着いた。一方で、日本は、韓国が自国で説明する際、「強制労働」のニュアンスを強調することは黙認した。日韓両政府の関係者は「お互いの立場を変えないまま折り合える唯一の方法だった」としている。(武田肇、ソウル=貝瀬秋彦)

■近現代の記憶、摩擦起きやすい

 国境をめぐる争いや近現代の戦争の記憶。こうした要素を持つ遺産は、摩擦が起きやすい。世界文化遺産に登録された原爆ドーム。米国は登録決定後に「日本の提案には歴史的観点が欠けている」と表明した。

 元ユネスコ事務局長の松浦晃一郎さんは「本来、政治的な要素を除き、文化的な側面に焦点を当てるべきだが、残念ながら現実には避け難い」と話す。

 パレスチナの「イエス生誕の地」は、独立国とは認めていない国が反対。投票で登録が決まった。

 イコモスの登録勧告が覆ったこともある。2010年などに複数回審議されたイスラエルの「ダンの三連アーチ門」は、ヨルダンが「国境が明確でない地域に属している」と主張。登録可否の判断が先送りされ、今も登録されていない。

 「特にここ数年、政治的な介入で専門家による判断が覆されるケースが目立つ」。文化審議会の世界文化遺産特別委員会の西村幸夫・東京大教授は語る。(佐々波幸子、吉川一樹)

     ◇

■過ぎた政治介入、後味の悪さ

 アジア初の近代工業化を物語る「明治日本の産業革命遺産」。産業国家として繁栄に導いた証人である一方で、その発展は苦難と犠牲に支えられてもいた。産業遺産の持つ「光」と「影」が、世界遺産登録実現への思わぬ壁になった。

 国力増強を至上とした近代化において、鉱山や工場などでは苛酷(かこく)な労働もあった。「産業革命遺産」でも一部の施設に戦時のつらい記憶を持つ人々が今なおいる。だが、華やかな世界遺産で「影」の歴史的な事実を強調するのは難しい。今回のPR活動でも触れられることは少なかった。

 また、構成資産を戦前の1910年までとした理由も十分に周知されていたとは言い難い。その後の「徴用工」が働いた時期をあえて外したと韓国側に映り、事態をこじらせる遠因になったのではないか。

 いま世界文化遺産では政治介入が問題化している。諮問機関イコモスの評価と各国代表でつくる世界遺産委員会の決定が食い違う例が多く、審査の信頼性が揺らいでいるのだ。

 今回、事態を複雑化させた発端は、二国間の歴史認識の問題がユネスコの場に持ち込まれたことにある。お互いに支持を得ようと繰り広げた日韓両国の外交攻勢は他の委員国を困惑させ、政治介入の根深さを一層世界に印象づけた。

 結局、このいざこざで日韓両国が得たものはなく、後味の悪さだけが残った。世界遺産への過ぎたる政治介入の例として、世界は教訓にするべきだろう。(ボン=編集委員・中村俊介)

     ◇

■ユネスコ世界遺産委員会での日本政府代表団の声明要旨

 日本政府としては、本件遺産の「顕著な普遍的価値」が正当に評価され、全ての委員国の賛同を得て、コンセンサスで世界遺産登録されたことを光栄に思う。

 日本政府は、技術的・専門的見地から導き出されたイコモス勧告を尊重する。特に、「説明戦略」の策定に際しては、「各サイトの歴史全体について理解できる戦略とすること」との勧告に対し、真摯(しんし)に対応する。

 より具体的には、日本は、1940年代にいくつかのサイトにおいて、その意思に反して連れて来られ、厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者等がいたこと(a large number of Koreans and others who were brought against their will and forced to work under harsh conditions)、また、第2次世界大戦中に日本政府としても徴用政策を実施していたことについて理解できるような措置を講じる所存である。

 日本は、インフォメーションセンターの設置など、犠牲者を記憶にとどめるために適切な措置を説明戦略に盛り込む(incorporate appropriate measures into the interpretive strategy to remember the victims)所存である。

 日本政府は、本件遺産の「顕著な普遍的価値」を理解し、世界遺産登録に向けて協力して下さった議長をはじめ、世界遺産委員会の全ての委員国、その他関係者に対し深く感謝申し上げる。

(日本語訳は日本政府の仮訳に基づく)

■世界遺産に登録が決まった主な遺産

《複合遺産》

・ジャマイカの国立公園「ブルー・アンド・ジョン・クロウ・マウンテンズ」 自然遺産と文化遺産の両面を持つ。

《文化遺産》

・シンガポールの「シンガポール植物園」 英国植民地時代からの熱帯植物園の進化の歴史をたどることができる。

・韓国の「百済歴史遺跡地区」 韓国・中国・日本3カ国の古代王国間の交流の歴史をよく示す。日本は「極めて重要な遺産」として全面的に支持。

・フランスのブルゴーニュ地方の「クリマとテロワール(ブドウ畑と気候風土)」と、シャンパーニュ地方の「ブドウ畑、製造施設、地下貯蔵庫」 いずれもワインの名産地として知られる。


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