ジャーナリストの気概と、それを理解できない私たちの「仲間」たち
韓国の記者は「嫌韓」や日本社会をどう見つめているのか 特派員座談会(2015年07月09日 11時59分)
1.
タイトルは「嫌韓」に重点があるように読めるが、座談会の内容はむしろ海外特派員の使命はどこにあるかというテーマが中心であったように思う。
それはたとえば、駐在国のリアルや空気感をどう伝えるか、自国の読者たちに自分たちの社会を改善するためのヒントをどう伝えられるか、そして一般の日本人と一般の韓国人の間の互いに気づいていない意識のギャップや意味のずれをどう伝えるか、というような問題意識に現れている。
これらの課題はおそらく海外特派員であれば抱えるのだろう。その意味でこの座談会は韓国人が日本を見るという固有性よりも、ジャーナリストという職業人にまつわる普遍的な使命感や問題の切り方のほうにむしろ重点があり、それゆえに記者という人たちの意識や心情を、韓国人という固有性によらず知ることができる価値のある記事になっている。
ここに登場した3人の記者は、それぞれに少しずつ取材や報道へのスタンスが異なるようだけれども、共通しているのは、本社との軋轢やリソースの限界への悩みといった宮仕えの面倒さといった話もあるが、自らが見聞きする多様な「日本」像の中から何をどう切り出せばよいのかについて常に考え続けているところ。そこには決して固定観念や特定の理解にはまり込むまいとする知的誠実さが感じられる。
記事後半にはタイトルにある「嫌韓」についての話し合いになっていくが、日本人向けの座談会だという意識があるのか、発言にはバランスを重視した抑制的なトーンが感じられる。「嫌韓」な人をあまり刺激しないように控えめな言葉を選んでいるようだが、そこで示されている認識は、日本社会の今のムードとその構造をよく理解しているものだと思う。とりわけ金氏は来日後まだ4ヶ月ほどしか経っていないというのに、この認識の速さには驚かされる。いずれにせよ、この記者たちの認識には私も特に異論はないし、彼らの発言は繰り返し読んで論点を再確認するだけの意義がある。ただ、私としては日本社会の一員としてむしろ我々自身の背負ったものを直視し告発し続けなければならないというふうに考えているので、彼らの語り口は優しすぎる…というか、いささか表面的な「友好」と「相互理解」に偏りすぎていないかと思うほどである。
2.
ところで、この記事についている「はてなブックマーク」とフェイスブックコメントがなかなかに香ばしい。いつものような韓国人嫌いをむき出しにしたコメントがずらずらと並んでいて、座談会で指摘された朝鮮韓国人への蔑視・差別(吉氏)、「おまえがオレを嫌いだから、オレもおまえを嫌いだ」と自己防衛的な攻撃に走る心理(金氏)を見事に裏書している。
その中の多くは、感情的な呪詛にとどまるもの、「嫌日は卒業した」などの文言への揚げ足取りや曲解、記事とは無関係の「お前たちの良くないところはどう考えるんだ」といったまさに「おまえが俺を嫌いだから」式の自己防衛的な攻撃など、自他を相対化できない幼稚なコメントばかりであり、これもまたいつもの光景ではある。
ちょっと興味深いのは、この記者らの発言を「理解できない」とか「何を言っているのかわからない」と評するコメントが複数見られたこと。また、意識や認識の隔たりが大きいという趣旨のコメントもあった。「こんな発言ばかりだからやっぱり韓国人はダメだ」という類のコメントもあった。
座談会の内容は、前述のとおり異文化圏に駐在する記者なら誰でも感じるであろうことを平易な言葉で語っているものであり、また韓国と日本のいろいろなギャップについても「そういうことがある」という形で述べているものであって、決して難解な概念や複雑な論理構造を持った議論ではない。
にもかかわらず、こうした「わかりにくい」と感じる人が複数いたことには若干心が惹かれた。つまり、「韓国」への偏見や反感、「韓国人が嫌韓について語る」という記事への先入観などが、文章解釈の枠組みをゆがめたり、解釈を吟味する余地を著しく狭めたりしたために、虚心坦懐に言葉を受け取るという認知の働きが阻害されたのではないか、ということである。
言い換えれば、それほどまでに「嫌韓」は人々の心の奥底にしみこんでしまっているのであろう。吉氏は「実際、日本が本当に再び軍国主義になって、韓国に攻め込んでくるようなことはないでしょう」と述べているが、これほどまでに差別や偏見を沈潜させていれば、一見平穏に見える社会であっても、関東大震災で起きた朝鮮人虐殺事件の凄惨かつ異常な情景やルワンダで勃発した隣人・知人への集団殺戮のようなカタストロフィーがいつ起きないとも限らない。そのような不安と恐怖を改めて感じさせられた次第である。
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