養老孟司氏の書評→読まなくていい本が分かる
今週の本棚:養老孟司・評 『新・観光立国論…』=デービッド・アトキンソン著 - 毎日新聞(2015年07月12日 東京朝刊)
朝この書評を見て、目が点になった。養老孟司氏が上記の著者アトキンソン氏を評した箇所。
もともと経済アナリストだから、そのあたりの議論には十分な説得力がある。データを示して基礎からきちんと説明する。議論の仕方が非常にいい。もし間違っているなら、どこが違っていたか、後でだれでも検証できる。それに対して、政治がらみの経済の話は、私にはほとんど理解できない。著者のような議論の進め方をしないからである。ただ最近は日本でも著者のような語り口の人が経済関係に増えてきた。藻谷浩介、水野和夫、冨山和彦、三橋貴明などなど。これまで読む気もなかった経済の本を、おかげで爺(じい)さんになってから読むようになってしまった。(強調は引用者)すごい人たちを信じちゃっているんだなあ…というか、彼らが人をだますのが上手いということか。
毎日新聞もここまで劣化したか……としみじみさせられた。書評そのものもどうでもいい話。所詮地域振興にさほど関心があるようにも見えない。単に「ニッポン」をネタに国を憂えてみたい憂国インテリごっこがマイブームのオジイチャンの戯言みたいな話。
◇『新・観光立国論−イギリス人アナリストが提言する21世紀の「所得倍増計画」』(東洋経済新報社・1620円)
◇辛口な指摘にも説得力ある日本論
国際観光収入がGDP(国内総生産)に占める割合は、日本は他の先進国の数分の一に過ぎない。収入額は世界の二十一位。観光客はこのところ急速な増加傾向にあるから、少子高齢化の日本で、これから大きく伸びる可能性のある業界は観光業だ。それが本書の結論。
そんなことは以前からわかっている。そう思われた人は、ではなぜ日本は外国人観光客数が世界の標準以下で、収入が少ないのか、その理由を明確に指摘できるだろうか。
著者はイギリス人だが、日本に二十五年住んでおり、もとはゴールドマン・サックスの経済アナリストだった。ときどき出会う茶席ではいつも和服を着ている。日本人の私は洋服。町家を改修した自宅が京都にある。現在は伝統美術の修復を請け負う、「小西美術工藝社」という会社の社長である。
話のはじまりは「短期移民」、つまり外国人観光客のことである。人口減少は避けられないが、それを補ううまい手がある。それは観光客に来てもらうこと。GDPは要するに人口に比例する。それなら人口減でGDPが下がるのは仕方がない。でも移民政策にはいろいろな問題がある。それより観光客の増加でしのげないか。
もともと経済アナリストだから、そのあたりの議論には十分な説得力がある。データを示して基礎からきちんと説明する。議論の仕方が非常にいい。もし間違っているなら、どこが違っていたか、後でだれでも検証できる。それに対して、政治がらみの経済の話は、私にはほとんど理解できない。著者のような議論の進め方をしないからである。ただ最近は日本でも著者のような語り口の人が経済関係に増えてきた。藻谷浩介、水野和夫、冨山和彦、三橋貴明などなど。これまで読む気もなかった経済の本を、おかげで爺(じい)さんになってから読むようになってしまった。
それにしても国際標準からすれば日本への外国人観光客は少なすぎる。それはなぜか。日本は観光地として認識されていない、あるいは避けられているのではないか。ほとんど観光鎖国というしかない。著者は具体的にさまざまな事例を指摘していく。外国人だからというだけではなく、観察眼が鋭いので、思わず意表を突かれる指摘が多い。それをここでいちいち紹介することはしない。本文をお読み頂ければいい。一つだけ例を挙げれば、ゴールデンウィークは無くしたほうがいい、という。大量の観光客を一気にさばいて商売をする。そういう癖がつくからである。よく考えたら、多くの人が納得すると思う。私はゴールデンウィーク、お正月、お盆は自宅にこもる。著者の指摘は相当な辛口だが、それなりにもっともだと私は感じる。そもそも観光というものに、真剣に取り組んでいないのではないか。これは日本人としての私もしばしば感じることである。観光に限らず、本気で仕事をしているとは思えないことが増えた。自分が年寄りになったから、文句が多いのかと思っていたが、著者も同じようにいうので安心した。
観光業に関わる人、関わらざるを得ない人、地方振興を考えている人には必読の文献であろう。私は鎌倉に住んで箱根に別宅があり、月に一度は京都に行く。こんなバカな暮らしはしたくないが、いろいろな事情でそうなった。いつも観光の影響を受けているから、著者の議論は他人事(ひとごと)ではない。自分は観光なんて無関係だと思っている人も、日本論として読むと参考になるに違いない。
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