国が地方を麻薬漬けにする:原発と基地
本日、川内原発再稼働。
寒村の住民感情を札束で買収する方法で、国は原発を推進してきた。
鹿児島・川内原発:燃料装着 教訓学ばぬ、再稼働 親子2代、反対40年 - 毎日新聞(2015年07月08日 大阪朝刊)
約40年前、川内原発の建設に際して反対の意思を表明した人への仕打ち。
「周囲の人たちから嫌がらせを受け、『川内ではまともに職に就けない』と市外への移住を強いられ」たという。
私も薩摩川内市では原発への疑問を口に出しにくいという話を聞いたことが何度かある。こうした雰囲気の中で反対運動を続けている人たちには頭が下がる。
しかし、川内で「原発は正しいから賛成」という意見は余り聞いたことがない。川内で私が聞いた賛成意見の典型は「経済が活性化するから」、「他に産業がないから」というものばかりだった。上記の記事で、
経済団体などでつくる薩摩川内市原子力推進期成会長の山元浩義・川内商工会議所会頭は「地元経済は依然として厳しいが、再稼働が目前になったことで、地元経済も活性化する」と歓迎するコメントを出した。とされている通りだ。
地元でも、「本当はイヤだけど、お金のために仕方ないもの」というイメージで受け止められているというのが私の実感である。
国もそのことは十分分かっている。原発立地が「迷惑施設の押しつけ」だということは初めからよく知っている。原発がイヤなものだということは知っていて、だから自分たちから遠い場所に置こうとする。
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そして再稼働に向けて、国はいっそう利益誘導を露骨にしてきているようだ。
特集ワイド:「忘災」の原発列島 再稼働は許されるのか 露骨な優遇、国の「回帰」鮮明 - 毎日新聞(2015年01月30日 東京夕刊)(図の魚拓)
1.2014年12月、経産省原子力小委員会が「稼働実績を踏まえた公平性の確保」の必要性を示す。
「これは、原発が再稼働した自治体には国の電源立地地域対策交付金を重点的に配分する一方、それ以外の自治体については減らすことを意味します」
…中略…
この「重点配分」が実施されることになれば、再稼働に対する自治体の同意を得やすくなるのは間違いない。しかし、原発の安全性に不安を抱える住民も多い中、「先に転んだところに利を与える」かのようなやり方が果たして許されるのか。吉岡氏の目には「沖縄県民が選挙で米軍普天間飛行場の辺野古移設に反対の意思表示をしたのに、振興予算の削減で応じた構図と同じではないのか」と映る。
2.経産省、15年度予算案で「原発施設立地地域基盤整備支援事業」に新たな交付金制度15億円を盛り込む。
再稼働など「地域環境の変化」があった自治体に交付し、地域振興や住民への安全説明会の費用などに充てられるというが、ここにも再稼働を選んだ自治体への配慮がにじむ。エネ庁の試算では、
・出力が最大規模の135万キロワットの原発を建設した場合、
・着工の3年前から運転開始40年までに計1384億円の交付金が立地自治体(周辺市町村や道県を含む)に落ちる
・使い道は幅広く、道路やスポーツ施設などの建設・維持費にも充てられる。固定資産税の収入、建設工事に伴う雇用拡大なども見込める。
とのこと。
また玄海町の場合歳入の約6割を原発関連が占めるという。
規模が小さい自治体ほど電源立地地域対策交付金への依存度は高い。玄海原発を抱える佐賀県玄海町では、14年度当初予算100億8000万円のうち、同交付金からの歳入は約16億円。原発の固定資産税などを含めると予算総額の6割を超える。町は13年度までの39年間で総額331億円の原発関連交付金を受け取り、温泉などの公共施設を建設したが、原発以外の産業は育っていない。
電力会社には、廃炉1基に付き1年に約20億円ほどずつ電気料金への上乗せを認めて損失回避を促す一方、原発自治体は廃炉で交付金が減少する。玄海町の場合は1基廃炉になると約4億円、現在の16億円の4分の1が減る格好になる。
だが実は、これらのカネは地方財政をそれほど潤さないという。
高橋誠(自治労鹿児島県本部/臨時執行委員)「原発マネーの自治体財政への影響:川内市と鹿屋市の22年間の決算カードから分析」
財政が一番潤うのは原発立地間もなくまでで、その後は原発関連施設の減価償却に沿って固定資産税の収入が減少していく。これが原発の新設を地元が要望する動機を形成する。
電源関連の交付金は年単位で見ると規模は小さい。しかも川内ではハコモノ建設に費やされ、それらの維持費が積立金を食いつぶす格好になっている。
ややメリットが比較的大きいのが核燃料税あるいは使用済核燃料税と九電等の寄付金で、薩摩川内市の場合、使用済み核燃料1体あたり25万円、1年ごとに3億9200万円の税収が見込まれている。
総務省報道資料「薩摩川内市「使用済核燃料税」の更新」(2013年11月13日)
結局、立地自治体は立地前後の大きな増収で一時的に潤うが、長期的には徐々に体力を削られていくような格好になっている。
しかし、たとえ短期的なカンフル剤のような役割しかないとしても、これらの定期収入が途絶えるのは地元に大きな苦痛と受け止められる。
そこで国はさらに追い込みをかけている。
クローズアップ2015:交付金減額へ 抜け出せぬ原発依存 - 毎日新聞(2015年08月11日 東京朝刊)(図の魚拓)
みなし稼働率を引き下げてゆっくりと自治体の首を絞める。
毎日新聞の立地自治体アンケートによれば、
原発依存度が高いほど再稼働に前向きな傾向が浮かんだ。泊村幹部
「村の事業を継続していくには交付金が減額されると厳しい」。大熊町、渡辺利綱町長
「まだ原子力に頼るのかと言われるが、共生していかざるをえない」と悩ましい表情を見せる。薩摩川内市、山元浩義・川内商工会議所会頭
「一刻も早い再稼働が疲弊した地域経済の活性化、雇用の安定化、地域創生につながるものと確信しております」。
* * * * *
フクシマの事故の後、大熊町、双葉町の人々の苦難に対して、「自業自得」、「今までさんざん補助金でいい思いをしていたくせに」という声がネットにあふれた。
辺野古への基地移設反対闘争を巡っては、「基地の土地借地料で大もうけをしているくせに」という声が、百田氏など有名人からも出てきた。
札びらで頬をはたかれ、巨額のカネを注入されて迷惑施設を受け入れさせられ、国の都合に合わせてコントロールされたエサに振り回され、それでもなお「カネが切れると困る」と言い続けなければならない屈辱。
その上に、良いように嬲られている様子を都会の連中から「自業自得」と嘲笑われる。彼らのための基地、彼らのための原発を引き受けているのに。
何が「地方創生」か。何が「地方分権」か。何が「地方の自立」か。
おためごかしもほどほどにしてもらいたい。
だが国が自ら非を認めることは絶対にない。この構造を壊すためには、国を追い詰める他はないのである。
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鹿児島・川内原発:燃料装着 教訓学ばぬ、再稼働 親子2代、反対40年 - 毎日新聞(2015年07月08日 大阪朝刊)
九州電力川内(せんだい)原発(鹿児島県薩摩川内市)の1号機に、核燃料を装着する作業が7日始まった。福島の原発事故から約4年4カ月。事故後につくられた新規制基準に基づく初の原発再稼働が目前に迫った。川内原発前での抗議集会の参加者には40年以上、親子2代にわたり「原発ノー」を訴えてきた住民もいた。原発から数百メートルで生まれ育ち、現在は鹿児島県霧島市に住む前田裕(ゆたか)さん(64)。川内原発の建設前から「子供たちのために」と反対運動に加わり、2007年に82歳で亡くなったトミさんの長男だ。
半農半漁の古里の寒村に原発建設の話が持ち上がったのは1964年。出稼ぎなどで何とか生計を立てていた住民に、九州電力の担当者は「原発ができれば出稼ぎに行かなくてもよくなる」「村には子供があふれる」などと言って歩いたという。
70年代以降、盛り上がりを見せた反対運動で、母親グループの中心にいたのがトミさんだった。広島、長崎への原爆投下や、アメリカの水爆実験によるマグロ漁船「第五福竜丸」の被ばくなどで「核」への不信感があったトミさんは「子供や孫のために原発を造らせない」と訴えた。
73年に3年間在籍した海上自衛隊を除隊して故郷に戻った裕さんも、学者らを呼んだ講演会などで放射能の危険性を知り、母親とともに反対運動に身を投じるようになる。周囲の人たちから嫌がらせを受け、「川内ではまともに職に就けない」と市外への移住を強いられても「曲がったことは認めるな」という母の言葉に従った。
昨年11月、伊藤祐一郎知事が川内原発の再稼働に同意表明した際、裕さんは40年前を思い出した。75年12月、当時の金丸三郎知事は反対住民約2000人が集まった「地元の意見を聞く会」の8日後に建設への同意を表明した。今回の伊藤知事の同意表明も地元説明会が始まってから1カ月もたっていなかった。「福島の事故があっても変わらないのか」。歯がゆさを感じた。
「賢い国に原発はいりません」。トミさんは94年から亡くなる直前まで毎日、愛用の筆で首相ら関係3閣僚宛てにはがきを書き続けた。住民たちが「子供があふれる」と期待した裕さんの母校の小学校は少子化で12年に閉校となり、体育館は原発事故が起きた時の一時避難施設になった。
この日、裕さんは反対運動の先頭に立つ母の写真を持ち、川内原発前で抗議の声を上げた。「建設前に反対した人たちはほとんど生きていない。お袋がもし生きていたら、今日は本当に憤っていると思う」と語った。【杣谷健太】
◇「活性化を期待」地元経済界
この日、各地で賛否の声が交錯した。
川内原発の正門前には7日朝、市民ら約100人が集まり、「核燃料装荷は事故への一歩!」と書いた横断幕などを掲げ「再稼働を許さないぞ」「九州電力は原発を放棄しろ」と声を張り上げた。
薩摩川内市・山之口自治会長の川畑清明さん(59)は、九電による住民説明会が開かれないまま燃料の装着(九電は「装荷」と表現)作業が始まったことに「住民が説明を求めているのに無視するのは本当に許せない」と九電の姿勢を批判。鹿児島大非常勤講師の杉原洋さん(67)も「作業を中断し、再稼働を断念すべきだ」と訴えた。
一方、経済団体などでつくる薩摩川内市原子力推進期成会長の山元浩義・川内商工会議所会頭は「地元経済は依然として厳しいが、再稼働が目前になったことで、地元経済も活性化する」と歓迎するコメントを出した。
伊藤祐一郎知事は「引き続き安全確保を最優先に適切な対応をお願いしたい」とのコメントを発表した。【杣谷健太、宝満志郎】
◇「事故の苦しみ私達で最後に」 飯舘の酪農家
東京電力福島第1原発事故で全村避難する福島県飯舘(いいたて)村の酪農家、長谷川健一さん(62)は「福島の事故で原発が安全ではないと分かったのに、なぜまた動かそうとするのか」と憤った。4世代8人暮らしだったが、分散して避難し、仕事も奪われた。生活再建には慰謝料増額が必要として村民の半数にあたる約3000人をまとめ、国の原子力損害賠償紛争解決センターに裁判外紛争解決手続き(原発ADR)を申し立てた。「原発事故で苦しむのは私たちで最後にしてほしい」
福島県二本松市の服部浩幸さん(46)も「福島の事故の原因や責任もあいまいなまま、他の原発を再稼働させるのは理解できない」と疑問を投げかける。【土江洋範】
特集ワイド:「忘災」の原発列島 再稼働は許されるのか 露骨な優遇、国の「回帰」鮮明 - 毎日新聞(2015年01月30日 東京夕刊)
暮れの衆院選で安倍晋三首相は原発について多くを語らなかったが、選挙後は「政権公約は進める義務がある」として着々と「原発回帰」を進めている。その姿勢は、経済産業省の原子力小委員会が昨年12月に政策の方向性を示した「中間整理」と、2015年度予算案に見て取れる。東日本大震災から間もなく4年。「原発ゼロ」は遠のくばかりなのか。「再稼働という国策を認める自治体は優遇し、受け入れないと冷遇する。今回の『中間整理』には、安倍政権の特徴が表れています」。原子力小委員会委員で九州大大学院教授(科学技術史)の吉岡斉(ひとし)氏は言う。批判の矛先を向けるのは、12月26日に委員会がまとめた「中間整理」という文書の中の「稼働実績を踏まえた公平性の確保」という部分だ。「これは、原発が再稼働した自治体には国の電源立地地域対策交付金を重点的に配分する一方、それ以外の自治体については減らすことを意味します」と吉岡氏。
電源立地地域対策交付金とは本来、原発のある自治体に発電量に応じて支払われるものだ。だが福島第1原発事故が起き、現在は国内の全原発が停止しているため、国は一律に「稼働率81%」と見なして交付を続けている。14年度は総額987億円、15年度も912億円の予算を計上した。
経産省資源エネルギー庁電力基盤整備課は「公平性確保の具体的な手段は今後、検討する」としながらも「事故前の平均原発稼働率は約70%。原発が再稼働した自治体に対し、従来のように発電量に応じた交付金を配分すると、81%で算出した額よりも減る恐れがある。原発が停止中の自治体への交付金をそれ以下に減額し、公平性を確保するのも一つの考え方です」と説明する。早ければ16年度予算から配分を見直す方針だ。
この「重点配分」が実施されることになれば、再稼働に対する自治体の同意を得やすくなるのは間違いない。しかし、原発の安全性に不安を抱える住民も多い中、「先に転んだところに利を与える」かのようなやり方が果たして許されるのか。吉岡氏の目には「沖縄県民が選挙で米軍普天間飛行場の辺野古移設に反対の意思表示をしたのに、振興予算の削減で応じた構図と同じではないのか」と映る。
それだけではない。経産省は15年度予算案で「原発施設立地地域基盤整備支援事業」の中に新たな交付金制度を創設し、15億円を計上した。再稼働など「地域環境の変化」があった自治体に交付し、地域振興や住民への安全説明会の費用などに充てられるというが、ここにも再稼働を選んだ自治体への配慮がにじむ。
とはいえ、交付金の魅力が大きいことは否定できない。エネ庁が示す財源効果のモデルケースによると、出力が最大規模の135万キロワットの原発を建設した場合、着工の3年前から運転開始40年までに計1384億円の交付金が立地自治体(周辺市町村や道県を含む)に落ちる=下図。使い道は幅広く、道路やスポーツ施設などの建設・維持費にも充てられる。固定資産税の収入、建設工事に伴う雇用拡大なども見込める。原発マネーが、やめることのできない「麻薬」に例えられるゆえんだ。
だからこそ吉岡氏は「重点配分」を「自治体の同意を金で買うようなもの」と危惧するのだ。「そもそも『中間整理』は事務方が一方的に示した案に、各委員が3〜5分間ずつ述べた意見を付け加えただけ。どれほどの意味があるのでしょうか」
経産省は「中間整理」で、電力会社が「廃炉」で生じる負担を減らせるように、会計制度の見直しも打ち出した。原発を1基廃炉にすると、電力会社には210億円程度の損失が出る。現行ルールでは損失を一括計上しなければならず、経営が悪化する恐れがある。それを10年間に分割して計上でき、さらに電気料金に上乗せして回収できるようにしようというのだ。
改正原子炉等規制法で、運転期間は原則40年に制限(原子力規制委員会の認可で最長20年の延長が可能)され、今後は廃炉が進むとみられる。16年7月時点で40年の運転期限を超える原発は7基。うち関西電力美浜1、2号機(福井県)▽中国電力島根1号機(島根県)▽日本原電敦賀1号機(福井県)▽九州電力玄海1号機(佐賀県)の5基の廃炉が検討されている。
エネ庁原子力政策課は、廃炉負担を軽減する方針について「電力会社が経営を優先して廃炉判断を先送りするのを避けるため」と説明する。だが、原発のコストを研究している立命館大の大島堅一教授(環境経済学)は「なぜ電力会社の損失を国民が負担するのかという議論が欠落しているうえに、損失そのものの具体的な検証もない。原発事業のリスクを国が安易に取り除けば、電力会社は原発を維持することへの抵抗感がなくなり、かえって依存度を強めかねない。本末転倒と言わざるを得ません」と憤る。
電力会社への「優遇」ぶりは、廃炉のリスクに直面している自治体と対比すると鮮明になる。
規模が小さい自治体ほど電源立地地域対策交付金への依存度は高い。玄海原発を抱える佐賀県玄海町では、14年度当初予算100億8000万円のうち、同交付金からの歳入は約16億円。原発の固定資産税などを含めると予算総額の6割を超える。町は13年度までの39年間で総額331億円の原発関連交付金を受け取り、温泉などの公共施設を建設したが、原発以外の産業は育っていない。
町財政企画課の試算によると、1号機が廃炉となると、発電量の低下に伴い交付金は年間約4億円減る。危機感を抱く町は「廃炉を前提としたものではないが、新たに電力会社に対して核燃料税を課すことも検討している」(同課)という。原発作業員らの宿泊が減ることも予想されるため、地元の民宿組合は小中学生のスポーツ団体などの合宿誘致に力を入れ、町が宿泊費を助成している。
国際環境NGO「FoE Japan」で原発・エネルギーを担当する吉田明子さんは「政府が原発依存度の低減を目指すのであれば、再稼働に同意した自治体を優遇するよりも、依存からの脱却を目指す自治体の取り組みや、再生可能エネルギーを普及させる政策にこそ予算を振り分けるべきです」と語る。
◇「もんじゅ」はなお延命
「中間整理」でもう一つ見過ごせないのは、核燃料サイクル事業を推進する方針を明記したことだ。
高速増殖原型炉「もんじゅ」は、原発の使用済み核燃料から取り出したプルトニウムとウランを燃料とし、発電に使う以上のプルトニウムを生み出せるとして「夢の原子炉」と呼ばれてきた。建設開始から約30年の歳月と約1兆円の予算を投入したが、トラブルが相次ぎ、稼働したのはわずか約8カ月。それでも文部科学省は15年度予算案に安全対策・維持管理の名目で、前年度比2億円減ながら約197億円を計上した。
この予算を「もんじゅの運転再開を促す金額とまでは言えないが、研究開発は続けるというメッセージだ」と読み解くのは、NPO法人・原子力資料情報室の伴英幸共同代表だ。原子力小委員会委員でもある伴氏は「もんじゅの開発や設計に携わった技術者は既にリタイアしているし、技術的なトラブルを克服できず『夢の原子炉』との当初の目的もついえた。今の職員はモチベーションを失い、『何のための研究なのか』と悩んでいるだろう。事業を諦める潮時です」と語る。
大島氏も「核燃料サイクル事業は破綻している。政府は撤退予算を計上するのが本来の姿では」と、国の「冷静な判断」を求めるのだ。
国会議員60人で組織する「原発ゼロの会」の事務局長を務める阿部知子衆院議員(民主党)は、国会などでこう訴えるつもりだ。「福島第1原発では作業員の労災事故が後を絶たない。先の見えない研究開発ではなく、過酷な状況下で働く作業員の待遇改善や健康管理などにこそ、予算を回すべきでしょう」
「重要なベースロード電源」−−エネルギー基本計画(昨年4月に閣議決定)に盛り込んだこの文言を見るたび、伴氏は顔をしかめる。「脱原発の動きを進めようとしても、いつもこの言葉の力に妨害されてしまうんです」
「中間整理」や15年度予算案を見ていると、この「ベースロード電源」に起きた事故で福島県や周辺の人々の生活が破壊されたことなど、忘れてしまったかのようだ。「忘災」政策への監視をやめてはならない。【瀬尾忠義】
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■原子力政策の方向性をまとめた「中間整理」の骨子
【総論】
中間整理は、政府の具体的な政策立案に生かす
【原発事故の教訓】
原発事故後、原子力を重要なベースロード電源と位置付けつつ、原発依存度を可能な限り低減させるとの基本方針を決定。これは原子力政策の大きな方向転換
【競争環境下における原子力事業】
競争が進展した環境下においても、原子力事業者が安定供給の確保や円滑な廃炉、安全対策などの課題に対応できるよう事業者の損益を平準化し、安定的な資金の回収・確保を図るなど財務・会計面のリスクを合理的な範囲とする措置を講じることが必要。廃炉に関する計画外の費用が発生する場合、一定期間をかけて償却・費用化を認める会計措置を検討する
【核燃料サイクル政策の推進】
もんじゅを含めた核燃料サイクルの研究開発は、放射性廃棄物の減容化・有害度低減や高速炉を含めた将来のエネルギーオプションを開発していくという目的の下、進めていくべきだ
【国民、自治体との信頼関係構築】
限られた国の財源の中で、電源立地地域対策交付金の制度趣旨(発電用施設の設置・運転の円滑化)や現状を認識し、稼働実績を踏まえた公平性の確保など既存の支援措置の見直しなどと併せ、立地市町村の実態に即した必要な対策について検討を進める
*中間整理の各章には、原子力小委員会で出た主な意見が掲載されている。
クローズアップ2015:交付金減額へ 抜け出せぬ原発依存 - 毎日新聞(2015年08月11日 東京朝刊)
九州電力川内(せんだい)原発1号機(鹿児島県薩摩川内市)の再稼働に合わせ、国は原発の稼働率などに応じて決まる電源立地地域対策交付金の規定を見直し、停止中でも一律81%としていた「みなしの稼働率」を引き下げる方針を固めた。今後の各地の再稼働を促進する狙いだが、国のこの手法が効果を持つのは、立地市町村の原発依存体質が根深いからだ。原発マネーで潤った自治体は、原発なしで自治体運営ができなくなる。そんな多くの立地市町村の現状が一層鮮明に浮かび上がった。【関谷俊介、宝満志郎】◇国が危機感あおる
「国が金で誘導するやり方は好ましくない」。北海道電力泊原発を抱える北海道泊村の幹部は、電源立地地域対策交付金について停止中のみなし稼働率を引き下げ、市町村の危機感をあおって再稼働の追い風とする国の手法に苦言を呈する。
福島の事故を受けて全国の原発が長期停止し、立地市町村は当初、財政への影響を懸念した。それを吹き飛ばしたのは一律81%という高い水準のみなし稼働率の適用だった。
毎日新聞が原発立地17市町村(福島県内除く)に尋ねたところ、みなし稼働率に基づく2013、14年度の同交付金の平均額は、事故前の稼働実績に基づく11、12年度の平均額と比べ、11市町村で0・02〜23・18%増となった。減額されたのは原発の新規立地に伴う交付金が12年度ごろまで交付されるなどした6市町村だった。
交付額を圧縮する国の規定見直しは、ただ再稼働を促すだけでなく、浮いた財源を別の財政支援に回す狙いもある。今年廃炉になった老朽原発5基分については16年度から従来の交付金がなくなる。このため、市町村の財政に与える廃炉の影響を緩和する何らかの支援をする方針だ。再稼働が実現したとしても使用済み核燃料の貯蔵スペースに余裕がない原発は数年でストップしかねないため、貯蔵施設を新たに受け入れる市町村への財政支援を講じ「交付金の元々の目的である円滑な運転のためのインセンティブ(刺激策)」(経済産業省職員)とする考えだ。
毎日新聞は立地17市町村に、地元の原発の(1)再稼働(2)原子炉等規制法で原則40年とされる運転期間の延長(3)新増設−−への賛否も尋ねた。いずれも原子力規制委員会の審査に合格している場合を前提にした質問で、再稼働と運転期間延長に「反対」はなかった。新増設については、宮城県石巻市、松江市、愛媛県伊方町が「反対」を選んだ。
再稼働に「賛成」と答えた8市町村のうち、薩摩川内市を除けば、いずれも歳入総額に占める同交付金など原発関連収入の割合が20%(14年度)以上で、原発依存度が高いほど再稼働に前向きな傾向が浮かんだ。
中でも泊村は、同交付金7億7000万円に北海道電力の固定資産税などを加えた原発関連収入が80%になる。「村の事業を継続していくには交付金が減額されると厳しい」。幹部はそう嘆いた。
◇地元財政・経済の要
一度原発を受け入れた地域は、もう原発なしでは未来を描けないのか。
昨年7月〜今年2月に開催された福島県大熊町の将来計画を策定する検討委員会。9月の第3回会合で、同県いわき市に避難している委員の一人の岩本久美(ひさみ)さん(70)は疑問をぶつけた。「大切なのは町の将来よりも、大多数の帰れない町民が新生活を送るための支援ではないか」
東京電力福島第1原発事故で約1万人の全町民が町外に避難し、町民の96%の居住地域が帰還困難区域となった。町は、比較的線量の低い地区に住宅や商業施設を集積させる新たなまちづくり構想を進める。
まちには、30年以上かかるとされる廃炉作業などにあたる東電社員向けの寮が造られるほか、東電関連会社2社の進出も決定。町は原発関連の人口を約2000人と見込む。一方、元々の町民で帰還を希望しているのは約1000人にとどまり、高齢者が中心だ。
町は60〜70年代、原発を誘致するとともに関連産業を呼び込んだ。電源立地地域対策交付金は、事故があった10年度には町の歳入総額の2割を占めた。新たなまちづくりでは、国の福島再生加速化交付金のほか、事故に伴って30年間にわたり支給される交付金(年約20億円)などが財源となる。渡辺利綱町長は「まだ原子力に頼るのかと言われるが、共生していかざるをえない」と悩ましい表情を見せる。
一方、薩摩川内市の歳入総額に占める原発関連収入(固定資産税除く)はここ数年3%程度にとどまるが、地域経済を支えてきたのは原発だ。
「一刻も早い再稼働が疲弊した地域経済の活性化、雇用の安定化、地域創生につながるものと確信しております」。5月14日、同市に集った全国の原発立地市町村の商工団体代表を前に、地元の山元浩義・川内商工会議所会頭が訴えた。
同商議所などによると、1984、85年に運転を始めた1、2号機の建設費計約5100億円のうち地元受注額は約690億円に達した。原発では通常時約1000人が働き、飲食などで地元に落とす金は年12億円を超す。定期検査時には作業員がさらに約1200人増え、この際の宿泊などによる経済波及効果は約6億円と試算される。福島の事故後に凍結された3号機増設計画(建設費約5400億円)への期待も根強い。
だが、市の中心部を外れると、多くの地区で過疎高齢化が進む現実もある。川内原発から5キロ圏の峰山地区。コミュニティ協議会会長の徳田勝章さん(77)は「原発の金は偏在化しており、地区としてはほとんど恩恵を感じていない。田園都市でもあり、1次産業などを大事にしないと永続性はない」と語る。
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