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2015/08/26

養殖しても水産資源保護につながらないかもしれないという話

毎日新聞でこういう記事が載るのは珍しいという印象。
新聞やテレビでは、魚の取りすぎ・食べ過ぎに警鐘を鳴らす報道ってあまり見ない気がする。

水説:魚を食べ続けるなら=中村秀明 - 毎日新聞(2015年08月26日 東京朝刊)

魚の乱獲→漁獲量の減少、種の絶滅

これに対して、

養殖→資源保護、安定供給、絶滅を避けて生態系を守れる

という図式を漠然とイメージしていたのだけれども、実は養殖にも問題が大きい、いや、むしろ養殖の方が問題が大きいという話。

・養殖のために、大量の野生の魚を獲っていて、かえって水産資源の破壊になっているという問題。

「たとえば、マグロの養殖にはエサとして10倍、20倍のサバやイワシが必要になる。飢えに苦しむ世界の貧困層の食料確保からみて問題だ」という。得られる量と投入する量を比べ、養殖は非効率な魚資源の利用法なのだ。」

今はサバもイワシも「獲れない魚」になってきている。しかしそれをマグロの畜養に使っているという現状。
このシステムは持続不可能だ。

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この記事は「ネレウスプログラム」という研究プロジェクトのレポートを元にしている。
そのレポートは下記。

ネレウスプログラムレポート: 海の未来を予測する: 気候変動、 海、 魚資源 | Nereus Program(日本財団, June 30, 2015)

PDF:「海の未来を予測する 気候変動、海、魚資源

これには、養殖の問題として、以下の5点が指摘されている。

1)飼料や資源としての野生魚の過度な利用
2)汚染物の廃棄
3)地域生態系への影響
4)生息域の破壊
5)管理また事業体制の透明性

たとえば、マグロの畜養に関しては下記のような指摘がある。

海に生きる魚の資源量への影響に関する報告義務の基準が欠如していることなども含め、不十分な管理の元で発生する過剰な開発のリスクが懸念される。
養殖全体には次のような懸念が表明されている。
養殖は、陸海全てを含めた地球食料システムにさらなる耐性をもたらすとは言いがたい。それは、養殖が野生魚だけでなく陸上の作物、特に低所得層が食料としている作物に対する依存度が高いためである。メティアン、フォルケ、オスタブロムらは、陸上作物を養殖に利用する場合、その規模が大きくなればなるほど低所得層に対する負荷が増えるのではないかと予測する。その上で、養殖が食料安全保障に寄与できる可能性は、資源の利用効率、公平な資源配分そして環境保全に対する動機付けを、政府が戦略的な政策によっていかに与えられるかによると述べた。
そういえば、環境破壊につながるとして養殖場の増設に地元住民が反対しているケースがあった。

朝日新聞デジタル:マグロ養殖場「不許可」要請 鹿児島・龍郷の住民、県に - 鹿児島 - 地域(2012年12月12日00時49分)

 奄美大島の龍郷湾で、トヨタ自動車グループの商社、豊田通商が計画しているクロマグロ養殖について、地元の龍郷町芦徳(あしとく)の住民約15人が11日、奄美市の県大島支庁を訪れ、養殖場の設置を許可しないよう求める陳情をした。

 陳情書では「巨大ないけすが並ぶ景観はきわめて不自然で、膨大な量のえさは海洋汚染を生む。ダイビングなど観光と漁業の両立には手つかずの自然が不可欠」としている。8日に集落の臨時総会を開き、投票で養殖場計画への反対を決めたという。

 計画では来年9月から直径30メートルのいけす4基(1万2千匹)で養殖を開始。瀬戸内町の近畿大学水産研究所から稚魚を仕入れ、30センチ程度に育てて別の養殖場に出荷する中間育成施設にする。5年後に最大24基(4万~6万匹)に増やす。

 応対した伊喜功支庁長は「詳しい経緯はわからないが、本庁の担当課に迅速に伝えたい」と答えた。

海ではないけれど、東南アジアのエビ養殖地の開発が地域の環境破壊を生んでいるという話は昔から知られている。
環境破壊の問題をクリアしても、そもそも養殖場の適地が少なく、新たに養殖場を増やすことも難しいという指摘が下記にある。

勝川俊雄公式サイト - 産経新聞にツッコミを入れつつ、まぐろ養殖業について、まじめに語ってみた

水温が暖かくて、マグロ用の大きな生け簀を浮かべられて、それなりに深い湾というのはそう多くない。マグロの養殖適地は、企業の争奪戦でほぼすべてが埋まっている。
これは国内のマグロ養殖に限定されているが、海外(例えば中国)での養殖にしても原理的には同様の問題をはらんでいるだろう。

結局、持続可能な生産量という上限を意識して、それを消費量が越えないような価格付けをするしかないのだろう。そうした評価を価格に織り込む仕組みはまだない。さらに、これに生産者の生活安定と環境保護を加え、さらにできるだけ自由で向上心を維持し、競争が働くような仕組みの元で実現しなければならない。しかも問題は国際的でもある。とても難しい問題だが、無関心ではいられない問題ではある。

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水説:魚を食べ続けるなら=中村秀明 - 毎日新聞(2015年08月26日 東京朝刊)

 国連食糧農業機関は、世界の水産物市場に出回る食用魚のうち、養殖ものが昨年初めて天然ものを上回ったと推計している。2000年の養殖比率が約25%だったから飛躍的な伸びだ。

 国内ではブリやマグロにとどまらずサバ養殖も始まった。世界的にはナイル川原産のティラピア(イズミダイ)をはじめコイ、ナマズ、サケなどが主な魚種だ。

 そんな中、危機的な予測が発表された。「世界の水産資源は50年までに6割減る」「魚の分布が変わり、今取れているところで取れなくなる」というのだ。

 日本財団が、米プリンストン大など7大学・研究機関の海洋科学者らと調査研究したネレウスプログラム・リポート「海の未来を予測する」の結論である。人口増加によって魚がどんどん食べられて減るうえ、地球温暖化に伴う海水温上昇で生息域が変わるためだ。今は熱帯から温帯にかけ、たくさんいる魚が、南極や北極に向けて移動し、数も減少する。

 この共同研究を統括する海洋人類学者の太田義孝さんは、身近な例としてマグロ供給の落ち込みを調べた。それによると、「現在、国内で食べられている年間総量のうち約2000万人分が減る」との結果になった。

 となると、ますます養殖が心強く思える。だが、同席したカナダのブリティッシュコロンビア大学のダニエル・ポーリー教授は首を振った。

 「たとえば、マグロの養殖にはエサとして10倍、20倍のサバやイワシが必要になる。飢えに苦しむ世界の貧困層の食料確保からみて問題だ」という。得られる量と投入する量を比べ、養殖は非効率な魚資源の利用法なのだ。

 日本ではクロマグロの完全養殖にわき、「次はウナギだ」という声もある。「天然資源に頼らず、種の保護にもつながる」と強調され、水産業の革命という受け止め方もある。

 ある魚種に限ればそう言えても、結局、自然から必要以上に多くを奪うことにならないだろうか。

 しかも、飢えをしのぐのではなく、特定の食の楽しみ、我慢できなくもない欲望を満たすためである。ビジネスとして注目できても、食の偏在、飢餓と飽食の格差を広げる心配はぬぐえない。

 温暖化を防ぎ、魚資源の国際的な管理を強め、持続可能な水産物流通の仕組みを消費者も参加して築く−−太田さんらの研究は地道な取り組みを訴えて締めくくられている。(論説委員)


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