シリア難民の日本受け入れについて緒方貞子氏インタビュー
朝日新聞の記事。
一読して、緒方氏は国際感覚がある保守派という印象。
シリア難民の日本受け入れは大きな問題にはならないかもしれないが、諸外国とりわけ欧州の考え方との乖離を一層印象づける契機にはなるだろう。法務省と外務省はピリピリしながら推移を注視していると思う。
法務省、特に入管当局には、優秀・優等と認定できない外国人が入国・滞在・定住することに強い嫌悪感があるように以前から感じている。外国人=犯罪予備軍という見方が彼らには定着しているし、そう見ることが職務上の美徳だとすら思っている節がある。そして、この嫌悪感が、入国管理行政に必要ないばかりか、差別や人権侵害に当たり、円滑な入管行政の障害にすらなり得るということが理解できないのではないかとも感じている。
彼らの外国人嫌悪の心情からすれば、非白人・非富裕層・非高学歴であるシリア難民をできるだけ認定したくないと考えるのは当然だろう。
本来なら、共生協働とか、異文化間接触とか、民族差別と人権擁護の歴史とか、基本的な社会学とか、そういう研修があって然るべきだと思うのだけれど、到底そういう余裕もなさそうだし、入管も人員をもっと増やしてやるべきだとは思う。
ともあれ、例外的な在留許可だけでは日本国内での活動に制限があるし、難民認定が少しでも緩和されることを願う。
「難民受け入れは積極的平和主義の一部」 緒方貞子氏:朝日新聞デジタル(2015年9月24日08時13分)
緒方貞子・元国連難民高等弁務官は朝日新聞の取材に応じ、「難民の受け入れくらいは積極性を見いださなければ、積極的平和主義というものがあるとは思えない」と話し、難民受け入れに慎重な日本政府の姿勢を改めるべきだと訴えた。日本の難民認定、5千人中11人 条約を厳格解釈し審査:朝日新聞デジタル(2015年9月24日08時14分)日本では昨年、5千人が難民申請をしたが、昨年以前に申請されたものを含めて、昨年1年間に認定したのは11人だった。
1991年から00年まで国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のトップとして世界の難民問題に対処した緒方氏は「当時から日本に難民を受け入れてもらうのに苦労した。変わっていないのは情けない話だ」と指摘。「難民の受け入れは積極的平和主義の一部だ。開発援助も、底辺に届くようなものをどれだけやるかだ」と話した。
シリアなどからの難民については欧州だけでなく米国なども受け入れを表明している。これまで日本で難民申請をした約60人のシリア人のうち、日本政府が難民と認定したのが3人にとどまっていることについて「シリア情勢に対する日本の無知ではないか」と批判した。「日本を目指して逃げてくる人は少ない」としながらも、日本に着いた人びとについては、難民としての保護を検討すべきだとの考えを示した。(大島隆、今村優莉)
■島国根性でやっていけるのか
――日本の難民受け入れをどう考えていますか。
「物足りない、の一言です。特に人道的なこういう事件(シリアなどからの大量難民)が起こったときに『まだか』という感じですよね。日本は、非常に安全管理がやかましいから。リスクなしに良いことなんてできませんよ」
「簡単に言えば、難民受け入れがものすごく厳しいですよ。私が(難民高等弁務官だったのが)2000年までで、今、15年でしょう。変わっていないみたいですよ、残念ながら」
――現在のシリアを巡る情勢については。
「難民については、必要な人の受け入れはしなければならない。それから、難民を出している国の安定というものに対して、技術援助や経済援助だけではできないものがある。政治的な介入が必要ですが、それはとても難しいだろうと思います」
――シリア情勢で、日本がすべきことは何ですか。
「日本を目指して逃げて来る人は少ないんですよ。だけど、(日本にたどり着いた人については)もうちょっと面倒をみてあげてもよいんじゃないかと思います」
「難民条約を技術的に堅く当てはめようとしたら、助けられる人も助けられない。日本は、それから外れることは非常に難しいんですよ。緊急の状態のときに出てくる人には、やはり柔軟性を持って助けてあげて、そして、その次の定住とかそういうものを考えるということではないか。緊急状態から出てきた人たちに猛烈に厳しいんですよ、この国は」
――日本が難民受け入れに消極的である根本的な理由は何だと思いますか。
「長い間、島国でね、島国を守っていくということだけで来たからでしょう。そういう島国根性的なことは変わっていないと思いますよ。だけど国際化が進んで、非常に国際協力が発達したなかでは、前と同じ島国根性でやっていけるんでしょうかという疑問は持ちますよね」
――日本の難民認定制度はどうあるべきですか。
「外国は難民条約に基づいて審査するというのはベースになっているけれど、人道的な配慮とか政治的な問題とか、非常に多様な原因に基づいてやっている。だけど日本はなかなか厳しい。私は難民高等弁務官のとき非常に苦労しました」
「日本の法務官は、厳しい法律的な視点で(認定審査を)するんですね。日本の法務システムそのものが厳しい。人道的な考え方というものを、教育とかでもっと広めないとダメですよ。私の時代と変わっていないというのは情けないことだと思いますけどね」
――シリアからはこれまで約60人の難民申請があったそうですが、これまで認められたのは3人です。
「日本のシリア情勢に対する無知じゃないの。全然知らないからですよ」
――難民認定しなかった人にも人道的配慮で在留許可は出しているそうです。
「でもそれで、放っておいていられるというのはやや悲しいね。そんな日本社会なのかなって」
――法務省は難民認定制度の見直しを含めた、新しい出入国管理基本計画を出しました。
「本当ですか? 本当ですかと聞いたのは、どこが本当に変わったのかと。特定できませんでしたけど」
■自信がないから不安定なリーダーシップに
緒方氏がいまの日本をどう見ているかや、国際社会の中で日本が進むべき道についても聞いた。
――最近出版された回顧録「聞き書 緒方貞子回顧録」では「日本国内の問題意識と、国際社会の動向との開きが一度ならずあると感じることがあった」と指摘しています。
「一度ならずなんてもんじゃないですよ。だけど、私が弁務官をしているころは、いろんなことをしてあげようという気持ちは(日本側に)今よりあった。今はかなり自信たっぷりの国になったと感じますね。思いやりが減ったんですよ」
――回顧録で「日本は、父祖の時代よりも外に開かれ、多様性に富み、国際社会で責任ある行動を取れる国になったのであろうか」とも自問していました。
「今でも『あろうか』ですよ。石油とかいろんなこともあって中東などへの関心は増えてきたけれど、中東にどれだけ援助しているのか。特にそこに飛び込んでやろうとはしていない」
――より開かれた国にはなっていない?
「一つは、今の日本はリーダーの方から見てみるとややナショナリスティックです」
――具体的には。
「偏狭にはなっているかな、と。最近、中国の天津に会議で行きました。(外交官だった)祖父は天津総領事館にいたことがあるのですが、(清朝最後の皇帝)宣統帝(溥儀(ふぎ))が逃げて来たときに日本の大使館がお預かりしたことがあった。そういう深い長い歴史に重なっているんだということを、もうちょっときちんと勉強のなかで知ることが必要なんじゃないでしょうか。今の方は中国を好きか嫌いかだけで見ている。それは残念だと私は思う」
――回顧録では、「日本は国として目指す方向性が定まっていない」とも。
「それもあるしね。今のリーダーシップの方々の中に自信がないの。日本の歴史について、あるいは自分たちの研究してきたことについて」
――先ほどの話では、日本は自信たっぷりで思いやりがなくなったと。
「一流国家だと思いたくて、だけど自信がないから不安定なリーダーシップが多いんじゃないの」
「テクノロジーを中心とした情報の繁栄のなかで、どうやって本当の知識、そういうことに基づいた政治をし、哲学をつくっていくか、ということなのじゃないでしょうか。そういう力が逆に減ってきていると思う。あんまり早く知識がまわりすぎちゃうから。消化しなくても知っちゃうんですよね。だけどそれが知識というものになっていくかというと……。そういうことを調べている学者がいるんじゃないの。今、哲学者って何をしてるの?」
――日本の世界との関わりや国際貢献で言えば、日本政府は今、「積極的平和主義」と言っています。
「言葉はね。だけど、積極的平和主義をしようとしたら、そのためにどういう犠牲を払う用意があるか、というのをほとんど聞かないでしょ。だから、お言葉だけというふうに私は受け止めています」
――どういうものが積極的平和主義と考えますか。
「例えば、難民の受け入れは積極的平和主義の一部ですよ。本当に困っている人たちに対してね。それから開発援助も底辺に届くようなものをどれだけやるのか。それが積極的ですよ。難民の受け入れに積極性を見いださなければ、積極的平和主義というものがあるとは思えないと言っていたと、書いて下さい」
■どのくらい犠牲を払うのか、議論がない
――国連平和維持活動(PKO)はどう見ていますか。
「PKOについては、私は(自衛隊の派遣に)相当期待していました。だけど、危ないところにはお出しになりませんよ」
――犠牲が出る可能性をきちんと議論したうえで、ということですか。
「どのくらいの犠牲を払う用意があるかということについて、もうちょっとはっきりお考えになる必要があるんじゃないですか。そういう議論をおっしゃらないもんね。おっしゃれないかもしれない。今の日本の考え方は、みんな『犠牲はない』と。だけど積極的平和主義はやると。そういう矛盾の中で暮らしているんじゃないですか」
――途上国援助(ODA)は今、戦略的活用とか日本経済に資する援助とか「国益」が言われます。
「国際益と国益のバランスが常にODAにとって大事です。もう一つ、ODAはこちらが言い出すんじゃなくて、どのくらいの需要が出てきたのかに対して、合わせていかないといけないでしょ。でもそういう考え方はやや薄いんじゃないの。供給ベースでやっていると思います。需要ベースでやったらもっと増やさないといけませんよ」
――回顧録では、日本は外交で戦略的思考ができない、とも指摘しています。どういうときに感じましたか。
「戦略的な思考に基づいた提案ってあります? それはもしかしたら教育制度とも関連しているんじゃないですか。こつこつと一本道をいって、官僚になってさらにコツコツコツと。しょっちゅうやめて、いろんなところに入る、という人はなかなかいない。本当は(国際社会では)政治家がそうなんですよね。辞めていろんなことをやりながら上がっていく。戦略的な思考とか、国際機関における中枢的な役割に必要なのは多様な思考だろうと思う。だけど日本の教育体制において、多様性を育む教育制度がないし、教育の内容も弱いんじゃないですか。多様性というのはいろんな違った意見を尊重してあげるということで、日本はわりと同じことを考えないと出世もしないし。どうですか」
◇
おがた・さだこ カリフォルニア大バークリー校で博士号(政治学)。上智大教授などを経て、91年から00年まで国連難民高等弁務官。03年から12年まで国際協力機構(JICA)理事長を務めた。現在はJICA特別フェロー。
日本でも難民認定の申請者は増え、昨年は5千人に達した。だが、認定数はわずか11人。人道的な配慮での在留許可も110人にとどまる。難民条約は、難民を「人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員、政治的意見」を理由に迫害された人と定めている。日本は1970年代後半からインドシナ難民約1万1千人を受け入れたこともあったが、難民認定審査については、欧州などと比べると、条約を厳格に解釈する傾向がある。
今月、法務省が発表した難民認定制度の運用見直しでは、紛争から逃れた人々の在留を「待避機会」という考え方で認める方向を打ち出したものの、「難民条約の迫害理由にない」として、難民認定を増やす方針は示さなかった。紛争から逃れたシリア難民が急増する欧州では、条約上の難民と認める例が増え、ドイツでは15年第1四半期のシリア人申請者の9割以上が難民と認定されている。
日本政府は各地の難民向けに国連を通じた支援などを実施している。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のマイケル・リンデンバウアー駐日代表は朝日新聞の取材に「日本の財政支援はありがたい」としたうえで、難民受け入れについても「シリアの子どもに日本の病院で医療を提供したり、一時的な滞在ビザを出したりできる。シリアの大学生に奨学金を出し、日本の大学で学んでもらうこともできる」と語った。(鈴木暁子)
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