秀逸な合格通知と不合格通知の例
マイケル・サンデル『これからの『正義』の話をしよう』「第7章 アファーマティブ・アクションをめぐる論争」232-234ページより。
うがった文章で全く正しいなあと思うので引用しておく。
これらの合格通知、不合格通知の文面は、哲学上の議論、特にアファーマティブ・アクションの是非を巡る議論のためにサンデルが作成したものだ。
これを正しいと思ってしまう私は、ロールズやドゥウォーキン、そしてカントの道徳的基準に共感しているのだろうか。
まずは不合格通知の例(マイケル・サンデル作)
ホップウッド殿「われわれは合格者を、そしてあなたを、より広い社会的目的のための道具として扱っているのです」とか、「あなたが出願された際に社会がたまたま求めていた特質を、あなたがたまたま備えていなかったのは誠に残念なことでした。次回はより幸運に恵まれますようお祈りいたします」とかが非常に秀逸だと思う。遺憾ながら、あなたが入学選考において不合格となりましたことをお知らせいたします。この決定にはなんら悪意が含まれていないことをどうかご理解ください。われわれは、あなたが劣っているとは考えていません。実際、あなたの価値が合格者より低いとさえ考えていないのです。
あなたが発揮しうる資質を、社会がたまたま必要としない時代に生を受けたのは、あなたの落ち度ではありません。あなたの代わりに合格した人びとがその立場に値するわけでも、合格の要因となったものに対する称賛に値するわけでもありません。われわれは合格者を、そしてあなたを、より広い社会的目的のための道具として扱っているのです。
あなたはこの知らせに落胆なさることでしょう。けれども、あなたが本来持っておられる道徳的価値が、何らかの形でこの決定に反映しているなどと考えて失望を大きくなさらないように。われわれはあなたに同情しています。あなたが出願された際に社会がたまたま求めていた特質を、あなたがたまたま備えていなかったのは誠に残念なことでした。次回はより幸運に恵まれますようお祈りいたします。
次に合格通知の例
合格者各位「あなたはそれに値しません」や「このような形で利用されることに伴う恩恵を受ける権利を得るでしょう」など、思わずうならされる。あなたが入学選考に合格されましたことを謹んでお知らせいたします。社会がいま必要としている特質を、あなたがたまたま備えていることがわかりましたので、あなたが当校で法律を学ぶことを許し、あなたの資質を社会の進歩のために活用したく存じます。
あなたは祝福される立場にありますが、それは合格の理由となった資質を備えていることに対する称賛に値するという意味ではなく(あなたはそれに値しません)、単にくじに当たった人が祝福されるのと同じことです。あなたは幸運にも、適切な時期に適切な特質を備えて生を受けました。あなたが本校に入学することを決意なされば、このような形で利用されることに伴う恩恵を受ける権利を得るでしょう。この意味で祝うのが適当です。
あなたは、というよりあなたのご両親は、この知らせをもっと違う意味で祝いたいかもしれません。本校に合格したのは、生来の才能はともかく、少なくとも自分の能力を磨くためにあなたが重ねてきた地道な努力が報われたのだと思いたいかもしれません。しかし、あなたがそのような努力のできる人であるのは、あなたにその価値があるからだと考えることにも問題があります。あなたがそのような性格を備えているのは、幸運な偶然が重なったからであり、あなたの手柄ではまったくないからです。ここには功績の概念は当てはまりません。
ともかく、秋にお目にかかれるのを心待ちにしております。
それにしても、アメリカの大学はこんな手紙文のような通知書を出してくれるのだろうか。
というのは、これらの文面につづけて、
このような通知なら、不合格者の痛みはやわらぎ、合格者の慢心はくじかれるだろう。それなのに、なぜ大学はあいもかわらず祝辞とお世辞を連ねた通知を送りつづけて(出願者もそれを期待して)いるのか。とサンデルが書いているからだ。日本の合格通知は単に「合格しました」というだけで非常に素っ気ないから、そういう「慢心」を育てるような通知をもらってみたかったなあとちょっと思ったのである。
追記:ちょっと検索したら引用している人が何人かいた。日の下に新しきものなし。
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