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2015/09/03

志摩市の海女のキャラクターデザインについて

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続きを書いた:志摩市のキャラクター(続き): 思いついたことをなんでも書いていくブログ

追記(2015年11月5日): 志摩市が公認を撤回。上の記事に追記した。
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「萌えキャラは海女を侮辱」三重・志摩市に公認撤回要求:朝日新聞デジタル(2015年8月17日07時18分)

・志摩市が海女をモデルにした公認キャラクターを作成
・市内の海女を中心に309人が反対署名を提出。

記事にある反対理由
・「胸など若い女性の体を強調して描き、誤った海女のイメージが発信される」
・「県文化財に登録された海女の信仰や潜水技術、知識こそ発信すべきだ」
・「今の海女は磯着ではなく、ウェットスーツを着る」

対する志摩市と受託会社側(マウスビーチ社)の反論
・「意見を会社側に伝え、キャラの描き方が変更された」
・「批判は受け止めるが、メグには好意的な意見も多い」

参考:キャラクター画像:今年2月から配布されたポスター(批判前)魚拓)、(批判後)8月から配布されているポスター。磯着の脚部が隠されるなど描き方が変わった魚拓

セックスや女性性の商品化は「萌え」の本質なので、海女らが誇りを傷つけられたと思うのは当然だろうと思う。
ただ、「萌え」がそういうものだという点を割り引いて考えてみても、海女をモデルにしているのに海女から拒否感が出ているのは致命的だ。

海女らへの反論も海女たちの批判に応えていない。
1.「描き方が変更された」からOKというが、海女らが納得している様子がない。
  モデルの意向を尊重して合意形成を目指さない「修正」は、モデルとなった人たちの尊厳を余計に傷つけるもので、対応としては悪手と言わざるを得ない。

2.「批判者は少数で、他の大勢は好意的だ」という反論はこの種の批判には無効であるばかりか、差別を内包している。
例えば、サンフランシスコ市がリトルトーキョーを市のPRに利用しようとして、日本人をモデルにしたキャラクターを作成するという仮想例を考えてみればよい。
チンチクリンに背が低く、つり目に眼鏡を掛け、出っ歯で短足なキャラクターデザインが「愛嬌があってかわいい」とされて、ポスターやテレビ、インターネットで広められたとしたら、日本人はどう思うだろうか。侮辱されたと思う人が多いのではないだろうか。
その感情に「好意的な意見も多い」からという理由でフタをして、そのデザインのままキャラクターを使い続けるのは正しいと言えるだろうか。
いくら「ちび黒サンボ」が可愛らしくても、当の黒人が「尊厳を傷つけられた」と思えば、その設定には問題があると言わざるを得ないのである。

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というふうに自分なりに意見を整理したのだが、この考え方はどのように解釈できるか。
今、マイケル・サンデルの『これから「正義」の話をしよう』を読んでいるので、頭がそれに染まっているわけだ。で、それに基づいて考えてみたい。特に関心があるのがカントの道徳法則に適っているかどうかだ。
ただ、以下の考えは、サンデルの本を一つ読んだだけの、その理解も正しいか分からない状態のものなので、眉唾ものである。

たぶん、カント的には、キャラクターデザインの善し悪しは海女らがそれをどう思うかとは関係ない。だから、上記の私の意見はたぶんカント的には正しくない。
カントの道徳では動機が重要で、動機が道徳的に正しければその結果がいかに悲惨であろうと問題ない、たぶん極端に言えば。つまり、このデザインの動機がそれ自体として道徳的に正しければよくて、そのデザインがいかに海女らの感情を傷つけようが、あるいは逆に彼女らを喜ばせようが、このデザインの評価には関係ないということだ。そのデザインはデザインそれ自体として道徳性を評価されなければならず、そこに誰かがどう思うかという要素は入らない。なぜなら、道徳は特定の誰かの感情に左右される、言い換えれば特定の誰かの感情に奉仕するものであってはならないからだ。つまり、デザインはその動機とそれ自体の道徳性によって吟味されなければならない。
では、キャラクターデザインの道徳的な正しさはどう評価すべきか。カントによれば、道徳は無限定・無条件の義務、定言命法として述べられなければならない。従って、このデザインの善し悪しは、そのデザインが何かの目的に沿って、つまり他律的・外的な評価基準に沿って評価されるものであってはならず、それ自体として良いものでなければならない。また、あらゆる人格はそれ自体が究極の目的として尊重されねばならない。これらの観点に立つと、おそらくこのキャラクターデザインは道徳的によいものとは言えない。
なぜならば、このキャラクターはそれ自体のために作られたのではなく、志摩市のPR、はっきり言えば市の経済的利益のために作られたものであるから、このキャラクターの評価は市のイメージを良くし、観光客などを引きつける効果の大きさで計られるものだからだ。つまり、市の利益に資するデザインが成功とされ、その効果がないか逆効果を生むものは失敗とされる。このようなデザインは市のPRの道具であり、その評価尺度はデザインそのものにはないのだから、そのデザイン、ひいてはそのデザインを作った理性は他の目的の道具として扱われていることになる。従って、このような動機で作られたデザインは道徳的ではあり得ない。
また、二つ目の観点から見てもこのデザインは道徳的によいとは言えない。なぜなら、海女という人格を持った存在を市のPRに用いるということ自体が海女らの人格を市が利益を得るための道具として用いていることになるからだ。少なくとも、海女の人格的尊厳を守る、つまり海女を理性的存在とし、その自由意志を尊重するデザインでなければならず、そのデザインの利用の仕方も海女の人格性を侵害するものであってはならない。ところが、「萌え」というデザインは、そのモデルの人格ではなく、モデルの外形(容姿や形態)にデザインの作者や利用者が持つ「萌える」要素を投影して作られるものである。そこにはモデルの人格は正しく表現されず、そのキャラクターはデザイン利用者の「萌える」対象として消費される。したがって、この海女らの人格が「萌え」として消費される対象とされている以上、このデザインが道徳的に正しいとは言えない。
道徳に対するこういう考え方それ自体を仮に認めるとしても、キャラクターは抽象的な「海女」というイメージの表象であり、実在する個々の海女との関連性はないという反論があるかもしれない。しかし、抽出されたイメージの元は実在した海女の姿から得られたものだから、全く仮想的なイメージというわけではないし、今生きている現実の海女を見るときに、この作られたキャラクターのイメージを重ね合わせることが想定される以上、実在の海女とキャラクターとの間に関係がないということは困難だろう。

というわけで、おそらく、私が先に考えた意見は、カント的見地からは道徳的に正しいものとは言えない。この意見は海女の尊厳に配慮している点では一定の正しさを持つと言えるかもしれないが、海女がこのキャラクターを批判していることをデザイン評価の根拠にしている点で正しくない。
ただし、カント的見地からも、このキャラクターデザインは道徳的に正しくはない。それは、海女らの反応とは関係なく、このデザインの動機と形式それ自体が道徳的に正しくないからだ。

とまあ、こういう感じでまとめてみたのだけれども、どうだろうか。もしサンデル先生にレポートとして提出したら何点ぐらいもらえるだろうか。

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「萌えキャラは海女を侮辱」三重・志摩市に公認撤回要求:朝日新聞デジタル(2015年8月17日07時18分)

 三重県志摩市公認の海女の萌(も)えキャラクターは性を強調し海女を侮辱しているとして、同市内の主婦(39)が公認撤回とキャラ入りポスターの撤去などを求める署名を市と市議会に提出した。署名は市内の海女ら309人分といい、主婦は「不快に思っている海女も多い」と訴えている。

 キャラは海女を目指しているという設定の「碧志摩(あおしま)メグ」。四日市市のイベント企画会社が制作し、志摩市は昨年秋、「アニメ文化を通じ海女や市を知ってもらいたい」と公認。ポスターなどで活用されている。

 これに対し主婦は今年4月、「胸など若い女性の体を強調して描き、誤った海女のイメージが発信される」と、公認反対の意見書を市に提出。今年6月から、海女である母親(65)と、公認撤回などを求める署名活動を始めた。母親の地元を中心に、現役海女や元海女だけでも115人が署名したという。署名を出した主婦は「県文化財に登録された海女の信仰や潜水技術、知識こそ発信すべきだ」と市を批判した。

 市は「意見を会社側に伝え、キャラの描き方が変更された」として、いまのところ要求には応じない方針。会社側は「批判は受け止めるが、メグには好意的な意見も多い。今後も志摩や三重のPRに役立てば」としている。

 主婦の母親と別の地区に住む海女(66)は「今の海女は磯着ではなく、ウェットスーツを着る。空想の漫画で仕事への誇りが揺らぐことはない」と話している。


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