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2015/09/03

志摩市のキャラクター(続き)

この問題、思ったよりもあちこちで議論になっているようだ。

「政治的な正しさ」によって隠された性と観光の深い関係【第73回】|すべてのニュースは賞味期限切れである|おぐらりゅうじ/速水健朗|cakes(ケイクス)(2015年9月3日)

先日下の記事で述べた志摩市の萌えキャラクターについての対談。
志摩市の海女のキャラクターデザインについて: 思いついたことをなんでも書いていくブログ

全部は読めないので、読める部分で「萌え」について述べられたところに簡単にコメントしておく。

速水 ざっと批判を見ると、「胸を強調し過ぎ」、「実際に志摩の海に潜っている海女とは大変かけ離れて」いる、「女性蔑視で不愉快」などの声がある。地元の海女という当事者が反対運動をしているという問題は、地元とのコミュニケーション不足がすべての元凶であるのは間違いない。だけど、この絵が「女性蔑視」という批判の部分は、どこが?って思ってしまう。

おぐら いまどき萌えキャラをベタに「男の性的な欲望の対象」というだけで捉えるのも、ちょっと古い感じはしますね。女性にも萌えキャラのファンはたくさんいますし。一概に「エロい」だから「けしからん」と断定するのは、どうなんでしょう。

速水 すれ違いがあるんだよね。志摩は、萌えキャラを使って2次元のキャラが好きな人たちに向けた観光PRをした。でも地元の反対派は、海女のセックスアピールで観光客を呼び込もうとしているんだと勘違いした。そういうことじゃない?

おぐら 端的なセックスアピールだけではない、萌えキャラの奥行きを咀嚼できるかどうかの問題ですかね。

速水 それだけではなく、「非実在青少年問題」や会田誠のロリコン作品を巡る批判など、フェミニズムとオタクによる幼児ポルノ表現を巡る対立の代理戦争でもあるよね。このくらいの萌えキャラに「今さら目くじら立てなくとも」というのもわかるけど、この志摩市は、来年の伊勢志摩サミットの会場でもある。

おぐら 外国から見ると、確かに市がポルノを公式キャラクターに用いているのはなぜだ、ってなる可能性はあります。

速水 アメリカメディアがAKB48は性的搾取と報道したこともあったし、日本の常識が世界の標準というわけではないというのはあるね。この辺り、クールジャパン戦略を考える上でもネックになるだろうけど。

コメントしたい論点は以下。

初めに私のスタンスを述べておくと、
1.「萌え」はその理念形がどうあれ、現状が性の商品化になっている。
  全てがそうではないとしても、その相当部分がセックス対象としての女性性を含んでいる。
2.仮に女性など幅広い層が支持しているとしても「萌え」が性を商品化していることは変わらない。
  性的対象として見られること自体を女性が内面化していることがある。「かわいい」の基準の中にそうした価値観を取り込んでしまっていると言える。

では簡単にコメント。

>地元とのコミュニケーション不足がすべての元凶であるのは間違いない。

これは正しい認識。

>一概に「エロい」だから「けしからん」と断定するのは、どうなんでしょう。

「エロい」視線の対象とされた人間の立場からそれを言えるのか。

>すれ違いがあるんだよね。志摩は、萌えキャラを使って2次元のキャラが好きな人たちに向けた観光PRをした。でも地元の反対派は、海女のセックスアピールで観光客を呼び込もうとしているんだと勘違いした。そういうことじゃない?

状況認識はまあ正しい。しかし「反対派が勘違いした」というのは間違い。勘違いではなく、推進派が見落としていた側面を指摘したというのが正しい。言葉の使い方にこの人の意識のあり方が見える。

>端的なセックスアピールだけではない、萌えキャラの奥行きを咀嚼できるかどうかの問題ですかね。

これも言葉遣いに意識の偏りが見える例。「咀嚼できていない」のではない。萌えキャラが持つ別の一面を指摘しているというべき。この人は「セックスアピールだけではない」としてセックスアピールの存在を認めているのであれば、その存在が批判されていることに正面から向き合うべきで、それを「分かっていない奴ら」と切り捨てるのは一方的である。

>フェミニズムとオタクによる幼児ポルノ表現を巡る対立の代理戦争

表現の自由は守られねばならないが、しかしその表現は他の人格を傷つけないように配慮すべき。さらに、今回のキャラクターは、こうした表現を巡る対立への問題提起を狙っているわけでもない以上、それが持つ海女の人格への攻撃性を「表現の自由」として首肯する理由にもならない。つまり、一方が「尊厳を侵害されている」と訴えている表現に対し、「お前ら、エロだけじゃないのが分からないの?」とか「デザインの自由を侵害している」とかいう擁護はできない。

>外国から見ると、確かに市がポルノを公式キャラクターに用いているのはなぜだ、ってなる可能性はあります。
>日本の常識が世界の標準というわけではないというのはあるね。この辺り、クールジャパン戦略を考える上でもネックになるだろうけど。

この先が読めないのでこれがどういう主張なのか分からない。従って一定の限定があるが、いくつかコメントしておく。

1.このキャラクターデザインを「単なるエロではない」とか「批判者は誤解している」とか言うのであれば、外国や世界に対して堂々とその主張を発信して説得的な議論を展開するべきである。自らの正しさを述べて、世界に新たな価値基準を示すことは「クールジャパン」が先端的な意義を持つことにもつながる。

2.海外に「萌え」をポルノだと見る観点があることは許容しつつ、日本国内の同様の批判に対して「分かっていない」と切り捨てるのであれば、それは海外への事大主義であって、卑屈な精神性を示していると言わざるを得ない。

3.本来は正しいデザインだが、サミットの場にふさわしくないから今回は取り下げても良いと言うのであれば、それもまた本来の当事者たる海女ら(と同様の視線に晒される女性)の人格と尊厳を、国政や海外への配慮より下に置くことに他ならないので、やはり劣悪かつ恣意的な政治性を持っていると言わざるを得ない。

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追記(2015年11月5日)

志摩市がキャラクターの公認を撤回した。

海女萌えキャラ、三重・志摩市「公認撤回」 抗議相次ぐ:朝日新聞デジタル(2015年11月5日16時52分)

 来年5月に主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)が開催される三重県志摩市が公認した海女の萌(も)えキャラクターをめぐり、「性を強調する描き方だ」と抗議が相次ぎ、市は5日、「公認を撤回する」と発表した。今年8月、公認撤回を求める海女たちの署名が市に出され、「サミット開催地でキャラ騒動」とネット上でも話題になっていた。

 キャラクターは可愛い海女を目指す17歳という設定の「碧志摩(あおしま)メグ」で、同県のイベント企画会社が昨年夏、海女の多い志摩市に打診して制作。市は同年10月末、「観光誘客などで活用したい」と公認し、ポスターやパネルが地元公共施設などに掲示された。

 これに対し、母親が現役海女の地元主婦(39)が「女性蔑視で海女への侮辱」と抗議。公認撤回などを求め、海女ら309人分の署名を市に提出した。

 市は「好意的な意見も多く、デザインを変更したい」と公認継続の姿勢を示す一方、9月末に市内の海女代表24人を集め、「一部の方に不快な思いをさせた」と謝罪した。この場で行ったアンケートでは、約3割が公認を撤回すべきだと答えたという。

 大口秀和市長は5日に会見し、「(公認撤回は)企画会社から申し出があった。海女さんたちに応援していただきたいが、そういう現状ではない」と述べた。撤回とサミットとの関係は否定した。

 主婦とともに署名を集めた母親の海女(66)は「公認撤回はうれしい。でも当たり前のことだと思う」と話した。(荻野好弘)

撤回の判断はよかった。撤回の最終判断をした関係者も苦労したのではないか。

海女らを市の誇りとするなら、キャラクター作りから当人らに関わってもらっていたらよかったのにと思う。その場合、おそらく「萌え絵」とは違った方向のデザインになり、それが衆目を集める効果を持つかどうかは分からない。「萌え絵」の方が集客は容易かもしれない。ただ、「萌え絵」が持つバイアスとステレオタイプに記号化された「キャラ」からは抜け落ちてしまう海女という存在の重さや深みは残るだろう。

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追記(2015年11月6日)

市の公認は辞退したが、キャラクターそのものは非公認で継続させるそうだ。
非常に残念な対応であり、問題を理解していないと言わざるを得ない。

志摩市の萌えキャラクター「碧志摩メグ」公認撤回へ デザイン変えず「非公認」として活動は継続、励ましの声も - ねとらぼ(2015年11月05日 16時17分 更新)

炎上後、実際に海女さんたちと話し合った結果、決してすべての海女さんが企画に反対していたわけではなく、実際には前向きな意見や、励ましの声も多かったそう。このため最終的に「デザインを変更するべきではない」との判断に至ったとしています。
多い少ないの問題ではないのだが。「クラスの皆が賛成しているから、お前をいじめることにした」という決定は道徳的ではないだろう。

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追記(2016年11月11日)

海女への理解を深めるきっかけになってないのではないか、単に女の「エロかわいい」姿態を消費するだけにしかなっていないのではないか、という指摘。

「キャラクター」化されることで実体への学びが促されるかと言えば、ないことはないにせよ、単に「かわいさ」を愛でるに留まることも少なくないという気がする。例えば「ニモ」でクマノミが流行ったがクマノミの生態や海洋生物への学びが深まったかというと多分そうでもない。神社の巫女に扮したキャラクターが散見されるがそのファンが巫女や神職について学ぶかと言えばそれもそうではないだろう。もちろん漫画やアニメをきっかけにして実物のファンになったという人もいるが、そうではない人にとってキャラクターとは「愛でる」=消費する対象でしかないのだろう。その次元では海女も巫女もパンダもクマノミもハムスターも等価なのだ。

若林 宣さんのツイート

若林 宣 ‏@t_wak 13時間13時間前
碧志摩メグの時は、ちょうど『帝国日本の交通網』執筆で、済州島からの出稼ぎに関連して潜水漁のことを調べていた。そこで前近代的雇用とか内地外地の差別的処遇とか磯着を着る着ないの問題とか断りもなく観光資源にされたことや男性観光客の性的視線に晒されたことなどを知って、「これはまずい」と。

若林 宣 ‏@t_wak 13時間13時間前
もちろん、知れば皆「まずい」と思うかどうかはまた別の問題なので、知ってなお碧志摩メグの使用を擁護するという考え方もあると思うけれど、あの時あのキャラクターの使用を擁護した人で真面目に潜水漁について調べた人とかいるのかなぁ。
0件の返信 7件のリツイート 26 いいね

若林 宣 ‏@t_wak 13時間13時間前
得々と「現地に行ってキャラグッズを買いました」と言う人は幾人か見かけたけれど、潜水漁やその従事者が置かれていた社会的な位置とか歴史とかそういうものに興味を持ちましたという人がほとんどいないということは、あのキャラは結局役に立っていないんじゃ……と思ったりもする。

若林 宣 ‏@t_wak 13 時間13 時間前
そのキャラが本当に好きなら、その背後にあるものについて調べたりとかするものだと何となく思っていたけれど、「キャラクター」というものは、所詮そこまで深く愛でるものでもない、ということなのか。

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追記(2016年11月26日)

「碧志摩メグ」がアニメ化されるらしい。それに応じて「勝利宣言」している人たちがいるようだ。

反フェミのシンボルである伊勢の碧志摩メグが短編アニメに!テレビアニメ化して惨事のブス海女泣かせてほしい - Togetterまとめ

現実は高齢化でブスBBAだらけの伊勢志摩の海女を可愛い萌えキャラに美化したところ、嫉妬されて無関係のフェミナチもしゃしゃり出て大炎上した碧志摩メグ。
彼女は最早伊勢志摩PRキャラを超えて世界的な「反フェミ」のマスコットへと出世した。
そんな彼女がこのたび短編アニメ化。反フェミの勢いが強くなったことを感じさせる。
萌えキャラクターの影響を懸念している人たちを釣るためのトラップかと思うほどのミソジニーとルサンチマンに溢れたまとめ。

「フェミ」側の「釣り」または「工作」だと見なして切断処理しようとするコメントも多いが、さすがにこのtogetterまとめには批判的なコメントが多く、それは「碧志摩メグ」を擁護し、海女の尊厳侵害に当たらないとする人たちからのものが多い。

だが、「メグ」――広く言えば「萌え」――の本質には実在の海女を「惨事のブス海女」と見なしている部分が隠れている。端的に言えば、なぜ「メグ」は現実の海女を忠実にトレースせず「萌え」側に振ったのか、なぜ現実よりも肉感的な表現にしたのかという問題が残っている。実在の海女を尊重するのであれば、それに忠実な表現であっても良かったはずだ。「メグ」への批判は、海女を表現することへの批判ではなく、その表現方法への批判であったわけだから、「メグ」の擁護は現在の「メグ」のデザインが海女の尊厳を冒していないという擁護であるはずである。したがって、「メグ」というデフォルメ方法が実際に現実の海女たちから批判された以上、「いや、この表現はあなたたちの尊厳を侵害していない」と言う必要があるし、なぜもっとリアルな表現ではダメなのかという問題に答える必要がある。

なお、上記togetterまとめにリンクされているアニメ化プロジェクトサイトでは、
「一部で『女性蔑視』などという誤解を生んでしまい」
などと、依然として何を指摘されたのかを理解していないようだ。
あの伊勢志摩の海女萌えキャラ『碧志摩メグ』アニメ制作プロジェクト! | クラウドファンディング - Makuake(マクアケ)


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