ブランド店のマッチポンプ論法と商人性
消える行列 ファッション人気店で広がる「並ばせない仕組みと理由」 | Fashionsnap.com(2015年09月28日 12:30 JST)
並ばせない=行列ができない管理ってどうするのかなと思ったら、ほぼ事前抽選だった。もっと上手い方法があるのかと思ったので、ちょっと期待はずれ。
・「ドーバー ストリート マーケット ギンザ」:WEB抽選→発売前日にメール
・「ナイキ」:抽選販売。店頭で発売前に1日かけて応募を受け付け、後日発表
・「ザ・プール 青山」:メディア情報解禁を発売日当日に設定→行列の長さが短縮
・「アップル」:事前予約→来店時間を指示する案内を送る
まあ人気アーティストのチケット販売と同じような方式なので、ごくありきたりの方法と言える。
こうした対応の理由は行列管理のコストがかさむことや客と店、客同士のトラブル回避、客からの不満回避ということらしい。
「本当に欲しい人の手に渡らない」という声を受けて公正な販売のために行う店も増えてきた。というのだが、これは要するに、転売関係者が行列客の多数を占めるようになって、消費者の割合が減ったということだろう。
ただ、転売された商品も最終的には消費者の元に行くので結局「本当に欲しい人」の手には渡る。だからこの表現はあまり良くないと思う。
もうちょっと言うと、抽選や予約販売にしたところで転売業者の参入は防げない。だから、この対応は単に行列を減らすということが本質であって、「本当に欲しい人」に商品が行くようにすることではないと言うべきだろう。その意味でもこの表現は正しくない。
もっとも、転売者からすれば、行列に参加する期待収益に比較して予約や抽選に参加する期待収益が低ければ、多少は参入が減って、「本当に欲しい人」の割合が増えるかもしれない。ただ、基本的には転売差益が正である限り転売者の参入は続くと考えられるので、本質的には「本当に欲しい人」のための「公正な販売」のための措置だとは言えないだろう。
まあ、本当に「本当に欲しい人」に届けたいならオークションなどの個人の選好を評価する制度を取り入れるべきだし、転売はそうした資源配分の代理機構になっているのだから、むしろ転売行為こそが「本当に欲しい人」に届けるシステムであって、このシステム維持のコストを自己負担してくれている転売業者に対して店側が感謝してもいいぐらいなのである。
それと、次の文章もあまり正しくないと思う。
各社が行列を規制するようになったのは、行列の暴徒化が理由。近年は、これまでの客以外にも転売目的の外国人バイヤーが激増し、深夜早朝にかかわらず客同士のトラブル以外に店側への要求等で大声を出すこともあり対応に苦慮。行列時代元祖と呼ばれた裏原宿時代にもほとんど見られなかった警備員を配置するなど最大限の配慮を行っていた。しかし、少数発売のアイテムを買い占めようと外国人バイヤーが組織化するなど手口が巧妙になり、「店側だけでは対応できない深刻な問題になっていた。ここではちょっと外国人への偏見も混じっているような気がする。まあ奇矯な声を上げたりする騒動があって、日本人的な不快感が表明されているのではないか。わりとアナーキーな状況への耐性が低いというか嫌悪感が強いというか、そういう文化的反応の一つとも言えるかもしれない。
で、何が正しくないかというと、行列規制の原因が「行列の暴徒化」という部分。確かに文化的反応だと思えば、「暴徒化」という表現も含めて転売業者の奇矯さを「理由」とすることは正しいのだけれど、別にだからと言って行列規制が必然になるわけではない。端的に言えば、数量限定を止めるか販売価格をつり上げればそれで済んでしまうわけで、この文章は、商品が奪い合いになり転売される誘因を店側が人為的に作り出しているという点に触れていない。
つまり、品薄感をあおってブランド価値を維持するという店側の戦略がこうした現象を生み出していて、行列も元々は「並ぶ人数が多ければ多いほど、店としては"箔"がつく」という「広告効果」を狙った店側の企てで生まれたものである。この企てが予期せぬ反応を生んで(というか、転売業者に狙われるのは自明だと思うけど)、店が戦略はそのままにして売り方をちょっと改めたということに過ぎない。だから、「対応に苦慮」とか「最大限の配慮」とか店側だけでは対応できない深刻な問題」とかいう表現は一体何なんだろう?と思ってしまう。
そもそも、数量限定で割り当て(レイショニング)が発生するような状況において転売行為が発生するのは市場経済の自然な反応と言うべきであって、資本主義以前からの商取引の本質でもある。そういう状況を自分たちで意図的に作り出しておいて、言い換えると、転売のインセンティブを十分に与えておいて、転売行為をする人を非難して自分が迷惑を被っているかのように言うのは、責任を転嫁するマッチポンプ論法だと言わざるを得ない。しかも行列騒ぎを宣伝に利用しておきながら、都合が悪くなると、逸脱行動をした人たちの被害者然として良い店ぶりのアピールに使うのだから余計にたちが悪い。もっとも、この機会主義と厚顔無恥ぶりこそが商人の本質であると思えば、確かにこれらの「ファッション人気店」が「良い店」であることは間違いないだろう。
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上でも触れたが、この現象は簡単に言えば、
・外国人嫌悪、特に中国人への嫌悪
・異文化接触に伴う違和感(自分たちの社会秩序に異質なものが入ってきたことへの警戒感)
・想定した市場以外からの影響への困惑
・転売行為への道徳的な反感(公正さが侵害されているという感情)
が入り交じった反応の一つだと見るべきなのだろう。
実際の行列では、日本人ホームレスの人たちも多く見られたにも関わらず、この記事ではその存在が一切触れられておらず、「外国人バイヤー」のみが取り上げられているのが興味深い。
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