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2015/09/12

安倍政権下の経済政策についての議論

朝日新聞の記事のメモ。
アベノミクスという言葉は「安倍」のPRのようで嫌い。こういうキャッチーなフレーズにメディアが乗るのも嫌い。まあそれはともかく、同政策への賛否が記事になっていたので記録しておく。
なお、下記の記事の登場者の一人である岩本氏が自身のブログでコメントを追加している。
財政破綻への道はアベノミクスで舗装されている : 岩本康志のブログ
こちらも要参照。

(耕論)アベノミクスでいいのか 岩本康志さん、片岡剛士さん:朝日新聞デジタル(2015年9月11日05時00分)

 安倍晋三自民党総裁が無投票で再選を決め、総裁選を通じて経済政策が問われることもなかった。デフレ克服の処方箋(せん)はアベノミクスでいいのか。「第2ステージ」の課題は。大規模な金融緩和をめぐり立場が異なる2人の論客に聞いた。

 

 ■財政リスク高める異次元緩和 岩本康志さん(異次元緩和に懐疑的な経済学者)

 アベノミクスの「第1の矢」である大胆な金融緩和は、無益で有害でした。

 「異次元緩和」が従来の金融緩和と大きく違うのは、2%の物価目標の達成時期を2年程度と明確にしたことです。日本銀行の黒田東彦(はるひこ)総裁が就任当初に約束した2年の時期は過ぎましたが、物価上昇率はゼロ近辺に戻った。約束が果たせなかったのは明白です。

     *

 <デフレは深刻か> ゼロ金利下では、利下げという最も効果がある金融緩和の手段が使えません。この2年で日銀は、長期国債を大量に購入し、銀行などが日銀に持つ当座預金の量を増やしました。しかし、長期国債を当座預金に置き換えるだけの量的緩和には、物価を上昇させる効果はほぼありません。いずれ金利が正常化すると、金利負担が大きくなり、日銀の財務状況が悪化する可能性があります。日銀納付金が国庫に入らなくなり、政府の財務状況も悪化する。財政のリスクを膨らませてしまったのです。

 デフレ脱却を目指して、そこまでのリスクを冒す価値があったかは疑問です。消費者物価を品目別に見るとパソコンやAV機器の急激な価格下落の影響が大きい。高級機種が手の届く価格になったわけで、生活実感からは「国民を苦しめるデフレ」とは呼べません。

 デフレの問題とは、金利をゼロ以下に下げられないときにデフレが進むと実質金利が上がることです。日銀から見れば、デフレによって不本意に金融を引き締めているので好ましくないが、国民経済全体にとっては、デフレは必ずしも深刻な問題とはいえません。

 6月の「骨太の方針」では方針転換がありました。従来は比較的堅実な経済成長の前提の下で、2020年度までに国と地方の基礎的財政収支を黒字化しようとしていた。今回は実質2%超、名目3%超という高い成長率を前提にしている。高成長シナリオに切り替えたわけです。高成長が実現すれば喜ばしいですが、以前の政権も成長戦略を掲げてきたのに実現しなかった。従来のような低成長に終わる可能性は排除できません。

 リーマン・ショックや東日本大震災への対策で、財政支出は大きく膨らみました。平時の財政の姿に戻すように歳出を減らさなければいけないのですが、来年度の予算編成でも、歳出削減に真剣に取り組む構えになっていません。

 消費税を8%へ上げたのは必要だったし、もっと前にやるべきでした。歳出の費用は、増税の経済への悪影響も含めて負担する必要があり、それを逃れることはできません。1997年に消費税を上げたときは、同時に起こった金融不安や社会保険料の負担増による経済の悪化まで消費増税のせいにされたことで、「消費税恐怖症」が国民にしみついています。

 政府と日銀が近寄りすぎていることも問題です。金融資産を取り崩す高齢者が増えてくると、国民の貯蓄が減り、国債が市場で消化されにくくなる。そのとき、政府が消化できない国債を日銀に直接購入させるよう圧力をかけることが十分に考えられます。中央銀行が貨幣の量をコントロールできなくなると、通貨の信認が損なわれ、高インフレに見舞われる事態も予想されます。

     *

 <まだ引き返せる> アベノミクスは財政破綻(はたん)への道を舗装したと言えます。ただ、今はまだ潜在的な危機にとどまっている。道を舗装しても、その道を進まない選択肢はあります。

 まず従来の堅実なシナリオのもとで、基礎的財政収支を黒字化するために財政運営の戦略を立て直す。そのためには歳出削減が必要だし、増税も必要です。日銀も、長期国債を大量購入するのはやめる。日銀と政府はもっと距離を置くほうが望ましいでしょう。

 アベノミクスに合格点はつけられないが、そのような希望をもって、甘めに40点としたい。舗装された道を進み、財政危機を招いたときには0点でしょう。

 (聞き手・尾沢智史)

     *

 いわもとやすし 1961年生まれ。東京大学大学院教授。専門は公共経済学、マクロ経済学。一橋大学教授などを経て現職。共著に「マクロ経済学」。

 ■所得支え成長への期待高めよ 片岡剛士さん(リフレ派エコノミスト)

 もしアベノミクスが発動されていなかったら、日本経済はどうなっていたでしょうか。行き過ぎた円高が災いし、著名な上場企業が相次いで経営危機に陥っていた可能性が高いと考えています。

 過度の円高は、輸出製品の価格競争力を悪化させます。リーマン・ショック以降、日本企業は海外勢との競争で苦戦しましたが、それは円高が主因でした。金融政策の無策によって、不利な状況を背負わされていたのです。大リーグボール養成ギプスをつけて投球をしていたようなものでした。

     *

 <悲観の空気一変> 民主党政権時、円はドルに対して70円台の「超円高」を記録し、日経平均株価は低迷。先行きに悲観的な空気が広がっていました。

 しかし、2012年末の総選挙以降、そんな空気は一変します。第2次安倍政権は日本銀行と連携し、デフレから脱するための大胆な金融政策を打ち出したのです。2%のインフレ目標や異次元緩和など、過去の日銀との決別を印象づけた金融政策は、円高からの転換を投資家に予見させました。円を売って他の通貨を買う動きが強まり、一挙に円安が進みました。株価は大幅上昇し、多くの企業が最高益を更新しました。

 アベノミクスが本格起動した13年は、財政政策の効果もあいまって高額品を中心に消費が伸び、インフレ期待が高まったといえます。ここまでの評価は90点です。うまくいったと思います。

 背景には、将来への予想が好転したことが影響しています。経済状況の回復には予想が大きな役割を果たします。人は「賞与が上がりそうだから購入しよう」などと将来を見越して行動します。一方で、物価が下がり続けるデフレ下では「もっと安くなってから」と消費を控えてしまう。消費が伸びないから企業経営者は事業拡大の展望が描けず、生産増や投資に踏み切れない。デフレは期待を確実にむしばみます。

 しかし、高まった期待に水を差してしまったのが14年4月の消費税増税です。消費者物価は増税の影響で一時3%を超えて上昇し、消費の低迷が続いています。消費税増税は駆け込み需要による反動減を引き起こすだけでなく、人々の期待を後退させ、恒久的に消費を控えさせる方向にも働きます。アベノミクスは景気回復への方向感を失いつつあります。

     *

 <増税は悪循環に> デフレ脱却を果たさぬままに増税すれば、景気は悪化して税収が減り、再び増税を迫られる悪循環に陥ります。まず経済のパイ自体を拡大することで財政健全化を図るべきです。

 経済政策は、成長を通じ国民一人ひとりの満足度を上げることを目指すべきです。消費や投資が主導する形で景気が回復していく好循環をつくらないといけない。しかし、4~6月期は消費や投資が低迷し、実質成長率はマイナスでした。

 「骨太の方針」では「我が国経済は、1990年代初頭のバブル崩壊後、およそ四半世紀ぶりの良好な状況を達成しつつある」との認識が示されましたが、楽観的過ぎると思います。14年、15年に入ってからのアベノミクスの評価は50点です。

 中国経済の減速懸念や米国の利上げの行方に注目が集まるなど、世界経済の雲行きは急速にあやしくなっています。今こそ国内総生産(GDP)の6割を占める消費の政策的な底上げが急務なのです。具体的には1人あたり3万円の定額給付金支給などを主眼にすえた、総額5兆円規模の経済対策を早急に実施すべきです。

 アベノミクスの本質は、国民の心に「少なくとも先進国平均なみに日本は毎年成長しつづける」という長期的な期待を育み、国民の自由な経済活動を促進する制度整備を進め、所得を安定的に増やすことにあります。政府は再び政権発足当初の強い期待を醸成する必要があるのです。

 (聞き手・古屋聡一)

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 かたおかごうし 1972年生まれ。三菱UFJリサーチ&コンサルティング主任研究員。専門は応用計量経済学。「日本経済はなぜ浮上しないのか」など著作多数。

 ◆キーワード

 <アベノミクス> デフレからの脱却をねらう安倍政権の経済政策。大胆な金融政策で流通するお金の量を増やし、機動的な財政政策で景気を下支えするとともに、規制緩和や税制改革などで民間投資を喚起して持続的な経済成長を図る。

片岡氏の考え方について、岩本氏は、国民の期待形成についての想定がご都合主義だと批判している。そこはなるほどと思う。
インフレターゲットが失敗しているという指摘も、まあそうだよなあと思う。政府の圧力もあるし、組織防衛の欲求も強いと思うけれど、日銀はもっと率直であってほしいなあといつも思っているので。

ただ、岩本氏はあえて表面的な指摘にとどめたのかなという気がする。もっと深く突っ込むとリフレ政策や円安誘導の意義を巡って厳しい議論になってしまうから、それを避けたという気もする。
現代のマクロ理論にはついて行っていないので分からないのだけれど、私のイメージでは、そもそも、期待形成の頑健性が実証的に担保されていないのであれば、マクロ理論って何でもありになってしまうんじゃないかという気がしている。

岩本氏の今回の話は財政破綻の危険に集中していて、それとマクロ経済との関係との話はない。財政破綻がマクロ経済を大混乱させるのでそれは絶対に回避しなければならないということがおそらく暗黙の前提になっている。片岡氏はたぶん、財政破綻の危険はさほど重大視していない。あるいは、拡張的経済政策→景気回復→財政改善というふうに考えている。片岡氏の議論は今の流行に乗っている(尻馬に乗っている)ようにも見える。対して岩本氏の話だと、財政破綻回避はできるかもしれないが、景気回復はどうなるのだろうかという不安が出る。繰り返しになるが、今回の岩本氏の話ではそこは語られなかった。
二人の話の中に、消費低迷への認識やその原因が何かという話はなかった。再分配論者は歯牙にも掛けられていないということなのか、それとも今回の主要論題にはならなかったということなのか。


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