菅氏のユネスコ分担金停止・減額発言を英米紙が「恫喝」と報じる
ガーディアンとボイスオブアメリカの報道。まずガーディアンから。
Japan threatens to halt Unesco funding over Nanjing massacre listing | World news | The Guardian(Justin McCurry in Tokyo, Tuesday 13 October 2015 09.06 BST)
Japan has threatened to withdraw its funding for Unesco after the UN body included disputed Chinese documents about the Nanjing massacre in its Memory of the World list, despite protests from Tokyo.というわけで、冒頭第1文から、「出資を引き上げると脅迫した」と報じられちゃってます。
で、
Japan contributed 3.72bn yen (£20m) to Unesco last year, about 10% of Unesco’s budget. It was the first UN body Japan joined, in 1951, as it sought to contribute to the international community after its wartime defeat and occupation.日本の分担金はユネスコ予算の約10%なんだそうですね。またユネスコは日本が戦後初めて加盟した国連組織だったとのこと。
記憶遺産認定では、
Unesco’s director-general, Irina Bokova, approved the Nanjing inscription in Abu Dhabi last Friday, after receiving recommendations from a 14-member panel of archivists and librarians.ということで、審査員は14人だったそうです。
で、事前の日本側の動きが少し触れられています。これは知らなかったなあ。
Japan, however, has questioned the authenticity of the documents, adding that its offers to cooperate with Chinese experts to establish their veracity had been rejected by Beijing.日本は、中国側に真正性確認のために協力するよと申し出たけれど中国からは断られてしまったとのこと。協力ってどんなことだったのだろう…。Japan’s foreign ministry said the nomination “raises questions about the action of the international organisation that ought to be neutral and fair”, adding that “it is evident that there is a problem about the veracity” of the archives.
で、日本政府としては、「真正性チェックのための協力」が断られた→真正性に疑義があるというスタンスなのでしょうか。ユネスコをも批判していますが、政治が介入したらかえって「中立公正」から外れるのでは?という素朴な疑問にはどう答えるのでしょうかね。
ところで、この記事で一番興味深かったのが次の一節。
Newspapers in Japan were united in their condemnation of Unesco’s decision. “We cannot accept China’s stance of using a system for protecting cultural assets for political purposes in a campaign against Japan, and trying to fix its self-righteous historical perception in the international community,” the conservative Yomiuri Shimbun said in an editorial.曰く、日本の新聞は皆こぞってユネスコ批判で一致している、と。The liberal Asahi Shimbun noted that some Chinese historians questioned Beijing’s claim that the death toll ran to more than 300,000. “There are few clues that could substantiate that death toll, which many historians in China doubt,” the newspaper said. “But there is no air of freedom that allows them to discuss the matter openly.”
その例として読売が出てくるのは当然として、「リベラルな朝日新聞」もそうだと指摘されています。で、朝日の婉曲、かつ中国蔑視を露骨に出した主張を引いています。
まあこの記事を一読すると、南京事件が日本人の逆鱗であり、ここに触られると日本中がヒステリックに叫び出す…という印象を持ちますね。いや、全く正しいですが。
次、ボイスオブアメリカのニュース。
Japan Threatens to End UNESCO Funding Over Nanjing Massacre Files(October 13, 2015 7:52 AM)
本文自体は短く事実を伝えているだけですが、ここでもばっちり「脅迫している」と報じられちゃってます。VOAって現政権には好意的な立場だと思いますが、それでもこう言われてしまったというところが興味深い。
例えば安保法制に関する次の記事は、安倍政権・自民党に対するVOAの好意的な立場がよく現れていると思います。
Japan Passes Bill Lifting Military Restrictions(September 18, 2015 1:54 PM)
※台湾の関連報道を検索してみたところ、今のところ、大陸系の報道以外では「脅迫」みたいな論評は見つからず、発言内容を単に報じるだけにとどめているようです。
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ところで、ガーディアン紙記事にある、「日本政府が真正性調査の協力を申し出たが中国に断られた」という話ですが、他の報道などが見つからない。誰かが記者会見で述べていたのかな?
参考:南京 日本 協力 記憶遺産 中国 拒否 - Google 検索
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追記(2015年10月15日)どうやら本当らしい。しかもオチ付き。本記事末尾に追記。
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代わりに見つかったのは、産経の「記事?」で、
・ユネスコとその委員に政府が働きかけていた……圧力?宣伝?
・「民間団体」がユネスコに反論文書を提出していた
という話。昨年でしたか、人権委員会で盛大にやらかした姿を思い出しますなあ。
産経の話なのでどこまで信用できるか分かりませんが、もしこれが事実なら、
・日本の方が政治的圧力を掛けているやん…汗
・日本側の情報提供もあって認定されたなら、余計に公平に判断されて認定したのでは…汗
などと詰まらない突っ込みを入れたくなりますな。
なお、検索中に、「ユネスコの審査員に歴史家はいないじゃないか!」と怒っているブログの人を見つけましたが、それなら日本の他の記憶遺産認定も皆でたらめだったというわけですね。シベリア抑留関連で認められて、舞鶴の人たち喜んでいたのになあ……。
世界記憶遺産登録 舞鶴市が記念セレモニー|MBS 関西のニュース(更新:10/13 12:05)
京都の舞鶴引揚記念館に所蔵されるシベリア抑留などの資料が世界記憶遺産に登録されたことを記念し、地元でセレモニーが行われました。世界記憶遺産:舞鶴引揚記念館 「次世代への継承」誓う - 毎日新聞(2015年10月10日 12時23分(最終更新 10月10日 12時41分))13日午前10時、舞鶴市役所に記念の垂れ幕が掲げられ、集まった人たちは拍手で登録を祝いました。
ユネスコの記憶遺産に選ばれたのは、第二次世界大戦後もソ連によってシベリアに抑留された元日本兵らが記した日記やはがきなど570点です。
資料を所蔵する舞鶴引揚記念館は先月リニューアルオープンしたばかりで、登録効果もあってか、12日までの3連休には去年の3倍に近い3800人余りが訪れました。
セレモニーでは地元保育園の園児らによってハトの風船が放たれ、参列者は平和への誓いを新たにしました。
◇舞鶴市で「戦後70年・海外引揚70周年平和祈念式典」シベリア抑留者の苦難を刻んだ記録「舞鶴への生還」が国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界記憶遺産に登録された。記憶遺産への登録が決まった10日、「舞鶴引揚記念館」がある京都府舞鶴市では偶然にも「戦後70年・海外引揚70周年平和祈念式典」が開かれることになっていた。市は急きょ、記憶遺産への登録決定も祈念式典の内容に加えることにした。式には約650人が集まり、記憶遺産への登録の喜びとともに、引き揚げ者の苦難や祖国に戻れず亡くなった人たちの無念に思いをはせながら、戦争の悲惨さを語り継ぐ決意を新たにしていた。
式ではシベリアの収容所で約3年間抑留された舞鶴市在住の安田重晴さん(94)が引き揚げ船の鐘を鳴らす中、参列者全員が1分間の黙とうをした。続いて市内の小中高生が平和メッセージを朗読。「若い世代が担っている、平和の尊さを次の世代につなげるという大切な役割をあらためて発信していきたい」などと記憶遺産資料と共に戦争・引き揚げの体験世代から受け継いだ記憶を伝え続けることを誓っていた。【鈴木健太郎】
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追記(2015年10月15日)
政府が中国側に協力を申し出たという件について。
産経新聞と称する自民党の広報誌がいつものプロパガンダを展開 - 誰かの妄想・はてな版(2015-10-14)
自民党が「中国が申請した『南京事件』資料のユネスコ記憶遺産登録に関する決議」というものを出したという産経の「報道」があるとのこと。それによれば、日本政府は、中国政府に対して
1.申請取り下げ
2.申請書類の共有
3.日本人専門家派遣の受け入れ
を要請してきたとのこと。これがガーディアン紙の話につながっているのだろう。
「申請書類の共有」が共同提案を意味するのかちょっと不明だが、日本側も積極的に関連資料を公開して記憶遺産を豊富化するのであれば、それ自体は良いことだ。もちろん、そんな方向ではないだろうことは容易に想像できるけど。記憶遺産の認定には社会への公開性も考慮されるので、日本政府が戦争加害に関する資料を遺産申請の俎上に載せるとは思えないというのがその理由。
この自民党決議について、朝日新聞も記事を出している。上記 scopedog 氏の記事にリンクがある。
政府に「南京」登録撤回の提案求める 自民部会が決議:朝日新聞デジタル(2015年10月14日13時24分)
自民党外交部会などは14日の合同会議で、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界記憶遺産として、中国が申請、登録された「南京大虐殺の記録」について、日本政府が登録撤回を提案するよう求める決議をまとめた。ユネスコの分担金・拠出金の停止などの対応も求めた。記事末尾に、外務省がアブダビに高橋史朗氏を派遣したとある。外務省によると、記憶遺産にはこれまで348件が登録されたが、登録が撤回された事例はない。
会議では、「南京」を審査した国際諮問委員会が開かれたアブダビ(アラブ首長国連邦)に「新しい歴史教科書をつくる会」元副会長の高橋史朗・明星大教授が外務省の民間協力者として派遣されていたことも報告された。
これが自民党が言う「日本人専門家」なのだろうか?いささか文脈が異なるような気もする。
もしこれが高橋史朗氏であれば、scopedog 氏が言うとおり、中国に一蹴されるに決まっている。この人、酷すぎるからなあ…。
しかし、外務省がこの人を呼ぶというのもものすごい。慰安婦問題でもアメリカとかでアレな活動をやってるし、粗悪なことは明白なのに。それとも、中国側に蹴らせてそれを口実に日本の正当性を補強しようということだろうか。
参考:「親学」の高橋史朗・明星大学教授を巡るツイート(きわめて悪評) - Togetterまとめ
ちょっと古いし親学関係だから方向はずれているけれど、何というかまぁ…スピリチュアル風味が入ったアレ系の人だからなあ…。
ただ、朝日記事ではアブダビの審査委員会に外務省が送り込んだとなっているので、ガーディアン紙が言う、中国に向けた「資料の真正性を検証するための協力」申し出とは微妙に食い違う気がする。はっきりしないな…。
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