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2015/11/06

松浦氏インタビュー記事:愛国保守化する毎日新聞。南京事件の認識も間違ってるし。

前前ユネスコ事務局長の松浦晃一郎氏へのインタビュー。
本当かな?と思うことがいくつかある。

「南京」については、日中それぞれに記録があり、研究者の間では以前から異論があったにもかかわらず、日本側の記録は反映されず、反論の場も与えられなかった。
日本側の記録が反映されていないのは、中国側の事情というよりも日本側の事情だったのではないか?「反論」と言うが、日本側がしようとしていたのは、南京事件の史料の交流や突き合わせなどではなくて、日本側の主張をただ述べ立てようとしていただけだったのではないか?
−−今後、日本がとりうる措置はありますか?

 まずは中国が提出した11の文書を専門家が吟味し、日本側の冷静な反論をユネスコ側に伝えることです。理論的な可能性だけでいうと、もし文書が「真正性」のない、つまりインチキなものだったら、取り消しや修正ができないわけでもない。

史料の真正性について「冷静な反論」ができるのならやったらいいけれど、それは果たして日本政府や南京事件否定論者が満足するようなものになるかな?
戦争にかかわるような記録の場合、少なくとも関係国の意見は聞いて、遺産としてふさわしいかどうかを審議する必要があるでしょう。
「中立性を」と言いながら、歴史資料の評価に国際政治の介入を求めるような議論。松浦氏が日本政府の権益を主張するのは当然だけれど、それならば彼を「元ユネスコ事務局長」と紹介するよりも「元外務省官僚」と紹介すべきだろう。少なくともユネスコの理念からはほど遠いことを主張しているわけだし、あからさまな政治介入の要求がユネスコで通るとも思えないし。
松浦氏の主張よりもっと問題なのは、この主張が「中立」を担保するための仕組みであるかのように報じている毎日新聞の姿勢だ。政治バランスが歴史資料の評価を決めるという仕組みを「中立」だと思ってしまう時点で、戦争責任問題を政治紛争の文脈でしか見ることができない認知のゆがみが現れている。
南京大虐殺文書

……中略……(犠牲者数は:引用者注)研究者間では「数千から数万」という説が多い。

毎日新聞のこの解説はひどく間違っている。「南京大虐殺」の範囲をどう考えているのだろうか。それに、東京裁判などで扱われた数字も知らないのだろうか。何を見て書いたのだろうか。

あと、どうでもいいけど、松浦氏は山口県出身なのな。安倍首相と同じ長州藩か。

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そこが聞きたい:世界記憶遺産 松浦晃一郎氏 - 毎日新聞(2015年11月04日 東京朝刊)

 ◇審議の透明性に課題 前ユネスコ事務局長・松浦晃一郎氏

 ユネスコ(国連教育科学文化機関、本部パリ)の「世界記憶遺産」に中国が提出した「南京大虐殺文書」=1=が登録されたことの波紋が広がっている。「人の心の中に平和を」とうたったユネスコ憲章の採択から11月で70年。高らかな理念の一方で、世界の遺産の選考方法に課題はないのか。前ユネスコ事務局長の松浦晃一郎氏(78)に聞いた。【聞き手・森忠彦、撮影・内藤絵美】

−−まず「世界記憶遺産」とは?

 私は「ユネスコの3大文化遺産事業」と呼んでいます。一つは誰もが知っている「世界遺産」。これは歴史的な建造物や遺跡が対象。次に私が事務局長だった2003年に採択された「無形文化遺産」。形がない芸能や祭りなどが対象で、日本からは歌舞伎や和食などが登録されています。もう一つが1991年のユネスコ総会で決まった「世界の記憶」、日本では「世界記憶遺産」と呼ばれます。貴重な文献や記録を後世に残すのが狙いですが、デジタル保存し、インターネットで公開することも目指しています。ベートーベンの交響曲第9番の自筆譜やフランスの人権宣言、アンネの日記など歴史的な記録を、世界中の人が閲覧できるようになりました。

−−記憶遺産について日本での認知は遅かったように思いますが。

 92年から制度が動き出し、97年から登録が始まったのですが、私たちがパリから運動してもなかなか日本政府は乗ってこなかった。ほぼ20年間、日本は無関心だったと言っていい。最初の登録となる「山本作兵衛による筑豊炭坑の記録画」(11年)も、10年ほど前に始まった「明治日本の産業革命遺産」(今年、世界文化遺産に登録)の現地調査の段階で、海外の委員から「これは世界の記憶を狙える」と勧められて初めて、動き出したほどです。その点、中国は92年段階から記憶遺産には積極的でした。

 条約で決まった世界遺産や無形文化遺産とは違って記憶遺産は総会決議で、選考過程も異なります。クローズされた関係者だけで進められ、経過も非公開。最終決定は本部の国際諮問委員会(14人)の承認を得て事務局長がサインして成立しますが、その前の登録小委員会(9人)で選考が行われます。基準は「世界的な重要性」があるか、本物の価値がある「真正性」があるか。今回、中国が出してきた「南京」は認められましたが、「慰安婦」はここで却下されました。そのほか、諮問委の下部組織として地域委員会(日本関係はアジア・太平洋地域)があります。

 残念ながら現在、諮問委にも小委にも地域委にも、日本人は入っていません。中国は当初から熱心で現在も地域委に議長を出しています。当然、情報は多いし、諮問委との人脈もある。部外者は小委の内容はもちろん各国が提出してきた文書も知ることができません。「南京」については、日中それぞれに記録があり、研究者の間では以前から異論があったにもかかわらず、日本側の記録は反映されず、反論の場も与えられなかった。背景には近年の日中間の政治的関係の悪化という事情があるでしょう。

−−今後、日本がとりうる措置はありますか?

 まずは中国が提出した11の文書を専門家が吟味し、日本側の冷静な反論をユネスコ側に伝えることです。理論的な可能性だけでいうと、もし文書が「真正性」のない、つまりインチキなものだったら、取り消しや修正ができないわけでもない。もう一つは来春、ベトナムで開かれる地域委の総会に代表団を送り込み、日本として積極的に選考に加わってゆくことです。国際的な人的ネットワークの薄さが日本の弱い点です。

 また、ユネスコ本部では記憶遺産の審議プロセスに透明性を持たせるように働きかけるべきです。今回、「南京」を受けて、ロシアが日本のシベリア抑留者の記録についてクレームをつけてきましたが、ロシア政府も途中経過を知らなかったようです。戦争にかかわるような記録の場合、少なくとも関係国の意見は聞いて、遺産としてふさわしいかどうかを審議する必要があるでしょう。

−−ユネスコ分担金=2=の削減や停止の声も出ています。

 これは賛同できませんね。「南京」の登録を受けて政治サイドがとりあえず怒りを表明した気持ちはわかりますが、結局は一番損な選択です。分担金(年間約37億円)は加盟国の義務で、たとえ一時停止しても、再開時には払わなければなりません。分担金からは日本が熱心な世界遺産関連の経費も出ています。その間、日本は「金も払わないのに」と言われながら、肩身の狭い中で活動しなければなりません。

−−パリの本部では3日、ユネスコ総会が始まりました。日本からは文部科学相も出席します。

 いいことです。米国が拠出を止めている今、日本は最大の拠出国です。総会には各国が閣僚級を送り込んできます。せっかくなら演説だけで帰るのではなく、数日滞在して、閣僚同士のネットワークをつくってほしい。日本に不足しているのが、まさにこの国際的な人脈、ネットワークなのですから。

 ◇聞いて一言

 日本初の記憶遺産まで約20年。これは世界遺産の条約採択から日本の加盟までに要した時間と同じだ。ブームが起きると過剰に盛り上がるが、立ち上がりが遅いのが日本人の欠点か。松浦さんは「外務省と文科省の、行政の壁もあって……」と苦笑する。さらに深刻なのが学者や公務員などの国際ネットワークの弱さだ。留学志望の若者も減少している。ここのてこ入れが急務なのではないか。

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 ■ことば

 ◇1 南京大虐殺文書

 中国が提出した記録は計11。1937年12月、中華民国の首都だった南京に侵攻した日本軍が起こした虐殺事件の犠牲者を「30万人」としている。日本側の政府見解は「あったことは否定できないが、被害者数は諸説ある」。研究者間では「数千から数万」という説が多い。

 ◇2 ユネスコ分担金

 加盟国の経済力を勘案して決まる。2014年は(1)米国(22%)(2)日本(10.8%)(3)ドイツ(7.1%)の順だが、米国は11年にパレスチナが正式加盟したため、国内法により停止している。このほか、任意の拠出金がある。

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 ■人物略歴

 ◇まつうら・こういちろう

 1937年生まれ、山口県出身。外務省入省後、北米局長、駐仏大使などを経て99〜2009年にユネスコ事務局長。現在はNPO「世界遺産トーチランコンサート協会」特別顧問。日仏会館理事長。


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