人の生活能力を奪えば社会的費用が増大する
CNN.co.jp : デンマーク、難民の財産没収法を可決 欧州の強硬姿勢に拍車 - (1/2)(2016.01.27 Wed posted at 10:42 JST)
1.難民認定申請者から当局が現金や貴重品を没収して経費に充てることを認める法案を賛成多数で可決
2.採決では81人が賛成、27人が反対し、1人が棄権。
3.現金や所持品が1万デンマーク・クローネ(約17万円)を超す場合、当局が超過分を没収できる。
同様の規定はスイスとドイツにもあり、スイスでは資産を没収される難民が相次いでいるとのこと。
わずか17万円分の財産しか持たずに亡命先で自活することはほとんど不可能だろう。全く新しく生活基盤を作るためには多額の原資が必要になる。
デンマークの与党自由党は、この財産没収を、福祉や社会保障のためだとしているようだが、それは本末転倒になるだろう。つまり、この没収措置によって、かえって福祉や社会保障のコストを増やしてしまうことになる。
極度に大きな資産を持っている人から没収するのであればまだしも、わずか17万円しか残さないのであれば、一文無しの状態で路上に放置するに等しくなる。つまり、本当に徒手空拳で生活を立て直さねばならない状態の人を大量に国内に滞留させることになる。これがどのような社会不安を生むか。
自活して落ち着いた生活ができる環境を提供することが、結局はもっとも社会に負担を掛けない安上がりの方法なのである。
そしてまた、難民として流入した新たな人々が、貧困と生活苦によってその持つスキルや知識、創意工夫を十全に発揮できなくなれば、デンマーク経済はせっかくの成長機会を活用できずに終わるだろう。
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追記(2016年1月28日)
本件について次のような論評があった。
「世界1幸せな国」デンマークの本性 難民の現金や貴重品を没収する法案を可決(木村正人) - 個人 - Yahoo!ニュース(2016年1月28日 5時6分配信)
木村正人氏のプロフィールは次のようなものだそうだ。
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。記事には参考になる情報も多いが、次の表現に引っかかった。
(木村正人の記事一覧 - 個人 - Yahoo!ニュース)
デンマークは「世界1幸せな国」という仮面を外して、イスラム系移民や難民に対して「最も冷たい国」という本性をさらけ出しました。
難民申請者の財産を没収する措置は実はスイスやドイツの南部バーデン・ビュルテンベルク州とバイエルン州でも導入されているそうです。世界幸福度ランキングで1位と3位の国が難民申請者の財産を没収するとは一体どういうことなのでしょう。これが「偽善」という仮面を剥ぎとった欧州の人道主義の素顔なのだと思います。上で紹介した記事によれば、今回の措置にはデンマーク国内でも異論が多かったという。それは実際その通りなのだろう。このような政策が異論なく社会に受け入れられたとしたら、相当異質な社会状況が出現しているはずだろうからだ。
そのように賛否両論が渦巻く中で決まった一つの措置をもって「本性をさらけ出す」とか「人道主義の素顔」などと評するのは短絡的で、本質主義に堕していないだろうか。
どんな社会だって一枚岩ではないし、その中にある倫理や道徳、思想や文化は多様であり複雑であるはずだ。デンマークは今回確かに「もっとも冷たい国」(ただし日本を除く)に擬せられる措置を執ったかもしれない。しかし、それがデンマークという国や国民の「本性」だとは言えないし、況んや欧州共通の「人道主義の素顔」を見せたものだとは到底言うことはできない。
本質主義には、社会を「本性」や「素顔」などという言葉で解釈し、単純化した構図で満足するという思考力の吝嗇がつきまとう。たった一人の人間ですら「本性」や「素顔」などがあるのか、仮にあるとしても一体「素顔」がいくつあるのかなど、疑問はいくらでも出てくるのに、人間の集団である社会を「本性」などと呼べるシンプルな本質から語ることで何が明らかになるというのだろう。
そのような志向に囚われている限り、どれほど多くの見聞を深めようとも物事の本質には迫れないだろう。レンズが歪んでいれば、何枚写真を撮っても使い物になる画像は撮れないのである。
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