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2016/02/26

部落差別に関する朝日新聞のレポート

隠れた部落差別、今も ふるさとの料理出したら離れた客:朝日新聞デジタル(2015年12月24日13時40分)

同和教育への反対では「寝た子を起こすな」論がある。差別があると教えることが差別を再生産する、被差別部落という存在を知らない世代が増えることで差別がなくなっていくという考え方だ。私の祖母もそういう考えを持っていた一人だった。小学校で同和学習をしてきた私に対して、祖母は「そういうことを教えるから子供が好奇心を持ってしまい、どこが部落なのか、誰が部落出身者なのかと探すようになる」と言ったのだった。

私は言葉を返すことができなかった。子供ながらに反論したかったのだが、「そんなことをする子供など現れない」とは思えなかったのだ。そういう可能性がある限り、同和教育が差別を助長する効果は否定できない。だから反論できないと思ったのだった。

その後、寝た子を起こすな論への反論方法をいくつか知った。ただ、同和教育が必要だと私が思う理由の中で特に大切だと思うのは、同和教育が、生徒自らが関わるリアルな人権問題を学ぶ機会を与えているということだ。部落差別は言うまでもないが、それにとどまらず出身や門戸に関わる差別意識、差別行動は広範かつ根強く存在している。私の身近な小さな一例を挙げれば、妻に方言を禁じた夫がいる。部落出身者ではない多くの人にとって、同和教育は、自分の本当に身近に差別があり、自分が無意識に差別に荷担してしまう可能性を実感する機会になると思うのだ。
だが、寝た子を起こすな論が言うように、同和教育には露悪的な嗜好を刺激する効果もある。だからその教育方法が重要だ。差別がどのように現れるのかを学ぶこと、自分が差別の現場に直面した時に自分が差別者に荷担しない勇気、被差別者を守る勇気を持てるのかを問うことは基本的に重要だ。自らが差別者である可能性(というか、現状に生きればすでに差別者になっているのだけれど)を忘れず、差別に立ち向かう実践的な知恵を体得する機会にしなければならないのだと思う。

なお、上記の記事は、もとは朝日新聞愛知県版(名古屋版?)の夕刊掲載の記事らしい。記事見出しは、「隠れた部落差別「今も」 解放同盟愛知県連、結成40年」となっており、インターネット版とは異なっている。以下本文。

 部落差別の解消に向けて運動してきた部落解放同盟愛知県連合会(吉田勝夫委員長)が今年、結成40年を迎えた。生まれた場所などで忌避される部落差別。国や自治体に働きかけて、住環境などの改善や啓発を進めてきた。差別の実態は見えにくくなったが「様々な日常の場面で差別は残っている」と解放同盟県連幹部は話す。

 名古屋市で居酒屋を経営する山本義治さん(38)は今年6月、生まれ育った地域で親しんできた料理をメニューとして紹介した。とたんに離れた客がいた。ふるさとは被差別部落とされた地域だ。
 「またか。まだ差別は残っているんだな」と感じた。「出身地を恥じることはない」という信念に基づく行動だったから、メニューはそのままで「スタイルは変えない」と言う。「生身の人間を見て、つきあってほしい」
 県西部の男性(40)は、小・中学生の娘2人には自分が結婚した時の体験を、まだ伝えられていない。
 20代の頃、妻にプロポーズした際「できないかもしれないよ」と出身地を告白された。自分の両親には「親族の結婚の妨げになる」と認められず、家を出た。披露宴に男性の両親や親族の姿はなかった。
 「結婚したい人と一緒になれたことが一番幸せ」と結婚は後悔していないが、娘たちには「いつか言わなきゃとは思う。だけど、娘の友だちやその親の反応が怖い」。

 ■生活環境は改善
 同和対策事業特別措置法に基づき、1969年に環境改善が必要な地区に指定された県内のある地域では80~90年代、約4割が共同住宅に建て替えられた。1棟で2世帯用の共同住宅が軒を連ねる。消防車も入れない狭い道は一部残るが、主な道は広げられた。
 こうした状況を受け、全国地域人権運動総連合議長の丹波正史(せいし)さん(68)は「差別は全くなくなったわけではないが、部落差別の問題は大きく克服した」と話す。同団体は、解放同盟から運動方針を巡り分立した全国部落解放運動連合会(全解連)を受け継ぐ。全解連は2004年、「社会問題としての部落差別は解消した」として解散した。
 だが、この地区より、隣接する他の地区の路線価は2・5倍も上回る。付近の不動産会社は「まず購入する人がいない。価格の差より価値は低い」と明かす。
 07年には、被差別部落として地名などを掲載したホームページ「B地区にようこそ!in愛知県」の作成者が名誉毀損(きそん)の疑いで逮捕される事件が起きた。インターネット上には今も、差別的な書き込みが絶えない。解放同盟では、書き込みを見つけるたびに削除依頼などの対応を続ける。
 解放同盟県連の支部長加藤吉雄(きちお)さん(70)は、最近知り合った人に出身地を明かすと「あそこの人には見えんね」と言われた。「胸を張ってふるさとを語れないことがどれほど悲しいか。自分に置き換えて考えてほしい」(小若理恵)

 ■「同和地区の物件避ける」35% 愛知県調査
 愛知県は人権意識調査を2002年度以来5年ごとに実施している。「日本社会に『同和地区』『被差別部落』とよばれ、差別を受けてきた地区があること、あるいは『同和問題』『部落差別』といわれる問題があることを知っているか」の問いに、「知らない」と答えた人は12年度で31・3%。07年度27・2%、02年度30・0%と横ばいだ。
 一方、「同和地区の人と結婚しようとする時、親や親戚から強い反対を受けたらどうしますか」という問いに、12年度で「家族や親戚の反対があれば結婚しない」と「絶対に結婚しない」を合わせて31・2%が「結婚しない」と答えた。この割合は調査ごとに増えている。また、12年度の調査で加えられた「住宅を選ぶ際、同和地区にある物件を避けるか」という問いには、35・5%が「避ける」と答えた。
 「部落差別はそっとしておけばなくなる」という考え方に対し、調査報告書は「正しい知識を伝えなければ誤った考えが広がり、差別の助長につながる」と訴える。
 12年度調査は県内在住の20歳以上の男女3千人を無作為抽出し郵送で調査。1361人(有効回収率45・4%)から回答があった。

この記事には、上記アンケート調査の一部結果が出ているので、その図を書き起こしておく。

設問:住宅を選ぶ際、同和地区にある物件を避けることはありますか
1.同和地区や同和地区と同じ小学校区にある物件は避ける:21.9%
2.同和地区にある物件は避けるが、同和地区と同じ小学校区にある物件は避けない:13.6%
3.いずれにあってもこだわらない:29.7%
4.わからない:30.2%
5.その他:1.2%
6.不明・無回答:3.3%

人権アンケートは興味深いが、そもそもこの種の質問への回答には「善い人であろう」とするバイアスがかかるだろうことを考えると、実際の「避ける」行動の割合はもっと高いのだろう、即ち、少なくとも3分の1以上の人が部落差別に荷担していると言えるだろう。

ここで、この設問が住宅購入についてだと想定し、物件購入に夫婦の合意が必要だと考えてみる。
同和地区を敢えて選ぶ積極的な理由はあまりないだろうから、夫婦のどちらか片方が「土地柄が悪い」と言った場合には、その物件を忌避する可能性が高まるだろう。すると、実際の「避ける」行動は、上記アンケート調査の結果よりももっと高いことになる。このことは、上の記事で、不動産会社が「まず購入する人がいない。価格の差より価値は低い」と言っていることと符合している。

今現在の日本で、自分が部落差別に荷担していると思っている人は少ないだろう。しかし、現実には同和地区の不動産を買おうという人はほとんどいないというわけだ。これが21世紀の我々の現実である。

さて、「おっ、いいな。ここに住みたいな」と思った物件が実は同和地区の中にあったと分かったとする。あるいは、あなたが気に入った不動産を、あなたの家族が「いやあ、あの地区はちょっと……」と嫌がったとする。
あなたはその物件を避けますか?


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