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2016/03/29

学問の府の自殺:愚昧な大学の炎上アレルギー

バカの極みとしか言いようがない反応。

本学卒業生の未成年誘拐について | 2015年度 | トピックス・イベント情報 | 国立大学法人 千葉大学魚拓

掲載日:2016/3/28

 このたび,本学工学部の卒業生が,未成年誘拐の容疑で身柄拘束されましたことは,誠に遺憾であり,事件の被害者の方・ご家族のみなさまはもとより,世間のみなさまに多大なご迷惑とご心配をおかけしましたことを,心よりお詫び申し上げます。大変に申し訳ございませんでした。

 今後,このようなことがないよう学生への指導に努めてまいります。

 なお,当該者の処分については,卒業取り消しも含め,今後学内で検討していく予定になっております。

平成28年3月28日
千葉大学長 徳久剛史

声明には
事件の被害者の方・ご家族のみなさまはもとより,世間のみなさまに多大なご迷惑とご心配をおかけしましたことを,心よりお詫び申し上げます。
とあるが、主語の不在、「世間」や「ご迷惑とご心配」という語句の怪しさ、大学がどのような意味で責任を負っているのかについての説明の欠如など、本当にこれが知の殿堂たる大学の文章なのかと呆れる。さらには「卒業取り消し」という極端な処分案を、まだろくに学内審議も進んでいないであろう状況で表に出してしまう拙速さ。目を疑う愚かしさである。

当たり前のように批判コメントが多数。

はてなブックマーク - 本学卒業生の未成年誘拐について | 2015年度 | トピックス・イベント情報 | 国立大学法人 千葉大学

おそらく、はてブのコメントにあるように、大学にはクレームが殺到しているのだろうし、ネットには千葉大学を誹謗・中傷・嘲笑するコメントがあふれているのだろう。大学上層部と広報関係者が

炎上→早急な謝罪・引責・関係者処分→速やかな鎮火+評判向上

というネット上のリスクマネジメントの方程式を想起したのは理解できないわけではない。

けれども、あまりに過敏かつ無法な声明だったし、上記のリスクマネジメントについての理解の浅さも露呈してしまった。関係が薄弱過ぎる上に妥当性を欠いた処分をちらつかせれば、大慌てで「とりあえず謝らなくては」とうろたえているふうにしか見えない。所詮は経営トップが我が身の責任回避を最優先にすお役人体質。部外者にはそのように映っているはずだ。
理屈と正義のあり方については最も深い造詣を持っている機関であるはずの「大学」が見せたこの狼狽ぶりは、「大学といえども所詮この程度に過ぎない」という印象や、そうでなくても千葉大学という大学組織の底の浅さを示すことになってしまった。
それに、そもそも「千葉大学卒業生」だと報道されていなければ、たとえ犯人が卒業生であることを知ったとしても、果たしてこんな声明を出していただろうか。理非曲直ではなく、世間的に騒がれているかどうかを物差しとして自らの行動を決めるというのは、大学という組織の社会的価値を自ら毀損する自殺行為だという他はない。

そして一番気になるのが次の一文。

今後,このようなことがないよう学生への指導に努めてまいります。
もちろん、これはポーズに過ぎない。
大学当局に「指導に努める」強い意志もなければ、能力も権限もないのだから、これはとりあえず書いてみせた謝罪文の定型でしかない。非行学生が教師に書かされる「反省文」や、事件事故の加害者が弁護士に言われて書く謝罪文と同じようなものだ。
しかし、それでもなお、このように表明してしまうことで、大学組織には一定の「指導」の義務とその評価の責任が生じる。そしてこれは学生(と教職員)の自発性尊重や自由裁量の拡大ではなく、反省の強要と締め付けという方向に作用する。統制と世間的知への迎合のもとでは学問の発展はなく、創造的な人材も輩出できないから、これもまた大学の緩やかな自殺につながる。「常識」に安住しそれを疑うことすら知らない人材しか生めないのであれば、大学である必要はない。高等学校・専門学校で十分である。千葉大学は「大学」という看板を外して「千葉職号訓練校」に改組すればいいだろう。

余談だけど、千葉大学のこの反応は、また海外報道の「奇妙な日本」ネタになるんじゃなかろうか。

*****************
追記(2016年3月30日)

「さかのぼって処分することは困難」少女誘拐「卒業取り消し」問題で揺れる千葉大 - 弁護士ドットコム

千葉大学の「卒業取り消し」検討が波紋を広げているそうだ。そりゃそうだ。

「会見の後、本当にさかのぼって適用できるのか、内部で議論になりました。結論から言うと、現在は『さかのぼっての適用は困難』という見方に傾いています。法学の教授らから『法律的に難しい』という厳しい意見があったためです。対応を慎重に検討しなおしています」

現在、千葉大では、3月23日に卒業した男性が、4月になるまでは同大の学生と言えるのかどうかを調査しているそうだ。

「取り消しを前提にしているわけではありませんが、卒業しても3月の末日まで、大学になんらかの効力があるのではないかと考えられるためです」

さらに、取り消しの根拠についても、「容疑者がまだ逮捕されておらず、大学が当事者から話も聞いていないのに、何をもって、(処分を)一方的に決めるのか、という部分もあります。多角的に検討して、なるべく早めに方針を決めたいと考えています」と語った。

広報担当者は「現役の学生がこういうことをしていたというのはショック。本学だけでなく、社会的に見てもあまり例のない事件だと思うので、手探りで対応を考えている状態です」と話していた。

やはり経営陣の先走りだったようだ。関係者はどうしてこれほど慌ててしまったのかを自問すべきだろう。さらに言えば、なぜ大学として謝罪してしまったのかについても考えてほしい。


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