「うれうべき…」検索の副産物:郷土教育と桑原正雄を知ったこと
一つ前の記事の続きになるが、たまたま検索して「郷土教育」の運動を知ったことがむしろ有意義だったので、これをメモしておく。
「うれうべき教科書の問題」をみる: 郷土教育運動のページ(2014年04月21日)
「うれうべき…」が攻撃した教科書「あかるい社会」(中教出版)の執筆者のひとりに郷土教育全国協議会の桑原正雄という人がいたとのこと。このエントリの記述を初め誤読して、桑原が「うれうべき…」執筆者の一人だったと勘違いしてしばらく混乱してしまった。
で、郷土教育全国協議会の桑原正雄の検索結果。
ここでいくつか論文が上がっている。
木村博一(1965)「社会科教育と郷土学習」奈良学芸大学教育研究所紀要 1, 1-23(CiNii, 論文PDF)
郷土学習と生活綴方運動との関係、郷土教育全国協議会と桑原正雄の活動、理論について。
生活綴方運動や無着成恭がこういうふうにつながっていたとは知らなかったので勉強になった。
ていうか、無着氏、存命だったのね。すみません。(無着成恭氏 「子どもの質問がつまらなくなった」理由語る│NEWSポストセブン2016.02.12 07:00)
白井克尚(2014)「1950年代前半における「新しい郷土教育」実践の創造過程に関する一考察-郷土教育全国連絡協議会の「理論」と「実践」の関わりに焦点を当てて-」東邦学誌 43(2), 59-76(CiNii, 論文PDF)
桑原が郷土全協を起こすまでの流れ、郷土全協の運動、思想と時代背景が触れられている。
白井氏の学位論文だが、先行研究のレビューも含めて詳しい。
白井克尚(2015)「1950年代前半における『新しい郷土教育」実践の創造過程に関する歴史的研究―郷土教育全国連絡協議会の教師たちの取り組みを中心に―」兵庫教育大学大学院博士論文(論文PDF)
廣田真紀子(2001)「郷土教育全国協議会の歴史:生成期1950年代の活動の特徴とその要因」教育科学研究(18):33-43(論文PDF)
桑原が関わった教科書「あかるい社会」に対する「うれうべき教科書の問題」パンフの批判も少し触れられている(注27)。
「ソ連中共を礼賛するタイプ」として批判される。「重大な偏向をしめした教科書で、問題がすこぶる多い。だが、まっさきにとりあげたいのはいわゆる”祖国喪失”の暴状である」とし「あたかも日本共産党と同じゆきかたで、ひたすらにソ連と中共を礼賛し、ついには、日本をソ連中共の膝下におくような記述をなしている」と批判される。具体的には・中国の資料をあつかう・戦争大陸侵略という言葉を扱うという点からの批判であった。宮原誠一等編『資料日本現代教育史』(三省堂1974)pp.329-331
次の本は手っ取り早そうだ。
谷川彰英(1988)『戦後社会科教育論争に学ぶ』(教育新書, 52)明治図書(CiNii)
目次「地域に根ざした教育」って何だろう……と思うことが時々あって、「地域」観の危うさを感じていたりもしたのだけれど、自分が漠然と思うより遙かに長く深い考察と実践の蓄積があったのだなあ……と感じ入った次第。不勉強な人間の思考は所詮独りよがりの浅薄さを免れ得ないなあ。1 社会科は「無国籍」だったか(新教育の花形「社会科」;文部省側の対応)
2 問題解決学習VS系統学習(勝田・梅根論争;大槻・上田論争)
3 郷土教育論争(桑原正雄と郷土全協;“つねに郷土に立脚する”)
4 道徳教育論争(修身科復活論争;「期待される人間像」をめぐって)
5 低学年社会科をめぐって(昔からあった低学年社会科不要論;重松鷹泰の低学年社会科必要論;「生活科」に賭けるもの)
6 神話復活論争(山口康助の神話教育観;神話復活論への対応)
7 教科書問題をめぐって(「うれうべき教科書の問題」;家永教科書裁判;「偏光教科書」問題)
8 〈エピローグ〉日本の社会科をどうするか(社会科解体に直面して;上田薫・梅根悟・柳田国男)
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コメント
初めてコメントさせていただきます。私は「郷土教育全国協議会」の現役会員です。偶然にも貴ブログに出会い、少々驚きと嬉しさのあまりつい一言だけ書かせていただこうと思いました。
貴ブログ全てを読んだわけでも、今回の書かれた内容を関連文書も含め熟読したわけでもないのですが、この様に幅広く客観的にとらえて研究されておられることに敬意を表します。
郷土教育というと桑原理論とか過去の実践やら論争に目を向けられがちですが、現役会員としては忸怩たる思いでこれらを眺めさせていただいているのも事実です。ある意味、既に郷土教育理論が一人歩きしているか風化してしまったかの感もあるからです。
ここで深入りはしませんが、私たち郷土教育全国協議会の会員は、今日においていかに郷土教育の理論が共有され継承・発展しているのかいないのか…、自らの生活実践・生きざまを見つめ直している状態です。
時代は変わり状況が刻々と変化する中で、私たちの運動も変わってきたのは確かです。しかし、郷土教育運動の本質は揺るぎないものと確信しています。
今後、機会があれば共に学習させていただけたら有り難いです。
投稿: 関川俊一 | 2016/09/09 12:17