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2016/05/12

メモ:むき出しになった何かを記憶するために

鈴木涼美さんのツイート: "HRN報告書読んだ〜 人権なんちゃらが救おうとしてるのって、可愛くもないのに「モデルやらない?」なんて言葉鵜呑みにして後で「強要された!」とか言ってる人かちら?幸せになるって信じて壺買ったり、愛って信じてホストに貢いだり、儲かるって信じてマルチやったりしそうな?(*^m^*)"

これが鈴木涼美氏のツイートだというところがいかにもな風味を醸し出す。馬脚を現す……ってこういうときに使うのだろうか。

上記は次のツイートで知ったのだが、このツイートの前に付いている一連のツイートがより重要な指摘だろう。
deadletterさんのツイート: "余りにもナイーブな「騙される方が悪い」論を「社会学者」から聞かされるとは。https://t.co/6jRCsf9q50"

そこで参照されているリンク先:
見られなかったAVの話 - 男の魂に火をつけろ!

人権屋によるAV強要キャンペーンをあっさり否定するAV女優たち - Togetterまとめ
このまとめは周知のごとく批判が非常に強い。
……そもそも「人権屋」という言葉を使う人が「人権屋」以上に人権問題に造詣が深いはずもないのだが。

ワタミ店長実名告発!「僕は目の前の焼き鳥が冷めていくのが耐えられない」 - エキサイトニュース(1/2)
このリンク先の内容を端的に示していると思う箇所を引用しておく。

(前略)ワタミグループ内で不幸な事件が起きて、人が亡くなりました。“ブラック”という批判も正しい部分があるのでしょう。痛切な反省をしなくてはいけません。
従業員にはきちんと休んでもらっていますけど、僕はこれからも働きますよ。「ブラックだ」なんて声は関係ない。(後略)

RJTBUさんのツイート: "嘘やん。>川奈さんは現役時代、嫌なことをされたことはないですか?「嫌なことを無理やりさせられたことは一回もありません」元AV女優・川奈まり子さんが語る「出演強要」問題と業界の課題<上>|弁護士ドットコムニュース https://t.co/OpUFswdcOf"
このツイートの後の一連のツイートがなかなか深刻な話になっている。

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このツイートは気になった。
deadletterさんのツイート: "別の記事では、「芸能人になれると騙されてきている女性を撮影するのは憂鬱だ」と溜池ゴロー氏がこぼした際には、川奈まり子氏は「罪つくりだ」と応じ「なんと残酷なことか」と回顧している。業界の「ブラックな」部分については充分過ぎるほど知っていたように思える。"

軍慰安所の管理者が「慰安婦に兵士の相手をさせるのが憂鬱だ」と愚痴り、その同僚が「なんと残酷なことか」と応じるような光景を想像してしまった。

……この問題をほとんど知らないので、勝手な妄想に過ぎないのだが、仮に、もしも仮に、AV業界関係者が「ブラックな部分」を熟知していながら、ブラックさを否定する主張を続けているのだとしたら、それは自らの人生そのものが醜悪な行為への主体的な関与によって支えられており、それを認めることが自分の生涯全ての基礎を破壊することになるとうすうす理解しているからなのではないか。
そしてそれは、日本の加害事実とその責任をどうしても認めることができない人々にも通じる感覚なのではないか。そう思うと、これらの人たちには共通感情で結ばれる可能性があるのではないか。「現実」を知らないよそ者からの高踏的な論難への不快感と自己の存在を否定されているような被害意識とが混ざった感情。お互いが同じような境遇にいる「被害者」だと共感すれば、互いに結びつくことがあるかもしれない。両者の自己擁護論は、被害者の被害を軽く見、あるいはシステムの問題ではない例外事象だと切断することによって成り立つという点でも、また性や暴力に直結する問題だという点でも共通性があるし。

妄想はともかくとして、このツイートが気になったのは、「いいや、あなたたちは知っていた」という否定しがたい事実に関する告発だからだ。戦争責任問題においても、このような資料の積み重ねが認識を変えていく力となった。

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次は典型的なダメな例。

佐々木俊尚さんのツイート: "「当事者の時代」という本でマイノリティ憑依概念を提示しましたが、その典型的すぎる事例。「実際の被害者と業界の人間はおいてきぼりにされ、AVをよく知らない第三者にだけ報告書が受け入れられる」/AV業界で働く人々との対話から逃げた弁護士 https://t.co/mtj4a0YvPl"

このツイートにつながる一連の反応がそのダメさを一層浮き彫りにしている。

皆本 依智【小説:人工知能Ne2の申述】 ‏@kagekiyo_ 5月6日
似たことは、例えば戦前戦中の慰安婦を語る時でも起きています。『そのような職業の女性が、幸せなはずがない』と。このような無理解や自分勝手な『同情/哀れみ』が、問題を分かりにくく、別次元のものにさせてしまいます。或いは障害者に対しても然り。

タイタス艦長@元スカイハイP ‏@bmwr1200ccruise 5月6日
これって、フェミニスト側の差別意識の裏返しですよね。それにAV側が反論しているっていう、通常差別対反差別として差別側(の様なもの)を叩いてる意識が高い側としてこの図式に暗に気付いて逃げ出した様にしか見えない・・・。

幸福な奴隷がいたら奴隷制を批判できないとか、一人の奴隷が「奴隷制を守れ」と主張すれば奴隷制の暗黒面を否定できるとか……。
このような社会と個人との関係への無理解ぶりを見ると、しみじみと社会科教育の敗北を知らされて悲哀を感じる。

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おまけ

とりあえず魚拓したので。
HISのキャンペーンページにあった図【魚拓】
参考1:旅行会社の「東大美女が隣に座ってくれる」キャンペーン即日中止について、大学教員として考えること(千田有紀) - 個人 - Yahoo!ニュース
参考2:H.I.Sの「東大美女が隣に座ってフライト」企画中止 ネットで批判受け - ITmedia ニュース

こういうのも「当事者は幸福だから問題ない」って言うのかな……。

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追記(2016年5月29日)

アダルトビデオの出演強要問題、
「業界は悪くない!少数の悪者(例外)を取り上げて全部悪いと言うな!」
という主張の旗色が徐々に悪くなりつつあるようだ。

無理やりAV出演させられた女優たちの証言|ほぼ週刊吉田豪(2016年05月28日)

下記二つは同じシンポジウムについての記事。
AVに映像を使われた松本圭世アナ「だまされる女性が悪いという風潮がある」 - 弁護士ドットコム(2016年05月27日 10時57分)
AV出演強要、IPPAは「AV業界は重く受け止めるべき」とコメント シンポジウムに松本アナも出席 (小川たまか) - 個人 - Yahoo!ニュース(2016年5月27日 0時13分配信)

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すごいAVを見たという話 - 男の魂に火をつけろ!

こちらの話はなかなか印象的。この春原未来氏にとってアダルトビデオ出演は究極の自己犠牲であり、自己の全てを捧げることこそが彼女の存在意義だという。徹底した自己否定を一度通過した者にはその姿勢と自己認識は非常によく分かる部分がある。

だが同時に、彼女のその文字通りの意味での必死さによって、アダルトビデオというものの社会的な意味とその業界の悪質さを浮き彫りになっている。人間を性的商品とすることが究極の自己犠牲としての意味を持つこと、その「女優」となることがその人の人生に大きな烙印を押すことが広く了解されているからこそ、彼女の行動は意味を持つし、そのドキュメンタリーが「AV作品」として意味を持つ。

このことを度外視して「アダルトビデオ業界の健全さ」を強調したり「売春するのも個人の自由だ」と主張したりすることは、セックスワークの負の側面を「AV女優」やセックスワーカーの個人問題にしわ寄せする悪質さを持っていると思う。アダルトビデオ業界を擁護する人たちや「売買春は正当な商取引だ」と言う人たちは、まず「この業界・商取引は本質的に呪われた存在なのだ」という原罪認識から出発すべきではないか。

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追記(2016年6月4日)

二つのトピックスを追加。

アダルトビデオの出演強要 政府が実態把握へ | NHKニュース(6月2日 20時50分)

政府は2日の閣議で、本人の意思に反して女性にアダルトビデオへの出演を強要することは、「女性に対する暴力」にあたるとして、内閣府が民間団体から被害状況を聴き、実態の把握に努めるとした答弁書を決定しました。
この答弁書は、生活の党の山本共同代表が提出した質問主意書に対するものです。
質問主意書では、悪質な勧誘がきっかけで、女性が本人の意思に反してアダルトビデオに出演させられる被害が相次いでいることについて、どう対策を講じていくのかをただしています。
これに対し、答弁書は「女性に対して本人の意に反してアダルトビデオに出演を強要することは、去年決定した第4次男女共同参画基本計画で、予防と根絶に取り組むとしている『女性に対する暴力』にあたる」としています。
そのうえで「女性に対する人権侵害を容認しない社会環境を整備するための、教育・啓発を強力に推進するとともに、内閣府が民間団体からアダルトビデオへの出演強要の被害状況などを聴いて、実態の把握に努める」としています。
「自発的」と見なされる形式を整えれば、アダルトビデオ出演という烙印は個人がその一切を引き受ければよいという発想もまた含まれうることを危惧する。

はてなブックマーク - アダルトビデオの出演強要 政府が実態把握へ | NHKニュース
「狭義の強制はなかった」というブコメにはちょっと笑った(ブラックな意味で)。

アダルトビデオへの出演強要被害に関する質問主意書:参議院
答弁書はまだ掲載されていない。(2016年6月3日現在)

AV違約金訴訟・意に反して出演する義務ないとし請求棄却。被害から逃れる・被害をなくすため今必要なこと(伊藤和子) - 個人 - Yahoo!ニュース

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AV出演の過去が発覚しゴールドマン・サックスが内定取り消し!解雇、イジメ、離婚…元AV女優差別のヒドい実態|LITERA/リテラ(2016.06.02)

鈴木涼美氏が「SPA!」2016年3月8日号で語った言葉だそうだ。

一般人として結婚や恋愛をしようとしたとき、どうしても元AV女優という肩書は鎖のように行動を制限してきます。だからこそ常に、『自分は他人や世間からどう見られているのか』を考える必要があります。肩書の力が強すぎるからこそ、公表したらどう見られるか、損得はどれくらいかなど、元AV女優は人一倍“世間の空気を読む力”が問われてくるのです
アダルトビデオに出ることが「鎖」であり業とされる社会。その実態を語りつつ、「女優」個人の「力」と判断に結論が帰着するところが切ない。この言葉の文脈や、業を背負って生きねばならない個人に向けた言葉だということをわかっていても。

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追記(2016年6月17日)

ヒューマンライツ・ナウの伊藤弁護士が書簡を公表していた。

皆様へのお願い・AVプロダクション関連逮捕報道とその余波を受けて: 人権は国境を越えて-弁護士伊藤和子のダイアリー(2016年6月16日 (木))

非常に基本的かつ重要な指摘があった。

今あふれている批判には、様々なものがありますが、
「そのAV女優さんたちが強要されているように、まったく見えなかった」というものがあるようです。また何年にもわたり、多数の出演を繰り返してきたことを理由に、「強制なんてありえるの?」という意見もあるようです。

しかし、長期間DVがあっても逃げ出せずにむしろ幸せな結婚生活を懸命に装う人、長期間にわたって会社でセクハラにあっても会社をやめられない人、親から虐待され続けているが施設に逃げ込めない人は、社会のあちこちに存在するのではないでしょうか。

 力を失い、孤立し、抜け出せない、装って自分までも騙し耐えてきた方がいるかもしれない。そういう人たちの気持ちは理解できなくても、せめて、「そういう女性たちがいるかもしれない」その可能性だけでも思いやっていただけること、できないでしょうか? 
……中略……

AV強要でなくても、同じように長いこと、DVやセクハラ境遇に置かれて、だれにも相談せずに逃げ出せずにいる人たち、自分さえ我慢すればと笑顔でいることで、なんとかなる、そう耐えている人が、あなたの周囲にもいるかもしれません。

その表面的な笑顔をみたこと、そういう態度でいたことを責めたてることが、問題の根本の解決の役にたつのでしょうか。

他の分野では容易に想像できることが、その分野では想像できないことがある。場面・状況は変われど、被抑圧という状態には変わりない。その本質への理解を深めたい。

伊藤氏が参照している東京新聞記事を記録しておく。

東京新聞:バイト感覚で登録 「AV」記載なく 出演強要された被害女性が証言:社会(TOKYO Web)(2016年6月14日 13時57分)

 女性をアダルトビデオ(AV)の撮影に派遣していたとして、警視庁が都内のプロダクション元社長らを労働者派遣法違反(有害業務就業目的派遣)の疑いで逮捕した。モデルへの憧れを巧みに利用したこの種の勧誘は多い。無理やり出演させられたある二十代の女性が「私のように巻き込まれる女性をもう出したくない」と本紙の取材に体験を語った。 (木原育子)
 大学生の頃、アルバイト先で「グラビアのバイトをしてみない?」と持ち掛けられたのが始まりだった。「話を聞くだけ」と気軽に応じた。
 男性社員ばかりのプロダクション事務所に行くと、「登録だけしておこうか」と優しく言われた。派遣のバイトに登録する感覚で身分証のコピーを渡し、書面に名前と連絡先、住所、生年月日、大学名を書いた。
 書面に「AV」の記載はなく、グラビア撮影と思った。事務所併設のスタジオで証明写真を撮られた。「体に傷がないか確認したい」と上半身裸の写真も。「みんなやっているからね」と説明された。
 数日後に制作会社で面接を受け、さらに数日後、プロダクションから「AV出演が決まった」と連絡があり、ようやく事の重大さに気づいた。
 「絶対に嫌です」。狭い応接室で三時間以上、泣いて懇願したが、三人の男性に囲まれ、どう喝され続けた。身分証や裸の写真が脳裏をよぎった。「契約書へのサインがある。違約金を払えるのか」「親や大学にばらす。親は泣くぞ」
 誰にも相談できないまま、この状況を招いたのは自分の至らなさのせいだと思い「私さえ我慢すれば」と追い込まれていった。
 撮影は次第に過激になった。両手足を縛られ、複数人の男性を相手にした。「あまりにも恥ずかしくて屈辱的で…。自分を守るには、心を閉ざして、忘れるしかないって」
 撮影は五年間続き、出演は百本を超えた。卒業後に入社した会社で、出演を見つけた男性の同僚から「君はだまされている」と諭され、われに返った。
 支配され続けることで心が壊れたのか、医師からは、自分の身体が極度に醜いと思い込む「醜形恐怖症」と診断された。自身を肯定できなくなっていた。
 見られているという恐怖と悔しさが、まだ消えないという。「AV業界は今、特殊な世界ではなく、ちょっとした心の隙があれば、誰でも取り込まれる危険がある」。女性は何度も繰り返した。
(東京新聞)


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