鄭義氏の本を黄文雄氏が訳していたらしいという話。
文革50年、語られぬ「人肉宴席」 中国 写真13枚 国際ニュース:AFPBB News(2016年05月13日 16:09 発信地:武宣/中国)
【5月13日 AFP】中国では文化大革命(Cultural Revolution)の狂乱のさなかに恐ろしい「人肉宴席」の犠牲となった人々がいた。しかし、文革開始から50年を迎えた中国共産党は、当時の回想も、文革そのものや残虐行為についての歴史的評価も、包み隠そうと躍起になっている。この記事で取り上げられている鄭義(Zheng Yi)氏の著作「Scarlet Memorial」の邦訳書「食人宴席」だが、Amazonのリンクは以下の通り。文化大革命は、大躍進政策(Great Leap Forward)で失敗し政敵打倒をもくろむ毛沢東(Mao Zedong)の主導で1966年に始まった。全土で暴力行為や破壊行為が10年続き、党主導の階級闘争は社会的混乱へと変貌していった。まだ10代の紅衛兵(Red Guards)たちは、「反革命的」だとして教師を撲殺。家族間で非難の応酬が起き、各地で激しい派閥争いも発生した。
だが、かつて毛沢東について「70%は正しく、30%は誤り」と評価した中国共産党は、文革の下で起きた出来事や責任の所在をめぐって本格的に議論することを認めてはいない。
文革時代の最も行き過ぎた行為の一つに、中国南部・広西チワン族自治区(Guangxi Zhuang Autonomous Region)の武宣(Wuxuan)県で起きた、粛清の犠牲者の心臓や肝臓、性器が食べられた事件がある。
共産党が文革を宣言した1966年5月16日の「五一六通知」から50年が経過した現在、武宣県にはフローズンヨーグルトを売る店が立ち並び、こけむした石灰岩の下を流れる川で男性たちが釣りを楽しんでいる。木々の枝には共産党の人民への貢献をたたえる赤い旗が掲げられている。
地元住民の中には、飢えではなく政治的憎悪によって武宣県の路上を血に染めた数十件に上る食人行為について、聞いたこともないと話す人もいる。
80年代初頭に公式調査を行った主要メンバーの一人は、匿名を条件にAFPの取材に応じ、武宣県では少なくとも38人が食人の犠牲になったと明かした。「全ての食人行為は、階級闘争があおられた結果起きたもので、憎悪の表現として行われた。恐ろしく、獣にも劣る殺人だった」
■歴史に「意味はない」
「10年間の惨劇の中、広西チワン族自治区では無数の人々が命を落としたのみならず、ぞっとするような残酷行為と悪意が吹き荒れた」――この調査団の元メンバーは、未公表のままの報告書草案にこう書いている。AFPが確認した草案には「首切りや殴打、生き埋め、石打ち、水責め、釜ゆで、集団虐殺、内臓の抜き出し、心臓や肝臓、性器の切り取り、肉のそぎ落とし、ダイナマイトでの爆破など、あらゆる方法が使われた」とあった。
1968年には、中学校の生徒たちが地理の講師を殴り殺した後、遺体を川辺に運び、別の教師に強要して心臓と肝臓を取り出させる事件があった。学校に戻った生徒たちは臓器を焼いて食べたという。現在、この中学校は移転しており、現役の生徒たちに聞いても事件は知らないと首を振る。地元住民らも、知らないと答えるか、口を閉ざすかのどちらかだ。
事件について議論することを望むごく一部の人々は、記憶が風化する中、町は過去から逃れることに必死だと話す。ここ数年で急激に発展する武宣県にとって、歴史は「何の意味も持たない」のだ、と。
■破られた沈黙と当局の抑圧
ある中国当局者の推計では最大15万人の犠牲者を出したとされる広西チワン族自治区での大虐殺のうわさは、その後15年にわたって中国全土でささやかれ、ついに当局が調査団を派遣するに至った。しかし、調査報告書が公表されることはなかった。
外部が事件について知ったのは、ジャーナリストの鄭義(Zheng Yi)氏が1989年の天安門事件後にひそかに資料を国外に持ち出し、著作「Scarlet Memorial(邦題:食人宴席)」を出版してからだ。同書は中国本土では発行禁止とされている。
近年になって調査団の元高官も、中国国内での事件に関する認識を深めようと改革派の中国誌に調査結果に関する記事を寄せたが、当局によってもみ消されたという。この高官は、地元の元共産党幹部から「反党、反社会主義、反毛沢東主義」だと中央に告発され、自己批判と誤りの修正、謝罪を要求されたとAFPに語った。
今、中国政府はメディアや世論の統制を強めていると、この高官は言う。「党の権威を確立するため、世論統制を行っているのは明白だ」。文革開始50年の節目に、党の公式行事は予定されていない。専門家は、当時の回想によって党の正当性が損なわれるのを指導部は恐れていると指摘する。
知識と議論に対する抑圧に、現在米国に居住する鄭氏は懸念を強めている。「掘り下げた歴史分析を中国政府が頑として容認しない現状では、何らかの教訓を得たと言うことは不可能だ」と鄭氏はAFPに話した。(c)AFP/Benjamin CARLSON
Amazon.co.jp: 食人宴席―抹殺された中国現代史 (カッパ・ブックス): 鄭 義, Zheng Yi, Ko Bunyu, 黄 文雄: 本
この通り、黄文雄氏の翻訳となっている。…少なくとも原書を読む方がよさそうだ。
Amazonのレビューには、こういう評価がある。
日本語の体をなさない訳文。改訂完訳版を望む!!レビュワーのnemo10氏にはお疲れ様でしたと言いたくなるが、案外、黄氏が本当に訳しているのだったりして…。
投稿者nemo10 2011年6月22日
他の方のレビューを見ると食人の記述でアタマがくらくらするとあるが、残虐描写を期待すると肩透かしを食う。「食人宴席」というタイトルも含めエログロを強調するような編集だが、原著は「古井戸」「神樹」の鄭義による「紅色紀念碑」であり、主眼は共産党支配下の中国社会を社会学的・文化人類学的に考察することにある。その主張を強引にまとめれば「目上への絶対服従を美徳とする儒教社会に、人を労働力としてのみ捉えて人間性を無視したマルクス主義が合体した結果、共産党一党独裁が完成したが、抑圧された感情は定期的に爆発するもので、食人を含む広西大虐殺もその一つである」といったものだろうか。読んでいてアタマがくらくらするのはむしろ訳文のひどさ。そもそもこの訳本は訳者も断っているとおり抄訳で、全体的に脈絡が欠けている感があるが、特に4章あたりでは中国語を機械翻訳したような、一つの文章の中で主語も時制もぐちゃぐちゃ、ほとんど日本語の体を成していない訳文が連続する。訳者は黄文雄となっているが、別人の下訳、それも無校正としか思えない。こんな本を出して出版社も恥ずかしくないのだろうか。
そしてこのAmazonが「……をご覧になった人は、こんな商品もご覧になっています」や「この商品を買った人はこんな商品も買っています」として提案する類書の選択がものすごい。
中国・中国人へのヘイト本、歴史修正主義(トンデモ)本、ニッポン素晴らしい本のオンパレードとなっている。
ただ、ちょっと安心するのはその著者らがいつもの面々ばかりで新顔が余りいないこと。マーケットは広いが売れているライターはそれほど多くないのかも。
ところで、上記AFP記事にある鄭義氏の「Scarlet Memorial」だが、元は中国語で、『红色纪念碑―― 广西文革人吃人惨剧』というタイトルらしい。そして、これで検索すると、この本をスキャンしたというウェブページやPDFがいろいろヒットする。
参考:郑义 红色纪念碑 - Google 検索
ちなみに Scarlet Memorial のAmazon.comページは次の通り。
Amazon.com: Scarlet Memorial: Tales Of Cannibalism In Modern China (9780813326160): Zheng Yi, T. P. Sym: Books
こちらの書評の方が日本の邦訳書(?)のそれよりも面白い。
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中国現代史には全く疎いのでこの事件とAFP記事については何も論評することができないのだが、ルワンダの大虐殺を彷彿とさせる事件が広範に起こっていたとしたらひどくショックだし、それがどのようなプロセスとメカニズムで発生したのかは興味がある。願わくば、地道な掘り起こしと研究が世に出ることを。……と、自ら学んでいないことを棚に上げてはいけないわけだが…。
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