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2016/05/31

クルーズ船からの不法入国が増えているという話の気になる点

ちょっと変なニュースに見えるが、調べる時間がないから疑問点だけメモしておく。
こういうニュースはゼノフォビアにつながりやすいから気になる。
本当はある程度ちゃんと調べて考えるべきなんだけど……。

クルーズ船から失踪の中国人相次ぐ 不法入国の新手口か | NHKニュース(5月31日 17時06分)

中国の富裕層などが観光に使うクルーズ船の日本への寄港が急増するなか、入国したあと船に戻らずに失踪する中国人が相次ぎ、去年からことしにかけて20人余りに上っていることが、警察などへの取材で明らかになりました。クルーズ船での入国は去年からビザが不要となっていて、入国管理局などは制度を悪用した不法入国の新たな手口とみて警戒を強めています。

中国から日本への観光客が増加するなか、主に富裕層が利用するクルーズ船については、去年1月から日本での滞在時間など一定の条件を満たせばビザの取得が不要となっています。
クルーズ船の日本への寄港は急増し、去年はおよそ1000回に上っていますが、入国したあと船に戻らずに失踪した中国人が、去年7月から今月にかけて22人に上っていることが、警察や入国管理局、海上保安庁への取材で分かりました。
このうち、今月中旬には福岡市の博多港に入港したクルーズ船の乗客で中国・福建省出身の57歳の男が福岡市内の観光の途中で失踪しました。男は船の入港後、3時間ほどでいなくなったということで、警察などは、クルーズ船を悪用して不法入国した疑いがあるとみて、行方を捜査しています。
また、去年10月に長崎市の長崎港に入港したクルーズ船のツアーでは、一度に3人の中国人が失踪し、3人の客室から中国で閲覧が制限されているインターネットのサイトの日本地図が見つかったことから、警察などは不法入国を手配する組織などが関与している可能性もあるとみています。
入国管理局や警察などは、富裕層が主に利用するクルーズ船のイメージやビザが不要となったことを悪用した不法入国の新たな手口として警戒を強めています。

クルーズ船 ビザなし入国可能に

クルーズ船による日本の観光ツアーを巡っては、去年1月から一定の条件の下で外国人観光客がビザを取得しなくても日本に入国できるようになりました。
外国人観光客がクルーズ船で来日する際、以前は、現地の大使館などで取得したビザを事前に用意する必要がありました。しかし、クルーズ船では一度に大勢の外国人が来日し、入国審査に時間がかかっていたことから、法務省入国管理局は、去年1月、審査の方法を見直し、新たな入国の許可制度を設けました。ビザを取得する代わりに「船舶観光」と呼ばれる許可制度の下、クルーズ船の運航会社が乗船する外国人観光客の本人確認を行ったうえで、一括して入国のための許可を申請します。
これにより、クルーズ船が港に停泊している間に限られますが、外国人観光客は入国が許可されます。
ビザを取得する必要がないことに加え、船が入港した際、港で行っていた顔写真の撮影も省略され、こうした制度のない航空機での来日に比べ、手続きなどの時間が短縮されました。その分、船の運航会社にはより入念な乗客の確認が求められ、管理が十分でないと判断されると、許可の申請ができなく場合もあるということです。入国管理局によりますと、去年1年間にクルーズ船で来日した外国人は過去最多の111万人余りで、そのほとんどがビザを取得せずに「船舶観光」の許可を受けて入国しています。

「運航会社と当局 しっかり協力を」

元法務省入国管理局長で日本大学の高宅茂教授は「就労目的で日本に不法入国する中国人が後を絶たないなかで、クルーズ船の利用が拡大し、日本に入国する際にビザが必要なく審査が緩和されたことがよく知られるようになり、悪用されたとみられる。今後、クルーズ船の利用拡大に伴って同様の手口の不法入国が増えるおそれもあるので、乗客の本人確認を行うクルーズ船の運航会社と入管などの当局がしっかり協力していく必要がある」と話していました。

まあ、船舶観光上陸許可制度が不法入国に悪用されるのではないかという懸念は、関係者は十分持っていたと思う。このニュースはそういう懸念を裏書きするトーンで書かれているんだけれど、でもどうも気になることがいくつか残る。何となく「拾ったネタをそのまま書きました」的に見えるんだよねえ。まあこのブログも同じですが…。

●疑問点その1:「中国の富裕層などが観光に使うクルーズ船」
昨今のクルーズ船はむしろ大衆旅行のツールというべきだから、この表現が気になる。
確かに、富裕層主体のクルーズ船もあるし、同じ船でも富裕層向けの商品もあるから、富裕層向けのクルーズ船が不法入国手段として利用されているケースもあるかもしれない。だとすると、確かに新しい現象だから報道に値すると思う。
けれども、ちょっと違和感が残る。

●疑問点その2:「失踪の中国人相次ぐ」の意味
単に、クルーズ船客が激増していること、入国(正確には上陸)許可が簡素化された制度改革の結果じゃないのかなあ。
クルーズ船利用者の悪質化が進んでいるというニュアンスで読まれそうで心配。量と質の効果を分けた記事を書くべきじゃないかなあ。記事の記述もその辺が不明瞭で、記者も区別してないような印象を受ける。上で書いたが、ゼノフォビアに利用されやすいトピックだから、もっと慎重に書いてほしいのだけれども。

●「失踪」の定義
乗船時間に遅刻した人(不作為)が含まれたりしていないのかなあ。
クルーズ船は全国で見ると膨大な延べ上陸回数が発生している。その多くは団体ツアーで管理されるから、お客さんもガイドに従っていればあまり問題は起こらない。ただ、非中国人を中心として(もちろん中国人にもいるが)団体ツアーに入らない個人・グループ行動をする人たちもいる。そういう人たちは自分たちで行動を管理しないといけない。で、不測の事態が発生したり何か勘違いしていたりすると、遅刻したりすることがあり得る。そうやって「行方不明」になる人が一定数いると思うのだけれど、それは「失踪」に含まれたりしないのだろうか。でもまあ、全国で1年で22事案しかないというので、こういうケースは入れておらず、本当に行方不明になってしまう人がいるのだろう。
もう一つ気になるのは、上陸中に何かの事故に巻き込まれたりした人も「不法入国」にカウントしていたりしないのかなあ、ということ。どこかで死んでいたりするんじゃないだろうか……。
むしろ逆に、111万人(たぶんこれは実数で延べ上陸数ではないと思うけれど)でたったの22ケースしかないとか、非常に健全じゃないのかという気がする。旅行会社、どれほど優秀なんだと思ったり。

●パスポートとか……?
仮に不法入国目的だとして、パスポートは持って出ているのかな?
船舶観光上陸許可だとパスポートは使わない。簡単な紙で処理するから持っていてもいいのかな。クルーズ船では業者がパスポートを預かることがあって、そういう場合はパスポートなしでの不法入国になるから後で困るんじゃないかな。この辺どうだったっけ……。

●「中国・福建省出身の57歳の男が福岡市内の観光の途中で失踪」
このケースは意図的な不法入国かもしれないけど、だとすると、「福建省出身」とか「57歳」とかいうのも本当かどうか分からないと思う。「福建省」に差別意識を持つ人もいるので、こういうのは慎重にしてほしい。

●「中国で閲覧できない日本地図」

3人の客室から中国で閲覧が制限されているインターネットのサイトの日本地図が見つかったことから、警察などは不法入国を手配する組織などが関与している可能性もあるとみています。
どういう意味合いか、この辺は分からない。どんな日本地図なんだろう?「客室で見つかった」というのも不思議。蛇頭みたいなのが紙の資料として渡していたということかなあ。

●「富裕層が主に利用するクルーズ船のイメージやビザが不要となったことを悪用した不法入国の新たな手口」?
まず、「富裕層が主に利用するクルーズ船」の話と「ビザが不要になったこと」とは分けて書かないと。
それと、ラグジュアリー船だと入管の警戒が緩むというニュアンスなのだけれど、それって本当かなあ。少なくとも入管は公式には認めないと思うんだけど。
それは入管がメンツにこだわっているというよりも、そもそも船舶観光上陸許可は手続き的なものなので、ゲートで入念にチェックして許可不許可を逐一判断していくというものではないんだよね。だからある意味、入管は警戒しようがないというか、制度の下で粛々と事務を進めるしかないわけで、入管の過失ではない。むしろ業者側に責任を預ける制度なので。それとも、業者を非難する記事なのかなあ。まあ制度設計責任まで問うと言えば、入管中枢と法務省の話になるけれど。

●「ビザなし入国」は問題か?
「入国」ではなくて「上陸」なんだけど、まあそれは措いておいて。
そもそも船舶観光上陸許可は、膨大な入国許可事務が発生するのに増員や予算増を厳しくケチられてきた入管当局の悩みとか、8時間しか遊べないのに下船乗船だけで数時間取られる馬鹿馬鹿しさに対する何十万人もの観光客の不満とか、客にはたっぷり遊んでもらいたいし煩瑣な手続きに苦しめられた観光業界の願いとか、いろいろなものが後押しして、やっとこの前実現したんだよね。そしてこれの実現には与党や財界の圧力もあったわけで。法務省はかなりこの制度には消極的で何年も抵抗していたいきさつがある。そもそも、法務省は、中国への来日観光規制の緩和にはその都度懸念を表明してきた立場だったと思う。(まあ省外からの制度変更要求にはそう反応するのが役所というものだけれども。)それを、ビジットジャパンなどの観光振興戦略に乗っかって、他国の制度も研究しつつ、「これが国益だ」として制度変更をしたわけだ。つまり、船舶観光上陸許可制度は「正義」なわけですよ。それを、「ほーら、中国人にビザなし入国を認めたらやっぱりまずいよねえ」みたいにも読めてしまう記事を書いてもいいのかなあ。NHKは政府発表と異なる立場の報道はしないんじゃなかったっけ……。

●「運航会社と当局 しっかり協力を」?
高宅先生は、むしろ「いやあ、よく頑張っている方ですよ」ぐらい言ってほしいなあ。
でもまあ、入管的には「申し訳ない、一層警戒が必要だ!」という話にしておく方が好都合なので(しかも組織マインドにも合っている)、先生の発言は業界政治的に正しいとは言える。現場も「敵の悪質さがますます昂じているので犯罪が起きている」というストーリーにしておく方が精神的に楽だしねえ。

●中国人にフォーカスを当てる意味?
昨今のクルーズ船は台湾人と中国人が主で、船舶観光上陸許可もその辺を狙っていると思う。だから、そもそもこの制度を悪用する機会が多いのは台湾や中国の人になるだろう。
もっと詳しくはこの制度の指定船舶一覧を見て航路を調べればいいんだけれど、ちょっとネット上には見つからなかった。
逆に、クルーズ船からの不法入国で他の国の人が増えていたら、それこそ「抜け穴」に使われている気配が濃厚だけれど、他の手段と比べてどれくらい楽に不法入国できるかはちょっと分からないからなあ…。


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