原発ほど楽しく稼げる商売はない
福島原発が爆発したとき「これで原発関連業界は一生メシが食えるな」と思った。
東電「完全凍結は困難」 第一原発凍土遮水壁 規制委会合で見解 (福島民報) - Yahoo!ニュース(7月20日(水)10時45分配信)
東京電力は19日、福島第一原発の凍土遮水壁について、完全に凍結させることは難しいとの見解を明らかにした。同日、都内で開かれた原子力規制委員会の有識者会合で東電の担当者が示した。東電はこれまで、最終的に100%凍結させる「完全閉合」を目指すとしていた。方針転換とも取れる内容で、県や地元市町村が反発している。本来、東電は原発の事故処理という巨大な厄介を抱え込んでいるのだが、壊れた原発という「社会的にとにかく放置できないもの」を操作する主体として、社会(政府)に強い交渉力を持っている。原発の状況情報と実務の裁量で他に優越しているので、資金源たる社会との交渉の場作りをコントロールすることも出来る。
会合で東電側は規制委側に凍土遮水壁の最終目標を問われ、「(地下水の流入量を)凍土壁で抑え込み、サブドレン(建屋周辺の井戸)でくみ上げながら流入水をコントロールする」と説明。その上で「完全に凍らせても地下水の流入を完全に止めるのは技術的に困難」「完全閉合は考えていない」と明言した。
これに対し、オブザーバーとして出席した県の高坂潔原子力総括専門員は「完全閉合を考えていないというのは正式な場で聞いたことがない。方針転換に感じる」と指摘。東電側は「(凍土壁を)100%閉じたいのに変わりはないが、目的は流入量を減らすこと」と強調した。
凍土壁は1~4号機の周囲約1.5キロの地中を凍らせ、建屋への地下水の流入を抑え、汚染水の発生量を減らす計画。
東電は3月末に一部で凍結を始めたが、一部で地中の温度が下がらず追加工事を実施した。東電によると、第一原発海側の1日当たりの地下水くみ上げ量は6月が平均321トン。5月の352トンに比べ31トン減少したが、凍土壁の十分な効果は確認できていない。
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東電が今年3月に特定原子力施設監視・評価検討会で公表した資料では凍土壁造成の最終の第3段階について「完全閉合する段階」と表記していた。経済産業省資源エネルギー庁も「凍土遮水壁は最終的には完全な凍結を目指す」(原子力発電所事故収束対応室)との認識だ。
規制委会合で東電が示した見解について、県の菅野信志原子力安全対策課長は「おそらく公の場では初めてではないか。汚染水の発生量を減らすという凍土遮水壁の目的を達成するため、当初の計画通り100%凍らせる努力が必要だ」と強調した。
福島第一原発が立地する双葉町の伊沢史朗町長も「公式の場で方針転換とも取られかねない発言を唐突にする東電の姿勢には、非常に違和感を感じる」と指摘した。双葉地方町村会長の馬場有浪江町長は「凍土壁で汚染水を完全に管理できるという説明だったはず。町民の帰還意欲にも影響しかねない問題だ」と批判した。
一方、東電は「地下水流入量抑制が目的で、100%閉合を確実に実施するわけではない。目的は変わっておらず方針転換ではない」(本店広報室)としている。
そして、この東電が引き出す膨大かつ超長期にわたる資金源に多数の関係業者と研究者が群がる。さらには資金源たる政府関係者と政治関係者もそこに群がる。これは既存の原発村というか原発生態系がそのまま生きる格好になっているのだが、事故処理と廃炉処理という新たなネタが投入されたおかげで、汚水処理やロボット技術などの人々もメシの種を見つけられることになった。
事故処理、廃炉処理から加わった人々は、それまでの原発生態系の人々に比べて新たな強みを持っている。それは、自分が社会正義に則っていると信じることが容易だということである。自分の新たな発想や試行錯誤を事故収束という人類の未知の困難な課題への貢献だと正当化しやすい。前人未踏の難問に挑むのだから失敗は付きものだし、失敗を繰り返しながら前進するしかない。そして出来るだけ早急に事故は収束させねばならないのだから常に万策を講じる必要がある以上、資金は惜しみなく注がれなければならない。
というわけで、事故後の原発処理業界は巨大なエネルギー源を得た生態系のように一気に発展し、カンブリア爆発のような奇妙な種(技術・事業)の繁殖を生む。今回の凍土壁はそうしたものの一つだろう。
なお、潤沢な資源があってもそこに生存競争が発生しないことはない。淘汰圧がゆるむ上に、今回の事故処理ではルーチンも技術も確立していない、つまり何が正解かも分からないため、多様なアイデアや技術や事業が立案段階のスクリーニングをくぐり抜けるので、外野から見るとナンセンスとしか思えないものが現実化しやすくなるということである。そしてさらに事業採択をめぐる交渉ゲームというメタ構造が生まれるので、外野にはますます訳が分からない世界が生まれていく。……まあ熱水噴出口近辺の生態系のようなもので、大きな資金源がある世界では大なり小なりどこでも起こっている話で、ムラ社会の形成メカニズム的な話ではある。
こういうふうに考えて行くと、社会がこの原発処理生態系にたかられる規模を減らすには、処理に関する情報や裁量をなるべく独占させないということが第一になる。出来るだけ利害関係が離れた(ないし対立した)人々・組織を処理プロセスに関わらせて、資源配分の権限の分散を図るという発想である。第二に、プロセスの透明化と責任主体の明確化だが、それには結果責任への引責方法を明記し、責任判定者を処理業界から距離の遠い人たちで構成させるという仕掛けが必要になる。たとえば今回の凍土壁の問題で言えば、第三者が事業を監視するモニタリング組織を設けて強い査察権限を与えること、そして事業の正否の客観的判定基準を事前に設定し、失敗時には施主も施工会社も事業経費を賠償するなどの義務を課すこと、などである。
こうした制度によって事故処理の業務や技術開発活動自体が歪められるというおそれは当然出てくるが、それによる社会的費用はこうした制度がない場合の社会的費用と比較されなければならない。原発処理の社会的費用をいかに見積もるかは難しい問題だが、当初から正否が危ぶまれていた技術に数年以上もこだわり(むしられる側であるはずの政府も強く支持していた)、多額の開発費を浪費したあげくに当初目標をなかったものにして恬淡としていられるような環境を放置することは、制度設計としてザルのようなものだとは言えるだろう。
ともあれ、経産省や内閣の様子を見る限り、このような「ザル」を改める気運が彼らから生まれるとは思えない。生態系内部から生態系のエネルギー源を閉じようという話はなかなか生まれないだろう。だから状況の変化には外的な力が必要なのであるが、これも当面は期待できそうにない。そして、誰がどうしようが原発処理には数十年以上かかることは確実であり、その処理費用が多額になることもまた確実である。
というわけで、原発の処理業界は今後数世代の安定・成長産業になると見込まれる。少子高齢化・人口減少・低成長の時代にあって数少ない有望事業の一つになるだろうから、若い人は目指すといいのではなかろうか。
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追記(2016年8月19日)
福島第一の凍土壁、凍りきらず 有識者「計画は破綻」:朝日新聞デジタル(2016年8月18日20時47分)
東京電力福島第一原発の汚染水対策として1~4号機を「氷の壁」で囲う凍土壁について、東電は18日、凍結開始から4カ月半で、なお1%ほどが凍っていないと原子力規制委員会の検討会に報告した。地下水の流れを遮るという当初の計画は達成されておらず、規制委の外部有識者は「破綻(はたん)している」と指摘した。東電はなぜこれほどまで凍土壁にこだわるのだろうか。東電の報告によると、3月末に凍結を始めた長さ約820メートルの区間の温度計測点のうち、8月16日時点で99%が零度以下になったが、地下水が集中している残りの部分はまだ凍っていないという。東電は、セメントなどを注入すれば凍らせられると主張した。
凍土壁の下流でくみ上げている地下水の量は、凍結開始前とほとんど変わっていない。外部有識者の橘高(きつたか)義典・首都大学東京教授は「凍土壁で地下水を遮る計画は破綻している。このまま進めるとしても、別の策を考えておく必要がある」と指摘。検討会は、上流でくみ上げた場合の地下水抑制効果の試算などを示すよう東電に求めた。(富田洸平)
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