本物を見たい欲望、素の表情を撮りたい欲望、他人の破滅に美を見たい欲望
メモ。
ベルナルド・ベルトルッチ監督、『ラストタンゴ・イン・パリ』のセックスシーンは合意のないレイプだったと認める
『ラストタンゴ・イン・パリ』問題、厳密な意味でのレイプではなかった?
出演した女優がトラウマに苦しんでいたそうだ。
『ラストタンゴ・イン・パリ』に出演したマリア・シュナイダーは2011年に亡くなっています。そしてこの映画以降、彼女は「ポルノ女優」というレッテルを背負うことになり、うつ病を患ったりドラッグや自殺未遂など精神的問題に悩まされるようになりました。日本のアダルトビデオの出演強要問題と共通している。
記事を読んで、アダルトビデオの市原克也監督のインタビュー記事を思い出した。
市原克也アダルトビデオ監督のインタビュー記事の感想: 思いついたことをなんでも書いていくブログ
ベルトルッチ監督と市原監督の言がよく似ている。女優から事前に納得を得ずに性行為を撮影することへの罪悪感のなさの点で。
ベルトルッチは「罪悪感はある」と言っているが、彼が言いたいのは「それも必要悪」ということだろう。芸術のためには犠牲が必要だと言いたいのだ。
「女優としてではなく、女の子としての反応を撮りたかった。彼女の屈辱をね。そのせいで彼女(マリア・シュナイダー)はマーロン・ブランドと私を嫌うようになった。なぜなら彼女にバターに関する詳細を伝えていなかったから。そのことで罪悪感を感じた。(後悔はあるか?という質問に対し)
後悔はないが、罪悪感はある。しかし映画製作において、何かを得ようとした場合は完全なる自由でなければならない。私はマリアに屈辱や怒りを演じて欲しかったのではなく、屈辱や怒りを感じて欲しかったんだ。その結果、彼女は全人生を通して私を拒絶することになった」
市原監督はこのように言っている。
−−そういった女優の「リアルな反応」を追求する作品は危険視される可能性がある?市原氏から見ても、女優の意思は映像の犠牲になっても仕方ないのだろう。市原監督 あるある。あれがすごく嫌やねん。「ドキュメント・フェイク」とは言ってもセックスを超えることはしませんし、女優は「セックスOK」なんだから撮影はその枠内にある。……中略……だから、後はギャラの問題ですよね。
−−人権団体などはそういった「意に沿わない撮影」も問題視します。
市原監督 女優によっては「事前に言われない方がいい」という人もいる。撮影の朝に会って「これからセックスするけど、こうやってこうやるからな」って言います? 幼稚園の運動会じゃないんだから。多少分からなかった方がいい。
ただ、ベルトルッチ監督と市原監督の間には違いもある。
ベルトルッチ氏は女優マリア・シュナイダーの苦しみが自分の映画に深味を与えるという話はしていない。しかし市原氏はそのように言っている。
--(引用者注 出演する女性自身が)AV出演で「一線を越えてしまう」「転落する」などとは思っていない?AV出演で「転落する」人が「年に何人か」の水準で出ているのなら到底正常な業界ではないと思うのだが、市原氏はそうは思わないらしい。「恥じらいがない」「軽くなっている」セックスではダメで、恥じらい、重くなければならない。市原氏は「絡み」に意味を持たせるべく、女優は「一線を越え」「転落」してしまったトラウマと苦悩を抱え込む女性でなければならないわけである。市原監督 そういうのは年に何人かしかいない。一つ一つの絡み(性行為)が意味を持つから、僕らはその方がありがたいんだけど……。
市原氏は「人権団体の要請書など読む気もない」のだそうだ。自分は全く悪くない、ごく一部の人間が悪いだけに過ぎないと主張している。
そして、アダルトビデオ業界ではだいたいどこも同じような反応のようだ。
AV業界「ファン感謝祭」熱気むんむん 強要問題への取り組みは… - withnews(ウィズニュース)(2016年11月24日)
……前略……この記事で出てくるSOD社長の「ご挨拶」は以下。
メーカーは、この「強要被害防止」をどう考えているのだろうか。以前、大手メーカーには電話とファクスで取材を依頼したが、即座に断られたり、無視されたりした。ブースを構えていた10社を訪ね、社長か社員に会って、直接、後日のインタビュー依頼をした。「ドグマ」代表には、「出たくない。何を言っても揚げ足を取られる。HRNがまとめた報告書は全てウソではないと思うが、現状では強要はないと思う」とその場で丁寧に断られた。
他の9社には、取材依頼書を渡し、一週間後の17日までに返信をもらいたい旨を口頭でも念押しした。
「アリスJAPAN」ブース経由で取材依頼をしたジャパンホームビデオ代表からは、「弊社ではIPPAにその対応の一切をお願いしているところです」と断りの文書がメールで届いた。同代表は、IPPA副理事長をしており、「AV OPEN」でも表彰のために登壇していた。
「桃太郎映像出版」ブースでの取材依頼に対しては、「株式会社 桃太郎」の名前で、ジャパンホームビデオ代表とほぼ同じ文書が送られてきた。2社とも文書で「冠省」「草々」を使っており、中身も似たような文面だったのは、偶然の一致だろうか。
取材依頼に無反応のメーカーも…
「ソフト・オンデマンド」(SOD)、「MAX-A」(マックスエー)、「アロマ企画」の各代表には直接会ったが、返信をもらえなかった。
後日、ネットを調べると、SOD社長の野本ダイトリさんが、派手に自己PRしていた。彼は今年「35歳」で「年商150億円」の社長に就任したという。同社サイトの「就任のご案内」の中では、次のような記述があった。
「代取になった途端、不安になったグループメーカーの離脱、それに伴う業績不振、そしてAV女優出演問題、社員からはやれトイレが少ないとか、パソコンが壊れたとかクレームの嵐……。僕はどうしたらいいんでしょうか?」
社員経由で取材依頼書を渡した他の4社も、無反応だった。全10社には、JAEのルポに来ていること、こうした取材依頼活動も含めて記事化することは事前に伝えていた。
野本ダイトリ 新代表取締役社長 挨拶(魚拓1、魚拓2)
テキストが画像になっている、なぜか分からないが(苦笑)。
野本氏のインタビュー記事:SOD新社長はイケメンAV監督 - 日刊サイゾー(2016.10.20 木)
このように、日本の業界では出演強要問題はたいしたことではないらしいのだが、今回のベルトルッチ氏の告白については、ハリウッドでは大問題になっているそうだ。
女優の同意を得ない撮影強行。強姦を含む性行為の撮影。その後、女優は重い後遺症に苦しんでいる。
このように起きていることはよく似ているのに、業界の反応はまるで異なる。
この違いはいったい何によるものなのだろうか。興味深いと言わざるを得ない。
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