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2017/02/22

これでは「不可逆的な解決」など到底望めない。本当に分からないんだなあ。

日韓合意からまもなく書かれたコラム。
著者は布施広氏。毎日新聞の専門編集委員。

布施広の地球議:日本人は残忍か - 毎日新聞(2016年1月13日 東京朝刊)

 日本人は「とても残忍な人種」(very cruel race)。現代のコメディー映画「ブリジット・ジョーンズの日記」の中で、主人公の母親はそう話す。前回紹介したフィナンシャル・タイムズの記者、デビッド・ピリングさん(51)。だから困る。

 他方、ピリングさんの本「日本-喪失と再起の物語」(早川書房)の中で、実業家の稲盛和夫さんは「欧米人にとって戦うことは本能なのです。日本人にはそういうところがありません」と語っている。侵略の過去はあるにせよ、日本は「平和国家として世界をリードしてきた」というのが稲盛さんの見方だ。

 どちらが妥当か。当然稲盛さんの方だと私は思うが、中露首脳は日本の「歴史の歪曲(わいきょく)」を警戒し、米議会は慰安婦問題で日本の謝罪要求決議を挙げた。韓国民は日本大使館前の慰安婦像の移動・撤去に反対する。日本への視線が冷たい。

 ピリングさんは私にこう語った。

 「日本人のイメージは内外で対照的です。戦後70年、日本は平和的な憲法を持ち、自衛隊が敵に1発の銃弾も撃っていないのは確かだが、多くの外国人は旧日本軍の行為を覚えている。平和的か残忍かは一概には言えない。他国民同様、環境によって日本人も変わりうると思います」

 「日本には戦国時代があったし、開国を余儀なくされると欧州の植民地勢力を見習って攻撃的に帝国建設を試みた。欧州諸国も昔は争い、今や欧州連合の“平和的な″加盟国になったけれど、フランスや英国は『イスラム国』(IS)を空爆している。状況によって変わるのです」

 と同時にピリングさんは「プロパガンダ戦争」という言葉を使い、近隣国の見方が世界の日本観に影響するとも語った。中国や韓国が戦略的に「ゴールポスト」を動かせば日本はいつまでもゴールできず、欧米にある「残忍な」印象も消えないということでは困ってしまうが。

 私はステレオタイプで極端な日本観は欧米が率先して正してほしいと考える。昨年、米国の識者らが日本の歴史認識をたしなめるべく発表した声明は、肝心の慰安婦問題で「償い事業」や首相の「おわびの手紙」に言及せず、目配りに疑問を残した。中心になった大学教授は日本の領土的主張を「拡張主義」「瀬戸際外交」と表現するが、日本人は納得しないだろう。南シナ海に人工島を造り、「水爆」実験をする国にこそふさわしい批判ではないか、と。

 年明け、慰安婦問題で多くの学生と話をする機会があった。日韓合意は成ったが、問題再燃を警戒し「なぜ日本ばかり非難されるのか」と悩む若者の姿が痛ましい。不可逆的に問題を解決して、若者の目を未来に向けてやりたい。(専門編集委員)

これは連載の後編で、前編は以下。

布施広の地球議:「喪失と再起の物語」 - 毎日新聞(2016年1月6日 東京朝刊)

この前編では、前半の日本文化とか大和魂とかの、何が言いたいかよく分からない枕がある。それはどうでもいい。

布施氏は「ステレオタイプで極端な日本観は欧米が率先して正してほしい」と言いながら、稲盛氏の「欧米人にとって戦うことは本能」「日本人にはそういうところがありません」というステレオタイプは「当然妥当」だと思うのだそうだ。
こういうの、最近の流行では「日本スゴイ」というのではないかな。

そして、

日韓合意は成ったが、問題再燃を警戒し「なぜ日本ばかり非難されるのか」と悩む若者の姿が痛ましい。不可逆的に問題を解決して、若者の目を未来に向けてやりたい。
と言いながら
中国や韓国が戦略的に「ゴールポスト」を動かせば日本はいつまでもゴールできず、欧米にある「残忍な」印象も消えないということでは困ってしまうが。
と言う。若者が悩む原因を作っている側の主張をしている人が「若者を救いたい」と言う皮肉。日本の夜明けは遠いなあ……。

まあ要するに、布施氏は因果関係の逆転に全く気づいていないわけだ。これこそ正すべき「ステレオタイプ」だと思うのだが、布施氏からすれば、諸外国の「日本憎し」が先に立った強硬姿勢こそが「不可逆的な解決」とか「真の和解」とかを阻害していると映るのだろう。
布施氏は、ピリング氏の、国民が「平和的か残忍かは環境や状況によって変わる」という言葉を引きながらも、「残忍か平和的か」という問に拘泥している。これこそが彼がステレオタイプにとらわれていることの証だろう。
私などは、「日本」などがどのように見られようが別にかまわないのだが(まあ実害があると困る。外国で差別を受けたこともあるし。だがこれは「日本良い国」像の流布を肯定しない)、布施氏は「日本」が批判されるとなぜか自分が攻撃されたように感じてしまうのだろう。毎日新聞が批判されても彼は同じように自己への攻撃だと見なすのだろうか。ちょっとだけ興味がある。

◆ ◆ ◆

全然関係ないが、上記コラム前編には、アブデュルレシト・イブラヒム著「ジャポンヤ」の話がちょっと出てくる。
ジャポンヤ――イブラヒムの明治日本探訪記 (イスラーム原典叢書) | アブデュルレシト・イブラヒム, 小松 香織, 小松 久男 |本 | 通販 | Amazon

この書評:山崎典子(2013)史學雜誌 122(11), 2013-11-20, CiNii

イブラヒムは、日露戦争で強国ロシアに打ち勝ったアジアの新興国である日本と、ヨーロッパ列強の支配に喘ぐイスラーム世界の連携を構想していたとされ、伊藤博文や大隈重信をはじめとする要人と交流をもち、頭山満や犬養毅率いるアジア主義団体「亜細亜義会」の設立発起人にも名を連ねたという。(中略)
本書は、イブラヒムとその時代に関する基礎研究、とりわけ第二次世界大戦時における日本の対イスラーム工作に彼が関与した背景を探るための重要な研究成果として、今後大いに参照されていくだろう。

また、朝日新聞の聞蔵IIで当時の記事を検索すると、こんな記事がある。

1909年3月22日付「回教管長の演説 韃靼人イブラヒム氏」
その一節。

……氏は露国人と云ふものヽ実は韃靼人にして此度日本に来たりたる目的も全く露国の横暴に堪え切れず親好を我国に求めんが爲めなりと云ふ……
……余等は最早表面の偽善をのみ看板として裏面の汚穢極まりなき欧州より教育を受くるを欲せず、行く行くは日本に留学生を送る考へなり若し日本政府にして余等が此乞を許されなば余の幸福は実に之に過ず……
……日本が最近五十年間に世界を驚かす長足の進歩を遂げたるも余の考へにては是皆其歴史の古来明瞭となり居れる賜のなりと思ふ……
日本人相手の演説でかなりリップサービスが入っていると思うが、まあロシア包囲網(ちょっと「保守」的表現をまねてみた)を作るという政治的動機が下地にあるんだなあというのが分かる。なんとなく世界ウイグル会議の人を思い出してしまった。

参考:隅田金属日誌(墨田金属日誌) 「ウイグル会議代表は桜井誠のお仲間ですよ」(産経)


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