文科省:領土問題に対する近隣国の見解は教えるな。だが教育勅語は教えて良い。
正確には、「近隣国の見解を教えてもいいけどそれは誤りだと断言すべきだし、領土問題って難しいから、他国の見解を授業で解説する余裕はないでしょう」という趣旨なのだけれど。
領土問題については先日メモした以下の報道。
(新!学習指導要領)「国の立場、言い切る指導を」 竹島・尖閣どう教えるか、文科省に聞く:朝日新聞デジタル
※文科省:政府見解を「正しい」と断言することが国民教育だと叫ぶ: 思いついたことをなんでも書いていくブログ
教育勅語については、以下の文科相会見。
松野博一文部科学大臣記者会見録(平成29年3月14日):文部科学省(魚拓)
この会見には加計学園の件で「働きかけはなかった」という話もあるが、とりあえず教育勅語関連の応答を抜き出しておく。
記者)教育勅語は、
最近国会でも議論になっております教育勅語に関して、文科省の審議官なども国会答弁の中で、今日でも通用するような普遍的な価値のあるというような、部分的に肯定するような答弁というものが閣僚も含めてなされています。これについて、松野大臣としてはどのようにお考えか、同じようなお考えなのか、お聞かせ願えますでしょうか。大臣)
教育勅語は、日本国憲法及び教育基本法の制定等をもって、法制上の効力を喪失しております。文部科学省としては、学校現場において教育勅語を活用することとした場合には、憲法や教育基本法等に反しないような適切な配慮が必要であると考えております。記者)
関連しまして、適切な配慮、反しないようなという御指摘ですけれども、具体的にはどのようなケースを想定されていますでしょうか。大臣)
これは政治事項に関する中立等の話もありますし、まず何よりも憲法で規定されている精神でありますから、教育基本法の内容等に反する部分に関しての指導方法ということであろうかと思います。しかし、具体的には、私も繰り返しお話させていただいておりますけれども、個々の事案がそれに該当するかどうかは、所轄庁によって判断、指導されるものだと考えております。記者)
国会答弁での大臣官房審議官の、今日でも通用するような価値があるというような答弁については、部分的に認めるような答弁については、適切であるというお考えでしょうか。大臣)
具体的にどの部分を指して、その審議官が話をされているのか、ちょっと今、私が承知をしていないのですが。記者)
藤江大臣官房審議官が「教育勅語の中には、今日でも通用するような普遍的な内容も含まれ、適切な配慮の下に活用していくことは差し支えないと考えている」という趣旨の答弁をされておられます。稲田防衛相も「全く誤っているというのは、違っていると思っている」というような答弁をされていますが、こういった答弁については、どのようにお考えでしょうか。大臣)
まず教育勅語を、先ほど申し上げたとおり、憲法や教育基本法に反しないように配慮をもって授業に活用するということは、これは一義的にはその学校の教育方針、教育内容に関するものでありますし、また、教師の皆さんに一定の裁量が認められるのは当然であろうかと思います。
その前後の関係で、審議官の発言がどの部分を指しているかというのは、ちょっと明らかでないので、私の方でお話がしづらいのですけれども、具体的にはどういった部分を指しての話をしているのですか。記者)
教育勅語の使われ方、教育現場での使われ方について、具体的には森友学園の幼稚園でのケースに関連する議論であったかと思うのですが、その中で、教育勅語が教育現場で使われる、教育方針の中に活かされるということに関連して、見解を求められた際の答弁であったと。大臣)
まず森友学園とお名前が出ましたけれども、特定の事案を個別にあてはめるというのはやっておりませんので、その判断は、所轄庁である大阪府によってなされるものと思いますが、一般論として、例えばおそらく今までの答弁の経緯からいうと、家庭とか親子関係とかそういったものに関してのことかと思いますが、そういった内容は、幼稚園の教育要領、また学習指導要領の中においても書かれていることでありますから、そういったところを指して話をしているのではないかと思います。記者)
教育勅語の中の徳目の部分だけを部分的に取り出して、そこには価値があって、教育に適切に活かしていくことには問題はないというお考えなのでしょうか。大臣)
先ほど申し上げましたとおり、教育勅語を授業に活用することは、適切な配慮の下であれば問題ないと思います。それは一般論から言って、その活用の仕方、これはもう教師の教え方の問題であると思いますし、それは積極的に評価する、消極的に評価する、その項目によってそれぞれ違うものであろうかと思いますので、個々どれをもっていい、どれをもって悪いということは言及しませんが、いずれにせよ、その教えている内容が憲法や教育基本法に反するということであれば、それは所轄庁の中で適切な指導がなされるものと考えております。記者)
部分的に取り出しても、基本的には天皇中心の国家、いざという時にはそのために命を捧げるというような趣旨が教育勅語の趣旨かと思うのですが、そういう趣旨の中で書かれている徳目を、徳目自体の価値を認めても、それだけ取り出して価値を認めても、それは教育勅語全体の精神を肯定するようなことに繋がって不適切だというような指摘もあるのですが、それでも部分的に取り出して、適切に教育現場で活かせば、それは問題ないというようなお考えなのでしょうか。大臣)
全体としての評価は、これはそれぞれおありだと思いますが、文部科学省としては、これも繰り返しになって恐縮でありますが、憲法や教育基本法に反しないような配慮があって、教材として教育勅語を用いることは、そのことをもって問題とはしないという見解です。
1.それが「法制上失効した」、その経緯を踏まえつつ、
2.不適切な内容を含むという指摘には反論せず、
3.しかし「適切な配慮」があれば使っても良いとし、
4.その使われ方の是非は、それぞれの所轄庁が適切に判断するものと期待する。
それなら、領土問題に関する他国の主張の扱いだってそのように言えばいいのに、なぜか
「中国や韓国の主張は教えないで頂きたい」
「小中では発達の段階を踏まえると難しい」
と明言する。この嫌悪感、警戒感は何なのだろう。
もう少し全体の言い分を読むと、教育勅語も領土問題に関する他国の見解も、それを取り扱う場合は憲法や指導要領に沿うようにせよというのが文科省の考え方で、そこは共通している。要するに、どちらも教育上問題を含んだ素材だという認識だと解釈できる。でも、
・教育勅語:評価はいろいろある、積極的評価でも直ちに非とは言えない
・領土問題:他国の主張に理があると思わせてはならない
と、その制約にかなりの差がある。簡単に言えば、教育勅語は基本的に教えて良い。領土問題に関する他国の主張は基本的に教えてはいけない。そういうことになっている。
率直に言えば、どちらも小中学校で教える必要性は高くないと思う。けれども、学問的に言っても、社会を学ぶためにも、小中学校において教育勅語と領土問題に関する他国の見解のどちらが有意義かと言えば、領土問題に関する他国の見解だろうと私は思う。
教育勅語に甘く他国を学ぶことを警戒する文科省の態度には、もちろん現今の政治の影響と「国民」育成への欲望が透けて見えるわけだが、それにしても、こんなふうに子供に教え込む姿勢ばかりでは、長い目で見れば彼らが目指す富国強兵路線にもさわりが出るだろうにと思う。誰かがツイートしていたが、確かに、彼らはとって公教育とは自分の子供たちが学ぶものではないのかもしれない。
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追記(2017年3月31日)
「教育勅語は教えても良い」
こんなことを閣議決定してしまった。今の政権は本当にもう発狂している。
教育勅語、教材で用いること否定せず 政府が答弁書:朝日新聞デジタル(2017年3月31日13時12分)
政府は31日、戦前・戦中の教育勅語を学校教育で使うことについて、「勅語を我が国の教育の唯一の根本とするような指導を行うことは不適切である」としたうえで、「憲法や教育基本法等に反しないような形で教材として用いることまでは否定されることではない」との答弁書を閣議決定した。民進党の初鹿明博衆院議員の質問主意書に答えた。勅語については、太平洋戦争後の1948年、衆参両院が排除・失効の確認を決議している。
また、稲田朋美防衛相が国会答弁で「親孝行や友達を大切にするとか、そういう(勅語の)核の部分は今も大切なもの」と述べたことの是非について、答弁書は「政治家個人としての見解」とし、政府としての見解を示さなかった。
具体的には、第193回国会常会の144番目の質問主意書。「教育勅語の根本理念に関する質問主意書」を参照。
第193回国会 質問の一覧
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