日本国内の人身売買・強制売春で日本人の被害が増えているという記事
風俗店の寮「すぐ逃げて!」 人身取引、日本人も被害:朝日新聞デジタル
鈴木春香2017年10月29日07時12分
暴力や脅迫によって強制的に労働させられる「人身取引」事件で最近、日本人被害者の数が増えている。風俗店で働く若い女性が、根拠のない多額の借金を背負わされるケースが後を絶たないといい、捜査側は取り締まりを強化している。警察庁によると、昨年1年間の人身取引事犯の被害者は46人。うち日本人は25人で、統計を取り始めた2001年以降最多だった。日本人被害者は、出会い系サイトなどを利用して売春を強制させられるといった性的搾取が84%を占めた。
元々、フィリピンやタイなどの外国人女性がだまされ、日本への渡航費用などの名目で多額の借金を負わされたうえ、飲食店や性風俗店で働かされるケースが多かった。
日本人の被害者が増えたのは、ネットの発達などで女性が性風俗店の募集に直接、アクセスしやすくなり、短期を含めた就労間口が広がったことが考えられるという。加えて、取り締まりの強化に伴い、認知件数が増えたことも影響したとみられる。
■身に覚えない請求120万円
名古屋市内の風俗店で、借金名目で法外な請求を押しつけられたり、抱えそうになったりした女性たちを取材した。
「初心者歓迎、好待遇、寮も貸し出せます」。そんなうたい文句を求人サイトで見つけた女性(20)は、働き始めて間もない今年2月、男性社員から寮の契約書と一緒に「債務証明書」を渡された。
エアコン消毒2万1600円、カギ交換3万4020円、その他72万円――。明細には、身に覚えのない計約120万円もの金額が書かれていた。「早くしないと俺も社長に怒られちゃうからさ」。1対1の狭い室内で、男性社員から押印を迫られた。無理やりではなかったが、よく意味がわからなかった。
印鑑を持って出勤すると、同じ店で働く「先輩」から携帯に電話がかかってきた。「すぐ逃げて! 店はどうでもいいから」。事情はのみ込めなかったが、気迫に押されて警察署に向かった。この店が従業員に根拠のない「借金」を背負わせて収入を搾取する悪質業者だと知った。
記者はこの「先輩」にも話を聞いた。電話をしたのは、店に言われるまま債務証明書にサインをして大変な目にあった別の女性を知っていたからだという。
その女性は、関東の実家を出て名古屋に出てきた。キャバレーで働いていたが、妊娠し中絶。身寄りも無く、中絶費用の肩代わりをしてくれた寮付きのこの店で昨秋から働き始めた。
正午から翌朝6時まで週6日の勤務。どれだけ働いても1日2千円しかもらえない。食パンしか食べられない日もあり、毎日同じ服だった。髪がべたつき、客がつかなくなると、社員から「ヤミ金で金借りて返せ」と迫られていた。この女性も警察に届けた。先輩は「2人とも弱い立場で契約の知識もなく狙われたんだと思う。奴隷みたいで、見ていられなかった」と話す。
■事件化、高いハードル
県警はこの店の経営者の男を風営法違反(無届け)の容疑で逮捕した。押印を求めてきた社員は恐喝未遂などの容疑で逮捕されたが、不起訴処分となった。捜査関係者によると、店には、恐喝罪の適用を回避するため、怒鳴ったり、暴力を振るったりしないように書かれた「マニュアル本」もあったという。刑法の人身売買罪を適用するためには、金銭での売り買いを立証しなければならず、立件のハードルは高い。
警察は風営法や売春防止法、出入国管理法などで取り締まっているが、風営法違反(無届け)だと罰金刑で終わることが多いという。捜査幹部は「人身取引事件では、被害者が搾取を容認してしまっているケースもある。犯意の立証は難しい。軽い刑罰で済んでしまっているのが現状だ」と話す。(鈴木春香)
掲載図1:スマホで撮影した「債務証明書」を見せる名古屋市の女性(画像の一部を修整しています)(【魚拓】)
掲載図2:押印を求められた約120万円の「債務証明書」。末尾には「賃金より差し押さえ、または支払う」と書かれている。女性がスマートフォンで撮影し保存していた(画像の一部を修整しています)(【魚拓】)
掲載図3:名古屋市の女性を助け出した「先輩」。「こんなことは無くなってほしい」と話した(【魚拓】)
「性の商品化」カテゴリの記事
- AV出演強要:路上スカウトの手口など(2018.03.05)
- 後を絶たないAV出演強要事件(2018.03.01)
- 日本国内の人身売買・強制売春で日本人の被害が増えているという記事(2017.10.29)
- 本物を見たい欲望、素の表情を撮りたい欲望、他人の破滅に美を見たい欲望(2016.12.05)
- 「レイプに反対するなら、地位協定を変えるべきです」(2016.06.17)
「外国人労働者問題」カテゴリの記事
- 入管、局から庁へ。外国人単純労働者の大量受け入れを本格化か。(2018.07.25)
- クウェートでのフィリピン人労働者虐待問題、比政府が就労目的での渡航禁止と余波(2018.02.20)
- 技能実習生を窮地に追い込む日本の制度(2017.12.05)
- 日本国内の人身売買・強制売春で日本人の被害が増えているという記事(2017.10.29)
- 技能実習生の記事メモ:茨城県はさき漁協の件(2016.04.05)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント