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2018/03/01

労働生産性を巡る参議院予算委員会質疑応答についてのメモ

ツイッターで以下のツイートを見た。

🏕インドア派キャンパーさんのツイート: "参院予算委。大塚「総理、スーパーのレジ係が倍の速度で仕事をやったら生産効率は上がると思いますか?」
安倍「上がると考えます」
大塚「上がるわけ無いでしょう。レジが倍の速度になっても客の購買力は変わらない。議論が噛み合わないはずです。ここを無視して労働生産性だけ議論しても無駄だ」… https://t.co/mvSJmM4LzY"

次のように続く。

安倍の働き方改革はさらに客の購買力を減らすだろう。安倍政権になってから国民はどんどん貧しくなっている。産業界はもう「角を矯めて牛を殺す」から脱却すべきだろう。

実は少子高齢化も「働かせ過ぎ」が原因になっているわけだ。目先の利益ばかり見て自身のクビを絞めた結果が今なのだ。

こんな基本的な事すら理解出来ていない安倍が「働き方改革」の旗を振っている恐ろしさ。このやりとりは象徴的だ。


このツイートに「間違いだ」という反応がいくつか付いている。実際、このツイートだけだと間違いに見える。というか、かなり曖昧だ。なぜなら「労働生産性」にはいろいろな定義や意味があるので、何を主張したいのかが短いツイートでは分からないからだ。

そこで、当該の質疑応答の前後を国会の録画から見て聞き起こしたので、メモしておく。
まず、この質疑応答の文脈を示しておく。(2018年3月1日参議院予算委員会、質問者:大塚耕平(民進党))

ここで言う労働生産性=付加価値額÷労働投入量
労働投入量=就業者数×一人あたり労働時間
就業者数:労働力調査、一人あたり労働時間:毎月勤労統計調査に基づく。

「新しい経済政策パッケージ」で労働生産性成長率を現状の0.9%から2%に上げるという目標(生産性革命)を掲げている。これについての質疑応答。

問:なぜ生産性指標として労働生産性を設定したのか?
答:労働者一人あたり付加価値額を高めることで賃金上昇につなげ、デフレ脱却を目指す。そのための指標として適当と考えた。

これに続く議論。

大塚 ここで考え方を変えてもらわないと困るなと今思いましたので。お持ちしたグラフの7ページ、労働分配率のグラフをご覧下さい。労働分配率は安倍政権になって下がっているんですよ。これはもうグラフを見たら明々白々です。小泉政権の時と安倍政権の時に労働分配率は下がっている。その上で、資料の4を見ていただくと、4ページですね、4ページ。

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労働生産性は「原因」か「結果」か

労働生産性=国内総生産÷労働投入量(就業者数×労働時間数)
(赤字で)GDPが増えれば労働生産性は向上する

国内総生産(GDP)=(1-α)資本投入+α労働投入+全要素生産性
αは労働分配率
(青字で)労働分配率が下がる時は資本投入が多ければGDPが増える
?多分対数になっているのでは?コブダグラス型生産関数でしょう、おそらく。
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労働分配率が下がると、定義上ですね、資本投入量が多ければGDPは増えるんですよ。で、このGDPが増えなきゃいけない、あるいはGDPが増えることが最大のポイントだということをご理解いただくために総理に質問します。例えばスーパーでレジ打ちをされている労働者の方がですね、レジを打つスピードが今までの倍になりましたと。同じ時間でこなせる枚数が倍になりました。労働生産性はどうなりますか。

加藤厚生労働大臣
そこになってくると定義が変わってくるんだと思いますね。この労働生産性はGDPベースでありますから、そのベースでやるとまず付加価値がいくらかということを算出しないと答えが出てこないのだというふうに思います。で、もし、今のお話が売上でものを見るようになれば、当然分子が増えるわけですから、それは上がったということになるんだろうと思いますけれども、ただそこは少し飛躍があることはご理解いただきたいと思います。

(後半は間違いでしょう。分子は増えない、分母が減る(勤務時間は減らないかもしれないけれど実労働時間は減っていると見なすことができれば)。

大塚
あの、まさしくここ(質疑応答)の生産性も上げたいので、今大臣がおっしゃったことは分かっていますので、総理にお考えいただきたいんです。レジ打ちの方のレジを打つスピードが倍になったら、やっぱり生産性、その方の生産性やその企業としての生産性は上がりますか。(総体として)

総理大臣
生産性の定義によるわけでございますが、いわば一人のパートの方がですね、1時間のうちにこなす仕事量がですね、増えていく、そしてその人のですね、いわば1時間あたりの労働の価値が上がっていくということで考えれば、それは生産性が上がっていくというふうに考えてもいいのではないかと私は考えるわけであります。

大塚
総理、ここは本当に一緒になってお考えいただきたいんですが、その、レジ打ちの方のスピードが倍になっても、そのスーパーの売り上げは増えないんですよ。だから、分子をどうやって増やすかってのが問題で、今日は日銀総裁においでいただいているんで、実は日経新聞のあのグラフはですね、どこから日経は作ったのかなと思っていましたら、日銀の展望レポートなんですよ。日銀の展望レポートの39について日銀総裁はどういうご認識で公表されたのかをご説明いただきたいと思います。

黒田日銀総裁
図表39と申しますのは、いわゆる実質賃金ギャップというものを示したものでございます。すなわち労働生産性の上昇率と実質賃金率の上昇率を比較して、労働生産性の上昇率の方が実質賃金率の上昇率より高いときは、いわば負のギャップが出来ている。逆に労働生産性の上昇率を上回って実質賃金が上がっているときはむしろギャップが縮んでいるということを示しているものでございます。すなわち、労働生産性の伸びと実質賃金の伸びを比較したものでありまして、非常に長い期間を取りますとですね、労働生産性の伸びが高いときに基本的には実質賃金率が上がる。逆に実質賃金率が上がるためには労働生産性があがっていかなければならないということは事実なんですけれども、この表の示しているとおりですね、労働分配率が上がったり下がったりしますので、その過程で実質賃金ギャップというものが出てくる。で、現在は実質賃金ギャップがここに示されている通りでありますので、労働生産性の上昇率に実質賃金の上昇が追いついていないということでございます。

大塚
総理、今日銀総裁が明確におっしゃってくださいましたが、これ1月の日銀の展望レポート、あの、資料でいうと6ページになりますけれども、ま、先ほどの日経のグラフと一緒ですよ、基本は。労働生産性の伸びに実質賃金が追いついていない。そのことが国民の皆さんの購買力を伸ばしていない。購買力が伸びなければ、スーパーの売り上げも増えないんですよ。こういう構図になっているというところを認識を共有していただかないと、この労働法制の議論がかみ合わないんですよ。かみ合わない。日銀総裁にお伺いしますが、分子であるGDPを増やすためにはどうしたらいいんですか。

日銀総裁
これは二つの観点から議論が出来ると思います。長期的にはですね、いわゆる長期あるいは中期の潜在成長率を上げていくということが必要であります。なお景気循環的にはですね、GDPギャップが大きくあるときにはですね、中長期的な潜在成長率が上昇しなくてもですね、そのギャップを埋めることによって実際の成長率は上がるわけであります。現にこのところですね、日本経済は1.5%から2%の間ぐらいで成長していますけれども、私どもの推計では中長期的な成長率はまだ1%程度あるいは1%を若干下回る程度ではないかと。今ですからその過程でどんどんGDPギャップが減って、むしろ先ほど茂木大臣が指摘されましたがGDPギャップはむしろプラスになっているという状況だと思います。

大塚
総裁、今続投で人事が出ていますけれどもね、総裁は異次元の金融緩和をやったらデフレを脱却してGDPも増える、経済も好循環になるということで5年間おやりになったんですよね。この後どうやったらGDPが増えると。ここをちゃんと実現しないと、労働生産性だけに着目していても、国民は困っちゃうんですよ。あの、10ページのグラフは載っているのですが、11ページのグラフを次回から載せてください。これをお願いしておきます。

総裁
先程来申し上げておりますとおり、実質賃金につきましてはですね、労働生産性の推移と比較する形でお示ししておりまして、賃金の動向につきましては実質と名目の両面から丁寧に点検して参りたいと思います。

大塚
もう一回お願いします。11ページのグラフを次回以降はちゃんと載せてください。

総裁
載せるかどうかはですね、これはあの、政策委員会で決めることでございます。

大塚
日銀総裁にお伺いします。在任5年間の間にマネタリーベースと日銀の総資産がどのように変化したかをお答えください。

総裁
おたずねのですね、日本銀行がこれまで過去5年間でマネタリーベース、それから日本銀行の資産がどのように動いてきたかということについて簡単にご説明申し上げます。5年前の2013年3月末時点と直近の2018年1月末時点の計数を申し上げますと、マネタリーベースは、146兆円だったものが473兆円に増加しております。日本銀行の総資産は165兆円であったものが527兆円に増加しております。

大塚
お手元の8ページに展望レポートの図表38、CPIのグラフを載せてありますので、在任中にどのような成果を上げられたかをご説明ください。

以下略

というわけで、文脈からいうと、当初に引用したツイートは大塚議員の趣旨を正しく言い当てている。
「労働生産性」という用語の含意について、ミクロな観点で考えた人がこれを「間違い」として反応し、「何を言っているんだ」と反駁されたという展開になったわけである。

この後の流れでは、おそらく、家計への分配を増やして消費への有効需要を高めなければ労働生産性も伸びない、政策目標も達成できないよ、という主張になるのだろう。ただ、それが上記生産関数のα(労働分配率)を上げることで総生産が増えるという筋で説明できるのかと言うと、それは心許ない気がする。

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追記

冒頭に取り上げたツイートで「こんな基本的な事すら理解出来ていない安倍」とあるが、実際に理解していないかどうかは分からないと私は思う。
ここに上げた質疑応答部分では、安倍は労働生産性の定義が複数あることを認めつつ、特に狭い定義を取り上げ、そこに限れば「労働生産性は上がる」と答えている。この答え方はおそらく官僚が入れ知恵したものと思うが、GDPに関する購買力の話を避けるための便法とも見える。つまり、「安倍の働き方改革がさらに客の購買力を減らす」という議論に踏み込まないために、その論理を知っていてあえて答を外したという見方が出来る。
安倍政権の「生産性革命」は、話をフォローしたことはないけれど、労働の仕方が非効率なのが生産性停滞の原因であり、ひいては低賃金長時間労働を生んでいる、だからICTなどを利用して「働き方」を効率化する、すなわち労働時間中のぐだぐだした部分を削り取ることによって、単位時間あたりの付加価値生産を高め(ある意味では労働密度を高めて)、総生産増大と時短とを実現しようという論理だろうと思う。つまり、サプライサイドの非効率が「デフレ脱却」上の制約になっており、労働面においては長時間労働や賃金低迷の原因になっているという認識だろう。この論理を防衛しなければならないので、デマンドサイド、とりわけ家計収入の増加や所得再分配に関する議論にはなるべく踏み込みたくないのではないだろうか。

ところで、今回見た議論はちょっと混沌としているようにも思う。というのは、経済成長に関する議論とマクロの(また産業単位の)生産性停滞の話と、賃金所得の議論、長時間労働の議論とをまぜこぜにした議論になっているのではないかということだ。どれも関係しているのだけれど、一つの話として議論できるようなものでもない。短時間での質疑応答だし、政権側の提案(新しい経済政策パッケージ)が同時に複数の問題解決を目指すとする面倒なものだし、やむを得ない面はあるのだけれど。それに、もっと言えばここでの議論は政策の採否を巡るものだから、議論の内容そのものの善し悪しよりも攻防の成否の方が大事なので、わざと混沌とした答弁でうやむやのうちに政策を通すという戦術も有効なわけである。


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