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2018/08/06

全国学力テストの問題点を指摘する中日新聞の連載記事(2017年2~3月)

全国学力テスト10年(1)不可解な問題 (大津支局・浅井弘美):ニュースを問う:中日新聞(CHUNICHI Web)
2017年2月5日 朝刊

全国学力テスト10年(1)不可解な問題 (大津支局・浅井弘美)

◆自分の将来像に模範解答
 【あなたは、二〇二〇年の日本は、どのような社会になっていると予想しますか。また、その社会にどのように関わっていきたいと思いますか】

 こんな質問をされたら、どう答えますか? 自由作文や大学入試の小論文ならともかく、これは一五年に行われた「全国学力テスト」(学テ)の中学三年生に対する中学校国語Bの設問。「東京五輪・パラリンピック組織委員会のホームページ」「日本の人口推移のグラフ」「生活を支援するロボットの開発」について資料が示され「八十字以上、百二十字以内」の解答が求められた。

◆十人十色を認めず
 答えは十人十色になるのが一般的な感覚だろう。だが、これには“正解”がある。文部科学省が示す正答例はこうだ。

 「オリンピック・パラリンピックの影響で様々なスポーツに注目が集まるだろう。今後増えていく高齢者もスポーツに関心をもつと思われる。そのような社会に、私は、スポーツ関連のボランティアをすることで積極的に関わっていきたい。」

 「おそらくオリンピックの開催に向けて技術開発が進み、様々なロボットが開発されています。私は、そのような社会に関わっていくために、大学で科学技術に関する研究をしたいと考えています。」

 他に「若者の代表として努力し、オリンピックでメダルを取る」「今よりも安全で性能が高いロボットを開発する仕事に就きたい」など、計六例の模範解答がある。

 「正答例は、要するにテストを作った大人が思い描く『良い子』の事例じゃないですか」

 滋賀県内の中学校で教える五十代の男性教諭が納得できないのは、採点方法が「○」か「×」しかないことだ。

 「子どもたちの将来像はまだ漠然としているんですよ。だから漠然とした答えしかない。なのに、生徒自身の考えが答えに合わないと、それがすべて不正解になってしまうんです」

 将来を具体的に描くことは大切だろう。でも、五年後の自分の人生を描いた作文が内容によって「×」だなんて、おかしくないか。私自身を振り返っても、十五の春にそこまで具体的に将来を決めていなかった。ましてや、五輪にどう関わるか、考えている中学生がどれだけいるのだろうか。

 学テは国語、数学(算数)とも基礎知識を問うA問題と、応用力や読解力をみるB問題の二部構成で、文科省はB問題の狙いを「知識や技能などを実生活で活用する力を求める」などと説明する。だが、結局は優等生的な解答を誘導し、「大人の言葉」が分かる成績上位者しかまともに記述できない問題だ。

 批判が渦巻く理由には、学テが現場の多忙感をますます高めていることもある。

 全国のほとんどの小中学校では答案を文科省側に返送する前に、教育委員会の指示で教師らがコピーし“自校採点”する。文科省が、学テの狙いを「学習成果を検証し、指導の改善に役立てること」と打ち出しているため、一日も早く自校の出来を知る必要があるからだ。

◆学生バイトが採点
 滋賀県では、採点結果を県教委の集計システムに入力しなければならず、ある中学校では、学テの日から連日、職員室の明かりは深夜までついたままだった。「特に、B問題で正解不正解を判断するのに、すごく時間がかかる」(五十代教諭)からだ。ベテラン教師でも悩む問題を、文科省側では誰が採点しているのだろうか。

 「学生バイトだそうですよ」

 教師たちから聞いたその答えを、にわかに信じ難かったが、調べると本当だった。

 問題を作成する国立教育政策研究所などによると、四月のテスト終了から二カ月間、文科省から委託を受けた業者が大学生や大学院生らを雇い、解答パターンに沿って採点している、というのだ。ベネッセコーポレーション、教育測定研究所などの業者にはテストの配送なども合わせ、一六年度は計四十七億八千万円が支払われた。

 教育者でもない学生が採点した結果に基づいて、現場の教師たちが「指導の改善」を迫られる-。おかしな話ではないか。

 「そもそも普段の授業や教科書とは関係のない別教科のようなもの。このようなテストを全員に受けさせる意味があるのですか」

 四十代のある女性教諭は疑問を投げかけ、疲れた顔でこう言った。

 「一体何のために、誰のために続けているのか、分からない」

 なのに、順位を上げるための対策が全国で過熱する。

      ◇

 十年を迎えた全国学力テスト。日本の教育現場にひずみを広げつつある問題の根源を、五回にわたって考えたい。

全国学力テスト10年(2)過熱する対策 (大津支局・浅井弘美):ニュースを問う:中日新聞(CHUNICHI Web)
2017年2月12日 朝刊

 ある教育関係者からその話を耳にしたのは、昨年八月末のことだった。

 「あの中日の記事はガセネタだって、○○(全国メディア)の記者が吹いて回ってますよ」

 一面で「学テ 一部生徒の答案除外」と報じた私の記事だ。取材の経緯をオープンにすることは普段あまりしないが、ここでは明らかにしておきたい。

 最初は「沖縄県内で過剰な学力テスト対策が行われ、行事を簡素化する学校も出ている」という人づての話が端緒だった。内情を探るため、友人を通じて那覇市の中学校教諭に電話したのは、六月上旬の午後十時すぎのこと。教諭から驚くべき言葉が飛び出した。

 教諭 あいつらは、普段学校に出てこないのにこんなときに限って出てくる。

 私 受験したんですよね?

 教諭 受けたけど、解答用紙は省きましたよ。送らなかった。

 不登校や授業を欠席がちな五人程度の解答用紙を除外して、文部科学省が委託する業者へ送ったというのだ。当日、生徒らは受験したが、学テ終了後の担任らの会議で「普段から指導していないので指導の改善はできない」「平均点を下げる」などの声が上がり、欠席扱いにしたという。だが、これは初めてのことではないらしい。

 私 解答用紙は全部送らなくていいんですか?

 教諭 欠席扱いにしたらばれないんですよ。前に勤務した学校でも当たり前にやっていましたから。

 教諭はそう言って、那覇市近隣の二つの自治体名を挙げた。さらに裏取りを重ね、書いた。それが八月下旬の記事だ。

 デマを流され、黙ってはいられなかった。私は徹底的に調査することにした。これまでの取材で得たさまざまなツテを通じて、四十七都道府県すべての関係者に当たった。すると、複数の県で、不適切な事例があったことが分かった。また聞きではなく当事者に聞いた話だ。

 群馬県の小学校では、情緒学級に通う児童の解答を「全体データに反映させなかった」と女性教諭から証言を得た。テスト前日の話し合いで学年主任が「(児童の解答を含めると)学校平均点に入っちゃうんだよね」と漏らしたひと言で決まった。解答用紙は、女性教諭が保管しており、卒業後、処分するという。

◆答え教える対応も
 鹿児島県の小学校では、普通学級の低学力の児童二人を別室で受験させ、教諭が付き添って問題文をかみ砕いたり、答えを教えたりした。大分県の小学校では昨年度まで、低学力や欠席がちな児童を保健室などで受験させ、統計に反映させなかったという。

 教育現場で飛び交う生々しい言葉も耳にした。

 大阪府内のある中学校では、生徒の一人が「先生、平均点上げたいんやったら、あいつを外せばいいやん」と低学力の生徒を指して言ったという。学テの平均点にきゅうきゅうとする大人たちを子どもたちはよく見ているのだ。

 だからといって、私は現場の教師たちを責める気にはなれない。現場の不正は国の施策によって追い詰められた結果、とみるべきだからだ。

 学テは「指導に生かす」という当初の目的から大きくはずれ、地域や学校間の競争を招き、順位を上げるための対策は過熱する一方になっている。点数を上げるために過去問題を使った対策も、ほとんどの自治体で行われるようになった。

 小学校の国語Aと算数A・Bで二〇一六年度に初めて一位を獲得した石川県では、四月の始業式後、テストまで授業中に過去問に取り組む学校が小中学校で九割以上に上り、うち十回以上繰り返し解かせている学校が一割ある。ある教員は「四月に入っても、教科書が開けないんですよ」と嘆いた。

 滋賀県の五十代中学校教諭は「十年で教育現場がこんなに変わるとは思わなかった。一部のエリートをつくるために続けているようなテストに、どうしてこんなに振り回されるのか」とため息をついた。

 この過熱ぶりは、結果を公表しているからにほかならない。昨年四月、馳浩文科相(当時)が、過去問対策を行う学校に対し「とんでもない」と批判したが、もはやブレーキが利かない状態になっている自治体間の順位争いをよそに、きれいごとを言っているだけにしか、私には聞こえなかった。

◆学力向上置き去り
 学テで測れるのは学力の一部にすぎず、数字だけ追ったテスト対策に力を注いで学力が身についたと言えるだろうか。問題なのは、不毛な競争の渦中で、学力向上が本当に必要な子どもたちが切り捨てられかねないことだ。

 国が目指す「学力向上」とは、いったい何なのか。(中日ウェブ・プラスに掲載、次回は19日)

図:「文部科学省が各教委あてに出した、自治体間の点数競争や過去問対策を戒めた通知文」
全国学力・学習状況調査に係る適切な取組の推進について(通知)
→文部科学省による発表文に同じ→資料5-2 全国学力・学習状況調査に係る適切な取組の推進について(通知):文部科学省

28文科初第197号
平成28年4月28日

各都道府県教育委員会教育長
各指定都市教育委員会教育長 殿

文部科学省初等中等教育局長
小松 親次郎

(印影印刷)

全国学力・学習状況調査に係る適切な取組の推進について(通知)

全国学力・学習状況調査は,教育基本法(平成18年法律第120号)第16条第2項に定める全国的な教育の機会均等と教育水準の維持向上を図る観点から,全国的な児童生徒の学力や学習状況を把握し,分析を行い,教育施策及び教育指導の成果と課題の検証や,その改善に役立てることを目的として実施しています。
このような趣旨に照らして,数値データによる単純な比較が行われ,それを上昇させることが主たる関心事とならないよう,国としては,調査実施後に,解説資料や調査結果の分析データ,授業アイディア例などの多角的な観点から作成した資料を各教育委員会や学校に対し提供することにより,教育委員会や学校において,授業時間や家庭学習を使った教育指導の改善・充実に活用いただいているところです。
しかしながら,一方で,4月前後になると,例えば,調査実施前に授業時間を使って集中的に過去の調査問題を練習させ,本来実施すべき学習が十分に実施できないなどといった声が一部から寄せられるといった状況が生じています。仮に数値データの上昇のみを目的にしているととられかねないような行き過ぎた取扱いがあれば,それは本調査の趣旨・目的を損なうものであると考えております。

本調査は今年度で10年目を迎えましたが,関係者間において,今一度原点に立ち戻って,本調査の趣旨・目的に沿った実施がなされるよう,各教育委員会におかれては,次のような取組を行っていただきますよう,お願いします。
○学校内,学校間及び教育委員会と学校との間において,本調査の趣旨・目的について共通理解を得るための機会を設け,その認識を学校現場に深く浸透させること
○日常の指導訪問等を通じて,改めて本調査への適切な向き合い方や適切な指導改善の方策等について学校との間で理解を深め合うこと

文部科学省としても,次のような事項を含め,改善策を進めていくこととしていますので,御協力くださるよう,お願いします。
○教育委員会による上記の取組について把握するとともに,教育委員会の取組について指導,助言を行うこと
○教育委員会と情報共有,意見交換を行うなどの場を設け,互いに本調査の趣旨・目的に沿った改善を図るよう努力していくこと

都道府県教育委員会におかれては域内の市町村教育委員会(指定都市教育委員会を除く。)及び関係する所管の学校に対して,指定都市教育委員会におかれては関係する所管の学校に対して,本通知の内容について速やかに御周知いただくとともに,必要な指導・支援をお願いします。

【担当】
文部科学省初等中等教育局参事官付
学力調査室学力調査企画係
電話03(5253)4111 内線3726

全国学力テスト10年(3)政治の介入 (大津支局・浅井弘美):ニュースを問う:中日新聞(CHUNICHI Web)
2017年2月19日 朝刊

 学力テストの正式名称は「全国学力・学習状況調査」。調査なのか、テストなのか。文部科学省に尋ねると「あくまで調査。競争するためのものではありませんから」と即座に返ってきた。ではなぜ、学校は競争に追い込まれているのだろう。もとをたどると、首長や議員らの言動に行き着く。

 たとえば、二〇一二年二月の滋賀県議会の議事録(抜粋)を見ると、こんな具合だ。

 議員 全国規模のテストがあって、順位を教えないというのは、本当にせっかくの機会が台無しな気がいたします。

 議員 点数主義を生むんだという危惧は、それはあくまでも教師や学校側の心配ですから。

 学テの市町別・学校別の結果公表を巡り、県議が県教委をただしていた。公表に慎重な県側に対し、一三年九月の定例会議でも議員が激しく突っ込んでいる。

 議員 全国平均とのポイント差が広がり、悪くなっているという状況にもかかわらず、知事からはあまり危機感が伝わってきません。

 議員 すべての教科で全国最下位に近い成績結果と聞きますと、保護者をはじめとする県民の皆さまが、本県の教育水準について懸念されることも当然だと考えます。

◆議員が教委に圧力
 知事や教育長は「大変強い危機感を持っている」と答弁せざるをえなかった。議員が追及する場面は、大津市や東近江市など県内の市町議会でも同じだった。「情報開示」「説明責任」といった言葉が飛び交い、責め立てられた教委が追い込まれ、テスト結果を重視した対策を学校現場に課していく。この構図は、恐らく全国共通だろう。

 授業中に過去問を解かせ、本番を控えた春休みの家庭学習で、学テを意識したドリル学習をさせる学校が増え、学テに酷似した問題のテストも行われた。県内のある小学校教諭は、点数アップを狙う対策に疑問を持ちつつ「あれだけ議員から追及されたら、対策しますと言わざるを得ないでしょう」とあきらめ顔で語る。

 私は、学力を高めることに反対しているわけではない。それが「学テ対策」にすり替わっていることが、おかしいと思うだけだ。本来は「調査」だったはずの学テが、自治体間の競争の道具に成りかわっているのは、なぜか。きっかけは、ルール破りの自治体が出てきたことだ。

 文科省は当初、結果公表は都道府県別にとどめ、市町村別、学校別の公表は禁じた。ところが、一部の自治体の首長らがルールを無視して公表を始めたのだ。

 成績上位の秋田県は〇八年、寺田典城知事(当時)が市町村の平均正答率を公表。大阪府の橋下徹知事(当時)も、結果公表に消極的な市町村教委を指して「くそ教育委員会」と批判。放言は撤回したが、結局、府教委は押し切られ、公表にかじを切った。鳥取県では、県情報公開条例改正案を県議会で可決し、市町村別・学校別成績を開示した。こうして非公表のルールがうやむやになり、本来は政治が介入すべきではない教育が、政治家の示威行動の舞台になってしまったのだ。

◆「応援費」まで登場
 成績下位だった岡山県では、伊原木隆太知事が小中学生ともに「全国十位以内」の達成を掲げ、成績アップなど成果を上げた公立学校に「応援費」百万円を交付している。静岡県では、川勝平太知事が成績の悪かった小学校の校長名を公表する意向を示したが、県教委などと激しく対立し、成績上位校の校長名を公表することにした。

 結果に過剰に反応する教委も現れた。大阪府のある市では、答えが分からなくても「解答欄を埋める」ことになっている。成績が振るわなかった小学校の教諭が明かす。「校長から聞いたのですが、教育長から『空欄が多いのは何でや。意欲が低いからと違うんか』と怒鳴られた、と言うんです」。ため息をつき「分かっても分からんでも解答欄を埋めろなんて、おかしくないですか」と私に訴えかけた。

 教師らの勤務評価にも連動し始めた。鹿児島県のある小学校では、教諭らに学テの数値目標を掲げさせ、企業の成果主義さながらに、その評価が昇給に影響するという。同校の四十代の教諭が嘆いた。

 「平均点を三点アップさせるなど目標を立てなければなりません。現場には、さまざまな生活背景の子どもたちがいる。ゆっくりじっくり、一緒に考える授業はできなくなりました」

 教育現場が閉鎖的になったり、独善的になってもいいとは、私も思わない。だが、専門知識を持ち合わせていない政治家までもが、ずかずかと教育現場に踏み込み、本来画すべき一線が、あまりにもないがしろにされてないか。

全国学力テスト10年(4)教育ビジネスの影 (大津支局・浅井弘美):ニュースを問う:中日新聞(CHUNICHI Web)
2017年2月26日 朝刊

 中学三年生を受け持つ教諭たちに、衝撃が走った。

 昨年三月、滋賀県内の中学校。県立高校の入試当日、学力テストのB問題をほうふつとさせる問題が出題されたことを知ったからだ。数学では、得点しやすい単純な計算問題が消え、一定レベル以上の読解力まで求める問題に様変わりしていた。

 「問題を見て『何やこれは』とがくぜんとして。自分たちが今まで教えてきたことは何だったの?って」

 四十代の女性教諭は、怒りに震えながら話した。不穏な兆しがなかったわけではない。県内の学習塾で解かせる問題が、学テに類似した問題に変わってきていた。高校入試が迫った生徒の学習を見るため、補習につきあった五十代の男性教諭が明かす。

 「塾でやっている問題を生徒が持ってきてびっくりしたんですよ。学テと同じような問題が出ていたんです。生徒は『全然分からん』と嘆いていましたからね」

 入試からの帰り道、肩を落とす生徒らを慰めたという教諭は「入試まで学テとリンクさせて。この子たちは切り捨てられた」と悔しさをにじませた。別の学校長は「入試に学テの問題を入れたら、対策をせざるを得なくなる」と憤慨した。

◆対策先行の学習塾
 そんな声を聞いているうちに、ふと、不思議に思った。教師たちさえ知らされていない入試の傾向を、なぜ学習塾は察知できたのか。その塾で使われていた問題集には、なぜ、傾向と対策がしっかり盛られていたのか。思い出したのは、業界の内情に詳しい関係者の話だ。

 「学力テストのおかげで、いまは商品が売れるのでありがたい」

 教育ビジネスの業界は、教育委員会や学校での情報をいち早くキャッチし商機にする。驚いたのは、そのすさまじい営業活動だ。

 議会の一般質問で教育に関する内容を事前に入手すると、傍聴席に出向いたり、中継映像や議事録で教育長らが議員らに突き上げられている様子を確認。議会の後、何食わぬ顔で「何かお困りのことはありますか」と尋ねると、教委の担当者が「学テの成績で議員から追及されてね」などとこぼす。そのタイミングですかさず、問題集の売り込みを図る、という。

 少子化の影響で、教育業界の市場が落ち込んできている昨今、学テは重要な稼ぎ頭になっている。最近の主力商品は、ウェブテストや各県ごとの学力テストだそうだ。

 関係者は「会社としては売り上げアップになるので、『学テ、学テ』と言ってくれている間はありがたい」と話す。ただ、教育に携わっているという思いからだろうか、こんな本音ものぞかせた。

 「今のやり方は、子ども一人一人に返っていない。一人一人が分かったと理解する、勉強が楽しいな、と思わせることができていない。学力はついていないと思う。その時々の結果が良ければいい、という感じ。いじめがなくなっていますか。学力格差はなくなっていますか。親の経済格差が広がり、お金をかけてもらえない子どもたちもいる。そんな子どもたちと向き合う時間が本当は必要なのに、と思う」

 営利活動とはいえ、それが子どもの成長につながってこそ仕事の喜びにつながるのだろう。

◆視察途中に観光も
 学テとビジネスが絡むのは教材にとどまらない。

 早い時期から学テ対策を進め、いつも成績が上位の秋田県では、他県の自治体の教委、教師、議員らが視察に訪れる、いわゆる「秋田詣で」が続く。

 県教委などによると、二〇一五年度は北海道や沖縄県を中心に三千四百四十人が来県。視察を兼ねて観光する団体もあるといい、B級グルメで知られる秋田県横手市では、航空会社とタイアップして学校見学のルート途中での観光の受け入れを図っている。

 同県の小学校教諭が嘆く。

 「毎年毎年、視察に来る人が増えてます。お客さんを迎えるなら、校内をきれいに掃除しておかなきゃいけないでしょ。疲れますよね。何より、学校や子どもたちが観光商品化されているみたいで…」

 商機を求めて企業努力をすることを悪く言うつもりはない。それが学力の二極化が進んでいるとされる教室で、基礎学力の身についてない児童、生徒に自信をつけさせ、学習意欲を高めているのなら、意味もあると思う。

 だが、現状はどうなのか。学校が、授業に関係ない学テ対策の教材を買わされ、自治体間の不毛な競争の余波で関係者の視察旅行が相次ぎ、平均点にしか目が向かない空気の中で、成績が下位の子どもたちの指導がないがしろにされ始めているのであれば、本末転倒と言うしかない。

全国学力テスト10年(5)国際調査の影響 (大津支局・浅井弘美):ニュースを問う:中日新聞(CHUNICHI Web)
2017年3月5日

 自治体の間で激しさを増す不毛な競争。文部科学省は事態をどう考えるのか。学力調査室の高木秀人室長(44)に聞いてみた。

 -沖縄の中学校で成績が下位の子どもを省くなどの事例があった。他県でも起きている。現場の先生たちから聞いています。

 「県教委に電話で問い合わせたが『ありません』という返答で『本当か』と聞いて、それを何往復かしたけど、出てこない。ないんじゃないかと思っている」

 -過去問を集中的にやるなど、平均点を上げる対策がエスカレートしています。

 「そんな対策はおかしい、と昨年四月に大臣も発言し、通知も出し、そんなことやっているなら耳に入れて、と記者会見で言っているけど、裏が取れるような情報は入っていないんですよ」

 -調べないのですか?

 「調べますよ。突然行くと、不審者になるので『何日に行きますんで』と事前に連絡してからですけどね」

◆「競争のため」否定
 -現場の先生たちは競争に追い込まれて大変です。

 「競争するためのものでもなんでもない。競争しなくていい」

 -原因は、文科省が公表する都道府県別の平均正答率の一覧。なぜ公表するのですか。

 「国としての説明責任です。毎年、約六十億円弱使うので。都道府県ごとの傾向はこんな感じです、と」

 地域を比較するデータを無造作に出しながら、不毛な競争を防ぐ手立ては何も講じない。むしろ、無責任な印象を受けた。批判を意に介さないのは、経済協力開発機構(OECD)の学習到達度調査(PISA)の結果に意を強くしているからだ。

 「昨年末に二〇一五年の結果が出たが、科学、数学で、わが国はトップレベル。十年続けてきて、学力テストは非常に効果があったと思う」

 OECD加盟国を中心に七十二カ国・地域の十五歳が参加するPISAは三年ごとに、読解力、数学的応用力、科学的応用力の三分野を調べる。どんなテストか、分かりやすい例がある。日本の正答率が8%にとどまった科学の設問は「養殖用の三つの水槽にシタビラメ、えさのゴカイ、貝、海草をどう配置するか」という内容だった。

 正答率が低かったのは、理科の教科書にない見慣れない設問だったからか、コンピューターでのドラッグ&ドロップに不慣れだったのか。そもそもこの問題が解けないことが、それほど深刻なことなのか。そんな議論は置き去りだ。文科省は、学テでは「平均点を上げる対策には意味がない」と繰り返しながら、その実、文科省こそがPISAの「数値」に一喜一憂し、学テの内容をますますPISA対策化させている。

 実は、そのPISAに対しても、国際的な反発が高まっている。一四年には、英紙ガーディアンに欧米の大学教授ら九十人が中止を求めるメッセージが掲載された。

◆教育ゆがめる恐れ
 「われわれはPISAのランキングの悪影響を、率直に心配している」とあり「(順位が落ちた国で)PISAショックが宣言され、ランキングを上げるために教育制度を変え、(独自の)教育慣行に深く影響を与えている」と警鐘を鳴らす。

 数学、科学、読解力に限定された調査に「数値化しやすい分野を強調し、測定しにくい道徳や芸術などに目を向けにくくさせている」と批判。さらに、経済分野の国際機関であるOECDには「教育改善の任務はない」と断じ、「就職の準備をさせることが、公教育の唯一の目的ではない」と訴え、こう喝破する。

 「OECDは各国でPISA対策のサービスを提供する多国籍企業と提携した。事業の赤字を穴埋めし、利益を上げるためだ」

 学テを巡って各地の自治体が不毛な競争を繰り広げ、教育現場を混乱させているこの国の実態が世界中で起きているかのようにも読める。

 池田賢市中央大教授(教育学)はPISAについて「そもそもOECDの目的は、経済に役立つ人材の開発。どの国民が使える人材かを見ている」と文科省が“学力”と直結させることに懐疑的だ。

 PISAをお手本にする学テを、このまま推し進めてよいのだろうか。

 「競争するためのものじゃないんです」。文科省が丁寧な言葉で語るほど、建前で言っているだけに聞こえて仕方がない。

 (中日ウェブ・プラスに掲載、12日に番外編)

掲載図:「2015年のPISAで日本の正答率が悪かった科学の問題の回答例(国立教育政策研究所のホームページから)※設問文は簡略化」(略)


全国学力テスト10年(番外編)「美しい国へ」? (大津支局・浅井弘美):ニュースを問う:中日新聞(CHUNICHI Web)
2017年3月12日

 誰が言い出したのか、今となっては知るよしもない。先生たちは「田植え」とひそひそ話で言い合ったそうだ。少し前かがみで席を回り、生徒の答案を指で押さえる姿が、そう見えたからだという。

 「わたしらの先生はテストの時にぐるぐる回ってきて、間違っていたら、黙って指で押さえて教えてくれた」

 およそ半世紀前の一九六一~六四年、文部省(当時)主導で行われた「全国学力テスト」。全国一位を競った香川県と愛媛県で起きた問題を、大学教授らが調べた報告書「『学テ教育体制』の実態と問題」には、当時の出来事が克明に記録されている。

◆モラルなき“田植え”
 愛媛県の事例では-。

 答えを書いた紙片を見えるようにヒラヒラさせて教室を歩き回る先生。「今度は(平均点を)八十六点ぐらいにしましょうか」と聞く教師に「それでは高すぎて困る。七十八点ぐらいにしておいてくれ」と応じる校長。東京の週刊誌記者に「不正ではないか」と“田植え”について問われ、「善意の行為は不正とは考えない」と答える教育長に、「先生も子どもも懸命なのだから“善意の勇み足”でしょう」と言い添える自民党の県連幹事長-。

 狸(たぬき)校長や赤シャツ教頭が出てくる漱石の「坊っちゃん」の舞台だからでもないだろうが、想像を超える人物像で笑わせてくれる。

 一方の香川県では、毎日の授業時間帯の前後一時間ずつ、学テ対策のプリントを解かせる対策漬けに。同県の教師らが書いた「学テ日本一物語」では、学テが近づくと、一日八~九時間のテスト準備の授業に加えて土日も登校、宿題も山のように課された実態が、生徒の声とともにつづられている。

 「学テあって教育なし」と言われた当時を知る香川県内の元教師大林浅吉さん(94)は「汗の香川、涙の愛媛と例えられた。二度も同じ過ちを犯したらあかん」と平成の学テの行方を心配する。

 半世紀前の失敗を省みず、なぜ再び学テが登場してきたのか。もとをたどると、安倍晋三首相が二〇〇六年に著した「美しい国へ」の一節に行き当たる。そこで首相は「喫緊の課題は学力の向上である」と訴え、こう続ける。

 「全国的な学力調査を実施、その結果を公表するようにするべきではないか」

 さらに、「結果が悪い学校には支援措置を講じ、それでも改善が見られない場合は、教員の入れ替えなどを強制的におこなえるようにすべきだろう」。そこには、点数だけで教師たちを評価し、強権で締め付けようとする意図が赤裸々だ。「この学力テストには、私学も参加させる。そうすれば、保護者に学校選択の指標を提供できる」という言葉からは、まるで教育の基準が点数にしかないようにさえ読み取れる。

 そして、首相がもくろんだ通り、教員も学校も教育委員会も学テの結果に戦々恐々とし、平均点を上げるために必死になっている。

 「美しい国へ」には、その先がある。

 「郷土愛をはぐくむことが必要だ。国にたいする帰属意識は、その延長線上で醸成されるのではないだろうか」

◆「森友学園」生む流れ
 著書発刊の五カ月後に教育基本法が改正され、愛国心条項が盛り込まれ、一八年度以降に小中学校で道徳が教科化されることも決まった。今、国会で焦点になっている大阪市の学校法人「森友学園」の問題も、この流れと無縁とは思えない。過去の失敗に学ぼうともしない一政治家の、短絡的な点数主義と、特定の思想教育へのこだわりが教育現場に深刻な混乱をもたらしているとすれば、空恐ろしい、としか言いようがない。

 報告書に描かれた半世紀前の愛媛県には、こんなシーンがあった。

 「母親大会で、ある母親が『うちの子供は文部省テストの日、先生が休みなさいと言った。いくら成績の悪い子でもひどいではないか』と発言した。すると担任の女教師が立ち、私たちもそんなことはしたくありませんけれども、文部省テストが近づくと校長室へ担任が呼ばれ、『平均点を必ず上げてもらいたい。そのためには多少の犠牲もやむを得ない』と厳しい口調でいわれ、その日から各クラスで猛烈な準備が始まり、何とかして平均点を上げたいと、つい子どものことは頭からはなれて、成績の悪い子は、いなくなってくれればよいという気持ちになるのです、と発言した」

 教育は国家百年の計と言われる。一朝一夕に学力が伸びるはずはないし、そもそも学力とは何なのか。点数による序列化でも、思想教育がその中心でもないはずだ。教室で先生たちが、一人一人の生徒と、その能力に応じた向き合い方ができる、そんな教育現場に戻してほしい。

 =終わり


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