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2019/02/24

導入時には「強制はしない」と説明した法律の実際

特集ワイド・ニュースアップ:大阪「君が代条例」のその後 「思想・良心の自由」揺れ続け=編集局・湯谷茂樹 - 毎日新聞(2017年4月12日 大阪夕刊)

懲戒処分、延べ61人
 大阪府と大阪市では、卒業式などで君が代を起立斉唱することを教職員に義務付けた全国初の条例が2011年度に制定され、さらに翌12年には同じ職務命令違反3回で分限免職の対象になる職員基本条例も制定された。憲法で保障された「思想・良心の自由」にもかかわる君が代斉唱を巡り「不起立3回で免職」の衝撃は大きく、全国的に注目された。条例制定後、起立斉唱の職務命令に違反したとして、懲戒処分を受けた教員は延べ61人になる。免職処分はないものの、定年後の再任用を認められなかった教員は少なくとも7人いる。条例制定から現在までの動きをたどった。

全国初の条例化
 君が代条例の正式名称は「大阪府の施設における国旗の掲揚及び教職員による国歌の斉唱に関する条例」。府立と市町村立の小中高校、特別支援学校の教職員を対象に「学校の行事において行われる国歌の斉唱にあっては起立により斉唱を行うものとする」と明記、府施設での国旗常時掲揚も義務付けている。

 生みの親は当時の橋下徹・府知事で、2011年5月上旬に代表を務めていた「大阪維新の会」に条例作成を指示。同月25日には条例案が府議会に提出され、6月3日に成立した。維新の会が多数を占める大阪市議会でも同様の条例が12年2月に成立した。

 条例を巡っては、当時の教育長が「条例化は必要ない」と府議会で答弁するなど異論もあったが、橋下知事は「国旗・国歌を否定するなら、公務員を辞めればよい」と強い姿勢で臨み早期成立させた。

 12年に大阪維新の会が多数を占める大阪府・市議会で成立した職員基本条例は、そうした知事の言葉を実行に移すかのような規定がある。「指導、研修などの措置を講じても、5回の職務命令違反(同一命令は3回)を繰り返した職員については分限免職」とする趣旨の規定で、不起立の職務命令違反3回で、分限免職もありうる内容だ。

個人としての不起立
 条例が制定された当時、大阪府内の卒・入学式で、君が代斉唱時の不起立は既に少数だった。1999年に、日の丸を国旗、君が代を国歌と定めた「国旗国歌法」が成立。政府は「強制はしない」との説明を繰り返したが、文部科学省は、国旗掲揚、君が代起立斉唱を徹底するよう指導を強めた。都道府県別の実施状況調査も繰り返し実施。条例制定の10年前には、文科省調査で、ほぼ100%実施という状況だった。

 教職員組合も不起立を運動方針として掲げておらず、職務命令違反にも慎重だった。

 不起立はあくまで教員個人の行為として行われている。

 処分のリスクがあるのに、どうして起立しないのか。教員たちの思いはさまざまだ。

 「天皇をたたえる歌で、教育勅語などとともに、子どもたちを天皇の兵士として戦争に動員した歴史がある」、「府教委も掲げてきた『多様な民族の歴史と文化を尊重する教育』と相いれない」、「キリスト者として天皇崇拝の歌は歌えない」といったそれぞれの理由からの不起立だが、強権的な手法への憤りは共通している。処分を受けた人たちは個人として連携し、「グループZAZA」などの組織を作り、処分撤回を求める訴訟などの活動を続けている。

「強制」は東京から

「10・23通達」後の東京都の処分者数
 教職員の君が代斉唱時の起立義務を条例で定めたのは大阪が最初だが、同様の義務化は、石原慎太郎知事時代の東京都で03年10月に出された通達により始まっている。日付にちなみ「10・23通達」と呼ばれる通達は、「国旗に向かって起立し、国歌を斉唱する」ことや、日の丸の掲揚などを義務づけている。通達以降、東京都では卒・入学式での職務命令違反で、延べ14人が停職、82人が減給、354人が戒告の処分を受けてきた。

 都教委は職務命令違反を繰り返すとより重い処分を科し、6カ月の停職となった教員もいた。こうした処分は裁判で争われ、12年1月16日、最高裁は、不起立による戒告以上の減給や停職は「重過ぎて社会観念上著しく妥当性を欠く」との判断を示した。一方で「重過ぎない範囲での懲戒処分は裁量権の範囲内」との判断も示している。


君が代起立条例後の大阪府内での処分者数
 大阪の君が代条例は、この最高裁判決直後の卒業式から適用されたため、府教委によると起立斉唱の職務命令違反の累積による減給以上の処分は出されていない。しかし、職員基本条例に基づき、処分2度目の教員へは分限免職の警告が発せられてきた。

 不起立による免職については、東京都教委の6カ月停職(懲戒免職ひとつ手前の処分)を巡る訴訟で、東京高裁が15年5月28日に「自己の歴史観や世界観を含む思想等により忠実であろうとする教員にとっては、自らの思想や信条を捨てるか、それとも教職員としての身分を捨てるかの二者択一の選択を迫られることとなり(中略)憲法が保障している個人としての思想及び良心の自由に対する実質的な侵害につながる」との判断を示し、都側の上告が16年5月に棄却され、確定している。

所得奪う再任用拒否
 君が代不起立だけで、減給や停職、ましてや免職の処分は許されないとの司法判断は確定しているが、不起立により実質的に職を失う事態が起きている。教員は60歳が定年で、年金支給の65歳まで、希望する教員のほとんどが再任用(雇用)される。しかし、不起立で処分された経験があり、再任用の内定を取り消されたり、不合格となったり、更新を拒否された教員が、大阪では少なくとも7人いる。

 再任用拒否を巡っても訴訟となっており、先行する東京都教委の事例では、東京高裁が15年12月に、都の再任用の拒否は裁量権を逸脱し、違法との判断を示している。

 しかし大阪では今春も定年を迎えた不起立教員2人が再任用を拒否された。2人の再任用については校長が適当と内申していたことも、文書公開で明らかになっている。

 大阪府教委は不合格の理由を、職務命令に従うかどうかの意向確認に応じなかったことなどについて「総合的に判断した」と説明している。

 この府教委の意向確認は、再任用選考の時期に行われていたことから、企業の就職指導をしている府商工労働部が「思想・信条に関すること」を質問するのは就職差別のおそれがあると改善要請をする事態にもなっている。

 再任用を求めて3月末に記者会見した2人は「再任用制度は、年金支給年齢の引き上げに伴って導入された生活保障のための制度で、大阪府教委の対応は、最高裁の判決にも反する」と訴え、「森友学園問題にも通じる国家主義的流れに迎合する不適切な教育行政だ」などと批判した。

掲載表1「「10・23通達」後の東京都の処分者数」

 停職減給戒告懲戒総数
03年度01192193
04年度0177693
05年度3132743
06年度3152240
07年度2141127
08年度36514
09年度2305
10年度1539
11年度0044
12年度0167
13年度0257
14年度0303
15年度0235
16年度0000
合計1482354450
※東京、大阪とも16年度は入学式の処分者のみ

掲載表2「君が代起立条例後の大阪での処分者数」

 停職減給戒告懲戒総数
11年度003232
12年度031417
13年度0066
14年度0033
15年度0033
16年度0000
合計035861


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