カテゴリー「世界記憶遺産問題」の20件の記事

2016/01/18

こんなふうに利用されるから知覧は世界記憶遺産になれない

「知覧研修」(陸上自衛隊 幹部候補生学校)魚拓リスト

このページは mod.go.jp 即ち防衛省・自衛隊の公式サイトにあり、かつ、陸自の幹部候補生学校の公式ページである。幹部候補生学校では、毎年、知覧の特攻平和会館で研修を行っているという。

この研修を続けている理由は、「特攻隊員の自己犠牲を伴う献身の精神は、「質実剛健にして清廉高潔」たる校風に酷似した気風で涵養されたであろう事に鑑み」たのだそうだ。
このページによれば、特攻隊と特攻隊員を評して曰く、
「散華された特攻勇士の魂魄の息吹」とか、
「大儀に殉ずる潔さと強さと勇気」とか、
「私欲や汚れがなく、清らかで気高いもの」とか
「崇高なもの、至誠至純なもの、美しく気高いもの」なのだという。

特攻隊員を理想化し、「武人」の鑑として学べというわけである。

このような、悲劇の中の美談という扱いこそ、歴史の平板化と戯画化の最たるものであり、単純な英雄譚の中に歴史を回収する愚挙なのだが、知覧の特攻平和会館は、まさにその格好の素材として利用されているのである。
実際には、特攻隊員の遺書や他の証言などには、「武人」とはほど遠い苦悩し逡巡する特攻隊員の姿や、戦争や指導者への批判が書かれているものもある。特攻隊員が志願制とは自発性とはほど遠い事実上の強制だったという話もあるし、そもそも当時の若い世代に「自分たちはどうせ死ぬものだ」という意識が充満していたことを伺わせる証言はもっとたくさんある。特攻平和会館に残されている遺書や写真などは、その全体状況の表層のごく一部を切り取ったものに過ぎない。

さらに問題なのは、このヒロイズムと「武人」精神とを強調する幹部候補生学校の姿勢からは、この戦争と特攻作戦への反省が一切見られないことである。軍の将来を担う幹部の養成学校が、特攻作戦の愚挙が兵に何を強いたのか、それが社会にどのような圧力を生んだのかを一切顧みることなく、自爆突撃の命令に従順だった兵らを「気高いもの」と美化し、その「大義に殉ずる潔さと強さと勇気」を称揚するだけだとすれば、そのような教育を受けた幹部らが部下をどのように扱うようになるか、社会に何を要求するようになるかは、火を見るよりも明らかであろう。

おまけに、陸自の幹部候補生学校では、当時の戦争を「大東亜戦争」だと称しているらしい。自衛隊が、自らを大日本帝国と旧日本軍とを受け継ぐものだと認識していることの証拠であろう。
知覧研修の「基本的な考え方」に上がっている「正しい歴史認識をもつこと」という節から引いてみる。

 現在の学校の歴史教育は、史実、特に大東亜戦争に至った経緯や戦後の占領政策等を故意に削除するか、正しく伝えていない面が多く、隣国に過度に配慮した自虐的史観に覆われているため、多くの若者達が日本民族の伝統や文化に誇りを持ち難い状況を呈している。従って、日本人の伝統的美徳や倫理観が継承されずに腐朽し、愛国心すら希薄になってきているが、そうした影響を受けた若者達が、幹部候補生学校に入校していることは現実として認識しなければならない。残念なことであるが、義務教育等では、平和教育という名のもとで、或いは一部のメディアや評論家達が、沖縄戦等での特攻作戦、散華された英霊や生き残った特攻隊員を誹謗中傷する言動や報道がいまだになされ、こうした影響を受け疑問を抱く候補生が少なからずいることを承知しておかなければならないし、また、本研修間にそうした質問が投げ掛けられることを予期しなければならない。この種質問に対して、論理的で公正な説明がなされなくてはならないが、そのためには、知覧研修担当者は、当時の世界情勢及び知覧を含む特攻作戦に関する文献・資料を熟読して正しい歴史認識を持つ必要がある。また、回答に当たっては、憂国の至情に燃えて散華された特攻勇士が、平和な日本再建への先駆けとなったという事実は強調されるべきであり、彼等は、同じ武人として我々の大先輩に当たるとの矜持を候補生に扶植する着意が重要である。
典型的な右翼的歴史修正主義の塊であるが、これが自衛隊の公式サイトに掲載されている、幹部候補生学校の公式見解なのである。

自衛隊から田母神氏などの絶望的な人材が次々と排出(誤記ではない)されるのは、実にその制度的・組織的必然によるものであって、決して彼らはたまたま出現した外れ値のようなものではないということなのであろう。

そして、知覧の遺書群がこのようなものに好都合な存在であり続ける限り、それは決して世界史的な意義を持つものにはなりえないし、その歴史的価値を評価されることもないであろう。単なるお涙頂戴式「愛国」プロパガンダのネタとして消化されるのみである。

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追記(2016年3月7日)

幹部候補生学校の記述が削除されていたとのこと。

他が見つからないので産経の記事を挙げておく。まあ産経だからどこに誤りが隠れているか分からないけれど…。

「現在の教育は自虐史観」「愛国心すら希薄」陸自学校、公式HPに教官が記述  - 産経WEST(2016.1.29 17:44)

 陸上自衛隊の幹部候補生学校(福岡県久留米市)の公式ホームページに、現在の歴史教育について「隣国に過度に配慮した自虐的史観に覆われている」などとする担当教官の記述があったことが29日までに分かった。同校は27日に該当部分を削除した。

 防衛省は削除理由について「省の公式見解ではなく教官個人の見解であり、公式ホームページに掲載することは閲覧者の誤解を招く恐れがある」ためとしている。

 記述があったのは同校が伝統行事としている「知覧研修」を紹介するページ。太平洋戦争末期に特攻隊が出撃した鹿児島県南九州市の知覧飛行場跡地などで行われる研修に関連し「現在の学校の歴史教育は、史実、特に大東亜戦争に至った経緯や戦後の占領政策等を故意に削除するか、正しく伝えていない面が多く」などと書かれていた。

 「多くの若者たちが日本民族の伝統や文化に誇りを持ち難い状況を呈している」「愛国心すら希薄になってきている」と指摘し、こういった若者らが幹部候補生学校に入校していることを「認識しなければならない」とも強調していた。

 少なくとも数年前からホームページに掲載されていたとみられるが、外部からの問い合わせを受けて削除されたという。

 防衛省は「先の大戦に関する政府の認識については、昨年8月14日の(戦後70年)首相談話などで示されている通りだ」とコメントした。

本日時点で上記のリンク "http://www.mod.go.jp/gsdf/ocsh/tirankensyuu.html"をクリックすると、コンテンツが一切削除されたページになっている。ページのソースは次の通り。










てっきり問題箇所を一部だけ削ったのだと思っていたので、ちょっと驚いた。この反応はかえって杜撰というか、きちんと自分たちのメッセージを伝えようという意欲を持たず、「とにかく消せばいいんだろ」と感情的に反発しただけのように見えてしまう。

私自身は、知覧に行くこと自体はかまわないと思う、外形的には。つまり、軍の学校が過去の戦争について学ぶことは当然のことだし、それが真摯な反省に立ち、過去の過ちの大きさを知るためであれば、国の機関として知覧研修をする意義はあると思う。
しかし、おそらく、今回の削除は誤りを理解した反応ではないだろうし、そして知覧研修が継続するにしても今後は決してそれが公表されることはないだろうし、その右翼的な内容が改められることもないのだろう。

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2015/12/22

記憶遺産:複数の国・組織に関わる資料は共同で申請するよう求める

ユネスコ 「記憶遺産」申請の新指針発表 NHKニュース(12月18日 7時42分)

ユネスコ=国連教育科学文化機関は、「記憶遺産」について、複数の国や組織に関わる資料を登録したい場合は、共同で申請するよう求める新たな指針を発表し、制度の改善を求めていた日本の主張を一定程度、反映したものとみられます。
ユネスコは、ことし10月、中国が申請した「南京事件」を巡る資料を後世に伝える価値があるとする「記憶遺産」に登録しましたが、日本政府は、見解が異なるなかで登録が行われたとして、ユネスコに対し、透明性と中立性の確保を強く求めていました。
ユネスコは17日、「記憶遺産」の申請に関する新たな指針を発表し、複数の国や組織に関わる資料の登録を求める場合は共同で申請することや、一般の団体や個人からの申請は、各国が設けた選考委員会などの審査を受けるよう求めています。
日本政府は去年、ユネスコにおよそ37億円を分担金として拠出していますが、「南京事件」を巡る資料の登録を受けて、拠出の停止も含めて検討していました。
日本の分担金の額は加盟国の中で最も大きく、停止されることになればユネスコの今後の運営にも関わることから、制度の改善を求めている日本の主張を一定程度反映したものとみられます。
ユネスコは、新たな指針の発表に伴い、次回の「記憶遺産」の申請期限について、来年5月末までに延長すると発表し、さらに新たな指針に基づいて申請された提案については優先して審査する意向を示しています。

日本の分担金への影響抑えるねらいか

ユネスコ=国連教育科学文化機関が記憶遺産の申請を巡って、新たな指針を示した背景には、日本が拠出する分担金への影響を抑えるねらいがあるものとみられています。
ユネスコは、加盟国の分担金などを財源に運営を行っていて、日本政府は去年、およそ37億円を拠出し、全体の10%余りを負担しています。
分担の割合では、アメリカの22%に次いで2番目ですが、アメリカは2011年にユネスコがパレスチナの加盟を認めたことに反発して拠出を凍結していることから、実質の負担額では日本が最も大きくなっています。
このため、「南京事件」を巡る資料の登録に関連して、日本が分担金の支払いを停止すれば、ユネスコの運営に大きな支障が出るおそれがあります。それを防ぐためにも日本が求めていた制度の改善を、一定程度実現しようとしたのではないかとの見方が広がっています。

ニュース後半部分の解釈はどうでもいいが、「関わる」の含意が微妙かもしれない。

このニュースの元ネタはたぶんこれ。

UNESCO Memory of the World Programme calls for new nominations for the International Register 2016-2017 nomination cycle | United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization(16.12.2015 - Communication & Information Sector)

該当部分を引くと、

In addition, two or more governments, institutions, organizations, groups or individuals may put forward joint nominations where collections are shared among several owners or custodians. Such prior collaboration is strongly encouraged.
In the case of documentary heritage which exists in several locations, or several owners or custodians, full details of each component, owner or custodian are to be provided.
要するに「申請する文書が複数の国や団体等の間で分散している場合は」という話である。

記憶遺産に申請する文書は、その対象とする事象(例えば南京大虐殺)に関して網羅的である必要はない。網羅的であることを条件にしたら、認定すべき資料の範囲が果てしなくなるからだ。実際、例えば南京大虐殺の申請・認定に際しても、日本側が持つ資料は含まれていなかった。
このユネスコのアナウンスを文字通り受け止めれば、例えば従軍慰安婦関連資料を申請する場合でも、日本側が保有する資料を範囲に含めなければ、従来通りの申請と変わらないことになる。

また、共同申請せよという方針も、国と個人などの申請でも良いかもしれない。例えば日本の個人が中国政府と共同申請することも原理的には可能なように読める。もっとも、ユネスコは、申請する際は各国のユネスコないし記憶遺産選考委員会を通すように求めているので、この場合でも日本の個人が関わっているということで日本の選考委員会が中国の選考委員会と協議する形になるのかもしれない。あるいはどちらか片方の選考委員会で処理することになるのかもしれない。このあたりはちょっと曖昧に読める。

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記憶遺産の本旨からすれば、今回の方針は、文化・歴史的な観点から見て後退だと言える。
政治的紛争を避ける趣旨があるのだろうと察せられるし、それが日本の圧力である可能性はもちろん否定できないが、これによって戦争や人道の罪に関する資料を「記憶遺産」に含めることが難しくなってしまった。
戦争にせよ人道の罪にせよ、これらの文書や史跡、遺物、証言は、後世に残さないようなバイアスがかかりやすいものである。このことは、人類が過去を忘れ、反省と教訓を無にし、再び同じような残虐と悲惨と破滅とを引き起こすことにつながる。記憶遺産の一つの効用は、こうした過去の抹消への動きをいささかでも食い止めようとするところにあった。それがまた無にされようとしている。愚かなことである。

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2015/11/06

記憶遺産問題:日本政府、トンデモさん登用で恥の上塗りをするの図

世界記憶遺産:意見書 日本、「南京」否定派を引用 ユネスコ受け入れず - 毎日新聞(2015年11月06日)

記事タイトルの「ユネスコ受け入れず」が気になる。本文にそれらしき記述がない。

それはともかく、恥辱プレイのレベルをさらに上げてきたニッポン。どこまで行くつもりなのか。
あるいは世界の嘲笑を誘う自虐ギャグなのか。

・ただでさえ恥ずかしい記憶遺産へのクレームなのに、その意見書を高橋史朗氏に依頼。たとえて言うと、「都道府県大戦」で骨玉1つで大玉を倒しに行くぐらい無謀。(かえって分かりにくい?)
大川隆法氏を国連大使に任命して、松井石根の霊言で世界を折伏してもらう的な戦略。

で、高橋センセイの意見書がボロボロらしい。まぁ当たり前すぎるけど…。
・中国側史料の真正性を批判するはずなのに、なぜか史料の内容を批判してみたり。史料自体の真贋は疑ってないわけですね。しかもその内容批判も明後日の方向らしい。
・事件自体が後代の捏造だと言うならその証拠を挙げればいいのに、なぜか事件記述への疑義を述べ立てるだけ。

しかし何よりすごいのが、東中野修道氏の著書に依拠しているらしいところ。極めつけの笑いどころですな。
たとえて言うと、日本政府代表が、青森県にイエス・キリストの墓があるとする竹内文書を引用して、「エルサレムを聖地としているのは誤りだ」とバチカンで演説したぐらいの恥ずかしさ。

で、さらにひどいのが、外務省が高橋センセイをかばっているらしいこと。
「(高橋教授は)保守派の中ではバランスの取れた研究者」なのだそうで…(汗)。

ではここで高橋センセイの著作タイトルを少し見てみましょう。(出所:CiNii Articles 検索 -  高橋 史朗

・WGIP洗脳工作の源流を暴く : 日本を封じ込める心理戦はどこで進められたのか(Voice (453), 150-159, 2015-09)
・「河野談話」検証の虚妄 : 中韓の国を挙げたプロパガンダは激しさを増すばかり (総力特集 断末魔の朝鮮半島)(Voice (441), 92-99, 2014-09)
・読書の時間 BOOK LESSON 日本が二度と立ち上がれないようにアメリカが占領期に行ったこと 高橋史朗著 : 日本人よ目覚めよ! 歴史の糾弾は結局わが身にふりかかる(正論 (509), 368-371, 2014-06)

ええと、高橋センセイがこんな感じなのはたまたまじゃなくて、昔からなんですよね…。
・朝日と日教組が「歴史」を決めるのか(諸君 20(2), p26-44, 1988-02)
・「朝日」と「外圧」に歪められる歴史教科書(諸君 18(8), p26-38, 1986-08)
・またしても「ご注進屋」が対韓マスコミ工作 (教科書検定 「裏工作」に暗躍 河野洋平外相 野中広務幹事長 後藤田正晴元警視庁長官 汝ら、奸賊の徒なるや!)(諸君 32(12), 48-58, 2000-12)
・「家庭科」という環境ホルモン ファロスを矯めて国立たず--桃から生まれたももこちゃんは鬼と共生?いい加減にしろ、フェミニズムの腑抜けども(諸君 34(7ママ), 156-166, 2002-06)

ほかにも、高橋センセイはトンデモで有名な「親学」の熱心な推進者だし、育鵬社の教科書普及を推進する日本教育再生機構の理事でもある。

そんな高橋センセイですが、外務省的には「バランスが取れた研究者」なんだそうです……。さすが、アメリカで歴史学者や在米邦人団体に圧力をかけたりするだけのことはありますな。

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ちなみに、毎日新聞は、別に、高橋センセイや外務省に批判的な新聞社ではありません。
むしろ、今回の記憶遺産問題では、一貫して右派的な論調なんですよね。例えば、

70年ウオッチ:「平和のとりで」が歴史の戦場になる=論説副委員長・古賀攻 - 毎日新聞(2015年10月27日 東京朝刊)(本記事末に後掲)

という記事では高橋センセイのコメントを好意的に紹介している。記事につけられた写真では、ことさらに「犠牲者30万人」という記述に大きく焦点を合わせて、あたかも犠牲者の人数こそが問題の焦点であるかのような印象を作っている。
こんなふうに、毎日新聞は――朝日新聞などもそうですけど――記憶遺産を政治の道具にする中国・韓国を許すな!というのが主たる論調なわけです。要するに、「歴史戦」「情報戦」に負けるな!という点で、愛国トンデモな人たちと同じ主張をしている。

そんな新聞社が今回のような微妙に批判じみた記事を上げてきたわけです。今回の記事を書いた宮川裕章記者も、以前

記憶遺産への登録は中国の歴史認識にユネスコの「お墨付き」を与えかねない
などと、「中韓の歴史戦に負けるな!」的な記事を以前上げていましたから、元々右派に批判的な人だというわけでもなさそうだし、さすがにちょっとアレさがきつかったのかもしれませんな。

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世界記憶遺産:意見書 日本、「南京」否定派を引用 ユネスコ受け入れず - 毎日新聞(2015年11月06日)

 国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界記憶遺産に登録された「南京大虐殺」に関する資料に対して日本政府が提出した民間研究者の意見書を疑問視する声が出ている。日本は、登録申請した中国に反論するため、外務省と専門家の意見書をユネスコ側に提出した。しかし、専門家意見書に南京事件否定派とみられている学者の著書が引用されるなどしたため、かえって日本の印象を悪くして逆効果になった恐れがあるという。

 意見書は明星大の高橋史朗教授が作成した。ユネスコ日本代表部の佐藤地(くに)大使の意見書などとともに、ユネスコ世界記憶遺産国際諮問委員会に9月末、提出された。

 高橋教授は意見書で、中国が一部公開した申請資料を分析。申請資料だけでは「内容の真正性について判断することができない」と指摘した。

 意見書は、「約100名の日本兵が『大虐殺』の存在を否定する本を出版している」と記し、南京市にいた中国人女性の日記についても「伝聞情報に依拠した記述ばかり」と記述。さらに、事件自体を否定する主張で知られる亜細亜大の東中野修道教授の著書を引用して、中国が提出した写真の撮影時期に疑問を呈し、「関連性が疑われる」とした。

 南京軍事法廷で中国人30万人虐殺の首謀者として死刑になった日本軍中将については、部隊が「南京城内に500メートル入ったところで移動を命じられ、虐殺は物理的に不可能であった」と結論づけた。

 欧州と日中韓の歴史認識の比較を研究する静岡県立大の剣持久木教授は「意見書は、南京大虐殺を否定する学派にくみしている印象を与える。ナチスによるユダヤ人虐殺を否定するのと同様の印象を世界に与えかねない」。東京外国語大の渡邊啓貴教授(国際関係論)も「日本に対する印象を悪化させて逆効果になった可能性がある」と懸念する。

 一方、高橋教授は「東中野教授に批判があるとしても、引用した研究内容は検証されたものだと評価している」と反論。外務省関係者は「(高橋教授は)保守派の中ではバランスの取れた研究者だ」と話している。

 日本政府は「非戦闘員の殺害や略奪行為等があったことは否定できない」と認めている。2010年の日中歴史共同研究では、日本側は被害者数を20万人を上限に4万人、2万人などと推計。中国側は「30万人以上」と主張した。

 馳浩文部科学相は5日、パリで開かれているユネスコ定例総会で演説し、世界記憶遺産審査について「透明性の向上を含む改善を早急に実現する」ために加盟国が議論を進めていく必要があると指摘した。【宮川裕章、パリ賀有勇】


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70年ウオッチ:「平和のとりで」が歴史の戦場になる=論説副委員長・古賀攻 - 毎日新聞(2015年10月27日 東京朝刊)
 旧日本軍による「南京虐殺」の資料が歴史文書としてユネスコの世界記憶遺産に登録された。

 「審査した国際諮問委員会の14人は文書管理が専門のアーキビストばかり。中国側の資料が『真正性』や『完全性』などの登録要件を満たしているのか大いに疑問だ」。明星大の高橋史朗教授(65)は残念そうに語る。

 国際諮問委員会は今月4日から3日間、アラブ首長国連邦のアブダビで開かれた。高橋教授は外務省の依頼で会場に足を運んでいる。

 発言を求めるつもりだったが、日本が関係する討論への参加は認められず、外で待機しなければならなかった。パリのユネスコ本部が南京事件の登録を発表したのは、その3日後だ。

 中国は「国際社会公認の歴史的事実になった」と胸を張った。一方、菅義偉官房長官は「歴史の政治利用になる」と反発し、ユネスコ分担金の支払い停止を検討すると踏み込んだ。

 「心の中に平和のとりでを」と憲章にうたうユネスコが、歴史をめぐるいさかいの主戦場になりつつある。今年は「明治日本の産業革命遺産」でも日韓が対立した。日本は2年後に中韓が慰安婦を共同申請してくると警戒を強める。

 高橋教授は、資料の中身も委員会の論議も公開されないで登録が決まる審査のあり方を問題視する。中韓に比べて、日本は諮問委につながる人脈作りでも出遅れているという。「このままでは日本は蚊帳の外に置かれ続ける」

 確かに記憶遺産の制度には改善の余地がありそうだ。しかし、今回は日本もシベリア抑留者の引き揚げ記録などを登録している。意に沿わぬ決定への腹いせのように分担金の拠出拒否に言及するのは、外交の品位に欠ける。

 自民党内からは「自衛のための対抗措置が必要だ」との声まで出ている。保守政権の鼻息は荒いが、戦略目標もないまま「自衛」を振りかざすのは危なっかしい。中国の独善的な振るまいをたしなめつつ、決着が見込めない不毛な歴史戦争からは距離を置く冷静さがほしい。

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松浦氏インタビュー記事:愛国保守化する毎日新聞。南京事件の認識も間違ってるし。

前前ユネスコ事務局長の松浦晃一郎氏へのインタビュー。
本当かな?と思うことがいくつかある。

「南京」については、日中それぞれに記録があり、研究者の間では以前から異論があったにもかかわらず、日本側の記録は反映されず、反論の場も与えられなかった。
日本側の記録が反映されていないのは、中国側の事情というよりも日本側の事情だったのではないか?「反論」と言うが、日本側がしようとしていたのは、南京事件の史料の交流や突き合わせなどではなくて、日本側の主張をただ述べ立てようとしていただけだったのではないか?
−−今後、日本がとりうる措置はありますか?

 まずは中国が提出した11の文書を専門家が吟味し、日本側の冷静な反論をユネスコ側に伝えることです。理論的な可能性だけでいうと、もし文書が「真正性」のない、つまりインチキなものだったら、取り消しや修正ができないわけでもない。

史料の真正性について「冷静な反論」ができるのならやったらいいけれど、それは果たして日本政府や南京事件否定論者が満足するようなものになるかな?
戦争にかかわるような記録の場合、少なくとも関係国の意見は聞いて、遺産としてふさわしいかどうかを審議する必要があるでしょう。
「中立性を」と言いながら、歴史資料の評価に国際政治の介入を求めるような議論。松浦氏が日本政府の権益を主張するのは当然だけれど、それならば彼を「元ユネスコ事務局長」と紹介するよりも「元外務省官僚」と紹介すべきだろう。少なくともユネスコの理念からはほど遠いことを主張しているわけだし、あからさまな政治介入の要求がユネスコで通るとも思えないし。
松浦氏の主張よりもっと問題なのは、この主張が「中立」を担保するための仕組みであるかのように報じている毎日新聞の姿勢だ。政治バランスが歴史資料の評価を決めるという仕組みを「中立」だと思ってしまう時点で、戦争責任問題を政治紛争の文脈でしか見ることができない認知のゆがみが現れている。
南京大虐殺文書

……中略……(犠牲者数は:引用者注)研究者間では「数千から数万」という説が多い。

毎日新聞のこの解説はひどく間違っている。「南京大虐殺」の範囲をどう考えているのだろうか。それに、東京裁判などで扱われた数字も知らないのだろうか。何を見て書いたのだろうか。

あと、どうでもいいけど、松浦氏は山口県出身なのな。安倍首相と同じ長州藩か。

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そこが聞きたい:世界記憶遺産 松浦晃一郎氏 - 毎日新聞(2015年11月04日 東京朝刊)

 ◇審議の透明性に課題 前ユネスコ事務局長・松浦晃一郎氏

 ユネスコ(国連教育科学文化機関、本部パリ)の「世界記憶遺産」に中国が提出した「南京大虐殺文書」=1=が登録されたことの波紋が広がっている。「人の心の中に平和を」とうたったユネスコ憲章の採択から11月で70年。高らかな理念の一方で、世界の遺産の選考方法に課題はないのか。前ユネスコ事務局長の松浦晃一郎氏(78)に聞いた。【聞き手・森忠彦、撮影・内藤絵美】

−−まず「世界記憶遺産」とは?

 私は「ユネスコの3大文化遺産事業」と呼んでいます。一つは誰もが知っている「世界遺産」。これは歴史的な建造物や遺跡が対象。次に私が事務局長だった2003年に採択された「無形文化遺産」。形がない芸能や祭りなどが対象で、日本からは歌舞伎や和食などが登録されています。もう一つが1991年のユネスコ総会で決まった「世界の記憶」、日本では「世界記憶遺産」と呼ばれます。貴重な文献や記録を後世に残すのが狙いですが、デジタル保存し、インターネットで公開することも目指しています。ベートーベンの交響曲第9番の自筆譜やフランスの人権宣言、アンネの日記など歴史的な記録を、世界中の人が閲覧できるようになりました。

−−記憶遺産について日本での認知は遅かったように思いますが。

 92年から制度が動き出し、97年から登録が始まったのですが、私たちがパリから運動してもなかなか日本政府は乗ってこなかった。ほぼ20年間、日本は無関心だったと言っていい。最初の登録となる「山本作兵衛による筑豊炭坑の記録画」(11年)も、10年ほど前に始まった「明治日本の産業革命遺産」(今年、世界文化遺産に登録)の現地調査の段階で、海外の委員から「これは世界の記憶を狙える」と勧められて初めて、動き出したほどです。その点、中国は92年段階から記憶遺産には積極的でした。

 条約で決まった世界遺産や無形文化遺産とは違って記憶遺産は総会決議で、選考過程も異なります。クローズされた関係者だけで進められ、経過も非公開。最終決定は本部の国際諮問委員会(14人)の承認を得て事務局長がサインして成立しますが、その前の登録小委員会(9人)で選考が行われます。基準は「世界的な重要性」があるか、本物の価値がある「真正性」があるか。今回、中国が出してきた「南京」は認められましたが、「慰安婦」はここで却下されました。そのほか、諮問委の下部組織として地域委員会(日本関係はアジア・太平洋地域)があります。

 残念ながら現在、諮問委にも小委にも地域委にも、日本人は入っていません。中国は当初から熱心で現在も地域委に議長を出しています。当然、情報は多いし、諮問委との人脈もある。部外者は小委の内容はもちろん各国が提出してきた文書も知ることができません。「南京」については、日中それぞれに記録があり、研究者の間では以前から異論があったにもかかわらず、日本側の記録は反映されず、反論の場も与えられなかった。背景には近年の日中間の政治的関係の悪化という事情があるでしょう。

−−今後、日本がとりうる措置はありますか?

 まずは中国が提出した11の文書を専門家が吟味し、日本側の冷静な反論をユネスコ側に伝えることです。理論的な可能性だけでいうと、もし文書が「真正性」のない、つまりインチキなものだったら、取り消しや修正ができないわけでもない。もう一つは来春、ベトナムで開かれる地域委の総会に代表団を送り込み、日本として積極的に選考に加わってゆくことです。国際的な人的ネットワークの薄さが日本の弱い点です。

 また、ユネスコ本部では記憶遺産の審議プロセスに透明性を持たせるように働きかけるべきです。今回、「南京」を受けて、ロシアが日本のシベリア抑留者の記録についてクレームをつけてきましたが、ロシア政府も途中経過を知らなかったようです。戦争にかかわるような記録の場合、少なくとも関係国の意見は聞いて、遺産としてふさわしいかどうかを審議する必要があるでしょう。

−−ユネスコ分担金=2=の削減や停止の声も出ています。

 これは賛同できませんね。「南京」の登録を受けて政治サイドがとりあえず怒りを表明した気持ちはわかりますが、結局は一番損な選択です。分担金(年間約37億円)は加盟国の義務で、たとえ一時停止しても、再開時には払わなければなりません。分担金からは日本が熱心な世界遺産関連の経費も出ています。その間、日本は「金も払わないのに」と言われながら、肩身の狭い中で活動しなければなりません。

−−パリの本部では3日、ユネスコ総会が始まりました。日本からは文部科学相も出席します。

 いいことです。米国が拠出を止めている今、日本は最大の拠出国です。総会には各国が閣僚級を送り込んできます。せっかくなら演説だけで帰るのではなく、数日滞在して、閣僚同士のネットワークをつくってほしい。日本に不足しているのが、まさにこの国際的な人脈、ネットワークなのですから。

 ◇聞いて一言

 日本初の記憶遺産まで約20年。これは世界遺産の条約採択から日本の加盟までに要した時間と同じだ。ブームが起きると過剰に盛り上がるが、立ち上がりが遅いのが日本人の欠点か。松浦さんは「外務省と文科省の、行政の壁もあって……」と苦笑する。さらに深刻なのが学者や公務員などの国際ネットワークの弱さだ。留学志望の若者も減少している。ここのてこ入れが急務なのではないか。

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 ■ことば

 ◇1 南京大虐殺文書

 中国が提出した記録は計11。1937年12月、中華民国の首都だった南京に侵攻した日本軍が起こした虐殺事件の犠牲者を「30万人」としている。日本側の政府見解は「あったことは否定できないが、被害者数は諸説ある」。研究者間では「数千から数万」という説が多い。

 ◇2 ユネスコ分担金

 加盟国の経済力を勘案して決まる。2014年は(1)米国(22%)(2)日本(10.8%)(3)ドイツ(7.1%)の順だが、米国は11年にパレスチナが正式加盟したため、国内法により停止している。このほか、任意の拠出金がある。

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 ■人物略歴

 ◇まつうら・こういちろう

 1937年生まれ、山口県出身。外務省入省後、北米局長、駐仏大使などを経て99〜2009年にユネスコ事務局長。現在はNPO「世界遺産トーチランコンサート協会」特別顧問。日仏会館理事長。

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2015/10/16

シベリア抑留記憶遺産:菅氏がロシア側と協力関係があったと発言

時事ドットコム:ロシアの批判に反論=菅官房長官(2015/10/15-17:27)

 菅義偉官房長官は15日午後の記者会見で、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界記憶遺産にシベリア抑留の資料が登録されたことを受け、ロシア政府が「ユネスコの政治利用」と日本を批判していることについて、「(登録は)ロシアのナホトカ市の議会の協力を得ていて、広い視点から世界的な受容性もある。全く違う」と反論した。

平成27年10月15日(木)午後 | 平成27年 | 官房長官記者会見 | 記者会見 | 首相官邸ホームページ開始1分10秒頃から

……そういう意味で広い視点から世界的な重要性があるということで今回ユネスコの国内委員会から推薦された。ロシアと連携しながらやっているということで全く違う。
おそらく政府が舞鶴市やユネスコ国内委員会に経緯を確認していると思うので、事実関係はたぶんあまり間違っていないだろう。

ただなあ…地方自治体レベルでのやりとりだからなあ…。中央政府が「そんなの了解していない」という理路は残っているわけで、どこかの愛国まとめサイトみたいに「完全論破」ということではないだろう。

あと、自国の加害事実に向きあうナホトカ市の対応と南京事件に対する日本側の反応との違いを無視することもできないだろう。
菅氏が「中国が一方的に」と言っているけれど、日本側からの働きかけは中国の意図をくじこうとするものばかりなのだから、そりゃそうなるよね…と思う。
本来なら共同提案で日中の残った文書を網羅的に蒐集するぐらいがそりゃ望ましいわけで。でも絶対にそういうことは日本側が認めないからなあ。

日本政府がこういう文脈でしか戦争資料を捉えられないのなら、特攻隊資料の申請は止めた方いいだろうね。自国擁護の色彩が強すぎて、それこそ政治問題化のタネになりかねない。

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追記(2015年10月23日)

菅氏の反論への反論かな?

シベリア抑留資料登録 ロシアが日本非難強める NHKニュース(10月23日 9時59分)

ユネスコ=国連教育科学文化機関の「記憶遺産」に、いわゆるシベリア抑留などに関する資料が登録されたことについて、ロシア外務省は、「日本の歪んだ戦争認識のもとで資料の収集が行われた」と述べ、日本への非難を強めています。
ユネスコ=国連教育科学文化機関は、今月、開かれたユネスコの国際諮問委員会で、日本が申請していた、いわゆるシベリア抑留や、戦後、旧満州などから引き上げた人たちに関する京都府舞鶴市の資料を、「記憶遺産」に登録しました。
これについて、ロシア外務省は22日、コメントを発表し、「ロシアは、24年前の日本とソビエトとの合意に基づいて、情報や資料の提供で日本に協力してきた。しかしながら、日本の歪んだ戦争認識のもとで資料の収集が行われたといわざるをえない」として強く反発しました。そのうえで、「このようなことでは、日本が第2次世界大戦での攻撃的な行動について心から反省しているか疑問を抱かせる」と述べて日本を非難しています。
この問題を巡っては、ロシア側が「政治利用だ」として日本側に申請の取り下げを要請したのに対し、日本側は応じられないという考えを示しています。ロシアはあくまでも2国間で解決すべきだという考えを示していて、日本への非難を強めています。
ロシア側の論理が、日本政府の中国批判と全く同じであるところが何とも言えない。

ロシアに都合のいい主張パターンを与えてしまったし、しかも加害責任を隠蔽する意図を公然化させてしまった。

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首相が記憶遺産認定を批判

安倍首相:「南京大虐殺」登録に遺憾の意 中国国務委員に - 毎日新聞(2015年10月14日 19時56分(最終更新 10月15日 00時55分))

 安倍晋三首相は14日、来日中の中国の外交トップ、楊潔※(よう・けつち)国務委員(副首相級)と首相官邸で会談し、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界記憶遺産に中国が申請した「南京大虐殺」の資料が登録されたことに遺憾の意を伝えた。楊氏は「第二次大戦に関しては既に国際的な定説がある。歴史をしっかり認め、未来に向かって進むことが重要だ」と述べ、議論は平行線となった。両氏は日中両国の艦艇や航空機の偶発的な衝突を避ける「海空連絡メカニズム」の早期運用開始を目指すことでは一致した。(※は竹かんむりに褫のつくり)

 首相は会談で、歴史認識について「過去の不幸な歴史に過度に焦点を当てるのではなく、未来志向の日中関係を構築すべきだ」と強調。また「秋の一連の国際会議で習近平国家主席や李克強首相とお会いすることを楽しみにしている」と述べ、11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)などでの首脳会談開催に意欲を示した。

 首相が南京事件の世界記憶遺産登録に言及したのは、自民党内の反発に配慮するとともに、首脳会談開催の障害を事前に取り除く狙いがあるとみられる。

 楊氏は「首相が関係改善に向けた熱意を持っていると中国首脳に報告したい」と応じ、海空連絡メカニズムについて「一日も早く運用できるよう取り組みたい」と前向きな姿勢を示した。【小田中大】

とうとう総理大臣が恥ずかしいことを言ってしまった。

記事は「議論は平行線」とか書いているが、そもそも「議論」と呼べる代物ですらない。この問題については朝日、毎日、東京など、まだ比較的読める新聞も含めて軒並み「政治利用だ」などと中国警戒論に巻き込まれてしまっている。「中立」などという虚偽の美名に見事に足下をすくわれているようにも見える。

日本の政府もメディアもこぞって愚かなことだ。

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2015/10/15

言わんこっちゃない……:ロシアが「政治利用」を批判

完全に「ブーメラン」になっとる。国際関係でコントをやらないでほしい…。

シベリア抑留も「政治利用」 世界記憶遺産でロシア - 47NEWS(よんななニュース)(2015/10/15 05:14 【共同通信】)

 【モスクワ共同】ロシア政府の国連教育科学文化機関(ユネスコ)委員会のオルジョニキゼ書記は、日本のシベリア抑留資料の世界記憶遺産への登録をめぐり、旧日本軍による「南京大虐殺」に関する資料と同様、ユネスコの政治利用であり反対するとの見解を示した。ロシア通信が14日、報じた。
 同書記は「政治問題をユネスコに持ち込むことには反対だ」と述べ、ロシアが日本側に登録申請をしないよう働き掛けていたことを明らかにした。
 日本政府は中国の南京大虐殺に関する登録申請を「ユネスコの政治利用」と批判しているが、同書記は「日本こそが申請によって“パンドラの箱”を開けた」と批判した。
いや、ちょっと大丈夫なのかなとは思ったのだけれど、ロシア側ときっと調整はしているんだろうなあ…と勝手に思っていた。
したら、
同書記は……ロシアが日本側に登録申請をしないよう働き掛けていたことを明らかにした。
だからなあ…。
舞鶴のことを思うと残念。

政府としては、南京大虐殺問題(-1)+シベリア抑留問題(+1)=0

ということで、ユネスコには従来通りという形でいいんじゃないですかね。

まあ実際は「南京事件は政治利用だけど、シベリア抑留は政治利用じゃない」って主張するんでしょうけど。
……恥ずかしいですね。

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2015/10/14

飛ばし記事…?裏取りがほしい。

南京大虐殺の登録に「政治利用」と抗議しながら…安倍首相が「特攻隊」を世界遺産に推していた! 協力者はあの人の娘?|LITERA/リテラ 本と雑誌の知を再発見(2015.10.12)

時間がないのでメモだけ。

1.知覧の申請に安倍首相が絡んでいる
2.世界記憶遺産の文部科学省の担当者が、籾井勝人・NHK会長の娘である籾井圭子氏だという話

FACTAの記事にあるこれら二つが下敷きにしてされている。

どちらも以前からネットに出ている話だが、マスメディアの報道で追認できる記事が見あたらない。

以前書いた
知覧の特攻隊資料が世界記憶遺産に申請という件: 思いついたことをなんでも書いていくブログ
の記事で、FACTAの情報について触れたが、それと食い違うように見える朝日新聞の記事を併置して、実際どうだったのかはっきりしないことを記した。

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菅氏のユネスコ分担金停止・減額発言を英米紙が「恫喝」と報じる

ガーディアンとボイスオブアメリカの報道。まずガーディアンから。

Japan threatens to halt Unesco funding over Nanjing massacre listing | World news | The Guardian(Justin McCurry in Tokyo, Tuesday 13 October 2015 09.06 BST)

Japan has threatened to withdraw its funding for Unesco after the UN body included disputed Chinese documents about the Nanjing massacre in its Memory of the World list, despite protests from Tokyo.
というわけで、冒頭第1文から、「出資を引き上げると脅迫した」と報じられちゃってます。

で、

Japan contributed 3.72bn yen (£20m) to Unesco last year, about 10% of Unesco’s budget. It was the first UN body Japan joined, in 1951, as it sought to contribute to the international community after its wartime defeat and occupation.
日本の分担金はユネスコ予算の約10%なんだそうですね。またユネスコは日本が戦後初めて加盟した国連組織だったとのこと。

記憶遺産認定では、

Unesco’s director-general, Irina Bokova, approved the Nanjing inscription in Abu Dhabi last Friday, after receiving recommendations from a 14-member panel of archivists and librarians.
ということで、審査員は14人だったそうです。

で、事前の日本側の動きが少し触れられています。これは知らなかったなあ。

Japan, however, has questioned the authenticity of the documents, adding that its offers to cooperate with Chinese experts to establish their veracity had been rejected by Beijing.

Japan’s foreign ministry said the nomination “raises questions about the action of the international organisation that ought to be neutral and fair”, adding that “it is evident that there is a problem about the veracity” of the archives.

日本は、中国側に真正性確認のために協力するよと申し出たけれど中国からは断られてしまったとのこと。協力ってどんなことだったのだろう…。

で、日本政府としては、「真正性チェックのための協力」が断られた→真正性に疑義があるというスタンスなのでしょうか。ユネスコをも批判していますが、政治が介入したらかえって「中立公正」から外れるのでは?という素朴な疑問にはどう答えるのでしょうかね。

ところで、この記事で一番興味深かったのが次の一節。

Newspapers in Japan were united in their condemnation of Unesco’s decision. “We cannot accept China’s stance of using a system for protecting cultural assets for political purposes in a campaign against Japan, and trying to fix its self-righteous historical perception in the international community,” the conservative Yomiuri Shimbun said in an editorial.

The liberal Asahi Shimbun noted that some Chinese historians questioned Beijing’s claim that the death toll ran to more than 300,000. “There are few clues that could substantiate that death toll, which many historians in China doubt,” the newspaper said. “But there is no air of freedom that allows them to discuss the matter openly.”

曰く、日本の新聞は皆こぞってユネスコ批判で一致している、と。
その例として読売が出てくるのは当然として、「リベラルな朝日新聞」もそうだと指摘されています。で、朝日の婉曲、かつ中国蔑視を露骨に出した主張を引いています。
まあこの記事を一読すると、南京事件が日本人の逆鱗であり、ここに触られると日本中がヒステリックに叫び出す…という印象を持ちますね。いや、全く正しいですが。

次、ボイスオブアメリカのニュース。

Japan Threatens to End UNESCO Funding Over Nanjing Massacre Files(October 13, 2015 7:52 AM)

本文自体は短く事実を伝えているだけですが、ここでもばっちり「脅迫している」と報じられちゃってます。VOAって現政権には好意的な立場だと思いますが、それでもこう言われてしまったというところが興味深い。

例えば安保法制に関する次の記事は、安倍政権・自民党に対するVOAの好意的な立場がよく現れていると思います。
Japan Passes Bill Lifting Military Restrictions(September 18, 2015 1:54 PM)

※台湾の関連報道を検索してみたところ、今のところ、大陸系の報道以外では「脅迫」みたいな論評は見つからず、発言内容を単に報じるだけにとどめているようです。

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ところで、ガーディアン紙記事にある、「日本政府が真正性調査の協力を申し出たが中国に断られた」という話ですが、他の報道などが見つからない。誰かが記者会見で述べていたのかな?
参考:南京 日本 協力 記憶遺産 中国 拒否 - Google 検索

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追記(2015年10月15日)どうやら本当らしい。しかもオチ付き。本記事末尾に追記。
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代わりに見つかったのは、産経の「記事?」で、
・ユネスコとその委員に政府が働きかけていた……圧力?宣伝?
・「民間団体」がユネスコに反論文書を提出していた
という話。昨年でしたか、人権委員会で盛大にやらかした姿を思い出しますなあ。

産経の話なのでどこまで信用できるか分かりませんが、もしこれが事実なら、
・日本の方が政治的圧力を掛けているやん…汗
・日本側の情報提供もあって認定されたなら、余計に公平に判断されて認定したのでは…汗
などと詰まらない突っ込みを入れたくなりますな。

なお、検索中に、「ユネスコの審査員に歴史家はいないじゃないか!」と怒っているブログの人を見つけましたが、それなら日本の他の記憶遺産認定も皆でたらめだったというわけですね。シベリア抑留関連で認められて、舞鶴の人たち喜んでいたのになあ……。

世界記憶遺産登録 舞鶴市が記念セレモニー|MBS 関西のニュース(更新:10/13 12:05)

 京都の舞鶴引揚記念館に所蔵されるシベリア抑留などの資料が世界記憶遺産に登録されたことを記念し、地元でセレモニーが行われました。

 13日午前10時、舞鶴市役所に記念の垂れ幕が掲げられ、集まった人たちは拍手で登録を祝いました。

 ユネスコの記憶遺産に選ばれたのは、第二次世界大戦後もソ連によってシベリアに抑留された元日本兵らが記した日記やはがきなど570点です。

 資料を所蔵する舞鶴引揚記念館は先月リニューアルオープンしたばかりで、登録効果もあってか、12日までの3連休には去年の3倍に近い3800人余りが訪れました。

 セレモニーでは地元保育園の園児らによってハトの風船が放たれ、参列者は平和への誓いを新たにしました。

世界記憶遺産:舞鶴引揚記念館 「次世代への継承」誓う - 毎日新聞(2015年10月10日 12時23分(最終更新 10月10日 12時41分))
 ◇舞鶴市で「戦後70年・海外引揚70周年平和祈念式典」

 シベリア抑留者の苦難を刻んだ記録「舞鶴への生還」が国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界記憶遺産に登録された。記憶遺産への登録が決まった10日、「舞鶴引揚記念館」がある京都府舞鶴市では偶然にも「戦後70年・海外引揚70周年平和祈念式典」が開かれることになっていた。市は急きょ、記憶遺産への登録決定も祈念式典の内容に加えることにした。式には約650人が集まり、記憶遺産への登録の喜びとともに、引き揚げ者の苦難や祖国に戻れず亡くなった人たちの無念に思いをはせながら、戦争の悲惨さを語り継ぐ決意を新たにしていた。

 式ではシベリアの収容所で約3年間抑留された舞鶴市在住の安田重晴さん(94)が引き揚げ船の鐘を鳴らす中、参列者全員が1分間の黙とうをした。続いて市内の小中高生が平和メッセージを朗読。「若い世代が担っている、平和の尊さを次の世代につなげるという大切な役割をあらためて発信していきたい」などと記憶遺産資料と共に戦争・引き揚げの体験世代から受け継いだ記憶を伝え続けることを誓っていた。【鈴木健太郎】


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追記(2015年10月15日)

政府が中国側に協力を申し出たという件について。

産経新聞と称する自民党の広報誌がいつものプロパガンダを展開 - 誰かの妄想・はてな版(2015-10-14)

自民党が「中国が申請した『南京事件』資料のユネスコ記憶遺産登録に関する決議」というものを出したという産経の「報道」があるとのこと。それによれば、日本政府は、中国政府に対して

1.申請取り下げ
2.申請書類の共有
3.日本人専門家派遣の受け入れ

を要請してきたとのこと。これがガーディアン紙の話につながっているのだろう。

「申請書類の共有」が共同提案を意味するのかちょっと不明だが、日本側も積極的に関連資料を公開して記憶遺産を豊富化するのであれば、それ自体は良いことだ。もちろん、そんな方向ではないだろうことは容易に想像できるけど。記憶遺産の認定には社会への公開性も考慮されるので、日本政府が戦争加害に関する資料を遺産申請の俎上に載せるとは思えないというのがその理由。

この自民党決議について、朝日新聞も記事を出している。上記 scopedog 氏の記事にリンクがある。

政府に「南京」登録撤回の提案求める 自民部会が決議:朝日新聞デジタル(2015年10月14日13時24分)

 自民党外交部会などは14日の合同会議で、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界記憶遺産として、中国が申請、登録された「南京大虐殺の記録」について、日本政府が登録撤回を提案するよう求める決議をまとめた。ユネスコの分担金・拠出金の停止などの対応も求めた。

 外務省によると、記憶遺産にはこれまで348件が登録されたが、登録が撤回された事例はない。

 会議では、「南京」を審査した国際諮問委員会が開かれたアブダビ(アラブ首長国連邦)に「新しい歴史教科書をつくる会」元副会長の高橋史朗・明星大教授が外務省の民間協力者として派遣されていたことも報告された。

記事末尾に、外務省がアブダビに高橋史朗氏を派遣したとある。
これが自民党が言う「日本人専門家」なのだろうか?いささか文脈が異なるような気もする。

もしこれが高橋史朗氏であれば、scopedog 氏が言うとおり、中国に一蹴されるに決まっている。この人、酷すぎるからなあ…。
しかし、外務省がこの人を呼ぶというのもものすごい。慰安婦問題でもアメリカとかでアレな活動をやってるし、粗悪なことは明白なのに。それとも、中国側に蹴らせてそれを口実に日本の正当性を補強しようということだろうか。

参考:「親学」の高橋史朗・明星大学教授を巡るツイート(きわめて悪評) - Togetterまとめ
ちょっと古いし親学関係だから方向はずれているけれど、何というかまぁ…スピリチュアル風味が入ったアレ系の人だからなあ…。

ただ、朝日記事ではアブダビの審査委員会に外務省が送り込んだとなっているので、ガーディアン紙が言う、中国に向けた「資料の真正性を検証するための協力」申し出とは微妙に食い違う気がする。はっきりしないな…。

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2015/10/13

泣いた赤鬼戦法:どこまで行くか。南京大虐殺の遺産認定へのアレルギー

菅官房長官:ユネスコ分担金「停止・削減を含め検討」 - 毎日新聞(2015年10月12日 23時44分(最終更新 10月13日 08時15分))

とうとう官房長官が言ってしまったようで。
まあ同じ事は朝日新聞ですら言っていたわけだけど、政府のスポークスマンが言ったことに唖然とさせられる。

 菅義偉官房長官は12日のBSフジの番組で、国連教育科学文化機関(ユネスコ)が世界記憶遺産に「南京大虐殺」に関する資料を登録したことを受け、ユネスコ運営のために拠出している分担金について「政府として停止・削減を含めて検討している」と述べた。

 菅氏は「(登録は)密室で行われ、法律に基づくものでもない。透明性や公平性をもっと出すべきだ」と述べ、ユネスコに制度見直しを求める考えを示した。南京事件に関しては「確かに南京で非戦闘員殺害とか略奪行為があったことは否定できないが、(犠牲者の)人数にはいろんな議論がある」とも語った。【高本耕太】

日本政府としても、もう言いたいことは大体言ったし、どうせ本質的な異議申し立ても実力行使もできないんだから、そろそろ幕引きかな?と思っていたのだけれど……。
本当にもう止めてほしい。腹が立つというより情けなくて泣きたくなる。
そこまで言うのなら、松下村塾塾の世界遺産認定も辞退してユネスコを脱退すればいいのに……。

自国の世界遺産認定は大歓迎して、他国の認定が気に入らないからカネは出さん!って、どこのわがまま親父なんだ…とか。

…穴があったら入りたいとは正にこのことだな…。
……ま、まあ、慰安婦問題では政府としてアメリカの歴史学者や政治家、運動家に圧力や恫喝を掛けているそうなので、本件でも同じくらい恥をさらしても不思議ではないか…。

誠に情けない。これが我々が住み、市民として責任の一端を担っている社会の現実。
中国をはじめとする全ての被害国の人々に対して衷心からお詫び申し上げたい。

ますます中国の正当性が強調され、戦争の悲惨さを直視することの意義に注目が集まりますな。正に泣いた赤鬼戦法。
結構なことです。

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菅氏が出演したBSフジの番組とは「プライムニュース」らしい。

www.fnn-news.com: 菅官房長官、ユネスコへの拠出金削減や停止検討する考え
BSフジの「PRIME NEWS」で
(10/13 09:23)

菅官房長官は、ユネスコへの拠出金の削減や停止を検討する考えを示した。
菅官房長官は、12日のBSフジ「PRIME NEWS」に出演し、ユネスコの世界記憶遺産に「南京大虐殺」に関する文書が登録されたことについて、「事実をめぐり意見が分かれているのに、一方的に中国側の意向に基づいて、ユネスコが指定するのはおかしい」、「(ユネスコの)今の制度そのものを変える必要がある。非常に密室でやっている。透明性や公平性をもっと出すべきだ」と批判した。
さらに、菅官房長官は、ユネスコに対する日本の拠出金の削減や停止を検討する考えを示した。
たまりませんな……。

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菅氏、記者会見でも明言していたのね。

菅官房長官、ユネスコ拠出金見直しも検討 世界記憶遺産:朝日新聞デジタル(2015年10月12日23時35分)

 菅義偉官房長官は12日、東京都内で記者団に、消費税の軽減税率について、2017年4月に消費税率を10%に引き上げるのと同時に導入すべきだとの考えを示した。「同時にやるべきだ。一緒にやらないと逆に混乱が生じる」と語った。

 軽減税率の導入時期をめぐっては、公明党が17年4月を主張。一方、自民党内では党税制調査会を中心に、制度設計や準備に時間がかかるとの見方から、異論が出ている。

 また、菅氏はユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界記憶遺産に、中国が申請した「南京大虐殺の記録」が登録されたことについて、「一方的に中国の言い分だけで指定した」と指摘した。そのうえで、記者団が「ユネスコへの拠出金の停止や削減を検討するのか」と聞いたのに対し、「そういうことだ」と述べ、拠出金の停止や削減を検討する考えを示した。

それにしても、シベリア抑留関連資料の認定が全く話題にすらならないことが哀しい。自国の被害体験が世界史的意義を持つと認定されたことを喜びもせず、ただ加害の事実を隠蔽することのみに関心が集中する。この社会のあり方はやはりいびつですよ……。

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