カテゴリー「性の商品化」の13件の記事

2018/03/05

AV出演強要:路上スカウトの手口など

AVスカウトが無くならない理由 最もグレーな存在が回す「業界の闇」 - withnews(ウィズニュース)(2018年03月02日)
の要約。

路上スカウト
ダミーの芸能事務所
「AVとはひと言も言わず」

18歳から数年前まで、ほぼ毎日、街頭でスカウト行為
デリヘルなど風俗、キャバクラなど水商売、AV出演

声をかける時は「これから仕事ですか?」など「ナンパみたいにした」。摘発逃れの面も。

紹介料:女性収入の10~15%。
月収:平均50~60万円、月100万円を超えたことも4、5回、最高で月120万円。

※かなり高利(暴利と言ってもいいかも)。これを鵜呑みにして単純に考えると、女性の稼ぎは月に600万円ぐらいだから、毎月10人前後からは集金していたことになるか。出入りもあるはずなので、すると毎月何人ぐらい「スカウト」が成功していたのだろうか。あと、集金の方法も気になる。

新宿、池袋、渋谷、六本木、「スカウト通り」、池袋駅西口にあるファッションビル
しっかりお店で稼ぎ、自分にもお金を運んでくる女性
「稼げるお店にあわせ、ターゲットを狙い

新宿駅東口の決まったエリア

AVスカウトの成功報酬:企画→2万円、企画単体→5~12万円、単体→数十万円
芸能プロダクションのスカウトを偽装→「夢を見させるだけ見させた」

風俗店へのスカウトの場合:
連絡先を知った翌日にメールを送り、毎月末に必ず追加のメールを送ってフォロー

AVスカウトの場合
路上で声かけ・名刺渡し→女性からの連絡を待つ
芸能活動に強い夢を持つ人を手に入れる→芸能活動を少しだけさせる→ダメだからAVという流れ

例:女性をスカウト→1、2年後にAVデビュー

組織的にだます。
「単体クラスの女性にAVやりませんかと声を掛けても乗ってくる訳がない。芸能で全部通すしかない」
所属先のスカウト全員が同じ手口
プロダクション「AVと言わず、芸能事務所だと言って連れてきてくれ」と指示


スカウトの代表的な手口:芸能界とのつながりをアピール
「有名なモデルを育てた」「芸能人と親しい」などとうそを織り交ぜ、芸能界に興味のある若者に近づく

出演を拒否した場合→撮影の準備費用や違約金を盾に強迫。「自分の顔を立ててもらわないと困る」「サポートするから一緒に頑張ろう」などとしつこく説得

プロダクションの建前「スカウトがどんな勧誘をしているのかは知らない」→本当は組織的に女性をだましているケースも。

スカウトはウソがうまく、非常に巧みに芸能界に通じているように演じてくる。アイドルや俳優、歌手に夢を持つ若い女性につけ込むのがうまい

*******************
全くその気がない人をだまし、時間を掛けて型にはめ、経済的・物理的・心理的に身動きが取れないようにして、嫌なことをやらせるという手法。
こういう手口はきっと古今東西にあって、そして日本でも性暴力の現場では昔からあり続けた手口であっただろう。だけれども、性暴力・性的搾取の被害者・犠牲者に対して「自己責任」とか「契約」だとか言って、強要・利用した側を免責する人が後を絶たない。

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2018/03/01

後を絶たないAV出演強要事件

AV出演強要:スカウトらを逮捕 職安法違反容疑 警視庁 - 毎日新聞
2018年3月1日 12時09分(最終更新 3月1日 12時18分)

 専門学校生の女性をアダルトビデオ(AV)に出演させたとして、警視庁保安課は1日、会社役員でスカウトの高木誠容疑者(31)=東京都大田区大森中3=ら4人を職業安定法違反(有害業務紹介)容疑で逮捕したと発表した。

 逮捕容疑は2016年2月29日ごろ、みだらな行為をさせる撮影のため、渋谷区のAV制作会社に当時19歳だった女性を紹介したとしている。高木容疑者は「芸能界のモデルになるためのアドバイスをしただけ」と容疑を否認し、他の3人は認めているという。

 同課によると、女性は15年7月に芸能事務所のモデルオーディションに参加。19歳だった板橋区の無職の男=同容疑で逮捕=に「プロダクションを紹介してあげる」と声を掛けられて高木容疑者らに引き合わされ、AV出演を強要されたという。

 高木容疑者らスカウトはAVプロダクションから女性複数人を紹介したとして100万~530万円を受け取っていたとされる。女性は16年夏に被害者支援のNPO法人「ライトハウス」(東京)に相談し被害が発覚した。【安藤いく子】


「出演せずモデルになれない」19歳女性をAV会社に…
(2018/03/01 11:59)
 当時19歳の女性をアダルトビデオの制作会社に紹介したとして、スカウトグループやAVプロダクションの男ら4人が逮捕されました。

 スカウトグループの高木誠容疑者(31)ら3人とAVプロダクションの善麻容疑者(35)はおととし2月、アダルトビデオの撮影と知りながら当時19歳の専門学校生の女性を制作会社に紹介した疑いが持たれています。警視庁によりますと、高木容疑者らは「AV出演せずにモデルになる方法はない」などといって女性を制作会社に紹介したということです。高木容疑者は容疑を否認していて、他の3人は容疑を認めています。

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2017/10/29

日本国内の人身売買・強制売春で日本人の被害が増えているという記事

風俗店の寮「すぐ逃げて!」 人身取引、日本人も被害:朝日新聞デジタル
鈴木春香2017年10月29日07時12分

 暴力や脅迫によって強制的に労働させられる「人身取引」事件で最近、日本人被害者の数が増えている。風俗店で働く若い女性が、根拠のない多額の借金を背負わされるケースが後を絶たないといい、捜査側は取り締まりを強化している。

 警察庁によると、昨年1年間の人身取引事犯の被害者は46人。うち日本人は25人で、統計を取り始めた2001年以降最多だった。日本人被害者は、出会い系サイトなどを利用して売春を強制させられるといった性的搾取が84%を占めた。

 元々、フィリピンやタイなどの外国人女性がだまされ、日本への渡航費用などの名目で多額の借金を負わされたうえ、飲食店や性風俗店で働かされるケースが多かった。

 日本人の被害者が増えたのは、ネットの発達などで女性が性風俗店の募集に直接、アクセスしやすくなり、短期を含めた就労間口が広がったことが考えられるという。加えて、取り締まりの強化に伴い、認知件数が増えたことも影響したとみられる。

■身に覚えない請求120万円

 名古屋市内の風俗店で、借金名目で法外な請求を押しつけられたり、抱えそうになったりした女性たちを取材した。

 「初心者歓迎、好待遇、寮も貸し出せます」。そんなうたい文句を求人サイトで見つけた女性(20)は、働き始めて間もない今年2月、男性社員から寮の契約書と一緒に「債務証明書」を渡された。

 エアコン消毒2万1600円、カギ交換3万4020円、その他72万円――。明細には、身に覚えのない計約120万円もの金額が書かれていた。「早くしないと俺も社長に怒られちゃうからさ」。1対1の狭い室内で、男性社員から押印を迫られた。無理やりではなかったが、よく意味がわからなかった。

 印鑑を持って出勤すると、同じ店で働く「先輩」から携帯に電話がかかってきた。「すぐ逃げて! 店はどうでもいいから」。事情はのみ込めなかったが、気迫に押されて警察署に向かった。この店が従業員に根拠のない「借金」を背負わせて収入を搾取する悪質業者だと知った。

 記者はこの「先輩」にも話を聞いた。電話をしたのは、店に言われるまま債務証明書にサインをして大変な目にあった別の女性を知っていたからだという。

 その女性は、関東の実家を出て名古屋に出てきた。キャバレーで働いていたが、妊娠し中絶。身寄りも無く、中絶費用の肩代わりをしてくれた寮付きのこの店で昨秋から働き始めた。

 正午から翌朝6時まで週6日の勤務。どれだけ働いても1日2千円しかもらえない。食パンしか食べられない日もあり、毎日同じ服だった。髪がべたつき、客がつかなくなると、社員から「ヤミ金で金借りて返せ」と迫られていた。この女性も警察に届けた。先輩は「2人とも弱い立場で契約の知識もなく狙われたんだと思う。奴隷みたいで、見ていられなかった」と話す。

■事件化、高いハードル

 県警はこの店の経営者の男を風営法違反(無届け)の容疑で逮捕した。押印を求めてきた社員は恐喝未遂などの容疑で逮捕されたが、不起訴処分となった。捜査関係者によると、店には、恐喝罪の適用を回避するため、怒鳴ったり、暴力を振るったりしないように書かれた「マニュアル本」もあったという。刑法の人身売買罪を適用するためには、金銭での売り買いを立証しなければならず、立件のハードルは高い。

 警察は風営法や売春防止法、出入国管理法などで取り締まっているが、風営法違反(無届け)だと罰金刑で終わることが多いという。捜査幹部は「人身取引事件では、被害者が搾取を容認してしまっているケースもある。犯意の立証は難しい。軽い刑罰で済んでしまっているのが現状だ」と話す。(鈴木春香)

掲載図1:スマホで撮影した「債務証明書」を見せる名古屋市の女性(画像の一部を修整しています)【魚拓】)
掲載図2:押印を求められた約120万円の「債務証明書」。末尾には「賃金より差し押さえ、または支払う」と書かれている。女性がスマートフォンで撮影し保存していた(画像の一部を修整しています)【魚拓】)
掲載図3:名古屋市の女性を助け出した「先輩」。「こんなことは無くなってほしい」と話した【魚拓】)

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2016/12/05

本物を見たい欲望、素の表情を撮りたい欲望、他人の破滅に美を見たい欲望

メモ。

ベルナルド・ベルトルッチ監督、『ラストタンゴ・イン・パリ』のセックスシーンは合意のないレイプだったと認める
『ラストタンゴ・イン・パリ』問題、厳密な意味でのレイプではなかった?

出演した女優がトラウマに苦しんでいたそうだ。

『ラストタンゴ・イン・パリ』に出演したマリア・シュナイダーは2011年に亡くなっています。そしてこの映画以降、彼女は「ポルノ女優」というレッテルを背負うことになり、うつ病を患ったりドラッグや自殺未遂など精神的問題に悩まされるようになりました。
日本のアダルトビデオの出演強要問題と共通している。

記事を読んで、アダルトビデオの市原克也監督のインタビュー記事を思い出した。
市原克也アダルトビデオ監督のインタビュー記事の感想: 思いついたことをなんでも書いていくブログ

ベルトルッチ監督と市原監督の言がよく似ている。女優から事前に納得を得ずに性行為を撮影することへの罪悪感のなさの点で。

ベルトルッチは「罪悪感はある」と言っているが、彼が言いたいのは「それも必要悪」ということだろう。芸術のためには犠牲が必要だと言いたいのだ。

「女優としてではなく、女の子としての反応を撮りたかった。彼女の屈辱をね。そのせいで彼女(マリア・シュナイダー)はマーロン・ブランドと私を嫌うようになった。なぜなら彼女にバターに関する詳細を伝えていなかったから。そのことで罪悪感を感じた。

(後悔はあるか?という質問に対し)

後悔はないが、罪悪感はある。しかし映画製作において、何かを得ようとした場合は完全なる自由でなければならない。私はマリアに屈辱や怒りを演じて欲しかったのではなく、屈辱や怒りを感じて欲しかったんだ。その結果、彼女は全人生を通して私を拒絶することになった」

市原監督はこのように言っている。

 −−そういった女優の「リアルな反応」を追求する作品は危険視される可能性がある?

 市原監督 あるある。あれがすごく嫌やねん。「ドキュメント・フェイク」とは言ってもセックスを超えることはしませんし、女優は「セックスOK」なんだから撮影はその枠内にある。……中略……だから、後はギャラの問題ですよね。

 −−人権団体などはそういった「意に沿わない撮影」も問題視します。

 市原監督 女優によっては「事前に言われない方がいい」という人もいる。撮影の朝に会って「これからセックスするけど、こうやってこうやるからな」って言います? 幼稚園の運動会じゃないんだから。多少分からなかった方がいい。

市原氏から見ても、女優の意思は映像の犠牲になっても仕方ないのだろう。

ただ、ベルトルッチ監督と市原監督の間には違いもある。
ベルトルッチ氏は女優マリア・シュナイダーの苦しみが自分の映画に深味を与えるという話はしていない。しかし市原氏はそのように言っている。

 --(引用者注 出演する女性自身が)AV出演で「一線を越えてしまう」「転落する」などとは思っていない?

 市原監督 そういうのは年に何人かしかいない。一つ一つの絡み(性行為)が意味を持つから、僕らはその方がありがたいんだけど……。

AV出演で「転落する」人が「年に何人か」の水準で出ているのなら到底正常な業界ではないと思うのだが、市原氏はそうは思わないらしい。「恥じらいがない」「軽くなっている」セックスではダメで、恥じらい、重くなければならない。市原氏は「絡み」に意味を持たせるべく、女優は「一線を越え」「転落」してしまったトラウマと苦悩を抱え込む女性でなければならないわけである。

市原氏は「人権団体の要請書など読む気もない」のだそうだ。自分は全く悪くない、ごく一部の人間が悪いだけに過ぎないと主張している。
そして、アダルトビデオ業界ではだいたいどこも同じような反応のようだ。

AV業界「ファン感謝祭」熱気むんむん 強要問題への取り組みは… - withnews(ウィズニュース)(2016年11月24日)

……前略……
 メーカーは、この「強要被害防止」をどう考えているのだろうか。以前、大手メーカーには電話とファクスで取材を依頼したが、即座に断られたり、無視されたりした。ブースを構えていた10社を訪ね、社長か社員に会って、直接、後日のインタビュー依頼をした。

 「ドグマ」代表には、「出たくない。何を言っても揚げ足を取られる。HRNがまとめた報告書は全てウソではないと思うが、現状では強要はないと思う」とその場で丁寧に断られた。

 他の9社には、取材依頼書を渡し、一週間後の17日までに返信をもらいたい旨を口頭でも念押しした。

 「アリスJAPAN」ブース経由で取材依頼をしたジャパンホームビデオ代表からは、「弊社ではIPPAにその対応の一切をお願いしているところです」と断りの文書がメールで届いた。同代表は、IPPA副理事長をしており、「AV OPEN」でも表彰のために登壇していた。

 「桃太郎映像出版」ブースでの取材依頼に対しては、「株式会社 桃太郎」の名前で、ジャパンホームビデオ代表とほぼ同じ文書が送られてきた。2社とも文書で「冠省」「草々」を使っており、中身も似たような文面だったのは、偶然の一致だろうか。

取材依頼に無反応のメーカーも…

 「ソフト・オンデマンド」(SOD)、「MAX-A」(マックスエー)、「アロマ企画」の各代表には直接会ったが、返信をもらえなかった。

 後日、ネットを調べると、SOD社長の野本ダイトリさんが、派手に自己PRしていた。彼は今年「35歳」で「年商150億円」の社長に就任したという。同社サイトの「就任のご案内」の中では、次のような記述があった。

 「代取になった途端、不安になったグループメーカーの離脱、それに伴う業績不振、そしてAV女優出演問題、社員からはやれトイレが少ないとか、パソコンが壊れたとかクレームの嵐……。僕はどうしたらいいんでしょうか?」

 社員経由で取材依頼書を渡した他の4社も、無反応だった。全10社には、JAEのルポに来ていること、こうした取材依頼活動も含めて記事化することは事前に伝えていた。

この記事で出てくるSOD社長の「ご挨拶」は以下。

野本ダイトリ 新代表取締役社長 挨拶魚拓1魚拓2
テキストが画像になっている、なぜか分からないが(苦笑)。

野本氏のインタビュー記事:SOD新社長はイケメンAV監督 - 日刊サイゾー(2016.10.20 木)

このように、日本の業界では出演強要問題はたいしたことではないらしいのだが、今回のベルトルッチ氏の告白については、ハリウッドでは大問題になっているそうだ。

女優の同意を得ない撮影強行。強姦を含む性行為の撮影。その後、女優は重い後遺症に苦しんでいる。
このように起きていることはよく似ているのに、業界の反応はまるで異なる。
この違いはいったい何によるものなのだろうか。興味深いと言わざるを得ない。

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2016/06/17

「レイプに反対するなら、地位協定を変えるべきです」

東京新聞の記事。

  • 強姦被害者を嘲笑う警察官。
  • 強姦現場で被害者を裸にして検証写真を撮る警察。
  • 被害者の要請を無視し、加害者の精液採取もせず不起訴にする警察組織。
  • 加害者を帰国させるアメリカ政府。
  • 加害者に民事訴訟で勝訴したあと、加害者の代わりに「見舞金」を支払う防衛省。
  • 「日本にとって重要な事例以外は裁判権を放棄する」という密約を改める気がない日本政府、そしてそれを放置するアメリカ政府。
  • 日本のレイプ被害者支援センターは全国で二十数カ所しかなく大半が平日昼間だけの開所。「二十四時間火事は起き続けないからって、平日の昼間だけ消防署を設置しますか?」
このような惨状を今後も続けるのか、改めさせるのか。それは我々の責任である。

涙のあとは乾く | キャサリン.ジェーン・フィッシャー, 井上 里 | 本 | Amazon.co.jp

東京新聞:レイプ被害の体験記出版 強いられた闘い今も キャサリン・ジェーン・フィッシャーさん:土曜訪問(TOKYO Web)(2015年6月13日)

 ページをめくるのが、どうにもつらい。電車の中で読んでいたら、あっという間に視界がぼやけた。ところが読み進めると、だんだん力が湧いてきた。なぜ?
 その本が、先月末出版された『涙のあとは乾く』(講談社)。著者はオーストラリア出身で、日本に住むキャサリン・ジェーン・フィッシャーさん。二〇〇二年、神奈川県横須賀市内で、米兵にレイプされた。勇気を出して立ち上がり、犯人や日本の警察、被害を隠す日米両政府と闘った記録をつづった。
 「わたしが、日本で最初の米兵のレイプ被害者だと思っていました。調べたら、ものすごい数の日本人が被害にあっていた。日本政府は、いったい今まで何をしていたの?」
 流暢(りゅうちょう)な日本語で話しながら、キャサリンさんは巻物のような紙を取り出した。どんどんのばすと大蛇のように部屋中に広がった。戦後沖縄で起きた米兵の性犯罪をまとめた年表だ。
 キャサリンさんは弁護士だった父の転勤で、三十五年前に来日した。沖縄出身の男性と結婚し、三人の息子に恵まれた。離婚して英会話講師の仕事と子育てに奮闘していた時、事件は起きた。
 ホテルのバーで酒に薬物を入れられ、見知らぬ男にレイプされた。犯人は米軍横須賀基地の空母乗組員。基地への通報後、日本の警察が来た。男はすぐ見つかり、身元が判明した。
 だが、さらなる悪夢が待っていた。「検証写真を撮る」と横須賀署員に現場へ連れ戻された。下着もつけていない。怖くておぞましくて泣いた。「あんたもヤリたかったんだろ」。警察官の忍び笑いが聞こえた。
 傷だらけの体が痛んだ。病院へ行きたいと頼んだが「開いてない」と言われた。犯人の精液採取もされないまま、我慢の限界に達し「法医学的証拠は、尿と一緒に出て行った」。極度の疲労と睡眠不足で「家に帰して」と訴えても聞き入れられない。事情聴取は翌日まで十四時間に及んだ。
 直後から心的外傷後ストレス障害(PTSD)が襲った。眠れず食べられず、感情が制御できない。「レイプされたのはこの女だ!と空から指さされている気がした」。同居していた母までストレスで腸に穴が開き、生死をさまよった。
 日本の検察は三カ月後、米兵を不起訴にした。理由の説明はなかった。その後、民事訴訟中なのに犯人は帰国。勝訴後、防衛省が代わりに見舞金を払った。
 「このままでは終われない、と思ったの。だって、私は悪くない」
 ネットで情報提供を呼びかけた。米国在住の別の被害女性から連絡があり、犯人の行方を突き止めた。米国でも訴えを起こし、勝った。その裁判では「米軍の命令で帰国した」という犯人の証言も引き出した。
 問題の根本は、日本側の犯罪捜査や裁判権を制限する日米地位協定にある。「日本にとって重要な事例以外は裁判権を放棄する」との密約まで存在する。その不条理を訴えたが、日米両政府には無視された。手弁当の闘いで、家賃や光熱費すら払えなくなった。
 〇八年、米兵犯罪に抗議する沖縄の集会で、レイプ被害者として初めて、六千人の前で話した。七十代の女性が近づいてきて、「五十年前に米兵にレイプされたことを黙ってきたけれど、あなたのおかげで自分は悪くないと分かった。ありがとう」と泣いた。
 欧米諸国では当たり前の二十四時間体制のレイプ被害者支援センターが日本で整備されていないことに憤る。被害直後の緊急支援からその後のケアまで担う重要施設だが、国が十分な予算を出さず、まだ全国で二十数カ所。大半が平日昼間だけの開所だ。「二十四時間火事は起き続けないからって、平日の昼間だけ消防署を設置しますか?」
 被害者からの相談を受け続けている。名刺には「レイプに反対するなら、地位協定を変えるべきです」と書かれている。米兵の犯罪を公平に裁く制度ができ、全国にセンターができるまで、祖国には帰れない。
 今でも、後遺症で時折体調を崩す。「レイプ被害を思い出さない日は一日もない。でもわたしは、決してあきらめません」 (出田阿生)

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2016/05/12

メモ:むき出しになった何かを記憶するために

鈴木涼美さんのツイート: "HRN報告書読んだ〜 人権なんちゃらが救おうとしてるのって、可愛くもないのに「モデルやらない?」なんて言葉鵜呑みにして後で「強要された!」とか言ってる人かちら?幸せになるって信じて壺買ったり、愛って信じてホストに貢いだり、儲かるって信じてマルチやったりしそうな?(*^m^*)"

これが鈴木涼美氏のツイートだというところがいかにもな風味を醸し出す。馬脚を現す……ってこういうときに使うのだろうか。

上記は次のツイートで知ったのだが、このツイートの前に付いている一連のツイートがより重要な指摘だろう。
deadletterさんのツイート: "余りにもナイーブな「騙される方が悪い」論を「社会学者」から聞かされるとは。https://t.co/6jRCsf9q50"

そこで参照されているリンク先:
見られなかったAVの話 - 男の魂に火をつけろ!

人権屋によるAV強要キャンペーンをあっさり否定するAV女優たち - Togetterまとめ
このまとめは周知のごとく批判が非常に強い。
……そもそも「人権屋」という言葉を使う人が「人権屋」以上に人権問題に造詣が深いはずもないのだが。

ワタミ店長実名告発!「僕は目の前の焼き鳥が冷めていくのが耐えられない」 - エキサイトニュース(1/2)
このリンク先の内容を端的に示していると思う箇所を引用しておく。

(前略)ワタミグループ内で不幸な事件が起きて、人が亡くなりました。“ブラック”という批判も正しい部分があるのでしょう。痛切な反省をしなくてはいけません。
従業員にはきちんと休んでもらっていますけど、僕はこれからも働きますよ。「ブラックだ」なんて声は関係ない。(後略)

RJTBUさんのツイート: "嘘やん。>川奈さんは現役時代、嫌なことをされたことはないですか?「嫌なことを無理やりさせられたことは一回もありません」元AV女優・川奈まり子さんが語る「出演強要」問題と業界の課題<上>|弁護士ドットコムニュース https://t.co/OpUFswdcOf"
このツイートの後の一連のツイートがなかなか深刻な話になっている。

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このツイートは気になった。
deadletterさんのツイート: "別の記事では、「芸能人になれると騙されてきている女性を撮影するのは憂鬱だ」と溜池ゴロー氏がこぼした際には、川奈まり子氏は「罪つくりだ」と応じ「なんと残酷なことか」と回顧している。業界の「ブラックな」部分については充分過ぎるほど知っていたように思える。"

軍慰安所の管理者が「慰安婦に兵士の相手をさせるのが憂鬱だ」と愚痴り、その同僚が「なんと残酷なことか」と応じるような光景を想像してしまった。

……この問題をほとんど知らないので、勝手な妄想に過ぎないのだが、仮に、もしも仮に、AV業界関係者が「ブラックな部分」を熟知していながら、ブラックさを否定する主張を続けているのだとしたら、それは自らの人生そのものが醜悪な行為への主体的な関与によって支えられており、それを認めることが自分の生涯全ての基礎を破壊することになるとうすうす理解しているからなのではないか。
そしてそれは、日本の加害事実とその責任をどうしても認めることができない人々にも通じる感覚なのではないか。そう思うと、これらの人たちには共通感情で結ばれる可能性があるのではないか。「現実」を知らないよそ者からの高踏的な論難への不快感と自己の存在を否定されているような被害意識とが混ざった感情。お互いが同じような境遇にいる「被害者」だと共感すれば、互いに結びつくことがあるかもしれない。両者の自己擁護論は、被害者の被害を軽く見、あるいはシステムの問題ではない例外事象だと切断することによって成り立つという点でも、また性や暴力に直結する問題だという点でも共通性があるし。

妄想はともかくとして、このツイートが気になったのは、「いいや、あなたたちは知っていた」という否定しがたい事実に関する告発だからだ。戦争責任問題においても、このような資料の積み重ねが認識を変えていく力となった。

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次は典型的なダメな例。

佐々木俊尚さんのツイート: "「当事者の時代」という本でマイノリティ憑依概念を提示しましたが、その典型的すぎる事例。「実際の被害者と業界の人間はおいてきぼりにされ、AVをよく知らない第三者にだけ報告書が受け入れられる」/AV業界で働く人々との対話から逃げた弁護士 https://t.co/mtj4a0YvPl"

このツイートにつながる一連の反応がそのダメさを一層浮き彫りにしている。

皆本 依智【小説:人工知能Ne2の申述】 ‏@kagekiyo_ 5月6日
似たことは、例えば戦前戦中の慰安婦を語る時でも起きています。『そのような職業の女性が、幸せなはずがない』と。このような無理解や自分勝手な『同情/哀れみ』が、問題を分かりにくく、別次元のものにさせてしまいます。或いは障害者に対しても然り。

タイタス艦長@元スカイハイP ‏@bmwr1200ccruise 5月6日
これって、フェミニスト側の差別意識の裏返しですよね。それにAV側が反論しているっていう、通常差別対反差別として差別側(の様なもの)を叩いてる意識が高い側としてこの図式に暗に気付いて逃げ出した様にしか見えない・・・。

幸福な奴隷がいたら奴隷制を批判できないとか、一人の奴隷が「奴隷制を守れ」と主張すれば奴隷制の暗黒面を否定できるとか……。
このような社会と個人との関係への無理解ぶりを見ると、しみじみと社会科教育の敗北を知らされて悲哀を感じる。

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おまけ

とりあえず魚拓したので。
HISのキャンペーンページにあった図【魚拓】
参考1:旅行会社の「東大美女が隣に座ってくれる」キャンペーン即日中止について、大学教員として考えること(千田有紀) - 個人 - Yahoo!ニュース
参考2:H.I.Sの「東大美女が隣に座ってフライト」企画中止 ネットで批判受け - ITmedia ニュース

こういうのも「当事者は幸福だから問題ない」って言うのかな……。

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追記(2016年5月29日)

アダルトビデオの出演強要問題、
「業界は悪くない!少数の悪者(例外)を取り上げて全部悪いと言うな!」
という主張の旗色が徐々に悪くなりつつあるようだ。

無理やりAV出演させられた女優たちの証言|ほぼ週刊吉田豪(2016年05月28日)

下記二つは同じシンポジウムについての記事。
AVに映像を使われた松本圭世アナ「だまされる女性が悪いという風潮がある」 - 弁護士ドットコム(2016年05月27日 10時57分)
AV出演強要、IPPAは「AV業界は重く受け止めるべき」とコメント シンポジウムに松本アナも出席 (小川たまか) - 個人 - Yahoo!ニュース(2016年5月27日 0時13分配信)

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すごいAVを見たという話 - 男の魂に火をつけろ!

こちらの話はなかなか印象的。この春原未来氏にとってアダルトビデオ出演は究極の自己犠牲であり、自己の全てを捧げることこそが彼女の存在意義だという。徹底した自己否定を一度通過した者にはその姿勢と自己認識は非常によく分かる部分がある。

だが同時に、彼女のその文字通りの意味での必死さによって、アダルトビデオというものの社会的な意味とその業界の悪質さを浮き彫りになっている。人間を性的商品とすることが究極の自己犠牲としての意味を持つこと、その「女優」となることがその人の人生に大きな烙印を押すことが広く了解されているからこそ、彼女の行動は意味を持つし、そのドキュメンタリーが「AV作品」として意味を持つ。

このことを度外視して「アダルトビデオ業界の健全さ」を強調したり「売春するのも個人の自由だ」と主張したりすることは、セックスワークの負の側面を「AV女優」やセックスワーカーの個人問題にしわ寄せする悪質さを持っていると思う。アダルトビデオ業界を擁護する人たちや「売買春は正当な商取引だ」と言う人たちは、まず「この業界・商取引は本質的に呪われた存在なのだ」という原罪認識から出発すべきではないか。

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追記(2016年6月4日)

二つのトピックスを追加。

アダルトビデオの出演強要 政府が実態把握へ | NHKニュース(6月2日 20時50分)

政府は2日の閣議で、本人の意思に反して女性にアダルトビデオへの出演を強要することは、「女性に対する暴力」にあたるとして、内閣府が民間団体から被害状況を聴き、実態の把握に努めるとした答弁書を決定しました。
この答弁書は、生活の党の山本共同代表が提出した質問主意書に対するものです。
質問主意書では、悪質な勧誘がきっかけで、女性が本人の意思に反してアダルトビデオに出演させられる被害が相次いでいることについて、どう対策を講じていくのかをただしています。
これに対し、答弁書は「女性に対して本人の意に反してアダルトビデオに出演を強要することは、去年決定した第4次男女共同参画基本計画で、予防と根絶に取り組むとしている『女性に対する暴力』にあたる」としています。
そのうえで「女性に対する人権侵害を容認しない社会環境を整備するための、教育・啓発を強力に推進するとともに、内閣府が民間団体からアダルトビデオへの出演強要の被害状況などを聴いて、実態の把握に努める」としています。
「自発的」と見なされる形式を整えれば、アダルトビデオ出演という烙印は個人がその一切を引き受ければよいという発想もまた含まれうることを危惧する。

はてなブックマーク - アダルトビデオの出演強要 政府が実態把握へ | NHKニュース
「狭義の強制はなかった」というブコメにはちょっと笑った(ブラックな意味で)。

アダルトビデオへの出演強要被害に関する質問主意書:参議院
答弁書はまだ掲載されていない。(2016年6月3日現在)

AV違約金訴訟・意に反して出演する義務ないとし請求棄却。被害から逃れる・被害をなくすため今必要なこと(伊藤和子) - 個人 - Yahoo!ニュース

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AV出演の過去が発覚しゴールドマン・サックスが内定取り消し!解雇、イジメ、離婚…元AV女優差別のヒドい実態|LITERA/リテラ(2016.06.02)

鈴木涼美氏が「SPA!」2016年3月8日号で語った言葉だそうだ。

一般人として結婚や恋愛をしようとしたとき、どうしても元AV女優という肩書は鎖のように行動を制限してきます。だからこそ常に、『自分は他人や世間からどう見られているのか』を考える必要があります。肩書の力が強すぎるからこそ、公表したらどう見られるか、損得はどれくらいかなど、元AV女優は人一倍“世間の空気を読む力”が問われてくるのです
アダルトビデオに出ることが「鎖」であり業とされる社会。その実態を語りつつ、「女優」個人の「力」と判断に結論が帰着するところが切ない。この言葉の文脈や、業を背負って生きねばならない個人に向けた言葉だということをわかっていても。

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追記(2016年6月17日)

ヒューマンライツ・ナウの伊藤弁護士が書簡を公表していた。

皆様へのお願い・AVプロダクション関連逮捕報道とその余波を受けて: 人権は国境を越えて-弁護士伊藤和子のダイアリー(2016年6月16日 (木))

非常に基本的かつ重要な指摘があった。

今あふれている批判には、様々なものがありますが、
「そのAV女優さんたちが強要されているように、まったく見えなかった」というものがあるようです。また何年にもわたり、多数の出演を繰り返してきたことを理由に、「強制なんてありえるの?」という意見もあるようです。

しかし、長期間DVがあっても逃げ出せずにむしろ幸せな結婚生活を懸命に装う人、長期間にわたって会社でセクハラにあっても会社をやめられない人、親から虐待され続けているが施設に逃げ込めない人は、社会のあちこちに存在するのではないでしょうか。

 力を失い、孤立し、抜け出せない、装って自分までも騙し耐えてきた方がいるかもしれない。そういう人たちの気持ちは理解できなくても、せめて、「そういう女性たちがいるかもしれない」その可能性だけでも思いやっていただけること、できないでしょうか? 
……中略……

AV強要でなくても、同じように長いこと、DVやセクハラ境遇に置かれて、だれにも相談せずに逃げ出せずにいる人たち、自分さえ我慢すればと笑顔でいることで、なんとかなる、そう耐えている人が、あなたの周囲にもいるかもしれません。

その表面的な笑顔をみたこと、そういう態度でいたことを責めたてることが、問題の根本の解決の役にたつのでしょうか。

他の分野では容易に想像できることが、その分野では想像できないことがある。場面・状況は変われど、被抑圧という状態には変わりない。その本質への理解を深めたい。

伊藤氏が参照している東京新聞記事を記録しておく。

東京新聞:バイト感覚で登録 「AV」記載なく 出演強要された被害女性が証言:社会(TOKYO Web)(2016年6月14日 13時57分)

 女性をアダルトビデオ(AV)の撮影に派遣していたとして、警視庁が都内のプロダクション元社長らを労働者派遣法違反(有害業務就業目的派遣)の疑いで逮捕した。モデルへの憧れを巧みに利用したこの種の勧誘は多い。無理やり出演させられたある二十代の女性が「私のように巻き込まれる女性をもう出したくない」と本紙の取材に体験を語った。 (木原育子)
 大学生の頃、アルバイト先で「グラビアのバイトをしてみない?」と持ち掛けられたのが始まりだった。「話を聞くだけ」と気軽に応じた。
 男性社員ばかりのプロダクション事務所に行くと、「登録だけしておこうか」と優しく言われた。派遣のバイトに登録する感覚で身分証のコピーを渡し、書面に名前と連絡先、住所、生年月日、大学名を書いた。
 書面に「AV」の記載はなく、グラビア撮影と思った。事務所併設のスタジオで証明写真を撮られた。「体に傷がないか確認したい」と上半身裸の写真も。「みんなやっているからね」と説明された。
 数日後に制作会社で面接を受け、さらに数日後、プロダクションから「AV出演が決まった」と連絡があり、ようやく事の重大さに気づいた。
 「絶対に嫌です」。狭い応接室で三時間以上、泣いて懇願したが、三人の男性に囲まれ、どう喝され続けた。身分証や裸の写真が脳裏をよぎった。「契約書へのサインがある。違約金を払えるのか」「親や大学にばらす。親は泣くぞ」
 誰にも相談できないまま、この状況を招いたのは自分の至らなさのせいだと思い「私さえ我慢すれば」と追い込まれていった。
 撮影は次第に過激になった。両手足を縛られ、複数人の男性を相手にした。「あまりにも恥ずかしくて屈辱的で…。自分を守るには、心を閉ざして、忘れるしかないって」
 撮影は五年間続き、出演は百本を超えた。卒業後に入社した会社で、出演を見つけた男性の同僚から「君はだまされている」と諭され、われに返った。
 支配され続けることで心が壊れたのか、医師からは、自分の身体が極度に醜いと思い込む「醜形恐怖症」と診断された。自身を肯定できなくなっていた。
 見られているという恐怖と悔しさが、まだ消えないという。「AV業界は今、特殊な世界ではなく、ちょっとした心の隙があれば、誰でも取り込まれる危険がある」。女性は何度も繰り返した。
(東京新聞)

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2016/01/08

萌え絵のポルノ性についてのtogetterまとめがあった

とりあえずリンク先をメモしておく。

各種メディアに溢れ返る"萌えエロ絵"ないし"萌えポルノ"の悪質性 - Togetterまとめ

上で紹介されていた別のリンク。
上の「まとめ」の論調には対立していて、おまけに紹介者のツイートの文脈とはかなり異なる論説のように見えるのだが。

「性欲」を支配したい性嫌悪と「生殖」に囚われた性嫌悪について - messy|メッシー

「おっぱい募金」への反対運動を、「性欲を健全化し、生殖を管理したい」という「健全化」と「管理」の欲望の表れだとし、それはマイノリティーの差別迫害につながると批判している。ちょっと穿ちすぎというか藁人形論法っぽく見えるけれど。

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上の人は「萌え絵」を糖衣にくるまれた毒薬や「命名される前のセクハラ」にたとえたりしている。私も似た印象を持っていて、「萌え絵」は薄められた毒ガスというか、日本を薄く覆う大気汚染のようなもののように感じている。

ミンキーモモなどの時代には、まだ性的な眼差しは公然とは露出されていなかった。しかし今はそれがすっかり市民権を得て、その眼差しの対象となる女性ですら美意識やアイデンティティにそれを内面化するようになった。その表出の一つが「おっぱい募金」などの活動だと思うのだけれど。

こうした解釈とは別に、「おっぱい募金」を支持する立場の中には、性の自己決定=私の身体の処分は私が自由に行ってよいという考え方もある。なぜ性的サービスを売ってはいけないのかという観点につながる。他方、ヨーロッパには売春の合法化という動きがあり、それは性産業従事者の人権擁護というある種の緊急避難的な根拠がある。これらは相互に補完的でもあり対立的でもある主張を含んでいる。結論的には性的サービスの商品化を支持する論拠が相互に矛盾対立する主張を含んでいるのは興味深いことではある。

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2015/12/28

公認売春に関するCNNのニュース2つ

性欲の充足が商業的なサービスであるなら、バーター取引の対象として認めてもよいだろうというわけで。
そしてそこには「高く売れる」人と「安値で叩かれる」人とが生まれるわけで。
人道的保護の観点からの次善の策だという観点からの合理化もある。

興味深いのは、議論が脱税行為ではないかという論点を持っていること。金銭取引なら法人税や消費税の捕捉ができるが、セックスを対価とするならその税額をどう算定するかという問題が出る。

CNN.co.jp : 自動車教習の指導員が「セックス」対価に指導、合法の判断 オランダ(2015.12.26 Sat posted at 18:16 JST)

(CNN) オランダの2閣僚は26日までに、同国議会に書簡を送り、自動車教習の指導員が運転方法を教える見返りに性的交渉を求めることは法律違反ではないとの見解を示した。
この閣僚はアルト・ファンデル・シュテイル治安・司法相とメラニ・シュルツ・ファンハーヘン社会基盤・環境相で、代替手段としての性的交渉の提供は望ましいことではないが、当事者の双方が18歳以上で指導員が提案した場合のみ認められる余地があると説明。
その上で教習代に代わる性的交渉の有無を決める主導権はあくまで運転方法を教示する指導員側にあるとし、「性的交渉が営利事業として提供された場合、それは売春になる」と主張。教習を受ける側が性的交渉を誘いかけ、その見返りにレッスンを受ける場合は違法な行為に相当するとの判断を示した。
オランダでは売春が合法化され、規制も受けている。性産業の従事者は自営業と見なされ、新聞やインターネットでの広告活動も自由に出来る。
自動車教習代をセックスで支払う是非は、保守系の野党・キリスト教連合の議員が今年11月、議会で質問したことがきっかけだった。その後、政府内で議論が進んでいた。この議員は違法な売春行為に等しく、禁止対象にすべきと主張。教習を受ける側が必要な「エスコート免許」を持たない場合、税金支払いに絡んで求められている性的活動の発生を申告しないだろうなどと述べていた。
治安・司法省の報道担当者はCNNの取材に、自動車教習の指導員が代金支払いに代わって性的交渉を得る行為は広範な現象にはなっていないことを知る必要があるとも指摘した。この行為がどの程度広がっているかについては関連の公的データもなく不明。ただ、ロッテルダムの警察は最近、この問題について調査していたが、結果については公表していない。

CNN.co.jp : ドライブイン式売春施設がスタート スイス(2013.08.27 Tue posted at 12:10 JST)

(CNN) スイス最大の都市チューリヒに26日、車に乗ったまま利用する「ドライブイン」式の売春施設が開設された。売春に従事する女性の労働環境を改善するため、市の社会福祉当局が進めている事業だ。
売春施設は同市内の旧工業地域、ジールカイに総工費240万スイスフラン(約2億5600万円)で建設された。ガレージのような部屋が9室連なった構造だ。安全対策として非常ボタンを付け、警備員を配置した。
チューリヒ市社会福祉当局の担当者は、「市内の路上で横行する不衛生な売春に比べ、人目につかず安全な場を提供できる」と強調した。売春をめぐっては道徳上、倫理上の是非を問う議論もあるが、「ビジネスと割り切ったうえで人道面を重視した」という。
2012年に実施した住民投票では、施設設置に賛成する票が52%を占めた。
毎晩約30~40人の女性が、使用料5フランを支払ってこの施設で働く見通し。営業時間は午後7時から午前5時まで。車で来場した顧客は女性側とサービス内容や料金を話し合ったうえで入室し、サービスを受ける。女性を外へ連れ出すことはできない。
施設内には女性らが利用できるシャワーやトイレ、台所、洗濯機が完備され、ソーシャルワーカーによる相談室がある。婦人科医が週1回健診に訪れ、ドイツ語の速習や護身術の講座も開かれる。
スイスでは売春が合法とされ、売春従事者は自営業者として課税の対象になる。「性労働者の自立を促すのがわれわれの目標」と、同担当者は語る。売春施設の設置は同市が初めてではなく、前例としてオランダ・ユトレヒトに1986年から設けられている同様の施設なども視察したという。

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2015/12/22

チャリティ売春ってのもアリだよね?という話

はてなブックマーク - 渡辺輝人(I'm 4%!!)さんはTwitterを使っています: "「おっぱい募金」の是非は、究極的には「恵まれない子どもたちに寄付するために余暇を使って自分自身は無償で売春。買春した男が子どもた

「おっぱい募金」の是非は、究極的には「恵まれない子どもたちに寄付するために余暇を使って自分自身は無償で売春。買春した男が子どもたちに寄付。」というモデルの是非なのではないか、と思う。自分は否定。
というコメントへの反応。

売買春を正当な商取引だと考えるなら、それを使ったチャリティに何の問題があろうか?という問題提起。

この主張に違和感を覚えるのであれば、その違和感の由来は何にあるのか?

それを問うているわけだけれども、その問は全うだよなあ、と思う。
つまり、「あなたの倫理・道徳の本質的な根拠は何ですか」という問だ。

どこで線を引くかという問題なのだ、という声があって、それも分かる。
今はほとんど無化されたが、昔のヌード画像検閲には乳首はよいがヘアはダメなどの規制があった。今回の問題は、この「わいせつ」の境界線をどこに引くかという議論と似ている。

けれども、性の商品化というのは、「性」という個人の固有の人格にかかる部分を記号化し、一般化するので、例えば個々の女性が「女性一般」として眼差しを受けてしまうという側面は生まれてしまう。つまり、いかに区別しゾーニングしようとも、常にそこからはみ出そうとする動きを生み出してしまう。このような個人の尊厳の侵害への誘因を避けがたく持っているという性質をどのように考えるのか、が一つの課題になる。
そしてまた、「性」を売り物にする人(特に女性)へは差別がつきまとうのが現実である。性の対象にしてよい女とそうしては良くない女、「健全な女」とそうでない女という区別が現実に持つ差別性をどう考えるのかという問題もある。

今回の問題は新しい問題ではないけれども、これを連続的なグラデーションのどこかに恣意的な線を引く問題なのだという構図で考えようとすると、この本質を見失うことになるのではないかと危惧する。

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2015/11/30

公共空間に浸透する「萌え」と性の商品化:美濃加茂市の例

とりあえずリンク先を記録しておく。

美濃加茂市とエロキャラとのコラボに非難殺到 - Togetterまとめ

コメント群
はてなブックマーク - 美濃加茂市とエロキャラとのコラボに非難殺到 - Togetterまとめ

公共空間における性的規範の変容を「萌え」現象が誘導しており、それが徐々に女性性の商品化への警戒感を鈍磨させていきつつあるのではないかという一つの例。

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追記(リンク追加)

のうりん 第6話 : アニメ好きオヤジの気まぐれな話

「エロ」自体をネタにする構造の作品のようで結構面白そうなのだけれど、文脈を共有していないところに高度に文脈依存的なものを浸出させるのは無理があるだろうという印象。特に「エロ」であればなおさら。(不道徳という意味でなく差別的だという意味で。)

萌(めぐみ)の錬金術師 - 男の魂に火をつけろ! <音楽映画ベストテン受付中>

作者側と市長との親しい関係がカギになったとか、ストーリーや作品の風刺性と現実とがかぶるとか、多重構造になった展開自体が一つのモダンアートになりつつある印象。
こういう展開は、「ハプニング」(1回限りで再現性も永続性もないアート)というのかしらん。

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さらに追記(2015年12月4日)

はてな匿名ダイアリーから目に付いたエントリを追加。

美濃加茂市、碧志摩メグに足りなかったのは、配慮ではない
  一読に値するが、表面的な批判をするなという火消し的な趣旨。
  断絶・不寛容を止めて建設的な議論をしよう!という意見。朴氏擁護論みたい。
  コメント欄が長く伸びていて、「萌え」の持つ本質的な差別性を理解できない人の多さ、言い換えれば「萌え」的視座を内面化してしまった、「萌え」に帰依してしまった人の多さが分かる。

萌え絵フォビアの正体
  「萌え」を正当な表現だとしてそれへの批判を差別だと切り捨てる。
  紋切り型でアホらしく途中で読むのを止めた。批判への反発の一つの典型。

高校生の頃、狂ったように女叩きの記事を読んでいた時期があった
  本論ではないが、少し本件に触れている。

まあ本件で少し良かったかなと思うことは、「萌え」が性の商品化と切り離せない表現だという気づきが少し広がったことぐらいかな。

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